表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の愚か『もの』 ~世界よ変われ~  作者: ahahaha
初めての異世界 ~楽しき満たされぬ日々~
7/84

7話 美貌の奴隷

いままで三人称でやってましたが、書いてるうちに一人称とごっちゃになるので、次話からは基本令の一人称でやってみようと思います。

これからもお願いします。

恐らく痛みを感じる暇もなかったろう。

令の火炎魔法(厳密には違うが便宜上そう呼ぶことにする)は、有機物が一瞬で炭化するほどの熱を生み出す。

彼がこの戦闘において火炎魔法しか使わないのは、単純に最も威力があるからだ。

といっても、火炎魔法=威力大というわけではない。

彼が使う火炎魔法が高い威力を誇るのは、彼が火に対して持つイメージによる。

彼は火というのは、人類の最も身近に存在する一番の脅威だと考えている。

日常生活において火は不可欠、そして身近な存在であるが故に、人間は火の脅威にも詳しい。

人が火に恐怖、そして畏怖抱いていることは、神話からも伺える。

神話には度々、何かが滅びるという描写が出てくるが、その時それを滅ぼす役目を火が担当していることが多い。

これは人が火を脅威に感じている証拠と言える。

そんなわけで令は火に、最も暴力的なイメージを抱いている。

そのイメージが魔法の威力を、最大限に引き立てているのである。

そしてその結果が目の前の光景。


そこには、かつて人であった大量の炭があった。










(人を殺したわけだが、驚くほど何の感慨も湧かないな。

 果たして元からこんな人間だったのだろうか?

 それとも、こっちに来てから変わったのか?)


自分の引き起こした惨劇を、まるで他人事のような心境で眺める。

そうしてしばらく佇んでいると、後ろから声が聞こえた。


「おおおおお!!

 まさしく凄まじいの一言に尽きるな、火の魔導士よ!

 儂も長く生きて来たが今までおぬし程の使い手にだったことはないぞ。

 どうだ、雇われろなどともったいないことは言わん、儂に仕えぬか。

 報酬は月に金貨20枚払おう!

 どうだ!?」


何かをほざいているが、その発言を聞き令が思ったことはひとつ。


(ああ、まだヤルことが残っていたな。)


そういいグッゾを見る。

最早グッゾと会話をする意志の無かった令は、さっさと要件を済ますことにする。

手を振る。

次の瞬間、護衛の五人が真っ二つになり、辺りが血の海と化した。

火炎魔法で焼かなかったのは、ある理由による。


「なっ!?

 風魔法だと、貴様は火の魔導士ではないのか!?

 いや、それ以前に一体何を―――」


皆まで言わせずにその首を締め上げる。

言葉をしゃべれない程度に強く、死なない程度に弱く、実に巧みな力加減だ。

そしてまるで能面のような無表情で耳元に囁く。


「何を勘違いしていたんだ?

 俺はただ目障りな存在を消しただけで、お前らを助けると言った覚えはないぞ。」


その瞳の冷たさにグッゾは怯え、抵抗しなくなった。

そして告げる。


「盗賊の前ではあんなことを言ったけどさ、人を虐げる行動って俺は確かに否定はしないけど嫌いなんだよね。

 そんなわけで、当然奴隷商人なんかも嫌いなわけ。」


その発言にグッゾははっきりと恐怖を見せる。

恐らく自分も殺されると思ったのだろう。

怯えのせいで焦点が合わなくなっている。

この様子なら問題なく取引できるだろう。


「正直、ここでさっさと殺してもいいんだが流石にそれは忍びない。

 だから、ここで今馬車の中の奴隷の所有権を譲れ。

 そうすれば、俺は(・・)お前を殺さない。」


余程余裕がないのだろう。

その令の妙な言い回しに気づかない。

一も二もなく頷いた。









「こ、これが奴隷の所有証明書です。

 これを持ってさえいれば、問題なくこの馬車の奴隷を所持できます。」


そう言い、複雑な模様と名前が書かれた紙が手渡される。

見たことがないのに何故か字が読める。


(これは・・・魔法陣なのか?

 俺はこんなものは必要としないが、こっちの人間はこれがないと魔法が使えなかったりするんだろうか?

 やはりこの世界について早急に理解を深める必要があるな。

 しかし言葉は通じる、見たことのない字は読める。

 一体どうなってるんだか。)


紙に描かれた模様について考えを巡らすが、すぐに止める。

言葉と字に関する疑問も、答えの無い問いなので何らかの翻訳機能が働いているのだろうと強引に納得する。

そして今度はカギを4本渡される。


「お分かりとは思いますが、これが「隷属の鍵」です。

 これで奴隷を飼殺すも解放するもあなたの自由です。

 それで、その、もう宜しいでしょうか?」


先ほどまでの傲慢な態度とは打って変わり、今は小動物のように震えている。

まったくかわいらしくないが。


「ああ。

 そうだな。」


そう言うとホッとして、逃げ出そうとする。

令はそんなグッゾの足の腱を切断した。


「うぎゃああああああぁぁぁ!!??

 わ、私は言うとおりにしたのに何故!?」


「また勘違いしてたんだな。

 俺はただ殺さないと言っただけだ。

 まあ、これから頑張ってくれ。」


そう言い、令はグッゾの馬車に乗り込む。

こんな強欲そうな奴が奴隷という財産をとられて黙ってるはずがない。

間違いなく無事に返したら何らかの工作を仕掛けてくる。

そんなことが分かってるのだから、もとより生かして返す気はなかった。

約束だから直接手を下したりはしないが。


そして最後の仕上げにグッゾを奈落へとけり落とす。


「そうそう、そういえばこの辺りは狼の棲家だったな。

 さっきうっかり(・・・・)、火炎魔法じゃなく風魔法で切り殺したから血の匂いに誘われて出てくるかもしれないぞ。

 まあ逃げられない今のお前ではどうしようもないよな。

 もし出会ったら運が悪かったと諦めてくれ。」


いけしゃあしゃあとそう言い残し、ぎこちない手つきで馬を走らせる。

後ろから狂ったような聞くに堪えない雑音が聞こえてくるが知らないふり。


そして5分後、森の生活で鍛えられた令の耳が男の絶叫を捉えた。









しばらく街道を進むとようやく森を抜けた。

とりあえず襲われる危険が無くなったことで、奴隷の人たちに挨拶することにする。

馬車の荷台の鍵をこじ開け、扉を開ける。


(さてどんな人たちなんだろ?

 まともな話の通じる人だといいんだがな。)


令が奴隷をグッゾから取り上げたのは、ちゃんと自分の利益を考えた末のことである。

奴隷ならば、気は進まないが最悪命令という形で情報を聞き出せると考えたからだ。

・・・本人は認めないが、単純に人助けの為という側面もちゃんとあった。

そして馬車の中にいたのは、4人だった。


男女それぞれ2人ずつ

男は片方は精悍で落ち着いた雰囲気の10代後半の銀髪の青年、もう片方は端正で活発そうな10代半ばの金髪の少年。



そして女のほうは、美しいという言葉がぴったりと当てはまりそうな10代後半の腰まで届きそうな長い金髪を持つ女性に、美しいというよりは可愛らしいと言えるだろう肩口で切りそろえた銀髪をもつ少女。


髪の色からして、金髪の姉弟、そして銀髪の兄妹なのだろう。

なんとなく、まるで鏡を見ているかのような不思議な一体感がある。


全員が街にいれば間違いなく衆目を引き付けるだろう容姿を持っている。

そして、令に敵意と恐怖、警戒をたっぷりと含んだ視線を送っている。


(はあ~ここまで容姿整った人間っているんだな・・・

 そして凄まじいまでに嫌われているな、さっきの戦闘(というより虐殺?)を聞いてただろうから当然か。

 さて、どうやって打ち解けようか・・・ん?)


どう攻めて目的を果たそうか思案していると、1人の視線に他とは違う感情が混ざっていることに気が付く。

金髪の少年だ。

さっきの3つの感情以外に、なにか明るいような感情が視線に含まれている。

令はその予想外の行動に、不覚にも少し気後れしてしまった。

しかし、気を取り直してとりあえず基本から行くことにした。

馬車から4人を外に出していう。


「恐らく知っているとは思うが、ついさっき君らの所有権を奪ったもので名前は令という。

 はじめに君らの名前を教えてくれないか?」


その質問に全員どうしたらいいのか迷うような表情を浮かべるが、少年が意を決した様子

で自己紹介すると皆後に続いた。


「僕の名前は・・・クルスといいます!」


「・・・俺の名はレオンだ。」


「私はエルスです。」


「ルル、で、す・・・」


上から少年、青年、女性、少女の発言。

令はその名前に小さな違和感を感じた。

答えるのに不自然な間があったし、まるで愛称のような名前が多かったのだ。

それだけなら流してしまいそうだったが、見た目の不自然なまでの綺麗さと合わせると、ある仮説が生まれた。

当たってたら幸いだし、外れていても特に問題もなさそうなのでカマをかけることにした。

生物の警戒心を煽るような顔を作り、語りかける。


「そんなに警戒しなくても、別に取って食ったりしないって。

 たとえ、どこかの国の高貴な身分(・・・・・)の方でも・・・ね?」


予想は大当たりだったようで、顔が一斉に強張った。

ルルなど今にも泣きだしそうになっている。


「・・・頼みがある。」


もう隠せないと踏んだのか、レオンが自分から話してきた。


「お前の言うとおり、俺たちは貴族だ。

 ・・・国はもう滅んでしまったがな。

 俺たちは逃げ延びたが、10日前に捕まり売られるところだった・・・

 頼みだが、どうか他の3人は見逃して欲しい、そうなれば俺はどうなっても構わない。」


「な、兄さん!

 やめてください!」


「そうですよレオンさん!」


「もっと自分を大切にしてください!」


ルル、クルス、エルスがレオンの発言に驚き、考え直させようとする。

しかしそれに対する令の反応は素っ気ないものだった。


「そうだな・・・

 レオンだったな?

 1つ聞いていいか。」


無表情になり言う。


「お前の立場で取引などできると思っているのか?」


その発言に怒りを露わにするが、令の表情を見るとそれが恐怖に変わる。


「覚えておくといい。

 取引というのはそもそも相手との立場がある程度近くないとできないものなんだよ。

 大国の要求を無理やり飲まされた小国とかを知らないのか?

 ましてや、今は奴隷とその主人という構図だ。

 どうして取引が成立すると思うんだ?」


レオンは悔しそうに唇を噛み項垂れるが、正論だと分かっているのだろう。

何も言い返さない。


(自己犠牲の精神か。

 まったく反吐がでる、それで喜ぶのはお前だけだというのに。

 しかもこいつ、ここでこんな提案するってことは・・・)


「お前、いや、君ら全員か。

 そんな提案するってことは世間での身の処し方を全く知らないだろ。

 もしかするとそもそも世間に出たことすらほとんどないんじゃないか?

 大方、奴隷になったのだって簡単な罠にあっさり引っ掛かって捕まったんだろ?」


これも図星らしく、もう全員死んだように項垂れる。


(まあ、こんなもんでいいか。

 話をすすめよ。)




「んじゃ、取引しましょうか。」



「は?」


皆さんは一斉にきょとんとしました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ