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異世界の愚か『もの』 ~世界よ変われ~  作者: ahahaha
初めての異世界 ~楽しき満たされぬ日々~
6/84

6話 殲滅

―――side 盗賊(頭)


俺たちは強い。

今までそう確信して生きてきた。

始まりはただ、楽をして生きたいという願望から始まった。

そうしてただ殺し、奪い、犯し、生きていたら気がつけば周りにはたくさんの子分ができ、大盗賊団の頭だ。

そうするとますます強気になった。

今では王国の騎士の奴らも俺たちを恐れて迂闊に手を出さない。

まったく軟弱な奴らだ。

もう俺たちに逆らう奴らはいない、何もかも俺たちのものだ。

誰も逆らわず、口答えもしない。

そんな状況だったからそんなことを心から信じ込んでいた。



―――この日までは










グッゾは合法、違法を問わずあらゆる商売に手を伸ばし、莫大な資産を持っていた。

その額は一国の王でも無視ができない程のもの。

そんな奴が、愚かにも極上の「品」を運ぶために俺たちの縄張りを通ろうとしていると聞いた。

俺たちは狂喜した。

グッゾほどの商人が極上という「品」は一体どれほどの価値を持つものなのか、学の無い俺たちには想像もつかない。

だが一生遊んで暮らせる程の額になるのは確実だ。

そんなチャンスを逃す手はない。

満場一致で襲撃することを決定した。

見通しのいい街道から、いくつにも分けた隊を休みなくぶつけ、「魔の森」が近くにあることで誰も近づかない寂れた街道へと追い込んだ。

そして仕上げに腕利きを集めた10人ほどの隊を率いた俺がとどめをさす。

作戦は容易く功を奏し、成功は最早時間の問題だ。

そいつが現れたのは、そんな時だった。

見たこともない服装をした、黒髪の小僧。

背はあるが、その若々しさから20歳に届いていないことは容易に想像がつく。

普通なら無視してしまうところだが、そいつが放つ妙な威圧感と、何より「魔の森」から出てきたという事実がそれを躊躇わせた。

「魔の森」はAランクの冒険者でもなければ、一度入ってしまえば確実に死ぬとと言われる世界でも有数の魔境。

たとえ迷い込んだだけだろうがそんな化け物の巣窟から出てきたことが、俺たちの、そして商人どもの警戒を招かないはずがなかった。


「頭、あの小僧どうします?」


そういい、俺の片腕の男が近寄ってくる。

こいつも、あれをどう扱えばいいか判断しかねているようだった。

そうして悩んでいると、


「馬車もなにやらゴテゴテしてて品性の欠片もない。

 恐らく、金が全てと思い込んでいる馬鹿な成り上がり商人か・・・」


それを聞き、商人どもが怒りを露わにする。

さらに、


「そしてもう一方は、どう見ても盗賊。

 しかも荒々しいがどこか洗練された動きをしている。

 間違いなくこれが初犯ではないな。

 なんだ、どっちもクズか。」


そんなことを言い出す。

当然これに子分どもが怒る。

ここで小僧は自分が睨まれていることに気づく。


「てめぇ・・・好き勝手言ってくれるじゃねえか。」


俺の片腕が怒気を孕ませて言う。

どうやらこの男は自分の発言に気づいてはいなかったようだが、そんなこと俺たちには関係がない。

この盗賊という職業は面子が大事で、一度舐められたままにしておくと他の盗賊から馬鹿にされる。

よって、この時点でこの小僧の死は確定した。

すぐにも動こうとする子分がいたが、奴が何かを言おうとしていることに気づき、遺言程度なら聞いてやろうと思い、止める。



「いやはや、申し訳ございません。

 私、昔から思ったことをそのまま口にしてしまうのです。

 この人通りの少なそうな街道で馬鹿な成金商人を襲うなど、並みの図太さではありますまい、普通であれば恥ずかしさから悶死しても不思議ではございません。

 そのことに素直に驚嘆させて頂いた次第です。」


そして返ってきた発言がこれだ。

俺の片腕が我慢できず走り出す。

俺たちは全員、この生意気な小僧が血に塗れる瞬間を見ようと目を向ける。




何が起きたのか分からなかった




奴が軽く手を振っただけで、男はとんでもない炎に包まれた

常識である、魔法陣も、詠唱もなく、手を振る

そんなそよ風しか生まないような動作が生み出したのは、過去に一度だけ見た上級魔法には一歩及ばないだろうが、その域に近い業火

気が付けばそこに炎が、いや、膨大な熱さそのものが存在していた

あとには、唯一男が存在していた証と言える、炭だけが残された



俺は知った

自分がどれだけ抗っても何にもならない存在が存在することを



―――side out









令は盗賊どもの驚き様に逆に驚いていた。

この反応からして、今の一撃には連中の常識から大きく外れている何かがあったことは理解できた。

だが、ここまで驚かれるのは流石にどうかと思ってしまう。

全員が腰を抜かしてしまっている。


(どうやら俺はこの世界でも異常なようだな。

 まあ正直誰に目を付けられようとどうでもいいが、率先して厄介ごとを引き受ける必要もないか。

 早めにこの世界の常識を知って、何処までなら力を使えるか考えよう。

 しかしこれでこの反応なら切り札(・・・)使ったらどうなんだろ?)


「お、お前、何だ今の魔法の炎は・・・」


盗賊の1人が呆然と聞いてくる。


(炎、ね。

 厳密に言えば魔法で起こしたのは火ではないんだが(・・・・・・・・)

 しかしこんな聞き方をしてくるってことは、予想していたが魔法についてはまったく理解が進んでないんだな。

 向こうの知識が無かったら俺も分からなかっただろうから無理ないか。)


これまでの会話から、こいつらでは自分の強さをこれ以上測れないことが分かったので事情を聞くことにする。


「あんたらは一体どういう事情で争ってたんだ?

 予想はついてるが一応教えてくれ。」


それは形式としてはお願いの形であったが、問われた本人たちにとっては完全に命令であった。

嘘をつこうものなら即座に殺されてしまうと感じるほどの威圧感を放っている。

商人はすぐに事情を話す。

襲われていた立場で、同情を得やすい立場なのだから当然だ。


「わ、儂は商人のグッゾというものだ!

 この街道の先にある「ルッソの街」へ、王都へと「品」を運ぶ途中に寄ろうとしていたらこいつらに襲われたの だ。

 お前、儂に雇われんか!

 金ならいくらでも払うし先ほどの暴言も取り消しにしてやる。

 それだけでなく領主や有力者への仲介もしてやるぞ!」


上からのもの言いにイラッと来ないわけでもないが、渡りに船ともいえる申し出に心が揺れた。

今令にとって最も優先すべきことは、この世界での常識を身に着けること。

それが有力者と繋がりを持てれば一気に解決する。

本気で受けようか迷っていたのだが、彼は次の質問の答えを聞くと悩むのをやめた。


「それで、その「品」とやらは何なんです?」


これから雇われるかもしれないので、敬語で聞く。

その質問に対し、グッゾは何の抵抗も見せずに、当然のことのように話す。


「ああ、奴隷(・・)だ。」


この瞬間、この男の運命は決まった。









令は無表情になり、もう一方へ聞く。


「それで、あんたらに聞きたいことは2つだけだ。

 本当に盗賊で、この男の言っていることは本当か?」


「な!?

 無礼な!

 儂は嘘は言っとらんぞ!」


令の言葉にグッゾはいきりたつが、無視する。

そして盗賊を睨む。

嘘を見逃すまいとするように。

その視線を受けた頭は嘘が通じないことを正確に察し、正直に話す。

まるで絞首台に向かうような悲壮感に包まれていたが。


「そいつの言っていたことは本当だし、俺たちは確かに盗賊だ・・・」


「ふむ、じゃあもういいな。」


その発言は盗賊たちにとって処刑宣告として受け取られた。


「待ってくれ!

 見逃してくれないか!

 金ならいくらでも払うし、もうこの仕事からは足を洗うと約束する!

 もう誰も傷つけたりはしないから頼む!」


頭、そして盗賊たちは口ぐちに情けを請う。

さっきまで面子を気にしていたとは思えない程の変わり様だが、それも仕方ないだろう。

生命の危機というのはいつも、その人物に根源的な恐怖を与える。

そしてその恐怖に抗えるものはほとんどいない。

まして、楽をするために他者を虐げてきた弱い心の持ち主に抗えるはずもない。

令がそんな人間のいうことを気にするはずもまたない。

とりあえず最後に、先ほどの発言の勘違いを正しておく。


「最後に言っておくが、お前たちはどうも勘違いしているようだから訂正しておく。

 俺は決して正義感や義侠心なんてくだらないものから、お前たちの行動を許せないと考えて殺す訳じゃない。

 楽をしたいから何かを犠牲にするというのも、生物としての本能の働きであって悪いとは思わん。」


そして令はこれからの行動の理由を告げる。


「俺がお前らを殺すのは、単純にお前らが気に食わないからだ。」


あまりに自分勝手な理由に誰もが絶句する。


「じゃあサヨナラ。」





盗賊団を炎の渦が襲う






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