74話 その裏で彼はほくそ笑む
燃えていた。
すべてが燃えていた。
つい昨日まで、居ることすら不快に感じていたはずの場所。
だが、絶対の力を持っていると考え、いやいやながら所属している場所。
そんなものは、まやかしだと。この瞬間に思い知らされた。
今日の収穫を大声で騒ぎ立て、いつも通り、地下の『お楽しみ』を誰から回すかに下卑た花を咲かせる。
最近は同業者が減ってきたのをいいことに、調子づいてこれまでよりも精力的に活動をするようになったことでその会話にも熱が籠る。
先日も、近くで縄張り争いを繰り返していた勢力が謎の失踪を遂げた。
何度も煮え湯を呑まされた勢力の突然の没落に、連中の高揚は最高潮と言っても良かった。
それをいつも通り、なるべく関わりにならないように、それでいて最大の収穫を得られるように存在感を示す。
とはいえ他の者と違って、過程で死者を出さないよう努め、そしてその『楽しみ』に決して加わらないようにしていることから周囲と壁を作っている彼には、難しい話だが。
そんな、日常と化してしまった光景。今すぐ壊れてしまえと願い、それでは金が得られないと嘆く日々。
そんな常識が、塗り替えられるのは一瞬だった。
にこやかな笑みを湛えて、男が一人で正面から乗り込んできた。
手足の口が広い独特な衣装に身を包み、頭部を巻布で覆った男。
突然の事態に場が疑問符に包まれる中、男はまるで旧知の友と再会したかのような、あまりに気軽な様子で口を開いた。
『こんにちは。そして―――さようなら』
唐突で、全く意味の分からない宣言。
だがその笑みに、なぜかうすら寒さを覚えた。
突然のことに呆気にとられていた他の連中の顔を殴りたい衝動に駆られるも、彼はなんとなく武装を解く気にならなかったのでまだ腰に差していた剣に手をかけた。
そしてそれを抜こうと思うよりも早く。
すべて、すべて、すべて。
突然現れた、紅い異形に、潰された。
巨大な腕。
人一人程度、一振りで粉微塵にできるような拳が、頭上から、天井を突き破り、降ってきた。
それは馬鹿騒ぎをしていた一角に直撃し、文字通り『潰した』。
飛び散る紅い液体と血腥い固形物を、現実味の伴わない頭が捉えた。
拳が戻り、また振ってくる。
決死の覚悟で立ち向かったものは、武器ごと背骨をへし折られた。
ならばと、それを操っているであろう男に立ち向かったものは、男の一定範囲に近づいた瞬間に、突然輪切りになった。
男はそれらを、冷めた目で眺める。
虐殺。
いや、それ以下。
屠殺。
ここに居る奴らすべてを、この男はただの『もの』としか捉えていない。
命を奪うという意識はなく、ただの作業を繰り返すのみ。
それを彼は理解させられた。
男の硝子玉よりも無機質な瞳に。嗜虐的に吊り上がる口許に。
そんな思考を繰る間も、腕は無情に振られ続けていた。
燭台を掠めたのか、火があちこちに燃え移り、次第に大きくなっていく。
そして、もはや生きている、いや、原形をとどめているものは、自分だけとなっていた。
現実に意識が追いつく。
赤い火の中を、それよりも尚紅い異形を引き連れ、男が歩いてくる。
抵抗する気概すら萎えた。
自分ではどうしようもない隔たりが、目の前の男と彼にはある。
物理的にも。そして、精神的にも。
一つの単語が彼の脳裏をよぎる。
―――『悪魔』。
もしそういう存在がいるとすれば、それはきっと、目の前の男のような存在なのだ。
これほどまでに、常識からかけ離れてしまった存在は。
死を覚悟する彼の前で―――しかし、男は首を傾げる。
「おや。どうして貴方はここにいるのですか?」
それを聞いたとき、思わず彼は辺りを見渡してしまった。
「貴方ですよ。私の前でいまキョロキョロ必死に回りを探ってる」
彼の行為が可笑しかったのか、男は笑みを浮かべて口許を隠す。
その顔は稚気にあふれ、先ほどまでの冷え切ったものとあまりにかけ離れていた。
「帰るならあっちだよ。新月だから明かりはないが、壁に空いた穴から真っ直ぐ突き進めば大通りにたどり着く。そうすればなんとかなるだろう」
男が指さした先には、いつの間にか人が通れるくらいの穴が空いていた。
「……どうして、殺さない」
掠れる声で、やっとそれだけが出た。
どうして、ここまでの惨劇を生み出しておきながら今更見逃すのか。
「『人間』を無駄に殺す趣味はないんですよ」
「ここまでやっておいてか?」
この惨状を生み出しておきながら、その気がないと言われても説得力が全くない。
彼が反論すると、男は虚を突かれたような顔をし、次いで嗤う。
「へえ。貴方には、『あれら』が『人間』に見えるのか」
凍える笑み。
威圧感も怒気もない。
なのに、彼の背筋に寒気が走る。
「ああ、そうだ。それで、どうして貴方はここに居るのですか?」
思い出した、と言うように再度訪ねてくる男。
彼は、それに抗う気も沸かず、回りの火の手がまだ余裕があることを確認し、話す。
「……病の家族を助けるのに金が要る。それだけだ」
それが、彼が望まずこんな集団に埋もれていた理由。
寝込んでいる妹を治療するのに、高価な薬が必要だった。
その額、金貨二枚。平民の年収を優に超える。
そんな額を、真っ当に稼ごうと思えば、それまでにまだ幼い彼女は天に召されるだろう。
だから、このような集団に身をやつし、他の人間を食い物にしてでも、金を稼いだ。それが許されないことだと知りながら。
「そうか。これだけあれば足りるかな」
自己嫌悪に陥る彼の前に、光を放つものが落とされる。
「もう壊れてしまった奴らのものだ。好きに持っていくといい」
それは金貨。
少しだけ血が付着しているところが、それがどういったものだったのかよくわかる。
それが五枚。薬代を補って余りある。
「あとこれも持って行きたまえよ。風邪に効く丸薬。熱冷まし用の湿布。必須栄養素を固めた粉薬。眠れないときのための睡眠薬。外傷用と疾病用の痛みどめだ。まあ、これだけあれば看病も楽になるだろう」
そしてその上に、手作り感のある薬品の数々が降ってくる。
目を丸くし、彼はそれを見つめる。
「本物か心配かもしれないが、別に貴方に嘘をつく必要もないさ。心配なら捨ててしまえばいい」
彼の懸念まで先回りで潰し、男はさっさと歩き去ってしまう。
「ちょっと待て! どうして―――」
「早く帰りなさいな。この建物は間もなく跡形もなくなる。地下の彼らを解放したら、直ぐに」
どうしてこんなことを。その問いすら男はさせてくれない。
「家族は大切にね。お兄さん。失ってからでは遅いよ」
遠目からでも分かるほどの返り血に塗れ、赤く焔の灯に照らされる。
巻布により隠された顔の中で、一際強く輝く黒い瞳が印象的だった。
彼はまるで夢を見ていたような心地で彷徨いながら、家へと帰りついた。
途中で後ろから轟音が聞こえたのすら、現実味が伴わない。
もし、懐にある薬の数々が無ければ、夢だと信じられたのだが。
次の日、彼は大急ぎで薬を購入し、それを妹へ飲ませた。
そして数日後、無事快復。元通りの元気な騒がしい姿を取り戻した。
途中、彼女の弱っていた身体が熱にかかり、生死を彷徨うこととなったが、藁にも縋る思いで恐る恐る飲ませた、あの風邪薬が凄まじい効き目を発揮、何とか一命をとりとめた。それからは早かった。これまでどこか信じられなかったその薬の数々を信用し、積極的に用いていけば、あっという間に完治した。
彼は後に、快復した妹へ語った。
お前を助けてくれたのは『いい悪魔』だ。と。
悪魔に善いも悪いもあるのかと尋ねる彼女に、男は困ったような笑みを浮かべる。
『……『善』と『悪』ってなんなんだろうな』
その独白は、終生まで彼らの生きる標となる。
後に、男は孤児院を開設。
敵国の孤児であっても、たとえ親が殺し合ったもの同士であっても分け隔てなく手を差し伸べたその方針は、有象無象の敵意や非難に晒されることとなったが、彼はさきの言葉を糧に乗り越えていった。
それは、自身が犯した過去への誤魔化しか。それとも『悪魔』に対する憧憬か。
それは男にも分からなかった。
男が老衰で死を迎えるまで、その隣には孤児たちの母として在った妹の姿があった。
そして、彼がどれほど望もうと、再び『いい悪魔』に出会うことはなかった。
◆◇◆◇
「―――で、どうだ」
「被害甚大也。以上」
「そうか。実に分かりやすい結論だ。さて、では次の案件だが―――」
「いや、それで終わらないで下さい。全く意味が分かりません」
半眼で睨んでくるオルハウストの目から顔を逸らし、執務机の背もたれに寄りかかる。
確かに自分で言っておいてこれはないとガイアスも思ったが、あいにくそれ以外に言いようがないのだ。
「仕方ねえだろ。あの闘技場がどれだけの費用をかけて建設したのかの具体的な資料なんざ残ってねえし、あれだけの規模の施設を再建しようとしても今のこの時期にそれを検算する暇すら惜しい。それに、あれは国の目玉の一つだったからな。経済効果の観点からも、その被害額は想像すらできやしない。しかもそれをやったのが個人だってのがな……。正直に公表しても誰も信じねえぞこれ」
溜息を吐きながらザルツが補足を加える。
その手のことに普段興味を示さないこの男にしても、耳の痛い話題なのだろう。
あの闘技場は国の黎明期から存在し、そして〈デルト王国〉という国の武の象徴の一つだった。
そのため、国民の一種の聖地のような存在であり、他国からの観光客も少なからず来訪し、それなりの収益を得ていたのだ。
それがなくなるということなど、誰も考えなかったし、その上、あれだけ巨大で頑健なものがが一個人に『壊された』など悪い冗談にもほどがある。
このまま事実を公表したところで、『ふざけるな』『どうやったらそんなことができるんだ』と非難される様子が目に浮かぶ。
正直、この場に居る誰もが声を大にしたい。
『レイだから仕方がない』と。
とはいえ、そんなことを国民に言って納得されるはずもなく、だが、何らかの理由が無くては国民の不安と不満が燻るばかり。
「大聖堂の次は、闘技場か。あいつが次に壊すのはなんだろうな。この城か?」
「壊されたら困るんですよ。これ以上されたら国庫を空にしても賄いきれませんよ」
行き処のないやるせなさをガイアスが冗談めかして言うと、オルハウストは頭が痛そうに溜息を吐く。
それに対してガイアスは先まであった難しい顔を変え、苦笑を浮かべる。
「まあ、大丈夫なのだがな。幸いというべきか、その辺のこともあいつはしっかりしていたようだ」
「どういうことだ」
首を傾げる三人から代表して、ガルディオルが尋ねる。
「一週間前、あの戦いが終わった翌日当たりにだが、あいつから連絡があった。そしてこれを渡された」
机の中から書類の束を取り出し、それを広げる。
それは彼が、あの一件の後の明け方、やけに煤けた様子の令から受け取ったもの。
『王都内における建築物の耐久調査、および老朽進度の調査報告書』と銘打たれたそれは、簡単に言えば王都の建物がどれだけ脆いかを極めて分かりやすく、それでいて容赦なく纏め上げていた。
それによると、王都内部の弐割の民家が今後二〇年以内に建て直しが。そして一割の建物が即時打ち壊しを求められていた。そして、行政や練兵に関わる国営施設に至っては、それらが合わせて五割にも昇っていた。
特に、あの闘技場については即時の破壊が適当とある。
見た目には異常はなく、頑健そうに見えるが、使われている石材に微細は罅割れなどの老朽化が目立ち、一か所でも崩れれば均衡が崩れ、急速に劣化が進行するとのこと。
「これは……」
オルハウストが絶句し、目を通していく毎に表情が険しくなっていく。
それに一通り目を通し、ガルディオルはガイアスに問う。
「で。どうだったのだ」
「どう、とは」
「お前がこの報告を受けて直ぐに俺たちに知らせなかったのは、その報告書の裏を取るためだろう。どうだったのだ」
「……それが、ひどく曖昧でな」
「何?」
言及を避ける言い方に、ガルディオルの顔の皺が深くなる。
「王都に存在する、現在動かすことができるすべての作業員と工作兵を派遣し、緊急に調査を進めさせた。その結果でた結果は、すべてにおいて『異常なし』だった」
「は? これが嘘だってのか?」
これだけ詳しく、そして真実味がある報告書が嘘だと聞いて、何より、あの男がそんな間違いを犯すとはどういうことかという意味を込めて、ザルツが頓狂な声を上げる。
ガイアスはそれを手で制する。
「だが、それはあくまで現段階の我々の基準で考えた場合での話だ。その報告書には新しい調査方法とその基準が設けてあるだろう。同時にそれを基にした場合についても調査させた」
「……結果は?」
半ば答えが予想できていたが、ザルツは尋ねる。
「完全に『真っ黒』だった。これに書いてある通りな」
指で机に返されていた書類を小突くガイアス。
しばらく沈黙が降りる。
「貴方は、どちらが正しいと思うのですか」
国の基準と、令の提言した基準。それのどちらが信憑性が置けるか。
あまりにも分かり切った問いを、オルハウストは投げかけた。
「あいつの方を支持しよう」
「そうですか。分かりました」
オルハウストはその一言で引き下がる。
そもそも、彼らの基準は、大分前に制定されたものであり、それに対し信憑性は決して高くない。今までそれで問題が生じなかったので、そのままにされていただけなのだ。
其処にきて、書類に明確な根拠と理由、が述べられた説得力のある新説を提示されれば、どちらを信じるかなど考えるまでもない。
だが、それでも『王』が良しというならば、黒でも白になり、虚構が真実となる。オルハウストの問いは、臣下としての本分を示したに過ぎない。
「闘技場はどうだったのだ」
「それに関しては分からん。あれだけ崩れていれば、調査することも難しい。〈レティエンス〉や〈エリュシオン〉ならば、それ用の工具を使って調査もできようが」
「つまり、我々にはあいつに反論する余地もある、というわけか」
「そうだな」
ガルディオルが機嫌悪そうに吐き捨てると、ガイアスは溜息を吐いた。
危険だという明確な証拠を示していない建物を、自身の一存で勝手に破壊した。
これは、明確な犯罪行為だ。
いくら調査して危険だとわかったとしても、それに許可を取らない限り、ただの公共物・文化物破壊に過ぎない。
しかし、先ほどの証拠を晒せば、令の立場は情状酌量の余地を取らせることは、彼らの権力ならば可能である。
これはつまり、誘っているのだ。
そして、その結果如何で、彼らと令の関係が決まる。
捕縛に動き、令を敵に回すか。
擁護に回り、令が差し出した手を取るか。
「何とも恐ろしいことだ」
ガイアスの呟きが、嫌に大きく響く。
彼の脳裏に、令のあの闘技場での言葉がよぎる。
『立派なものですね。さすがは戦士の国』
あれは、褒め言葉ではなく彼なりの皮肉だったのだろうか。
自分の国のことでありながら、その程度のことも分かっていないという嘲りなのか。
ガイアスは顔を伏せ、少しの後、上げた。
「あれだけ派手にぶち壊されては、結局は取り壊す羽目になったろう。そして、徹底的に崩された結果、その費用も浮いた。結果的には、あいつは国に利するように動いていたことになる。……そこにあることを信用するならばな」
「そうだな。で、信用すんのか。しないのか」
瞬間、ガイアスは答えに詰まる。
それでいいのかと再度自問し、そして答えを出す。
「信用する」
その言葉を、三人の臣下は無言の礼を以て答える。
その言葉が意味する、令への対応の道をも含め、肯定を示す。
以降、彼らは令と手を組むことになる。
ガイアスのフレイナの扱いからして、何をいまさらと言いたくもなるが、これで公私ともに、明確な協力体制をとることが正式に決まった。
それに渋面を示すもの。苦笑を返すもの。苦い顔を露わにするもの。それぞれ思うところは違うも、彼らは己が主君に肯定する。
「しかし、どうするのだ。国庫は多少の余裕はあるが、決して潤沢ではないぞ。闘技場の損害をどうやって補填する」
しかし、それが決まったところで目下の問題が収まったわけではない。
闘技場の建て直しにかかる費用を考えると、頭が痛くなる。
例の隠し財産を使うという手もあるが、それは最後の手段だ。確かに国民のものと言えばそうだが、それを壊したのが令となると話がややこしくなる。
令が発見した、大聖堂地下の隠し財産は、令自身が国民のためにのみ使えるように誘導してしまった。
その直ぐ後にこのようなことがあっては、令が財産を利用出来るように国民を誘導したようにとられてもおかしくない。実際、それに近いことでもあるのだから。
「……『大聖堂。闘技場。そんな犠牲が些細なことに思えるほどの贈り物をしてみせよう。楽しみにしていてください』、だそうだ」
それがだれの言葉なのか、誰も尋ねない。あまりにも分かり切っていること。
だが、つまりそのことについてもなんらかの考えがあるのだろう。
「あいつが何を考えているのかは知らん。だが、奴が為すというならそれに越したことはない。我々は、我々にできることをする」
ガイアスは眼光を鋭くする。
利用はしよう。
それについて、感謝も、礼もしよう。
だが、それに依存してはならない。
ただ一人の男に、国家の命運を託すなどと言う不健全で恥知らずなことが、有ってはならない。
あの男は自分にできることを。自分の意志を。行動で示して見せた。
まずは、それに応えねばならない。
それすら出来なければ、もはや自身に価値はない。
だから、こちらはこちらにできることを。
「調査の結果、〈魔の森〉の様子が一変していることは判明した。派遣した調査団が襲撃を受け、少なくない害を被った」
令の言葉を受け、派遣された有志による調査団。
それが、〈魔の森〉にほど近い、安全域と目されていた場所で魔獣の群れの襲撃を受けたのはつい先日のこと。
普段であれば、森の中にさえ入らなければ魔獣は積極的には寄ってこない。その定説が覆され、半壊に近い被害を受けた。
「襲撃につながるという根拠は無い。が、戦う理由は十分だ。我国の民が傷つけられた」
理由などどうでもいい。分かるにこしたことはないだろうが、身の危険が脅かされる事態を静観するなど彼らの矜持が許さない。
「各地の軍を可能な限り呼び戻せ。兵装、物資を調えろ。国民に警戒態勢の号令を降せ」
この巨大な〈デルト王国〉という世界に号たる国。その体制を整える。
それは彼らにしかできないこと。
人々の期待、希望、信頼。
虚構であろうと、思い込みであろうと、彼らこそがその象徴なのだから。
「妥協を許すな。手間を惜しむな。己を極めろ。万事に備えよ。―――戦いの時だ」
〈危険域〉として恐れられる〈魔の森〉の魔獣と、世界屈指の軍事国家〈デルト王国〉の争い。
〈魔獣〉と〈人〉の争い。
それが示す本当の意味を、彼、ガイアスはまだ知らない。
◆◇◆◇
のちに、ガイアスはこのときの決断。令と手を組むという行為の是非について、完全にことが終わった後も多いに悩むことになる。
それほど、令という生き物は彼らに禍福をもたらした。
令お手製の胃薬が友人と化すことを、彼、ガイアスはまだ知らない。




