1-18 ひなまつり?3
それから、しばらくして……
テレサちゃんの料理が出来たらしいので、私は机の上に広がっていたものを、魔法のバッグの中に仕舞い込みました。
その際、アメちゃんが、物理現象を無視したバッグの働きに唖然としていたようですが……私の顔を見た後で、何故か首を縦に振って、納得したような態度を見せていたのは……一体どうしてでしょう?
まぁ、それはさておき。
待ちに待った朝食です。
朝食を食べないと、力も出ませんし、頭も働きません。
それに魔法を使うためにも、ご飯は欠かせないんです。
実は、魔法は使えば使うほど、身体の中の魔力を消費するのと同時に、身体は失った魔力を補充しようと、食べたものを魔力に変えようとします。
だから、いっぱい魔法を使おうとすると、いっぱい食事が必要になるんですけど…………でもテレサちゃんは、それを知らないみたいです。
きっと、私が一杯食べても太らない体質だと思ってるんだろうなぁ……。
そのことをテレサちゃんに教えても良いんですけど、テレサちゃんって、普段頻繁に使えそうな類の魔法を……全く使えないんですよね……。
変身魔法、幻影魔法、言霊魔法……。
変身魔法くらいなら常用してもいいかもしれませんけど、広い空間の視覚情報を書き換えてしまう幻影魔法や、人の思考を強制的に書き換える言霊魔法とか……下手すると禁忌魔法の一種ですからね……。
もしも、魔法を使えば使うほど痩せるなんて教えたら……きっと、テレサちゃんのためにも、私のためにも、それにお姉ちゃんや主さんのためにもならないと思うので、絶対に教えられません。
……ごめんね、テレサちゃん。
おっと、随分と話が脱線してしまいました。
朝食の話に戻ろうと思います。
テレサちゃんの作る料理は……なんというか、荒削りな料理、といった感じです。
女の子のはずなのに、漢の料理を作ってる、って言えると思います。
逆に狩人さんが、繊細な料理を作れることが不思議なんですけど…………ともかく、元お姫様であるはずのテレサちゃんの料理は、決して見た目の良いものではありません。
でも……優しい味がして、とても美味しいんです。
「ん?どうしたのじゃ?温泉卵に殻でも入っておったか?」
小鉢に入った温泉卵に、テレサちゃん特性のタレを掛けて、ちゅるん、と飲み干しながら、いろいろ考えていると、そんな言葉を掛けられました。
意図したわけではないですが、いつの間にかテレサちゃんの方に、私の視線が向いちゃっていたみたいです。
「ううん。なんでもないよ?ただ、いつかは、テレサちゃんの作る料理みたいに、美味しいものが作れるようになりたいな、って思っただけ」
「さよか……」
それだけ言って、黙りこんで……そして、私から視線を逸らすテレサちゃん……。
……何を考えてるか丸分かりなんですけど……。
そんな私たちのやり取りを見ていたのか、私の隣りにいたアメちゃんが、野菜炒めを飲み込んでから、口を開きます。
「お主たち、見た目は随分と違うようじゃが、仲の良い姉妹なのじゃな」
『え?』
テレサちゃんと私が……姉妹?
「えっと、本当は違うけど……でもそういうことになるのかもね」
「うむ……今では姉妹のようなものじゃからのう……」
……と言いつつも、どこか歯切れの悪いテレサちゃん。
きっと、私とお姉ちゃんが姉妹の関係にあるので、同じ姉妹だとすると、お姉ちゃんと結婚できない……なんて考えてるんでしょうね……。
……こうしてテレサちゃんの考えていることが分かってしまうのは、姉妹としては良いのかもしれないですけど……でもこんなことまで分かってしまうのは、なんか嫌です……。
「ど、どうしたのじゃ、ルシア嬢?!ま、まだ、妾は疚しいことなど考えてはおらぬのじゃ!」
……そう口にしてる時点で、疚しいことを考えていました、と公言しているようなものだと思うのですが……まぁ、いいです。
それはそうと、考えていたことが顔に出てしまっていたみたいですね。
今度から気をつけないと!
「さてと」
どうやら皆、食べ終わったみたいなので、私は切り出しました。
「アメちゃん?片付けるから手伝って?」
「う、うむ……。ところでルシアよ?」
「ん?何かあった?」
「あの……テレサはどこへ……?」
「えっとねぇ……多分、お風呂!」
私はそう言ってから、急に何処かへ消えてしまったテレサちゃんの分の食器を片つけ始めました。
さすが、主さんと一緒に作った自動魔法。
疚しいモノは、自動的に清めてくれます。
……余談ですけど、このオートスペル、何もテレサちゃんをお風呂に送り込むだけのものではありません。
実は、近くに住むお姉ちゃんの仲間全員に掛けられていて、他にも色々と便利な機能とか効果とか、大切な役割とかがあるんです。
その話は後日するとして……そうそう。
いつもこの家のお風呂が温かくて、綺麗なお湯なのも、全てこのオートスペルのおかげなんですよ?
じゃないと、電気代と水道代がトンデモナイことになりますからね。
主さんには光熱費の節約になると重宝がられています。
……テレサちゃんは知らないみたいですけどね……。
それから、食器を一通り洗った後。
「じゃぁ、アメちゃん。ネットを使ってみよっか?」
主さんのデスクトップPCの前までやってきて、私はアメちゃんにそう提案しました。
「ま、まさか……ワシも風呂送りに……」
「なんでお風呂…………ネット、熱湯……。あぁ、そういうことね…………ううん、お風呂じゃないよ?朝ごはんを食べる前に話してた、世界に繋がってるコンピュータの話の続き。この世界でうまく生きていくためには、ネットからいろいろな情報を集めることが重要、って、お姉ちゃんが言ってたし……」
「お姉ちゃん?」
「うん。最近はちょっと忙しくて中々会えてないけど、一昨日の夜とか来てた……って、アメちゃん、そう言えば寝てたね。お姉ちゃんは、ワルツって名前の……私の神さま!」
「神……じゃと?」
「うん!それで私が勇者なの」
「う、うむ……(何かの物語の話かのう……)」
「えっと、その話はいつかゆっくりするとして……」
ピッ……
「……はい、起動したよ?」
パソコンのスイッチを押してからおよそ2秒。
テレビに電源を入れてから画面が映るのと同じような時間で、パソコンの画面にカーソルが表示されました。
この間、何か難しい事が行われているらしいですけど……私には全然分かりません。
主さんやテレサちゃんなら分かるかもしれませんね。
「それで、このアイコンをクリックすると……」
「あいこん?くりっく?」
「……そうだね。そこから教えなきゃダメだね……」
……そして私は、アメちゃんに対して、パソコンのスイッチの入れ方から教えることにしました。
……数分後。
「ふぉぉぉぉ!!凄い、凄いのじゃ!!ワシ、今、世界とつながっておるぞ!!」
「……」
……どうしてこうなっちゃったんでしょう……。
アメちゃん、この現代世界に来てからずっと難しい仕事をしていたらしいのですが、その際に身に付けた読心術だったか速読術を使って、パソコンの画面に表示されたテキストを、目にも留まらぬ速さで読んでいくんです。
ブラウザの使い方を教えるまでが大変でしたが、ブラウザの使い方のヘルプを見せた瞬間……私よりも使い方に詳しくなっちゃいました……。
……これ、大丈夫かなぁ。
なんか、嫌な予感しかしません……。
「……アメちゃん。ごめんね。やっぱり、ネットの使い方を覚えるの、今日は止めとこっか……」
「な、何故じゃ?せっかくここまで使えるようになったというのに……」
「えっとね。ネットを使うためには、リテラシーっていうものを学ばなくちゃならないんだけど、それは私じゃ教えられないから……。今度、主さんがいる時に教えてもらって?」
「う……うむ……。残念じゃ。……じゃが、ワシの知らぬ世界がこんな身近にあったとは……なんとも驚きじゃ」
「うん。そうだね……」
そして私は、パソコンの電源をそっと押……そうとして、手を止めました。
何のためにネットを見ようとしていたのか思い出したんです。
「あ……でも一つだけ、検索するね」カタカタカタ
そして画面に表示されたのは……
「……からくり人形の作り方?」
「うん。動く雛人形を作るための参考なればいいなぁ、って思ってね。あ、テレサちゃんには内緒だよ?」
「……うむ。プレゼントするのか?」
「んー、プレゼントというよりは……どちらかと言うと、驚かせようと思ってるかなぁ?」
「……なるほど。ならば、ワシもやることがないから、手伝おうぞ?」
「えっと、うん。ありがとうアメちゃん!」
そして結局……嫌というほどネット上で『からくり人形』の情報を集めてから、私たちは雛人形を作ることにしました。
その際、一瞬でページの情報を記憶していくアメちゃんは……なんか、アンドロイドみたいです。
でも、おかげで、何度もネットを見返さなくても良さそうなので、助かりそうです。
……え?
コルちゃんみたいなホムンクルスではなく、何故アンドロイドの話が出てくるのか?
それは……その内、お話しようと思います。
……ほとんど、ひな祭り関係ないですね。
でも、アメちゃんの成長日記(?)を書くためには、必要なことですから。
さて、次回は……いよいよ雛人形の組み立てです。
問題は、それを使って…………えっと、内緒です!




