5話 初接触
ようやく令の魔法が出ますが、詳しい描写は次回です
どうかお待ちください
「あっちみたいだな。
焦ることもないし、のんびり行くとしよう。」
今令は、空中に立っている。
その高さは大体ビル20階分ほどで、彼はその位置から周囲に何かしらの人工物がないか探していた。
そして眼下の広大な森を抜けたところに、明らかに人の手が加わったと見られる街道があった。
直線距離にしておよそ7キロメートル。
今の令ならばその気になれば息も切らさず3分で着けるが、いままで生き急いで来たので、ゆっくりと普通のペースで向かうことにした。
2時間後、令はまだ歩いている。
そろそろ4分の3ほどを来ただろうか。
彼は久しぶりに見るであろう、人の手が加わったものに思いを馳せていた。
何しろ半年も引き籠りと化していたのだ。
いくら彼と言えども、たかが街道とはいえ懐かしく思うのは無理もない。
「しかしな、我ながら随分と規格外な存在になったものだ・・・」
そういい苦笑する令の周りには、魔獣の山ができていた。
すでに一体残らず真っ二つになっていて、息のあるものはいないが。
倒れ伏しているのは一般的な大型犬ほどの大きさの狼の群れ。
今なお魔獣という呼称すら知らない彼は知る由もないが、その魔獣は「餓狼」と呼ばれている。
単体の戦闘能力はそれほど高くはない(それでも一般人や二流の人間ではかなわない)が、群れを成したときその危険度は跳ね上がる。
その卓越した連携と統率性は、どんなに腕が有ろうと群れに出会ったら逃げて戦うな。
そしておとなしく援軍を待て。
そのようにこの世界では徹底して教え込まれるほどだった。
そんな存在も彼の障害にはならない。
(袋も一杯だからはぎ取れんし、ただ殺しただけになってしまった。
悪いことしたな。)
令は多少の罪悪感に囚われていた。
自分の命を狙ってくるならば迷いなく殺す、というスタンスをとっているし、戦いが好きなところがあるのも認めるが、令は決して殺しが好きなわけではない。
ただ生きるために襲いかかる存在には悪意がない。
そんな存在に対しては、どうしても殺したことに罪悪感を抱いてしまうのだ。
彼は肩に担いだ袋を担ぎ直し、歩く。
そうしてしばらくして、もう少しで森を出るというところで令の耳に妙な音が届く。
それは、令にとって本当に久しぶりに聞く人の声。
もっとも、穏やかとは絶対に言えない類の声だったが。
(怒号に悲鳴、それに金属音、か?
この先は単なる街道だったはずだが?)
訝しく思いながらも、令はその目で見ようと思い、駆け出す。
そして森を抜けだすと、そこで行われていたのは殺し合いだった。
片方は馬車を守るようにして戦う5人ほどの鎧を着けている男たち。
もしかしてどこかの正規兵かという思いが過ぎるが、よく見れば動きが雑で、豪華な鎧に着られているようにしか見えなく、日ごろ訓練している人間の動きでないのが一目で分かる。
(馬車もなにやらゴテゴテしてて品性の欠片もない。
恐らく、金が全てと思い込んでいる馬鹿な成り上がり商人か・・・)
令はまるで汚物でも見たかのような苦々しい表情をする。
そういった人間は令の最も嫌いな人間の一種だからだ。
もう一方に目を向けると、そこには10人ほどのバラバラの服装の男たち。
(そしてもう一方は、どう見ても盗賊。
しかも荒々しいがどこか洗練された動きをしている。
間違いなくこれが初犯ではないな。
なんだ、どっちもクズか。)
事態を推測した令は、見た人間が氷つくような気配を放っていた。
目を閉じ考え込む。
(だが所詮は推測だ。
実際は違うのかもしれないシ、とりあえず話を聞いてみましょうカネ。)
自分の予想がほぼ確実だと思うが、それでも事情ぐらいは聞くべきだと思い、気配を落ち着けて、やる気がなく心の声が片言になりながらも彼らに目を向けると、
「あれ?」
皆さんの視線がこちらに向いていることに気が付く。
しかも全員がこちらを友好的とは言い難い表情でにらんでいる。
なんでかな~と思ったら、親切にも盗賊の1人が教えてくれた。
「てめぇ・・・好き勝手言ってくれるじゃねえか。」
語調は荒くなっていないがその実怒り狂っているのだろう、なかなかの威圧感を放つ。
令にとってはそよ風ほどの効果も無かったが。
「あらら。
口に出しちゃってましたか・・・」
どうやらそういうことらしい。
さて、どうやってこの事態を収拾しようかと考えを巡らすが、あることに気が付く。
(ああ。
よく考えたらこれ絶好の機会だわ。
相手は盗賊、殺しても恐らく問題ない。
それに略奪に慣れているということは少なくともこの世界の一般的な人間よりは強いということ。
自分がどれくらいの強さかを測るのに都合がいいな。)
争った結果自分が死ぬということを令は微塵も考えていない。
感じる気配が間違いなく森の化け物たちより弱いということを教えてくれる。
恐らくこの程度の連中なら文字通り千人切りできるという確信すらある。
正直、自分の方が強いと確信できている時点で、こいつらと戦うこと自体には意味がない。
よって、ここで彼が得たいのは情報。
こいつらの反応から、果たして自分がこの世界の常識的な強さと照らし合わせてどれだけの強さなのかを推し量ることにあった。
なので、挑発することにした。
「いやはや、申し訳ございません。
私、昔から思ったことをそのまま口にしてしまうのです。
この人通りの少なそうな街道で馬鹿な成金商人を襲うなど、並みの図太さではありますまい、普通であれば恥ずかしさから悶死しても不思議ではございません。
そのことに素直に驚嘆させて頂いた次第です。」
とりあえず、思いつく限りの言葉を用いて慇懃無礼に詰ってみた。
日本人でない連中にこの物言いが通用するだろうかという疑問が頭を過ぎるが、どうやら杞憂だったらしい。
誰一人の例外なく、きれいに同時にあっという間に顔を真っ赤にさせた。
そのあまりの見事さは、こいつらは実は芸人ではないだろうかと素直に疑ってしまうほどだっ
た。
「俺らをここまで馬鹿にして、死ぬ覚悟はできてんだろうな!?」
「さっきから未熟だクズだと好き勝手言いやがって!
「我らが成り上がりだと!
わしが大商人グッゾと知っての暴言か!」
「うわあ。
なんだこのテンプレ通りの反応。
もう少し語彙増やせよ馬鹿ども。
いや、一番出てきやすいのをテンプレと呼ぶからこれが正しい反応なのか?」
あまりに予想通りの反応に笑いすらこみあげてくる。
連中もテンプレという意味が分からずとも、馬鹿にされてることを肌で感じとったのだろう。
とうとう盗賊の一人が飛び出してきて手の剣を振り上げる。
令はその待ち望んでいた状況に笑みをこぼし、
手を気だるげに振る、ただそれだけ。
そして男は業火につつまれた