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ニート狐たちのフォックストロット  作者: ポテンティア=T.C
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1-11 おんせん?3

というわけで。

文字通り紆余曲折を経て、目的地のおんせんに着いたのじゃ。


少し大きめの村のような場所にあるおんせんなのじゃが、周囲の小さな村落から人々が集まってくるためか、施設自体は大きな建物だったのじゃ。

闇に包まれ静まり返った村の中で……急に現れる巨大な施設(平屋)。

なんとも言えぬ違和感が漏れ出してきておるが……まぁ入って気持ちよければ別に良いじゃろう。


「ふーーーん!!」


車の助手席から降りて、背伸びをする狩人殿。

そういうところは、猫っぽいのう……。


それから彼女は、一通りストレッチを終えると、主殿のトランクに置いてあった自分の荷物の中から……


「はいこれ!」


アメに対して、着替え一式を渡したのじゃ。


「ぬ?」


「着替えだよ、き・が・え!まさか、帰りもその湿っぽい巫女服のままで戻るわけじゃないだろう?」


「……あぁ、すまぬ。恩に着るのじゃ」


そう言って、(うやうや)しく、狩人殿から荷物を受ける取るアメ。

恐らく彼女にとっては、こういった経験も初めてのことなんじゃろうのう……。


「テレサちゃんも、はい」


「うむ。では行くかのう主殿」


「…………」コクリ


そして妾たちは、入り口から少し離れて止めておった車から、おんせん施設の入り口へと足を向けたのじゃ。




「お主、これの使い方が分かるか?」


鍵付きの下駄箱まで来てから、妾はアメに問いかけたのじゃ。


「わ、分かるに決まっておろう!」


……と言いながら、ルシアが靴を下駄箱に仕舞っている様子を横目で追うアメ。

随分と分かり易い奴じゃのう……。


「……うむ。鍵を()くすと困るから、お主の靴を、妾の靴と一緒に、ここに入れるのじゃ」


「うむ。相分った」


アメはそう言うと、履いておった靴……もとい下駄を脱いで、その名の通りの下駄箱の中に、


カコン……


という音を立てながら、放り込んだのじゃ。

うむ。

なんとも耳触りの良い音じゃのう。


「さてと、次は発券機なのじゃ!」


そうなのじゃ。

このおんせんは、番台に直接お金を渡すタイプではなく、事前に自販機で小さな紙切れ(きっぷ)を買っておくタイプなのじゃ。


……アメのやつ、下駄箱の使い方も分からんかったのじゃ。

恐らく、自販機の使い方も知っておるまい。

ここは妾が、義姉として……


「……これじゃな?」


何じゃ…………アメのやつ、自販機の使い方は分かるらしいのじゃ。

指を『大人』のところに置いて妾がお金を入れるのを待って……


ピッ……


あ、あれ?

お金、持ってたんじゃのう……。

別に払わんでも、妾たちが払ったのに……。

主殿には嬢の分を合わせて3人分もらっておったが…………これは一人分ネコババかのう。


「……テレサちゃん?あとでジュース代ちょうだいね?」


「……う、うむ。もちろんなのじゃ!」


……だ、だめなのじゃ……。

ルシア嬢に、監視されておるのじゃ……。

普段は抜けておるように見えるのじゃが…………まぁ、それを言うなら、コルはもっとじゃから、人は見かけによらぬ、というやつかもしれぬのう……。


……さて、なのじゃ。

ここで問題が起ったのじゃ。

……もちろん、ルシア嬢に対して良からぬことを考えたせいで、強制的に転移させられたわけではないぞ?

何となく背筋に冷たいものは感じたがのう……。


まぁ、それは横に置いておいて。

アメを含めて全員が番台に切符を置いた時のことだったのじゃ。


「……あれ?お客さん、一人分多いですよ?」


『……?』

『…………』


そんな店員の言葉に、妾たちの反応は2つに別れたのじゃ。

妾、ルシア嬢、狩人殿。

この3人は当然のごとく、顔に疑問を浮かべておったのじゃ。

そりゃそうじゃろう。

妾たちの眼から見る分には、どう考えても人数分あるんじゃからのう。


一方でじゃ。

主殿とアメは最初からこのことが予見できたようで、少し難しそうな表情を浮かべておったのじゃ。

……どうしてかは分からぬがのう。


それはさておき。

その後、店員は続けてこう言ったのじゃ。


「4人しかいないのに、5枚券があるんですが……」


……ぬ?

4人しか……居ない……じゃと?

どうやら店員には、妾たちの内、一人が見えておらぬようなのじゃ。

……あぁ……これはあれじゃのう。


「まーた狩人殿、無駄なところで気配を消しておるから、店員に認知されておらぬではないか!」


「えっ……」


「すまぬ女中殿。連れの気配が薄すぎて見えなくなっておるようじゃ。気にせず受け取って欲しいのじゃ」


「えっ、あのっ……」


「さて、ゆくかのう」


そして妾は、何故か苦笑を浮かべておる主殿とアメの手を引っ張って、番台の奥にあった通路を歩き始めたのじゃ。




あ、そうそう。

言っておくが、このおんせんは、混浴ではないぞ?

流石にオンセニスト(Onsenist)の妾であっても、そんなレベルの高いおんせんには入れないのじゃ。

じゃから、同じ赤い暖簾をくぐって主殿が一緒に付いて来たとしても、それは……つまりそういうことなのじゃ。

まぁ、その辺りの詳しい話は、本編が終わった辺りですることになるのかのう。


というわけでじゃ。


「ずーーーん……」


……影が薄いと言われて、凹みながらも、着替えを進める狩人殿の横で妾も着替え始めたのじゃ!

え?一言くらい言葉をかけるべき?

……妾、言葉が不器用じゃから、掛ける言葉が見つからないのじゃ……。


すぽぽーーーんっ!!


……この音は、妾のものではないぞ?

ルシア嬢なのじゃ。

一体、どういう原理なのかは知らぬが、あやつ、3秒で服を脱げるらしいのじゃ。

まぁ、早く服を脱いだとしても、そこからが問題なんじゃがのう……。


問題は……尻尾と獣耳をどうやって隠すか、なのじゃ。

まぁ、狩人殿の細い尻尾は身体にバスタオルを巻けばどうにかなるとして、ルシア嬢の尻尾と、その3倍かつ1.5倍のぼりゅーむがある妾のしっぽをバスタオルの中に隠すというのは難しいことなのじゃ……。


……じゃから妾は……


「ねぇ、テレサちゃん。変身魔法まだー?」


「……少しくらい、脳内説明をさせて欲しいのじゃ……」


……というわけで、なのじゃ。

ワルツやアメには効かぬようじゃが、この世界の人々にも魔法の効果はあるので、妾は変身魔法を使ってルシア嬢と自分の耳と尻尾を消したのじゃ。

もちろん、アメの分もじゃぞ?


……これがのう。

妾にとっては大変なのじゃ……。

ルシア嬢みたいに膨大な魔力があれば問題ないんじゃが、妾の細々とした魔力では、常時展開するのは難しいのじゃ。

時間が立てば立つほど、魔力は削られていくからのう……。

それに、魔力が無くなってしまうと、言霊魔法も使えなくなるから、妾たちの正体がバレるなどの最悪の事態に備えて、ある程度魔力を残す必要があるしのう。

じゃから、普段は、できるだけ魔法を使わないようにしておるのじゃ。

……まぁ、おんせんに入るためには、どんな犠牲を払うことも(いと)わぬがのう……。

むしろ、どこからともなく湧いて出てくる無限の魔力が妾の(以下略)。


というわけでじゃ。

一見すると、普通の少女の姿になった妾たちは、湯けむりで向こう側が見難くなっておる浴室へと足を進めたのじゃ。


あ、そうそう。

この物語に出てくる妾とルシア嬢、それにアメや主殿他数名は、時間軸が異なる+多少脚色されておると考えて欲しいのじゃ。

じゃから、あとがきで妾がアメのことを……いや後はお察ししてもらえると助かるのじゃ。


でじゃ。

話に出てきたこのおんせんと道路は、実在するモノをモデルに書いておるのじゃ。

というか、この物語に出てくるおんせんや観光施設、その他日本全国にある様々な設備は、妾たちが直接行ったことのある場所をモデルに書いていくからのう。

……もちろん、それで特定の施設の名前を出すことはないがの。

出すとしても、例えば……

『北海道の東の湖にあるおんせん……』

とか、

『熊本県の山奥にあるとある険道……』

とか、

『フランス西部にある名も無き川の淵を……』

と言った感じなのじゃ。

……現地名を出したいのう……。


それとじゃ。

……真冬なのに、濡れたままの姿でおったアメ。

これはのう……あれじゃ。

おんせんに入る前と後で2着分服を貸すといった狩人殿の提案を断って、アメが頑なに巫女服を着続けた、と言う設定にしておくかのう。

……別に、着替えの時間を考えると、おんせんに間に合いそうになかったから、濡れたままで車に乗せたとか、そんな折檻はしておらぬぞ?

……多分の。

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