表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

もやしとツンデレ姫

作者: オムラ




「よぉーお嬢ちゃーんかわいいねー。その制服は……東高でしょ!」

「こんな時間にここにいるってことはーいつもここらで遊んでんでしょー俺らと遊ばなぁい?」


普段は人気ひとけの多い道、しかし何故か現在人気がないそこで、一人の女子高生が絡まれている。

彼女はナンパが言っている通り東高に通う女子高生。今どきの女子高生っぽいサラサラのロングヘアーに、勝気そうな猫目の彼女はナンパされるだけのことはあって、大変可愛らしい。

塾の帰りに本屋に寄って、立ち読みに夢中になっていたらあっという間に外は真っ暗に。前に遅くなった時に変なナンパに捕まってめんどくさかったのを反省し、気をつけていたのにも関わらずまた捕まってしまったのだ。


「遊びません近づかないでください離れてください。」


イラついてぶっきらぼうに言ってしまったのが不味かったのか、目の前のナンパ野郎たちが明らかにいらついたのがわかった。


「何生意気言ってんだよっこっちがせっかく誘ってやってんのによーああん?」

「生意気野郎は躾してやんねーとなあ?」


無駄にでかい声を出して顔を近づける。今にも唾が飛んできそうで不快で、彼女は離れようとしたが腕を掴まれてしまった。しかもものすごく力強く握ってくるので痛い。


「痛い!ナンパすんのに女の扱い方も知らないの!?」

「うっせーなぁ。いいんだよ躾するんだからよぉ。」


振りほどこうにも、力の差は歴然。全く振りほどける気配がない。ナンパ野郎は正に卑劣を体現した顔で全身を舐めまわすように見ている。気持ちが悪い。


「な、なにをしてりゅんだっ!」


そんな緊迫した場面で聞こえてきたのは、男にしてはやや甲高い、震える声。しかも噛んでいる。聞き覚えのある声に、彼女は嫌な予感がした。ナンパ野郎も怪訝そうな顔で振り返った。

そこには、学生服を着た男子高校生がいた。高校生と言っても侮るなかれ。身長は高く体格はがっしり。まさに筋骨隆々と言う言葉がしっくりくるほど。顔は強面でまさに顔面凶器。この場で登場するヒーローに相応しい人、ではなかった。むしろ逆だった。身長は高くなく平均身長以下。身体は薄っぺらくひょろひょろ。色白の肌がさらにその貧弱さを増長している。顔もよく言えば人が良さそうな、悪く言えば弱々しくヘタレという言葉がしっくりくる。言うなればもやしのような、実際彼は周りからもやしと呼ばれていた。


「にゃにを、していりゅんでぇっ!」


何故か再び同じ言葉を繰り返し、しかもさっきより噛んでいる。もやしの姿を見たナンパ野郎は鼻で笑って、もやしを無視した。ナンパ野郎は無視したが、もう一人は無視をしなかった。


「何をやってるのもやし!あんたは役に立たないんだから逃げなさい!」


ナンパされている張本人だった。彼女はもやしと顔見知りで、彼のことをもやしと呼ぶ一人である。


「なっ……もやしでも、僕は男なんだ!困っているクラスメイトがいたらほっとけないに決まってる!」

「もやしがなに言ってんのよ!あんたが居ても怪我するだけなんだから早く逃げてよ!」

「うううるさい!助けるんだ!」

「何回いったらわかるのよもやし!あんたに怪我してほしくないのよ!」

「そそそんなの僕もだ!好きな子に怪我してほしくないっ……あっ!」

「え……。」


流れるのはちょっと甘酸っぱい雰囲気。まさに青春。

しかし残念なことにその場に居るのは二人だけではなかった。蚊帳の外で青春劇を目の前で見せつけられたナンパ野郎らは大変憤っていた。


「ふざけんなよぉ!何甘酸っぱい青春してるんだごらぁ!」

「男子校出身の俺らへのあてつけかごらぁ!」


彼らは灰色の青春時代を思い出し、益々怒りを大きくさせていた。彼女の腕を掴んでいないナンパ野郎の片割れが、それまで無視していたもやしの方へと向かう。呆けていたもやしはそれに気がつくと、ファイティングポーズをする。が、それはどこからどうみても隙だらけでへっぴり越しで、指一本で簡単に倒せそうであった。自分より弱いものが好きなナンパ野郎は、それはもう意気揚揚ともやしへと近づき、思い切り振りかぶった。


「おい、そこで何してる!あっやっぱりまたお前らか!懲りぬやつだな!」

「げっ警察かよくそっ」

「ちっ逃げるぞ!」


そこに来たのは近くの交番に居る警官だった。偶々通りかかった人が騒ぎに気付き、呼びに行っていたのだ。もやしのファイティングポーズは何の役にも立たずに終わった。しかしそんな不格好で見ようによっては恥ずかしいポーズを取っていたことなど全く気にもせず(気付いておらす)、もやしは彼女の元へ駆け寄った。彼女はあっという間のナンパ野郎の幕引きに暫し呆然としていたが、もやしが近づくと安堵したのか腰が抜けたように座り込んでしまった。


「ああ大丈夫?どこか怪我してない?」

「もやし……」


普段情けなくて頼りなくて男らしさの欠片もないもやしが、とてもかっこよく見えてしまっていた。さっきまでの恐怖も思い出し、感極まってもやしに抱きつく。


「こわっ、かったぁ……」

「うん、もう大丈夫だよ。警察が来てくれたからね。」

「もやしぃ……ふえぇ」

「うぐっ、ちょ、つよ、い」


女の子の抱きつく力など、ナンパ野郎の腕力と比べたら全くたいしたことがないのだが、流石もやしと言うべきだろう。そのまま気を失ってしまった。

その後、警官に保護された二人。彼女は腕を強く握られはしたものの、怪我もなく警官に付き添われて帰宅。もやしは目覚めるまで交番で横になり、目が覚めると心配だと言う警官に付き添われて帰宅したのだった。




***


翌日。もやしがいつも通り登校し、クラスメイトらに挨拶をしながら自分の席に着くと、目の前に誰かが立った。案の定昨日もやしが救った(?)彼女だった。

彼女は俯いて、全身をプルプルと震わせている。座っているもやしからはその顔が真っ赤になっているのがわかった。もやしもそれを見て色白の肌をそれはもう見事な真っ赤に染めた。そんな2人の只ならぬ雰囲気に気付き始めたクラスメイト達が二人に注目し、ざわついていた教室が静寂に包まれた。しかし完全に二人の世界な彼らは全く気付いていない。お互いのことしか見えていない。

最初に口火を切ったのはもやしだった。


「ああああのっ」

「もやしっ!」

「はいっ」


あっさりと遮られるもやしだがそんなことは日常茶飯事なので全く気にしない。


「き、きのう、は、」

「は、い」


静寂に包まれていた教室が僅かにざわつく。

「昨日って何かあったっけ?」「一体二人に何があったんだ!?」「嘘だろまさかツンデレ姫陥落!?お互い意識しながらも素直になれず結局卒業後進路がバラバラでそのまま自然消滅に賭けてたのに!」「あんた人の恋模様に賭けてたの?最悪―」「そうだそうだ」「おいっ何お前素知らぬ顔で非難してるんだよ!お前から言い出したのに!」

傍から見たらバレバレだった二人の動向をクラスメイトは温かい目で見守っていた。勿論それに二人は気付いていない。


「き、の、う、」

「……。」


俯いてぷるぷる震える彼女ことツンデレ姫と、落ち着きなくきょろきょろと目をめぐらせているもやしと、それを見守るクラスメイト。と、その異様な光景を不審そうに見る廊下にいる他クラスの生徒。


緊張感溢れるその雰囲気を断ち切ったのは、ツンデレ姫だった。


「もやしのくせによくやったじゃないっ!褒めてあげるわ!」


そう、勢い良く言ったツンデレ姫は、後ろ手に隠していた物をそれはもう勢い良く渡した。否、投げた。

ツンデレ姫の投げた物は勢い良くもやしの顔面にクリティカルヒット。それは結構大きく、重かったために鈍い音を立てた。勿論、もやしは意識を失って、のけぞったまま動かない。それに気付かないツンデレ姫は走って教室を出てしまった。

ツンデレ姫の走り去っていく足音が遠のいてすぐ、教室はそれまでの静けさが嘘のように盛り上がった。


「お、おいっ何でっいつの間にっ進展しているんだよっ昨日一体何があったんだよっ」

「どうなんだよもやし!ってまた意識失ってるじゃんか!馬鹿もやし!」

「えー何これ。姫が投げったのって、これお弁当箱じゃないの?」

「まじ?あの子料理うまいもんねーきっと今日めちゃくちゃ早起きして作ったんだよー」

「ツンデレ姫のお手製お弁当……」

「羨ましい……」

「……もやし、これがお弁当だって気付いてないよな。」

「ちょっと、姫の思いも踏みにじることになるんだからね!止めてよ!」

「くそぉー何でもやしなんだよぉーひめえぇーもやしはいい奴だけどさぁーもやしじゃんかよぉぉー」


盛り上がりは衰えることなく、チャイムが鳴ってもそれは変わらなかった。


「お前らいつまで騒いでいるんだ。さっさと席に着けよ。あ?何だ、もやし。また姫にやられたのか?」

「せんせーい。姫がもやしを倒してから戻ってきていませーん。」

「またどっか隅っこで縮こまってるんだろ。誰か女子、連れ戻して来い。」

「はーい。」

「おい、何でそんな大所帯で行くんだ。一人で十分だ。」

「先生!もやし君が気を失っているので、保健室に行った方が良いと思います僕が連れていきます!」

「サボる理由にもやしを使うな。いつものことだ、すぐ起きる。」

「えー。」

「返事ははい(・・)だ。……じゃあHR始めるぞ。」





もやしと姫。パッと見不釣り合いな二人。だけど、愉快な仲間たちに見守られたとってもお似合いの二人なのでした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ