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睦都太陽

 俺が彼女と出会ったのは10月も半ばの頃だった。

 口にするのも嫌な事だが、俺はどうにも加虐心を煽る見た目と性格なようで、本当に小さい頃からずっと虐げられてきた。

 両親こそ、そんな事はしなかったが、俺を取り巻く環境はいつもいつも気が付いた時には変化していて、最終的に俺が我慢する事で周囲が収まっていたようなもので。

 中等部へ上がってから、徐々にそれはエスカレートした。


 教師、生徒、生徒の保護者。

 目を付けられた事が、正直何回あるのかわからない。


 そんな不可解な環境に俺自身が慣れてしまっていた事が、状況を更に悪化させていたのだと俺は全く気が付かなかった。


 月乃さんは女子中学生らしからぬオーラを醸し出していて――それなのに当人は「全国の女子中学生代表と言っても過言でないほどの優等生」だと主張する――初めて会った日から、未だに俺は月乃さんの事を10分の1も理解出来ていない気がする。

 俺は月乃さんとは違って、自分の意思を突き通す事が出来ない。妥協する方が楽だから、といつもいつも諦めてしまう。

 そこが月乃さんは気に食わないと言うけれど、物心ついた時から俺はずっとそうやって生きて来たので、月乃さんに気に食わないと言われようと変えられないことは事実だ。



 あの日は。

 月乃さんと初めて出逢った日は、選択授業の音楽が終了した後の昼休みだった。


 授業が終了して音楽室を出る時に、踊り場へ来るようにと担当教師が俺に言った。

 その教師は勝間(かつま)と言って20代後半の――言いたく無いが、俺の主人のうちの一人だった。勝間は俺の主人の一人、高浜(たかはま)という女教師から紹介されて俺と初めて顔を合わせた。

 当然、俺だって最初は嫌がったし、勝間から逃げようと躍起になった事もある。けれど、高浜の言葉にはどうしても逆らえない。高浜は幼稚舎の頃から俺を知っていて、主人としては一番長く俺と付き合っている。

 月乃さんに打ち明けたのは、勝間の事だけだった。それなのに、月乃さんは俺を奴隷として扱っていた十四人もの人間を――たった一夜にして、全て消してみせたのだ。


 からくりはわからない。

 月乃さんは「人間誰しも隠したい過去がある」とだけ言った。


 月乃さんは一体何をしたのだろう。

 あの事件から一ヶ月を過ぎてもその疑問に答えてくれる素振りは全くなかった。





「寒い。寒すぎるわ。太陽、私のコートはどこ?」

「月乃さんが「暑いからロッカーに置いておく」って言ったんじゃないか。一階のロッカールームまで降りないと無いよ。というか、コートは校舎内で着用禁止。カーディガンじゃないと怒られるよ」

「私のカーディガンはどこ?」

「……ごわごわしてるから着たくないって言ってそもそも学校に持ってきてない筈だけど」


 月乃さんは頓珍漢な事を言い出したりする節がある。そもそも暑いと言ってみたり、急に寒いと言ってみたり、変に忙しい人なのだ。


 ――俺はあの日の翌日、約束通り月乃さんの奴隷になった。


 “約束”なんてものはしていなかったけれど、月乃さんは「約束した」と言っていたから彼女の中ではあれは約束だったのだろう。

 俺の周囲は、俺の主人は一人残らず――新しい月乃さん以外は――居なくなり、俺は急に身奇麗な状態になった。


 朝は月乃さんを家まで迎えに行き、帰りは月乃さんに送られる。どう考えても逆の方が絶対に正しいと思うのだけれど、月乃さんいわく「夜道は危険だから」ということで、帰りは俺が送られていた。

 学校では休み時間の度に、月乃さんの教室へ行く。

 放課後は文芸部の部室で部活動終了時間まで、月乃さんと二人で過ごす。

 驚くことに月乃さんは文芸部の部長をやっていた。俺は元々、美術部だったのだが、主人の美術教師が居なくなったことで部活に出る必要がなくなり、退部して文芸部に入部し直したと言う訳だ。



「ああ、そうだ。太陽、同じクラスの新渡戸(にとべ)には気を付けなさい」

「新渡戸って……?ああ、あの子……」


 一瞬誰だっけ、と思ってしまった。

 その原因は新渡戸という女子生徒の影の薄さにあるだろう。俺の記憶力が悪いなんて事は決してない。

 新渡戸――下の名前は流石に思い出せないが、眼鏡を掛けていつも下を向いている彼女で正解だろう。何日も洗っていなさそうな、艶の有りすぎる脂ぎった髪の毛に「うげ」と思った事が一度ある。異臭こそ放っていないが、あれは恐らく風呂に何日も入っていない。


「でも、どうして急に?」

「センサーが感知したから」


 センサーというのは月乃さんのチャームポイントの跳ねた髪か。


「これは寝癖」


 違ったらしい。寝癖だそうだ。


「というか、月乃さん。心を読むのは止めてほしいな」

「読まれていると思ったのなら、それは大間違いね。太陽、占いを信じる方?」

「良いことは信じるけど、悪いことは信じない」


 誰だってそうだ。俺だけじゃなくて、誰でもそんなものだろう。

 占いなんて非現実的なものは都合が良いときだけ利用すれば良いのだ。


「都合が良すぎて反吐が出るわ。明日にでも頭を刈り上げて来て」

「刈り上げは嫌だなぁ……」


 月乃さんは容赦がない。

 軽口とはおおよそ言えないレベルの辛辣な言葉を吐いてくる。

 俺のライフはがりがりと削られていて、近いうちに死んでしまうと俺は俺自身の寿命に見当をつけていた。


「休み時間が終わるから教室に戻って。――ああ、そうだ。太陽、こっちに来て」


 戻れだの来てだの忙しい人だ。

 仕方なく月乃さんに言われるがまま近付くと、月乃さんは俺の制服の袖を思い切り引っ張った。


 ぶちっと可愛くない音がする。


「あああああ!月乃さんボタン!なんで取っちゃったの!?」

「良いから早く戻って」


 月乃さんは俺の制服のボタンを自分の制服の内ポケットに仕舞い、しっしと手を払った。忠犬よろしく帰っていく俺に、月乃さんのクラスメイト達が不憫そうな眼差しを向けてくれる。それに苦笑しつつ、俺は教室に戻った。




「……あの」


 気を付けろと言われた直後にこれである。


「えっと……?新渡戸さん、だよね?」


 教室に戻って早々、月乃さんが注意するようにと言っていた新渡戸さんから話し掛けられて俺はきょどる。

 正直、話し掛けてくるだなんて思いもしていなかった。なので、月乃さんの忠告には「はいはい」というくらいの気持ちでいたのだ。これでまた、月乃さんが尋常ならぬ観察眼を持っている事が確定した。


「どうかした?」

「腕の……とれ……が……見えたので」

「えっ?ごめん、聞こえなかった」

「ボタン……」

「ああ、ボタン?」


 そう言いながら袖が見えるように腕を上げる。

 ボタンはさっき、月乃さんに取られた。

 新渡戸さんは何故かひゅううっと息を吸って、俯いて自分の席についた。


 ――何だ?


 首を捻る俺に新渡戸さんは解答をくれないまま。


 なんだったのかと不思議に思いながら、開始のチャイムの音を聞いた。



 最近の放課後は月乃さんを教室まで迎えに行き、一緒に部室へ向かうのがほぼ日常と化している。

 鞄を掴んで廊下に出ると、後ろから引っ張られた。


「に、新渡戸さん……」


 昨日まで、一切接触の無かった新渡戸さんが今日になってもう2回も俺に行動を起こすのは、些か不信感を抱く。自意識過剰なのではなく、俺にはそういう人間を引き寄せるヘンな雰囲気があるのだから。新渡戸さんがそうとは限らないが、疑いを持つには充分だ。

 月乃さんの忠告は外れた事が一度もない。月乃さんと新渡戸さんのどちらかを信じるかと言われれば、それは当然月乃さんである。


「ごめん。悪いけど俺、月乃さんを迎えに行かなきゃだから……」

「ちょっとで良いの……」

「ちょっとって何が!?」

「理科準備室、空いてるから……鍵も、持ってるから……」

「いやいやいや!」

「ちょっとで、良いの……」


 新渡戸さんは今にも泣きそうな顔で、なんとか顔を上げていると言わんばかりの状態だった。

 こんな大人しい子が勇気を出して話しかけてくれたのに――無下に断ったりするのは男が廃るというものだろうか。

 月乃さんの顔が一瞬、脳内にチラついた。

 けれど、思っていたよりもずっと無垢な瞳の新渡戸さんに「少しだけなら」と思ってしまった。


 というか、既に口に出してしまっていた。


「ありがとう……っ」


 誰だ。

 風呂に入っていなさそうなんて酷い事を言ったのは。


 今日の新渡戸さんは髪もさらさら、至って地味で普通な女の子だ。少しだけ明るさを取り戻した新渡戸さんと一緒に理科準備室に向かう。


 告白か。

 告白なのか。

 もしそうだったらどうしよう。


 俺は今までちゃんとした告白をされた事が一度もない。いつだって「俺に従え」や「私に跪け」などと付き合いを強制されてきた。

 もし告白ならどうしよう。

 断る理由は今のところない。

 俺は形から入るのも悪くないと思っている派だ。


「入って」

 新渡戸さんの鈴を転がしたような可憐な声が聞こえる。


 俺は上機嫌で理科準備室に入り――絶句した。


「大丈夫、痛くしないから。ずっとずっと待ってたの……!ねぇ、みんな!」

 新渡戸の馬鹿女の反吐が出そうな位に気持ちの悪い声が届く。


 俺は超絶不機嫌でその場から――逃げ出そうとした。


「待って!私たちはずっとずっと待ってたのよ!あなたはいつも誰かのものだったからなかなか手が出せなくて……!」


 回り込まれた。

 なんて俊敏な女だ。

 いや、遅いのは俺の足か。


 新渡戸を蹴り飛ばすことは出来る。

 が、俺は女の子に暴力を奮いたくはない。

 ――しょうがない。


「分かった。……用件はなに?」


 諦めて振り返ると、理科準備室内に居た総勢五名の男女が沸き立つようにそれぞれ声を上げた。


「入学式のとき、俺にぶつかっておまえ謝っただろ……?あれからお前の顔が忘れられなくて……」


 ゴリゴリのマッチョが恥じらうように言った。

 俺はゴツめのマッチョは好きじゃない。というか普通に男が好きではない。


「お、おおお、おれは、標本を拾って貰ってさ……」


 生物部の部活動着、白衣を着たいかにも理系のひょろっとした男が言う。

 好みじゃない。出っ歯は痛いからあまり好きではない。


「私のつま先に躓いて転んだとき、睦都くんが涙目になったのがどうしてももう一度見たくて……」


 結構顔は可愛いのにはぁはぁと息を乱す様が明らかに変態だ。

 どうして俺に食いつく女子は、みんな可愛い顔をしているのに中身がこうも変態的なのだろう。

 俺のせいか、俺のせいなのか。


 男子二名、新渡戸を含めた女子三名。主張はどれもこれも似たようなもので、結局は俺で遊びたいということだ。

 大変失礼極まりない。しかし、この一時を我慢すれば解放すると言っている。

 前より遥かに条件は良い。

 ――ので、もう何も言わず好きにさせることにした。


「そこに横になってくれ」


 ゴリゴリマッチョが真っ赤な顔をしながら教師用の実験台を指す。


「これで良い?」


 ごろん、と横になると女子がきゃあきゃあと声を上げた。

 今までの主人とは違い、可愛げのある反応だ。なんだか新鮮な気持ちになる。


「ぶ、ブレザーを……」


 出っ歯理系生物部がわきわきと指を動かして手を伸ばして来る。

 なんだこいつは。

 気色が悪い。

 でも逆らうと長引く。


 ――月乃さん、待ってるだろうなぁ。


 一旦起き上がってブレザーを脱ぎながらぼんやりとそう考えた。


 シャツのボタンがひとつひとつ、丁寧に外されていく。

 ゴリゴリマッチョの指先は以外にも繊細で、ボタンを外す時にシャツが引っ張られている感じがしない。

 わざと視界をぼやけさせてぶれてくるまでにする。

 すぐ終わる。

 我慢していれば、こんなことはすぐに終わる。



 月乃さんは俺の諦めが早い所が嫌いだと言うが、じゃあ諦めなければ助かるのかと口に出さずとも俺は思う。


 助けて欲しいと言って助けてくれたのは、月乃さんだけだった。けれど、月乃さんはあくまで俺の周りの掃除をしてくれただけで、俺の窮地を救ってくれた訳ではないのである。


 こんな時、俺は諦める。

 ゴリゴリマッチョは体格も良いし、出っ歯理系生物部は頭も良さそうだ。

 女子三人もそれなりに勉強が出来そうな顔をしているし、普通で何の特技もない俺には逃げ出す術が思い付かない。


 格闘技とか覚えてみようか。

 今更になってそんな事を考えたけれど、その事に俺は驚きを隠せなかった。今まで、格闘技を覚えてみようかなんて考えは一度足りとも抱いた事がなかったからだ。

 月乃さんの影響だろうか。どうにかしたい、と思う自分がまだ残っていたのか。


「すべすべだね……」


 新渡戸が感動したように言った。

 指先は俺の胸元を滑り、それをきっかけに他の奴らも手を伸ばす。


 気持ち悪いな。

 気色悪いな。

 ――そろそろ、目を閉じよう。


 胸元に爪が立てられた。

 傷付ける事に躊躇いを感じながらも我慢出来ないと次々に奴らは爪を立てる。

 痛くしないなんて嘘じゃないか。

 真っ赤な嘘。

 おまえらみんな死んでしまえ。

 なんで、なんで俺が。

 俺ばっかりが。

 俺だけが。


「……いっ」


 声を上げると、誰かが嬉しそうに笑った。



 ――やっぱり、俺、こういう風に他人を歪める力でもあるのかな。



 乾いた笑みが浮かぶ。

 ベルトに手が伸ばされた。


 何をするつもりか知らないけれど、その先は飽きるほど経験して来たから何となくの予想はつく。

 ひんやりと冷たい手が、下腹部にそっと触れた。

 背中を走る不快感は後に劇的な快感に変わると俺は知っている。



 さわるな。

 やめろ。

 はなせ。

 たのむから。

 やめてくれ。

 男も女も関係ない。

 どっちも俺で遊ぶ。



「お楽しみ中、悪いけど」


 ちゃり、と彼女の人差し指に通されたチェーンの鍵が擦れて鳴った。


「そこの悲劇のヒーロー、私のだから返してくれる?」


 当たり前のように我が物顔で、彼女は堂々と理科室のテーブルの上に立っていた。




 右手にカメラ、左手に理科準備室の鍵。

 連写し続けているカメラはシャッター音をデフォルトから変えたのか、しゃきーんしゃきーんしゃきーんと妙な効果音を奏でている。


 俺に集中し過ぎていたらしい奴らの顔が、一斉に青ざめていく。


「一組、慶増史郎(けいますしろう)。二卵性双生児のお兄さんが県外の学校に居るんだって?この学校も結構な進学校だけどお兄さんは出来が違ったみたいね。劣等感もさぞかしあるでしょう。家族からは出来損ない扱いなんだってね。可哀想に。――そのストレス、今まで何にぶつけて来たのか話した方が良い?」


 月乃さんは笑った。

 それはもう、極上の美人に見えた。

 女神か何かなんじゃないかと思うほど、綺麗で凛々しくて――頼もしかった。


 どうやら一組の慶増というのは出っ歯の理系生物部の奴らしい。

 慶増は月乃さんから大きく距離をとって、頭を抱えるようにして床に座り込んだ。


「六組、日下田隆史(ひがたたかし)。お父さん、また無職になっちゃったんだってね。大変よね、定職に就かないでフラフラしてる親を持つと。その上、暴力まであるそうだけど――そんな環境なら、お母さんが逃げるのも無理ないわ。お兄さんは帰って来ないらしいし、大丈夫?あなたの家」


 触れられたくない部分を、月乃さんは躊躇せず抉る。

 俺まで血の気が引いてきた。

 この分だと、この場にいる全員の弱みらしきものを握っているのだろう。

 それが予想出来たのは俺だけではないらしかった。


「な、なんで、そんなこと……なんで、あなたが」


 新渡戸がじりじりと後退る。

 月乃さんは机から降りて、長い黒髪を耳に掛けた。


新渡戸伊代(にとべいよ)さん。折角太陽と話す切っ掛けを作る為に用意してくれたソーイングセット、無駄にしちゃってごめんなさいね?でも良くないと思うのよ。学校の休み時間に学校を抜け出して、コンビニで万引きだなんて。知ってた?万引きって犯罪なのよ。常識でしょう。それとも浮気相手に夢中で家事もロクにしないお母さんはあなたに何も教えてくれなかったのかしら」


 わざと気取った口調で言葉を並べる月乃さんはおぞましい。

 何が全国の女子中学生代表だ。

 こんな恐ろしい中学生が他にいるはずがない。


 蜘蛛の子を散らすようにして、理科準備室から奴らは逃げ出した。



 月乃さんは実験台に横たわる半裸の俺を静かに見下ろす。


「太陽って馬鹿なの?私、忠告した筈だけど――ああ、耳鼻科に寄って帰る?」

「い、異常なし。耳は大丈夫。忠告を無視して、ごめんなさい」

「とりあえず、格好を何とかしてくれる?腹筋が物凄く目障りなの。割れているからといって調子に乗るのも大概にして」

「ええ……」


 調子に乗った事はない。

 ただの一度も、腹筋が割れているからと言って調子に乗った事はない。

 月乃さんは心底不愉快そうな顔をして俺の腹筋を眺めていた。


 ――目障りなら見なきゃいいのに。


 ズボンを履き直して、シャツのボタンをとめていく。

 月乃さんはうざったそうに長い黒髪を払った。


「少なくともあと数十人は居るから、油断はしないようにね」

「何の話?」

「太陽の熱狂的なファンの話。毎回のように私が迎えに来てあげられる訳じゃないんだから」

「……あー……うん、ありがとう、月乃さん」


 熱狂的なファンと言えば聞こえが良いが、要するに変態だ。

 嗜虐趣味を持つ変態達だ。

 そんなに数が居たのか。


「でもよくわかったね。理科準備室に居るなんて」

「キーホルダーをあげたでしょう」

「えっ?」


 確かに貰った。

 月乃さんはセンスが良いんだな、なんて思ったキーホルダーだ。

 革製のお洒落な――


「……」

「それ、盗聴器。気が付かなかったの?鈍感ね」


 鈍感だなんて問題じゃない。

 キーホルダーだと思っていたのだから、まじまじと注目して見ることもなかった。

 言われて見れば厚みがある。マイクっぽいのがちらりと見える。

 だが、これは――気付かないのが普通だ。


「月乃さんがいつも聞いてたのって……」


 音楽が好きなんだと思っていた。確かにプレイヤーを見たことは無かったけれども、音楽プレイヤーだと思って疑いもしていなかった。


「常に確認しておかないといざという時使えないでしょう。――帰るわよ」


 そうやってこの人は情報を集めているのだろうか。

 ――やっぱり中学生らしくない、正真正銘の変人だ。


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