1-13 おんせん?5
というわけでなのじゃ。
自身の身体を洗い終わった妾は、アメが身体の洗いすぎでカサカサな狐になる前に、やつのことを止めることにしたのじゃ。
「……アメよ。身体から必要以上の油分を洗い流すと、カサカサになる上、体臭の原因にもなるのじゃぞ?お主、知っておるか?」
「……え?」
……どうやらこやつ、風呂の入り方は知っておっても、身体の洗い方までは知らんかったようなのじゃ。
例え、おなごでなくとも、誰でも知っておることのような気もせんでもないがのう……。
そんなアメを例えるなら……ネットもテレビも端末もない場所で生活をしておるお婆ちゃんに例えるのがピッタリな気がするのじゃ。
……このご時世、未だにそんな絶滅危惧種なご老体が日本におるかは分からぬがの。
「ほれ。妾も手伝うから、早く石鹸を落として、湯船に浸かろうではないか」
「う、うむ。助かる。まさか、このぼでーそーぷとやらに、そんな効果があるとは思わなんだ……」
そんなアメに喋り方に……妾は思ったのじゃ。
……妾のあいんでんてぃてぃーを脅かそうとしておると。
じゃが、まぁ、せいぜい頑張るが良い。
妾ほど存在感のある人間もそうそうおらぬはずじゃからのう。
……あれ?
存在感……妾にとっての存在感とは……一体なんじゃろうか……。
「ぬ?どうしたのじゃ、テレサよ?お主から貧乏神が取り付いたような暗いオーラを放れておるようじゃぞ?どれ、ワシが明るくしてやろうぞ」
そう言うとアメは……妾の腕に抱きついてきたのじゃ。
「ちょっ……離れるのじゃ!色々な意味で」
「なんじゃ、すきんしっぷを図れぬというのか?」
「そうではない……いや、そうではなくないのじゃ!」
そう言うと妾は、アメの手を振りほどいて、説明を始めたのじゃ。
……本当に、この国は住みにくい国じゃ、と思いながらのう……。
「この世界についてあまり明るくないお主にとっては分からぬかも知れぬが、この国においては、誰かに見られておる前で、他人に接触することが禁じられておるのじゃ。こう言った温泉も例外ではないのじゃ。当の本人たちは良くとも、他者に見られると政府機関につーほーされて、牢獄に連れて行かれるらしいのじゃ」
「……」
「一体、どんな理由があって、こんな無意味な法律を作ったのかは妾も知らぬが……人の眼には注意するが良い」
「……そうじゃったのじゃな。知らぬ内に外の世界は大きく変わってしまったのじゃのう……」
アメはそう言いながら……浴室の高い天井に向かって、遠い視線を向けたのじゃ。
「……ほれ主よ。浴槽に行くぞ?」
「う、うむ」
そして妾は、呆けておったアメを連れて、皆が浸かっておる湯船に向かったのじゃ。
この温泉施設は、大きく分けて2のブロックに分かれておったのじゃ。
……内湯と外湯なのじゃ。
今は2月。
外は寒いのじゃ。
身体を洗ったとはいえ、暖まっていない状態で外に出るのは……ユキ殿くらいなものじゃろう。
……そもそもあやつの場合は、温度という概念が無さそうじゃがの。
でじゃ。
必然的に、妾たちは、内湯の浴槽にやってきたのじゃ。
……もちろん、掛け湯をしてからじゃよ?
ただ、残念なことに、皆の姿はそこには無かったのじゃ。
どうやら既に、外に行ってしまったようじゃのう。
やはり、身体を洗うのに時間をかけすぎてしまったのじゃろう。
……それはさておきじゃ。
「ほれアメよ。遠慮せず入るが良い」
妾はアメにそう促したのじゃが……
「うむ……」
じゃがアメのやつ、中々湯船に入ろうとしなかったのじゃ。
ただの風呂じゃというのに、何か怖いことでもあるのかのう?
じゃから、
「どうしたのじゃ?」
妾は迷うことなく風呂の中に入って、誰もいない浴槽の中で少々泳ぎ気味に反対側の壁の場所まで移動して振り返ってから、改めてアメに対して問いかけたのじゃ。
何事にもお手本は必要じゃからの。
……するとじゃ。
「……質問なのじゃが……このブクブクと沸騰しておるお湯……熱くはないのか?」
アメのやつ、どうやら浴槽の底から湧き出てくる泡が怖かったらしいのじゃ。
こういうところは……お婆ちゃんではなく、どちらかというと子どもを相手にしておる気分なのじゃ。
「一部がバブルバスになっておるだけじゃが……まさかお主…………いや、ここまでのことを考えるなら致し方ないことじゃろうのう。熱くはない。遠慮せず入ってくるのじゃ」
「……うむ」
アメはそう言ってから、ゆっくりとつま先から湯船に入ったのじゃ。
「……ふわぁ〜……」
……そして溶けたのじゃ……。
まぁ、普通の反応じゃよな?
「……どうじゃ?良い湯じゃろ?」
「うむ。見た目と違って熱くはないが、随分と火照ってくる湯なのじゃ。温泉というのは初めて入ったのじゃが、これほどまでに心地の良いものだったのじゃな……」
「そうなのじゃ。じゃがのう、このタイプのおんせんに浸かる際には、注意が必要なのじゃ」
「注意、じゃと?まさかカサカサと体臭が……」
「いやいや、洗剤とは違うのじゃ。のぼせやすい、という話なのじゃ。ここはナトリウム・カルシウム塩化物泉じゃから、湯に溶けた塩分が汗の蒸発を防いで、体温を上げやすくする効果があるのじゃ。冬に入る分には、芯から温まってとても気持ちが良いのじゃが、反面、長湯をしておると体温が上がりすぎて、軽度の脱水症状や熱中症にかかる恐れがあるのじゃ。じゃから、温まったと思ったら長湯はせずに上がったほうが良いのじゃ。後で温泉疲れが出ても困るじゃろう?」
「よ、よく分からぬ単語が多かった説明じゃったが、要するに長湯はしてはならぬ、ということじゃな?」
「そうなのじゃ。じゃから……」
ザバッ……
「ほれ、皆が入っておるじゃろう外の湯へと行くぞ?」
「外の湯?」
「うむ。……今から心すると良い!」ニヤリ
それから妾たちは、外の湯……所謂、露天風呂へと足を進めたのじゃ。
カサカサな狐。
……どんなものか分からんじゃろうのう……。
……まぁともかくじゃ。
カサカサしておるのじゃ。
さて、次か、次の次の回で第一温泉回は終了かのう。
ついでに1章と。
問題はその次に何を書くか……じゃな。
日本国内の旅行について書くのは吝かではないのじゃが……それだけでは物語としてワクワク感が無いからのう。
……実はアメの寿命が1ヶ月……というのは、春夏秋冬どころか、桜の季節まで生きられぬから、そんなトンデモ設定は作らぬがのう。
やはり、あのネタを使うしか無いのじゃ……。
……その辺が決まっておらぬせいで、あらすじが書けんかったのじゃがのう。
どうにか土日で書けるように、プロットを決めたいのじゃ。




