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ニート狐たちのフォックストロット  作者: ポテンティア=T.C
32/66

2.0-01 いじょうきしょう?1

朝起きたら……冬でした。


「いや、そんなはずは……」


「ルシア嬢……。お主、やり過ぎではなかろうかの?」


「わ、私じゃないよ?今も雪が振り続けるって、つまり、私が今も魔法を使ってるってことになるはずだけど……テレサちゃん、分かるでしょ?私が魔法使ってないって……」


「……うむ。冗談なのじゃ……」


家のドアから出たら、流れこむかのように入ってきた雪を、土魔法で綺麗に排除して……。

そしてずっと穴を掘って、ようやく空が見えてきたところで……私とテレサちゃんは、2人で頭を抱えました。


でも……そんな私たちよりも、もっと、普段と様子が違っている人がいました。


「…………」


真っ黒な空に向かって、鋭い視線を向けていたアメちゃんです。

あんなアメちゃんの視線、これまで見たことがありません。


彼女は、空を見上げたまま、小さく呟きました。


「雪女……」


「え?雪女?ユキちゃんには、大規模な魔法は使えないと思うけど……(火魔法を使うことはあっても、氷魔法を好んで使うとは思えないし……)」


「……いやそっちの雪女ではない。なんと言えばいいじゃろうか……。『敵』と言う言葉は好きではないが……そうじゃのう。人々に対して敵対的な意思を持った『妖かし』と言えばいいじゃろうか。そんな妖かしの中に、『雪女』がおったようじゃな」


「妖かし?雪女?」


「うむ。この世界には、『妖かし』という人々の魂を喰らう者共がおって、其奴(そやつ)らが呪術を使い、人を襲って喰らうのじゃ。中でも『雪女』というのは、雪を操る妖かしじゃの」


「…………そう、なんだ……」


アメちゃんの言葉は、まるでお伽話みたいでした……。

私としては、強大な氷魔法を連発する、ヌルちゃんみたいな人が暴れてる、って言われたほうがしっくり来るけど……でも、アメちゃんの表情は至って真面目なので、『妖かし』や『雪女』といった人たちが本当に実在するみたいです。


「……それで、どうすればいいの?倒しちゃえばいいの?」


敵は大きな問題が起こる前に、早急に消しちゃうに限ります。

特に、お姉ちゃんを含めて、街のみんなに敵対するというのなら、私は容赦しません。


そんな私の問いかけに、アメちゃんは苦笑を浮かべてから、私の頭の上に手を、ぽん、と置いて言いました。


「なーに。嬢が気にすることではない。人もやられっぱなし、というわけではないからの。放っておけば、元通りに戻るさ」


「……んー……なら、いいのかなぁ……?」


「うむ。安心せい。……そんなことよりじゃ。ワシは朝食が食べたいのう…………のう?テレサ」


「んあ?朝食なら昨日食べたじゃろ?」


「…………」


急に話しかけられて驚いていたせいか、それとも節約生活のし過ぎで頭がおかしくなったせいか……何故か一人で雪遊びをしていたテレサちゃんが、少しだけ間の抜けた用な表情を見せながら、こちらを振り向きます……。


……というか、テレサちゃん……。

昨日はユリアお姉ちゃんとユキちゃんが来ていっぱい食べたから、もしかして今日は何も食べないつもりなの?


「しかし、うむ……。今は、妾の芸術のセンスが、絶賛、(ほとばし)っておるところなのじゃが……腹が減っては戦が出来ぬ、となっては中断せざるをえまい……」


そう言いながら、自身の足元の雪球に向かって残念そうな視線を向けるテレサちゃん。

あれは……多分、雪で大きなベアリングの玉を作ろうとしたんじゃないかなぁ……。

球体の一体どの辺が芸術なのか、私には全く分かんないですけど。


「いや、誰とも戦わないよ?……っていうかテレサちゃん、私たちの話、聞いてなかったでしょ?」


「む…………さ、さて、朝食を作ろうかのう?このままじゃと、ぺこぺこな狐になってしまうのじゃ!」


そんな言葉を残して、テレサちゃんは家の中へと姿を消しました。

ぺこぺこな狐って……どんなテレサちゃんなんだろう……。

っていうか、朝食、食べないんじゃなかったの?


一方。

テレサちゃんとは対照的に、アメちゃんの方は、未だ難しい表情を浮かべながら、空に鋭い視線を向けていました。

……テレサちゃんに、ご飯を作ってもらえないと思って、へそを曲げちゃったんでしょうか?


「…………」


「えっと……ほら、アメちゃんも戻ろ?」


「ぬ?……そうじゃ、の……」


アメちゃんはそう言って、空に向かってもう一度だけ細めた眼を向けてから、私たちの後ろを追って、家の中へと入ってきました。

どうやらテレサちゃんに対して怒っているわけではないみたいですが…………そうなると、空に、何か、私たちには見えないモノが浮かんでいたんでしょうか?

……まぁ、いいですけど。




「さーて、いよいよこの日がやってきたのじゃ?」


何メートル積もっているのかも分からないような大雪だというのに、いつも通りに主さんが車で出掛けた後……。

食事を終えた私たちは、テレサちゃんのラップトップの前に張り付きました。


え?

なんで張り付いているか?

もちろん、旅の準備……もっと詳しく言うなら、宿の予約をするためです。


「……で、どこに行くの?」


「……問題はそれなのじゃ」


「……ワシは、2人に任せるぞ?」


……誰も何も考えていなかったようです。

と言っても、予算は決まっているので、大体の移動距離は決まってますけどね。


「……狩人殿が言っておった『さはらさばく』……とか?」


「それ、地球の裏側だよ?飛行機代が高くつくと思うし、パスポートも取れないから難しいね……」


「そうじゃったか……。それじゃぁ、ダメじゃのう」


……流石はテレサちゃん。

予算のことなどお構いなしです。

最初から全力で飛ばしていきます……。


それから再び、テレサちゃんが考え込み始めると、今度はアメちゃんが提案を口にしました。


「なれば……出雲に行ってみたいかの?」


「いずも?えっと……島根県だったっけ?」


「いや、鳥取県なのじゃ」


……島根県です。

県民の方に失礼なので、ちゃんと覚えようね?テレサちゃん。


まぁ、論より証拠、というわけで……


「ほら、出雲はここ。島根県でしょ?」


日本地図のサイトを表示して、出雲の位置を拡大します。


「ほう?鳥取砂漠からは遠いのじゃな?せっかく行くのなら、ついでに行ってみたいと思っておったのじゃが……」


「うん、砂漠じゃなくて、砂丘ね?でも……横に広い県の逆のほうだから、全部電車で移動することを考えるなら、ちょっと時間的に難しいかも……」


……この分だとテレサちゃんは、山を超えた斜め右下にある県に、大きな未来都市があると思っているんじゃないでしょうか?

直接、見たことはないので、私も否定はできないですけどね?


「島根県ね……。えーと……」


それから私は、乗降案内のサイトを開いて、この街から出雲までの道のりを検索してみました。


「……うん。残念だけど、往復料金と宿泊代を含めると完全に予算オーバーだね」


「う……うむ……。それなら仕方ないの……」


と悔しそうに口にするアメちゃん。

よほど行きたかったんでしょうね……。


「なら、次の機会で出雲に行こう?」


「うむ。その時までには……いや、神無月までには、どうにかお金を貯めようぞ!」


『う、うん……』


……どうやら、自動的に、10月の旅の行き先が決まっちゃったみたいです。


「それで……どうする?」


一旦、日本全体の地図が見える場所まで、表示を戻してから、私は2人に問いかけました。


「近すぎる近場は……嫌じゃの」


「そうか?ワシは温泉宿でゆるりと過ごすのも悪く無いと思うが……」


「……温泉に入るにしても、たまには違う泉質のお風呂に入りたいのじゃ……」


「ふむ……さよか……」


と、少しだけ残念そうな表情を見せながら、前に行った温泉があるだろう地図上の場所に、視線を向けるアメちゃん。

まだ、1度しか温泉に入ったことのない彼女にとっては、どこの温泉でも良かったみたいです……。


「なれば…………やはり長野かのう?」


と、テレサちゃん。

でも、長野って……いつも主さんに連れられて、お風呂に入りに行ってるよね?

多分、テレサちゃんにとっては近場になると思うんだけど……。


そんな私の内心が聞こえたのか、テレサちゃんがその理由を口にしました。


「……アメに、おすすめの温泉を紹介したいのじゃ」


「そっか。それもアリかもしれないね?でも……長野県だと近いと思うけど、テレサちゃんはそれで良いの?」


「うむ。妾は、普段の塩辛(しょっぱ)い温泉でなければ構わぬのじゃ。アメはどうじゃろう?例えば……諏訪とか」


するとアメちゃんは……


「諏訪かぁ……」


そう言って、何故か気乗りし無さそうな表情を浮かべました。

そしてそのまま言葉を続けます。


「あそこに住んでおるりゅうj……爺さんが、卑猥で、その上、口うるさいから、ワシは苦手じゃ……」


「えっ……そ、そうなの?」


「お主、諏訪に、知り合いがおったのじゃな?」


「それは、まぁ……色々あっての?」


そう言いながら、アメちゃんはどこか言い難そうに、眉を顰めました。

あまり会いたくないタイプの人がいるみたいです……。


「ふむ……なれば、奥飛騨から乗鞍辺りの白い酸性泉に浸るというのも悪くはないの?」


と、お気に入りの温泉を思い出したのか、笑みを浮かべるテレサちゃん。


「白い風呂……とな?」


「うむ。酸性泉や硫黄泉と呼ばれておるものなのじゃ。少々臭うのじゃが、皮膚病や成人病、それに動脈硬化などに効く、とされておるのう……。それは、まぁ、妾たちには関係ない事かもしれぬが、少なくとも、『風呂に入っておる……』という感じが一番する温泉というのは、間違いないのじゃ」


「……そ、そうじゃったか……」


……多分、アメちゃん。

テレサちゃんの話の2割も理解できていないと思います……。


でも彼女には、その2割で十分だったみたいです。


「風呂に入っておる感じがする温泉……か……。うむ、一度入ってみたいの?」


「ならば決定じゃな」


「えっと、今回は長野に行くっていう話だったから……じゃぁ、乗鞍から白骨温泉辺りを中心に宿を探してみるよ?」


というわけで、さっそく宿を探し始めたのですが…………ここに来て、ずっと無視し続けていた問題が、私たちの行く手を遮り始めました……。


「……これは……ダメかも……」


「む?何じゃ?妾の口癖か?」


「うん。そんな感じ」


そんな冗談じゃない冗談を口にしてから、私は宿の検索サイトのトップページに書かれていた赤い文字をカーソルで指します。


「…………うむ。確かに、もう駄目かもしれぬ……」


「……そうじゃの。こればかりは……の」


そう言って、同じような表情や仕草を見せながら、俯くテレサちゃんとアメちゃん。

自分からは見えないけど、きっと、私だって、同じような表情を浮かべているに違いありません。

……だってそこには、『異常気象による一時受付休止について』という文言があったんですから……。


「だよね……この雪がどうにかならないと、出かけようが無いよね……」


どうやら、私たちが旅に出るためには、高い雪の壁を越えて行かなくてはならないようです……。

というわけで、ここからはルシアがお送りします。


……一応、話の中の季節は、今の季節と連動して書いていくつもりなので……本当なら、春のはずです。

ですが……どういうわけか、冬が来てしまいました。


旅行に出るためには、春を取り戻さなくてはならないのですが……果たして話は、どんな展開になっていくのでしょうか?

……え?

何故疑問形か?

それは……これからの展開を、何も考えていな……いえ、何でもないです。

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