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空土 海

×××

「今日の講義はメタフィクションについてだ」

 突然始まったのは漫画研究会での講義だ。漫研なのに小説組があって、講義や製本など予想以上にマジメに活動しているサークルだった。もっとふわふわしていると思ったのに……。

「おい、秀森! ちゃんと起きているか?」

 教室を借りての活動、俺は机に突っ伏している。どうもこの先輩は苦手だ。いつもテンション高いし。

「起きていますよ」

「おお! そうか」 

「で、今日はなんですか」

「メタフィクションについてだ。今書いているものにちょうど使っているからな」

 実益も兼ねているらしい。今日は先輩と二人だから余計めんどうだ。

「では説明に入るが、メタフィクションとは」

「ウィキからとかはなしでお願いします」

 突然のなにを言いだしているのか。毎度のことすぎて呆れが表情にまで出ていることだろう。

「なにを言っている。この物語はフィクションであり、実在の人物・団体など一切関係ないのだぞ」

「まさにその反応。読者や筆者が登場など『物語』としてはあり得ないことを表現することだ」

「はぁ? 何をいっているんですか?」

「まあいい、そこいらのモブには知覚できない現象だ」

 またテンションが振り切っておかしなところにでもいってしまったのか。なんていうか言動が痛い人ってこういう人のことだろう。

「秀森はまだまだ入部したてで知識が浅いからな具体例で示そう」

「……お願いします」

 とりあえず早く終わってくれないかな。先輩はしゃべりだすと長いから。

「表現で私が覚えているのは」


◆◇◆


「俺の名前は秀森。ピッカピッカの一年生。漫画研究会に入ったのは友達に誘われたからだったんだけど……」

「おい、秀森じゃないか」

 後ろから突然かけられた声に振り返ると。

「あ、先輩。おはようございまーす」

「ああ」

 手を上げて、挨拶を交わす先には長身の人が立っていた。

「この人は漫研の先輩でとても頼りになる人なんだ」

「……誰に話しかけているんだ?」

「いや、説明しといたほうがいいかな~と」


◆◇◆


「こんな感じのとかだな」

「……」

 満足げに胸を張るこの人を見ているときは、呆れとため息が出ている気がする。

「いや、誰ですか? 同じ名前使わないでくださいよ」

「何をいっている。私とおまえそのままじゃないか」

「……俺あんな風に見られているんですか」

「バッチリだろ」

久しぶりにキレそう……落ち着け、いつものことだ。冷静になれ秀森。

「そうですか、でも長身とかおかしいですよね。背は俺と同じくらいだし」

「……よし次の例いくか」

「おい」


◆◇◆


「おい、カラド。なんで俺の扱いがひどいんだ?」

 胸倉をつかみ上げられ宙ぶらりんの著者ことカラドは、秀森にシメられていた。

「そんなこと言われてもね、読者も突然で驚いているぞ」

「あぁ!!!」

 鬼の形相の秀森はさらにカラドを高々と持ち上げていく。

「冷静になれ、秀森」

 突然現れた先輩は……

「うるせ!」

「ごふ」

 秀森の拳による腹部への一撃で地面に倒れ伏した。そのかわりカラドは自由を手にした。

「計画通り。では視点を本編へお返しします」

「あ、待てコラ」

 著者によって召喚された先輩を生贄に、解放されたカラドは無事生還した。


◆◇◆


「なんですか、これ……」

「ほら漫画のおまけページとかに作者とキャラの絡みがあるだろ」

「そうじゃなくて、これは俺ですか?」

「もちろん」

 ああ、例のように一度くらい暴れてみたい。そもそもカラドって誰だよ。

「どうしたなんだか疲れている顔をしているぞ」

 誰のせいだと思っているんだ。本当に疲れてきた、やっぱり全部反応していたらダメだな。早く終わらせよう。

「今日の講義はこれで終わりですか」

「そうだな、説明はこれくらいで大丈夫か?」

「はい」

「よし、じゃあ実践だ」

「はい……わかりました」

 諦めるしかないな、人の話最後まで聞かないし。最後まで頑張ろう……

「よし、制限時間は三〇分、四ページほど。スタート!」

「ええ!? ちょっと待ってくださいよ」

 えと、メタフィクションは『物語』でありえないことだから。そうだな……


~三十分後~


「終了だ。終わったか?」

「ええっと、やりることは決まったんですが」

「まだ終わってないと」

「はい」

 慣れてないといきなりはきつい。これからもこんな感じの講義内容になるのかな。

「やることとは?」

「一人称の描写に著者が割り込んでくるのはどうですか」

「ほうほう、しかし終わってないなら宿題だな」

 課題とかあって時間ないんだけど、どうするか。できるかな。

(秀森おまえならできるんじゃないか?)

 は、どこからともなく声がする。周りには俺と先輩しかいないだろ。

「どうした、キョロキョロして」

「え? いや声がしたなと」

「……何言ってんだ? 大丈夫か」

 ……この人に心配されるなんて。

(まあ、落ち着け)

 また声がする。だけど先輩は聞こえてない風だし、これは……

(落ち着いたか? 我は著者だ。お前にすごい設定でも付け加えてやろうかと思ってきたのだ)

 いけない。また変な声がする。まさか……先輩の何かがうつったのか? お、俺も中二とか痛い人に。

(おい――

「先輩、もう帰っていいですか?」

「ああいいが、どうしたそんな真剣そうに」

「ではこれで失礼します」

 今日は早く寝よう、そうすればきっと大丈夫。

(ああ、行ってしまった。まったく話を聞かないで……もっと悲惨なことでも起こしてやるか)


×××


「私は次の小説でこのような今までやったことのない、一人称でメタフィクションを思いっきり使ったやつでいこうかと思っているのですが。どうですか、秀森さん」

「なんかネット小説みたいだな、てかこれは俺なのか?」

 私は体格の良い先輩に鋭い視線で捉えられた。なにせこの人に恨みがあるわけでも、恐怖心があるわけでもない。なので、もちろん答えた。

「この物語はフィクションであり、実在の人物・団体など一切関係ありませ――」

ここから先は覚えていない。


メタフィクションを使いたいと思って全面に押し出した結果……変なのができました。

ちなみにタイトルは本編の記号を見ればわかると思います。

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