1-19 ひなまつり?4
そして、ひな祭りの日がやって来ました。
……前話から、大体、半月くらい時間が進んだことになりますね。
その間、スーパーAのお寿司を食べたり、アメちゃんの下着や服や靴を買いに行ったり、からくり人形と同じ構造をした雛人形を作ったり……あ、それとスーパーEのお寿司を食べたり……。
他にも色々なことがありましたけど、大したことは起こっていないので、省略しようと思います。
お寿司をたくさん食べた話をしても、仕方ないですよね?
新しい専門店を発見したわけではないですからね。
……あ、そういえば、アメちゃんの服を買いに出かけた時に、主さんは最後まで一緒にアメちゃんの服を探してくれたんですけど、一緒に付いて来たテレサちゃんと、買い物をしに来たはずの当のアメちゃん本人が、真っ青な顔をして椅子に座り込んでいたのは……いったいどうしてなんでしょう?
服を選ぶのに、2日もかかってないのに……。
でも、そんな2人が並んで何かを話し合っている姿を遠くから見ていると……本当、母子って感じがして、なんか……微笑ましかったです。
……あぁ、そっか。
そういえば、テレサちゃんも私も…………。
あ、すみません。
そんな暗い話は、テレサちゃんのベッドにおいてある枕の横辺りに置いておいておきましょう。
というわけで、早速、ひな祭りの日の話を始めようと思います。
……と言っても、今日のお話は、雛人形のことには関係なくて、9割の駄文と、ちょっとだけ物語の端っこが見えるだけですけどね……。
「……のう、ルシア嬢?今日は木曜日じゃよな?」
「うん。そうだよ?」
「……ひなまつりの日は、『ひなちらし』なる寿司を食べるのじゃよな?」
「そうそう。狩人さんが言ってたよね?」
「……なら、どうして稲荷寿司が、食卓に並んでおるのじゃ……」
3月3日の夜。
テレサちゃんは、食卓に並ぶ山盛りのお寿司を前に、そんなことを言いながら、頭を抱えていました。
そんな食卓には、稲荷寿司以外にはお皿と箸しか置かれていません。
まさに、稲荷寿司パーティーです!
「ふーん。テレサちゃん、そんな頭を抱えるくらい、お寿司が好きなんだ……」
「違っ……」
「……え……じゃぁ、嫌いなの?お寿司……」
「ちょっ……なにその誘導尋問?!」
「……テレサちゃん、なんか地が出てない?」
「むしろ、驚きのあまり、言葉が変になっただけなのじゃ!」
最近、私の界隈で、キャラ作りのために『なのじゃ』を語尾に取って付けているだけかもしれない疑惑が持ち上がっているテレサちゃん。
でも、テレサちゃんのしゃべり方が、元からこういうしゃべり方だって言うのは本当のことなんですけどね。
私が疑っているのは、今でも『なのじゃ』を付けずに、普通にしゃべることが出来ないのか、という点です。
昔、ミッドエデンの王城で演説した時は、結局普通に喋れなくて、そのままの言葉で喋ってたけど、今ならそんなことは無い、と思うんですよね……。
普通のしゃべり方をしてるお姉ちゃんたちと、長い間行動を共にしてきたんですから、普通の言葉が身についていたとしてもおかしくはないと思いませんか?
……いつかは、普通に喋ってるテレサちゃんの姿を見てみたい、って思うんですけど……実は、そう考えているのって、私だけなんでしょうか……。
「……ん?どうしたのじゃ、ルシア嬢?急に黙りこくって……」
「ううん。気にしないで。じゃぁ、おなかへったから食べよっか?」
スーパーの安売りで定価の8割引になっていて、その上、どういうわけか山盛り状態で売っていた稲荷寿司に目をつけた私は、一緒に来ていた主さんに頼み込んで、たくさんお寿司を買ってもらうことに成功しました。
その際の主さんは、いつも通り無言でしたが、その視線の中に『ひな祭りは女の子のお祭りだから、好きなモノを食べていいよ?』という言葉が含まれていた気がしたのは……つまり、間違いではなかった、ってことですね。
……え?何でスーパーで、山盛りの稲荷寿司がそんな安売りで売っていたか?
……分かりません。
ただ……市内の系列のスーパーに普段からお寿司を配送してくるトラックがトラブルを起こして、行きつけのスーパーの倉庫の前で動かなくなってしまったことと、何か関係があるのかもしれません。
もしかすると、トラックの中身の食べ物がダメになるくらいなら、安売りして売りさばこうと思ったのかもしれませんね。
……それにしても不思議ですよね。
私たちの家の近くのスーパーで動かなくなるなんて。
それも大量の稲荷寿司を乗せたままで……。
「……ルシアよ?顔がニヤけておるぞ?」
「……ううん?なんでもないよ?ただ、今日は運が良かったなぁって、思っただけ。じゃぁ、いただきまーす」
『…………』
そう言って、一度に3つの稲荷寿司を頬張る私に、ジト目を向けてくるテレサちゃんとアメちゃん。
別に疚しいことなんてしてないんだけどなぁ……。
ところで……。
テレサちゃんとアメちゃんの発言が、どっちがどっちなのか……分かり難いですよね?
ちなみに、上の文で言うと、前半しゃべっていたのがテレサちゃんで、後半問いかけてきたのがアメちゃんです。
「……まぁ、良いか。いつものことじゃし……」
「うむ。ワシも腹がすいておるからのう。早速頂こうぞ?」
「うむ。そうじゃのう。それでは……」
『いただきます(なのじゃ)!』
そう言った後で、稲荷寿司を小皿によそって齧りつくテレサちゃんとアメちゃん。
二人を言葉だけで見分けるポイントは…………アメちゃんの方は『のじゃ』をつける回数が少ないのと、語尾に『ぞ』をつける回数が多いこと、そして言葉遣いが少し古くさいことでしょうか。
一方、テレサちゃんの方は…………いまさら詳しく説明しなくてもいいですね。
取って付けたような『なのじゃ』。
これだけで十分だと思います。
「ぬ?何でじゃろうか……。嬢から妾の方に向かって、言い知れぬ気配が漂ってくるような気がするのじゃ……」はむっ
「おそらく気のせいじゃろう。テレサよ?あまり人のことを疑うことは良くないと思うぞ?」はむっ
……こんな感じです。
まぁ、一人称も、私の名前の呼び方も違うから、何となく分かりますよね?
「……美味しいね。テレサちゃんとアメちゃん?」
「う、うむ……美味しいのう……(な、何でじゃろうか……妙にルシア嬢が優しい気がするのじゃ……。逆にその笑みが怖いのじゃ……)」
「うむ。ワシも稲荷寿司は好物じゃからのう」
と、パクパクとお寿司を口に詰め込んでいくアメちゃん。
……なんか、アメちゃんとは気が合いそうです。
そんなことを考えていると、アメちゃんは難しそうな表情を浮かべてから、首を傾げました。
……お寿司の味に、何か気づいたことがあったんでしょうか……?
確かこのお寿司、作ってから5時間経ってないものだけを気配で選んで買ってきたはずなのですが……
「じゃが……強いて言うなら、ここに茶があると更に至高じゃの。しかし……ワシは今、居候の身。そこまで贅沢は言えぬのじゃ」
……確かに、味をリセットするという意味でも、お茶や漬物くらいはあってもいいですよね。
やっぱりアメちゃんとは、気が合いそうです。
「え?お茶がほしい?ちょっと待ってね」
私はそう言ってから、その場に座ったままでお寿司を食べながら、重力制御魔法を行使して、近くの戸棚から急須と湯呑と茶葉を浮かべて持ってきました。
「……?!」
「ん?どうしたのじゃ?アメよ。急に口を開けたまま固まりおって……」
「な、なんじゃと……?!」
「あぁ……主はこれを見るのは初めてじゃったか……」
「そうだね、普段は、人に見えるような魔法を使ってないし……」
『えっ……』
そんな私の言葉に、アメちゃんと一緒に、驚いた様子で固まるテレサちゃん。
でも、先日、お話した通り、テレサちゃんには痩せるコツを教えるわけにいかないので、そのままスルーします。
ちなみに、私が常時展開しているオートスペルについても、今まで説明したことはないので、テレサちゃんは恐らく気づいていません。
……ただ、テレサちゃんは優しいので、もしかたら、気づいていて、気づかないふりをしているだけかもしれませんけどね……。
「それで、これをこうして……」どばっ
そう言いながら、お茶の葉を急須に入れて、水魔法と火魔法で作ったお湯を入れる私。
……我ながら随分となれた手つき(?)になったと思います。
ちょっと前までは、出力の調整が出来なくて大変だったんですけど、必死になって練習したら、最近はこれくらいなら意識しなくても勝手に出来るようになりました。
そうじゃないと、魔法の存在がバレると大変なことになるこの世界では、上手く生きていけませんから。
「はい、完成!」
「……って、お主、今、見ないで作っておったじゃろ?茶葉の量……いや、なんでもないのじゃ……」
「え?見てたよ?魔法越しに、だけどねー」
「……(部屋にいないはずの嬢に、妾の行動がバレておったのは、このせいじゃったか……。対策を考えねば…………っていうか、本当に見ておったんじゃよな?あの茶葉の量……)」
テレサちゃんが何かを考え込んでいるみたいですが、あの表情からすると……きっと、無駄なことを考えているんでしょうね……。
と、私がテレサちゃんの思考の予測を立ててながら、重力制御魔法で4人分のお茶を配っていると……
「……ルシア……やはり主は……」
アメちゃんはそんなことを呟きながら、私の顔を見て、驚いた表情のまま固まっていました。
この表情は……
「……化け物に見える?」
……って考えてる感じの顔でしょうか?
まぁ、もしもそう言われたとしても、お姉ちゃんたちやテレサちゃんも、他の人たちにみんなそう言われてきたし、自覚もあるから、いまさら言われたところで全く傷つかないです。
でも……少しだけショックかもしれないと思うのは……もしかして、傷ついている証拠なのかもしれませんね……。
私はそう考えながら、心の何処かで覚悟しながら、アメちゃんの言葉を待っていました。
ですが、返って来た言葉は……私の予想と全く異なるものでした。
「いや、そうではない。相当に高位の『術者』じゃと思うての……」
『……?』
アメちゃんが口にしたその言葉に、私とテレサちゃんは同時に首を傾げます。
「……術者?」
「うむ。念力を操って、離れた場所のモノを操作する……。そんな特殊な能力を持った者たちのことを指す言葉じゃの」
念力……重力制御に関係する操作のことでしょうか?
もしもそういう意味なら、私はこれまでに、自分と同じことが出来る人を全部で4人見たことがあります。
……あ、もちろん、その中に私は含みませんよ?
ですが、みんな、『術者』って感じではなかった気がします。
種も仕掛けもありましたからね。
……もしかして術者というのは、私たちのいた世界の話ではない、ということでしょうか……。
だって、魔法以外の方法で、重力を操作することができるのって、お姉ちゃんが使ってるような重力制御システムくらいしか知らないですから。
それに、私達のいた世界では、魔法使いのことを間違っても『術者』とは言いませんでしたし……。
つまり……
「……この世界にもそんな魔法使いみたいな人がいる、ってこと?」
ということになるでしょうか。
「……魔法使いはおらぬな」
『え…………だめじゃん』
アメちゃん……もしかして、いないのに口にしたの?
……と思っていると、その後で、アメちゃんは言葉を続けました。
「ワシが言っておるのは、魔法ではのうて、念力を使う者たちのことじゃ。それが魔法とやらとどう違うのか、ワシにもよく分からぬが…………仲間に聞いた話じゃと、ガラスを割るとか、モノを飛ばしてぶつけるとか……お主みたいに手を触れずに色々できるらしいぞ?あ、ちなみに、ワシが使っておるのは神通r」
「なんか、話に聞く限り、非生産的な人たちだね……」
「最後まで話させ……いや、もうよいのじゃ…………。それにしても、随分と難しい言葉を使うのう……」
自分の能力を使って、ガラスを割ったり、物を飛ばしたり……。
どう考えても野蛮な人にしか思えないのは私だけの気のせいでしょうか?
私がそんなことを考えていると……
「……ところで主よ?」
テレサちゃんがアメちゃんに話しかけます。
「……お主、この世界に仲間がおったのじゃな?」
「もちろんじゃ。長く生きておれば、仲間と知り合うこともあるじゃろうて」
「ほとんど、妾と年齢が変わらなそうな見た目じゃがのう……」
「……えっ」
……そんなテレサちゃんの言葉が理解できなかったのか、一瞬固まるアメちゃん。
傍から見ると、絶対にそうは見えませんけどね……。
もしかすると、テレサちゃんの眼には、何か補正がかかっているのかもしれません。
「……お主、ちょっと待つのじゃ。一体、妾を何歳じゃと思っておった?」
「……10歳くらい?」
「よーし、アメよ、表に出るのじゃ!今日こそボッコボコにしてやるのj」
ブゥン……
……そしてテレサちゃんはお風呂へと姿を消しました……。
「ごめんね。アメちゃん。テレサちゃん騒がしいでしょ?でもテレサちゃん、私よりも4歳も年上なんだよ?」
「…………は?……う、うむ。それは済まぬことを言ってしまったのう……」
そう言って、頭を下げるアメちゃん。
テレサちゃんが転移させられることについては慣れたみたいですけど……でも、私に頭を下げられても困るんだけどなぁ……。
というわけで。
この日の夕食は、テレサちゃんが自動的に消えちゃったので、ここでお開きになりました。
ちなみに主さんも同じ食卓についてたんですけど……
「…………」もきゅもきゅ
……黙々とお寿司を頬張っていました。
多分、主さんの頭の中では…………恵方の巻き寿司と、ひなまつりの日に食べる稲荷寿司が、ごちゃまぜになってるのではないでしょうか……。
……え?ひなまつりの日に稲荷寿司を食べない?
……それは多分……人生を半分くらい無駄にしていると思います。
まだ遅くはないので、今すぐに、稲荷寿司を口の中に入れるべきですね。
軽く書くつもりが、なんか昨日の分も含めて書いちゃったみたいです。
たまに自分の口調が、乱れるような感じがあるんですけど……それは眠いからです。
あとでまたチェックした時に、修正しようと思います。
……というわけで、テレサちゃんの言葉を借りると、ねむねむ、なので、寝ようと思います。
それではまた。




