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異世界の愚か『もの』 ~世界よ変われ~  作者: ahahaha
初めての異世界 ~楽しき満たされぬ日々~
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8話 交渉成立

お気に入り登録が少しづつですが増えていてうれしい限りです。

さらに文章評価までして下さる人がいらっしゃるとはありがとうございます。

感想ありましたらご投稿ください。

励みになります。

今回から予告通り零の一人称です。

これからもよろしくお願いします。

「は?

 え、ちょ、さ、さっきまでの流れは何だったんだ!?」


「と、取引・・・ですか?

 取引って、あの取引です、よね?」


「い、一体何を言っているのですかあなたは!?」


「え、えと。

 あの・・・その・・・なんでもないです・・・」


予想通り皆いい具合に混乱してくれたようだ。

さっきまでの怖がり、暗くなっていた様子が嘘のように皆騒ぎ出した。


「はいはい皆落ち着けって。

 レオンはちゃんと座りなさい。

 クルス、取引という言葉がそれ以外にあるというなら是非教えてくれ。

 エルス、それって主人に対する言葉づかいじゃないよな?

 ルル、思ったことはちゃんと最後まで言おうな。」


さっきまでとは打って変わって微笑みすら浮かべ諭す。

俺がさっきまで取っていた態度はこの状況をつくるための布石。

人は結果が同じでも、落差がより激しかった時の方が喜びが増す傾向がある。

例えば、テストで50点から100点になるよりも、0点から100点になった時の方が嬉しいのと同じこと。

何を話すにしても、敵意や警戒心をどうにかしなくては話が上手く進まない。

だから俺はわざと責めるような物言いをしたあと、彼らが望んでいた、取引をこちらから持ちかけたのだ。

・・・まあ責めたのはレオンの馬鹿な発言にイラついたのもあったのだが。

そして結果はこの通り。

硬さが取れ、思い思いの言葉を話すようになった。

一度こうなってしまえばもう話すことに気後れを感じることもないだろう。


「いや、だって近い立場じゃないと取引は成―――」


「それは取引を持ちかける側が低い立場の時の話だ。

 持ちかける側が高い立場の時は当てはまらん。

 今この状況で話を持ちかけているのは、君らの主人である俺だ。

 何か問題があるか?」


このレオンの問いは予想済みだったので、皆まで言う前に切って捨てる。

彼らはそれを聞いて唖然とし納得はしたようだが、あまりに急に状況が変わり過ぎたためかまだ混乱しているようだ。

なので落ち着くまで待つことにする。

ここで一気に畳み掛けて不公平な取引をするという手もあったが、そんなのは嫌いだし、今から持ちかける取引は間違いなく成立する自身が有ったので、混乱されていてはただ会話が成り立たなくなり面倒なだけだ。


「それで、どんな取引なんです?」


一番早く立ち直ったエルスが警戒心を露わに尋ねる。

まあ、不平等な取引を警戒するのは当然だな。


「まあ、そう警戒するな。

 そっちが一方的に被害を被るようなものじゃないからさ。

 世の中はギブアンドテイク、そちらが果たしてくれればちゃんと相応の見返りを用意するよ。」


「ぎぶあんどてーく、ですか・・・?」


「ん?

 ああこれは通じないのか。

 他の言葉で表すなら・・・御恩と奉公か?

 いや、これも通じ―――」


「ああなるほど!

 大体分かりました。」


「なんで通じるんだよ、鎌倉時代の言葉だぞ!?」


クルスの疑問に答えようとしたら逆に驚かされた。

横文字通じなかったのにこれは通じるのかよ、翻訳機能テキトウ過ぎだろ・・・

気を取り直して話を進める。


「取引は2つ。

 1つ目はこちらはそちらの社会的な安全を保障する。

 そしてそれに対する見返りとして、君らは自身が持つあらゆる情報を提供すること。」


「?

 あの、おっしゃっている意味が、よく分からないのですが・・・」


ルルが相変わらずのおどおどした様子で聞いてきた。

そりゃあな。

むしろこれだけで察せたら驚きだよ。


「さっきの会話で君らは自分たちが身の処し方が下手だと自覚しただろ?

 しかし、それは直ぐに覚えられるようなものではない。

 だから、身に付くまでの間俺が君らの手伝いをしようというわけだ。

 俺が少なくとも君らよりそういったことが得意なのは分かってるはずだ。

 悪い提案じゃないだろう?」


いや、悪い提案どころではなくまさに渡りに船だろうな。

このままではいずれまた騙されるのは目に見えてる。

それを助けてもらえるって言うんだから。

彼らはそのことを理解すると驚きと困惑を浮かべる。


「こちらとしては願ったり叶ったりな提案だが、お前の見返りが少なすぎないか?

 俺たちは元貴族と言えども、所詮は家を継ぐこともなかったような連中だ。

 正直な話、平民よりはかなりましという程度の知識しかないぞ?」


「ふふふ。

 それでいいんだよ。

 俺が知りたいのは、流通貨幣や法律、制度などの一連の一般常識。

 そして貴族の人間なら少しは知ってるであろう世界情勢と各国のパワーバランスについてだからな。」


なんだか楽しいな。

思わず笑みが零れてしまう。

やはり、人との触れ合いというのはいいものだ。

・・・クズでなければ、な。

皆何故そんなことを知りたいのか気になるのだろう、疑問顔を浮かべる。

ただし、そこに警戒心は無く、単純な好奇心からの反応だ。

それに対して正直に答える。


「俺は今日あの森から出てきたばかりでね、常識を、なにも知らないんだ。」


「・・・はあああぁぁぁ!!??」


自嘲しながら言うと絶叫で返された。









呆ける、もしくは何言ってんだこいつは?と言った目で見られるという反応は予想していたが、この反応は何なんだ?

今の言葉にそこまでのものがあったのだろうか。


「あの森というのは、先ほどあった「魔の森」で合ってるんでしょうか?

 いえ、ありえないとは思うのですが、僕はそれ以外思いつくものがありませんので・・・」


「あの場所に複数の森が存在していないというならそれだろ。

 しかし「魔の森」とは御大層な名前だな。

 さらに言えば、あの森にいたのは半年、いや6か月間で、それまでのことは覚えていないというおまけ付きだ。」


「は、半年・・・?

 「魔の森」で、半年・・・そんなことが・・・」


クルスの反応がおかしかったので、少しふざけて答えるがそれに対する反応はなかった。

・・・冗談に対する反応が無いって、思ったより恥ずかしいものだな。

それに暦が違うかと思い、わざわざ言い換えた意味もなかったようだ。


「・・・そこまで動揺するような要素があの森にはあるのか?」


若干不機嫌になり、憮然としながら聞く。

それに応えたのは意外なことにルルだった。


「あの森は世界でも6か所しかない「危険域」に指定されてるんです。

 中に入れるのは一応Bランクからの冒険者となっていますが、実際は少なくともAランク相当の力がなければ生きて帰るのが不可能と言われています。

 冒険者というのは、魔獣討伐を生業とする人たちの総称ですよ。

 魔獣の討伐のために世界中を渡り歩く人という意味でそう呼ばれています。

 もっとも今は1つの街に定住する人も多いですが。」


いきなり饒舌になったルルに少々面食らいながらも、新たな疑問を聞く。


「その理論でいうと俺はAランクということか。

 それはどのくらいの強さか目安はあるか?

 それと何故いきなりそんなに饒舌になる、俺のこと怖いんだろ?」


「ただあなたが酷い人でないとわかったからですよ。

 ランクはCランクで一流の冒険者、Bランクで一国の騎士団長クラスで、Aランクともなると魔獣の最強種である竜の下級種と単独で戦える程だと言われています。」

 

笑顔でそう説明してくれる。

だが、俺はその笑顔に凍り付いてしまい話を最後まで聞いていなかった。




―――似ていたのだ あいつに

―――『あの事件』で失った 大切なものに





「おい・・・

 どうした、大丈夫か?」


その声で我に返るとレオンが俺の肩を掴みこちらを見ていた。

他の皆もまた見ている。


「何でもない・・・」


「いや、そんなわけが―」


「何でもない!

 そう言っているんだ!!」


我ながら多少ヒステリックになっていると自覚している。

それでも心の整理がなかなかつかずこんな醜態を晒してしまった。

目を瞑り、彼らの視線から逃れるために右手を顔に当てひたすら黙る、己の心を縛り上げる為に。

落ち着き、目を開けるとそこには戸惑った様子の彼らが。

だが、その視線には少しだが、確かに俺を心配する念が含まれていた。


(何故心配するんだ?

 まだ助かると決まったわけでもないんだ。

 敵意を向け、警戒するのが正しい反応なのに・・・)


そう疑問に思うが、その念に救われる思いのする自分がいることを自覚する。


「それで2つ目の取引だが、こちらは君らを奴隷から解放する。」


このままではまともな思考ができなくなりそうなので、さっさと取引を済ませよう。

この言葉の意味に、自分たちが最も望んでいるものに、彼らは抑えきれない喜色を浮かべた。

要求に対する警戒を露わにしてはいるが、その喜びは隠せていない。

そんな4人の前に、解放する証拠としてはめられている枷の鍵をそれぞれ置いていく。


「こちらの要求を呑むまえに触れば殺す。」


思わず手を伸ばそうとしたので釘を刺すのも忘れずに。

そして、俺の要求はこれだ。


「君らは俺の従者になってくれ。」


「・・・・・・」


要求に対して反応が無かった。

何故だ?と思っていると、


「え?

 それだけですか(なのか)?」


一斉に、盛大に拍子抜けしたといった様子で聞いてきた。


「それだけって、もと貴族なんだろ。

 なら自分が従者になるのは嫌だと考えるのが普通ではないのか?」


いきなりそれまでと立場が逆転して自分が尽くす側に回るのだから、嫌なはずだと考えていた俺は不思議に思い尋ねる。


「私、いえ、私たちはてっきり慰み者になれと要求されると思っていましたので・・・

 ねえ、ルル?」


顔を赤らめながらエルスはそう言い、ルルもまた顔を赤くして俯き、首肯する。


「俺たちは男娼にでもなって稼いで来いと言われると思っていたからな。

 なあ?」


こちらの連中も同じような意見だったようだ。


「君ら、俺をなんだと思ってるんだ?」


思わず聞いてしまうと返ってきた答えは、


「冷酷非道な殺人狂です(だな)。」


「・・・うん。

 まったく否定できないな。」


至極納得できるものだった。

しかし認めたくないと思うのは人の業だろうか・・・

あとでちょっと意趣返ししておこう。


「それに、これらの取引であれば私たちはあなたに救われ、返しきれない程大きな御恩を背負うことになります。

 それを返せるのだと思えば、まったく苦になりませんよ。

 記憶がないとか常識がないとか、たくさんの疑惑は残りますが些細なことです。」


エルスがそう言い、皆が当然だとばかりに頷く。

そんなものなのか?


「じゃ、交渉は成立ということで。

 文句はないな?」


「はいっ!」




そうして俺は旅のお供を得た










「ところでエルスにルル。」


「何でしょう?」


「何ですか?」


「さっきの取引でどんな情報も開示するようにといったのは覚えてるな?」


「はい。」


頷く2人。


「じゃあちょっと聞きたいんだが・・・」


2人の耳元で囁く。

すると、


「ええっっ/// !!??」


「っっっっ//// !!??」


2人とも顔を真っ赤に染める。


「どうした?

 もう約束を破るつもりかな。

 元貴族の誇りは約束を破るのをよしとするのか?」


ものすごく楽しそうな表情を浮かべ詰め寄る。

実際とても楽しい。


「え、え~と。

 そういうわけでは・・・////」


「は、はい。

 お望みであれば、お、お、お話、します・・・////」


もういつ茹だって倒れてもおかしくないその様子を見て俺は気がすんだ。


「くっくっく・・・

 冗談冗談大丈夫だよ。

 さっき殺人狂なんて言われたから少し腹が立ってね。

 さあ、出発しよう。

 馬車に乗ってくれ。」


宥めるように2人の頭を撫でた後、俺は馬車に向かう。

最後撫でた時、いっそう2人が赤くなった気がしたが・・・気にしないことにした。



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