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誰も座らない椅子
空白 空虚 ないという事実だけがある空間
かつてその椅子に座っていた人がいたのだと それだけは知っている
けれどその人がどこにいるのか
ぼくにはもう分からない
からっぽ からっぽ そんな椅子は笑っているようだ
かつてその椅子に座っていた人は 優しそうなふりをしていたけれど
見つめるこの人にはちっとも
優しくなんかなかったから
残像 残滓 思い出しても笑えるあの記憶
かつてあの椅子に座ってはいたものの とうとう気づかれなかった
今日もどこかであの人は
思い出見つめているのだろう
誰も座らない椅子
誰も座らせない椅子
誰も座りたくない椅子
それはずっとそこにある。