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ニート狐たちのフォックストロット  作者: ポテンティア=T.C
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1-03 ばれんたいん?3

スーパーに着いた妾たちを待っておったのは……想像を絶する絶望(?)じゃった……。


「ふむ。今日は嵐のせいか、人が(まば)らじゃのう。板チョコがまだ売れ残っておるのじゃ」


うむ。

それ自体は何の問題もなかったのじゃ。

もしかすると、狩人殿は妾たちを脅かすつもりで申したのかもしれぬのう。


じゃがの。

問題はそこではなかったのじゃ。

一体、何が起ったのか、と言うとじゃ……


「お、お、お寿司が……」


……いつもならこの時間には惣菜コーナーに並んでおるはずの稲荷寿司が無かったのじゃ。


「ど……どうしよう……」


そのあまりの残酷(?)な光景に、まるでこの世の終わりが訪れたような絶望の表情を浮かべるルシア嬢。

……家に米はあるのじゃから、油揚げを買っていって自分で作ればよいじゃろうに……。


じゃがのう。

嬢には、その考えは無かったのじゃ。


……そうなのじゃ。

例え、次元を渡ってこの世界に来たとしても、ルシア嬢の料理下手は相変わらず変わることが無かったのじゃ……。

とは言うても、主殿と共に作る時は、ちゃんとアシストされておるらしく、生物兵器が完成することは無いんじゃがの?

じゃが……今日は主殿が忙しそうなので、それも難しそうじゃがのう。


……ところでじゃ。

ルシア嬢もチョコを調理して、ワルツにプレゼントする的なことを言っておったのじゃが……こやつ、料理ができぬのに、一体どんなチョコを渡すつもりなのじゃろうか……。


まぁ、それについては、後で説明するのじゃ。

そんなことよりじゃ。


「うわー……もうテレサちゃん!次のスーパー行くよ?!」


「え……」


……もうこの時点で、妾にはルシア嬢を止める術は無かったのじゃ。

いやの?

言霊魔法を使って、記憶ごとごっそり書き換えることもできなくはないんじゃが……それは人としてどうかと思うしのう……。


つまり、なのじゃ……


「ふむ……困ったものじゃ。で、次はどこの店に行くのじゃ?」


そうなのじゃ。

結局、妾はルシア嬢に付き合って、稲荷寿司が買えるまで、町中を練り歩くことしかできないのじゃ……。

そうでなくては、この強風の中、主殿の家まで、びしょ濡れになりながら歩かねばならぬからのう。


「えっとねぇ……あっち!」ビシッ!


「あっちって、お主……。一体、どこのスーパーまで行くつもりなのじゃ?」


間違いなく、ここから一番近い別のスーパー、()()()()方角を指さすルシア嬢。

普通に行けば、隣のスーパーまで10ブロック行かないくらいの距離なのじゃが……嬢が指さした方向にあるのは、妾が苦手な神社が目の前にある、稲荷寿司専門店なのじゃ。

ブロックにすると……30ブロックくらいかのう?


「お寿司屋さん!」


「そう言うと思ったのじゃ……」


「さっ、行こう!」


い、行きたくないのじゃ……。

じゃが、


ビューーーッ!!


……む、無理なのじゃ。

戻るのも進むのも、ルシア嬢がおらぬと無理なのじゃ!


「…………う、うむ……」


じゃから……妾には、ルシア嬢の言葉に頷くしか選択肢が無かったのじゃ……。




「はい、到着!」


……嬢は近そうに言うかもしれぬが、そんなに短い距離ではなかったのじゃ……。

完全に足が棒のようになってしまったのじゃ……。

これ、帰りも歩くのじゃよな?


妾はそれに気づいて、自覚できるほどに、疲れた表情を浮かべてしまったのじゃ。

やはり、運動不足のせいかのう……。

確かに最近、駄肉が……いや、そんなものは無いのじゃ!


「あー、雨の日なのに混んでるね」


「……」


何でじゃろうな……。

どうしてこんな嵐の日だというのに、店の前に長蛇の列ができておるのかのう……。

そんなにまでして、この町の人間は、稲荷寿司を食べたいのかのう?

もしかして、皆、ルシア嬢と思考が一緒なのじゃろうか?

むしろ妾が……(以下略)


「どうするテレサちゃん?一緒に待つ?何だったら、神社の中で待っててもいいんだよ?」


「嫌じゃ!嫌なのじゃ!絶対なのじゃ!」フーッ!


尻尾をしまい込んでおる背中のリュックがはちきれんばかりに、尻尾を膨らませて、抗議する妾。

そんな時、


ビューーーッ!!


「あっ……」


一段と強い風が吹いたかと思うと、ルシア嬢の手から傘が離れて、神社の境内の中へと飛んでいったのじゃ。


「あー」


「お、おぬ、お主、わざと飛ばしたじゃろ!?」


「ううん。だって人が近くにいると……ねぇ?」


……そうなのじゃ。

ルシア嬢が故意に傘を吹き飛ばしたわけではなかったのじゃ。

既に嬢は人の列の中に並んでおって、近くに人がおったから、下手に風魔法が使えなかっただけなのじゃ。

この世界の者達に魔法の存在がバレると問題じゃからのう……。


「どうしよう……並ばなきゃならないし……」


と言いつつ、そこから一歩も動く気配のないルシア嬢。

要するに、妾に取りに行ってこい、ということなのじゃろうのう……。

行きたくない……行きたくないのじゃ……。


じゃがのう……


「……嬢よ?この貸し、ちゃんと返すのじゃぞ?」


……妾は、ルシア嬢よりも年上のお姉さんなのじゃ。

我儘を言うわけにはいかないのじゃ!


……そう自分に言い聞かせたのじゃ。


「ごめんねー、テレサちゃん。どんな形で返すかは分かんないけど、ちゃんと埋め合わせするね?」


「うむ……。というか、買い終わったら、ちゃんと助けに来るのじゃぞ?」


「トラブルに巻き込まれること前提なんだね……」


そして妾はルシア嬢に稲荷寿司代を渡すと、嬢の黄色い傘を探しに、(くだん)の神社の境内(けいだい)へと入り込んでいったのじゃ。

嫌々言いながら、ルシア嬢のために神社へと傘を探しにゆく妾。

うむ。

お姉さんなのじゃ。


……身長は嬢より小さいがのう……。

もうそれくらいしか、年上としての矜持が……いや、他にも何か有るはずなのじゃ!

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