43話 2人目
とうとう累計ランキング50位達成です!
そして総合評価18000突破!
ここまで来るとは・・・
皆さん真にありがとうございます!
今回短めです。
文化祭が始まるので、次も遅れるかもしれません。
それと、レオンがしばらく脱退するので弄られ役が交代しますw
「オルハウスト。
あの木でそろそろ休憩にした方がいいんじゃないか?
そろそろセフィリアさんが限界みたいだ。」
ちょうど良さそうな木を見つけたので、俺は休憩を切り出した。
オルハウストがその言葉を聞き、セフィリアさんを見て頷いたので、木の下へ向かう。
セフィリアさんも何とかついてくる。
そしてその木に着いた途端、彼女はへたり込んだ。
それを視界の隅に納めながらオルハウストに聞く。
「やっぱり相当速いんだなあんたは。
今までこんな人間いなかったからなかなか新鮮だ。
まったく世界は広い。
まさか馬車を使わずに、徒歩で王都から1日で着ける人間がいるとは。」
「私も市井の者で付いてこれる者を見たのは初めてだよ。
こんな人がまだ居たのかと感心している。」
「はぁっ、げほっ、げほっ・・・
それ、あ、貴方が言うことじゃないでしょう・・・
今こんな、普通じゃ考えられない非常識な移動をして、息1つ切らしてないんですから・・・
しかも、そんな馬鹿でかい武器を持って・・・」
セフィリアさんが息を切らせながら半眼で言ってきた。
明らかに機嫌が悪い。
馬鹿でかい武器というのは間違いなく《アロンダイト》のことだろう。
長さ2m20cm、幅20cmの平たい物体が、布を巻かれて俺の背にある。
傍から見れば、まるで建築用の板でも担いでいるように見えるだろう。
そんなものを担いで平然としてるのが信じられないらしい。
俺たちは今、王都への道を進んでいる。
徒歩で。
闘気で強化した足ならば、馬車で丸2日の道でも丸1日で着けるとオルハウストに聞いたので、そうすることにした。
因みに、セフィリアさんが起きるのを待つのも面倒だったし、起きたら徒歩で行くことに反対されるのも目に見えているので―――
「何ですか。
まだ気絶してるところを連れてきたことを怒ってるんで?
あらかじめ行動を共にすることは決めてあったことですし、そもそもそれを提案してきたのは貴方でしょうに。」
「それにしたって私にだって準備があるんです!
それに久しぶりの王都だったから見栄えのいいものを着ていこうと思っていたのに・・・
着の身着のまま連れてこられて怒らない人がいるとでも思ってるんですか!
しかも何故に徒歩!?
ここまでの4時間全力疾走で、闘気を使ってももう限界ですよ!」
怒られた。
まあしょうがないことだろう、今回は本当に俺が悪い。
こんな反応をされるのも分かっていたことだ。
気が付いたら街を出てて、自分は持ち物無し。
しかもそれから有無を言わされず長距離マラソン開始。
4時間走って今は疲労困憊でまったく動けず。
これで怒らない人間はいないだろう。
しかも、こんなことをした理由はいつもの如く・・・
「だってその方が面白いじゃないですか。
何と言うか・・・こう・・・人が疲れ切ってる姿って見ててぞくぞくしますよね?
動けないところを足でつつきたくなる。
ていてい。」
「そんなのは貴方のような外道だけです!!!」
「おお、速い。」
動けなくなったところを足で小突いてると、セフィリアさんが切れて襲いかかって来た。
疲れ切った状態で振られてきた片手剣ほどの長さの金属の棒を、強化した右手で受け止める。
なかなかの速さだ。
何だ、まだ動けるじゃないか。
湿った音が響いたものの、受け止めた手に被害は全くない。
「前から思ってたんですが、貴方のランクは何なんですか?
結構高いものと見受けますが。」
「・・・Cです。
そんなに高くはないでしょう?」
「Gの私と比べたら十分高いですね。」
「へー、貴方がそんなこと言っても嫌味にしか聞こえませんね。
本当に1回殴らせて欲しいんですが。」
「断固拒否します。」
軽く?からかっていたらセフィリアさんが眉間に青筋を浮かべだし、今にも襲い掛かってきそうな様子になったのでそろそろやめる。
なんだか女性を弄るのは新鮮なので、少々やりすぎてしまったかもしれない。
エルスやルルは、従者で立場が下のためにあまり弄る気が起きないから、セフィリアさんのような対等の関係の者と一緒になれたのはなかなか嬉しいのだ。
「貴方たちは仲がいいですね、流石婚約者同士です。
これは、私はお邪魔でしたでしょうか?」
そうしてたら取り残されていたオルハウストが、苦笑しながら会話に参加してきた。
「これのどこが仲が良さそうに見えるっていうんですか!
て、ああ・・・私は『四剣』の方になんて口を・・・」
「まあ、気にすんなって。」
「貴方が原因でしょうがぁーー!!!」
それに対してセフィリアさんが思わず怒鳴り返してしまい、上の者に暴言を吐いてしまったことに落ち込んだので慰めたら、今までで一番の声量で怒鳴られた。
因みに今の彼の言葉から分かるように、今の俺とセフィリアさんの立場は一応婚約者のままである。
その方が共に行動するに当たって、色々と融通が利くのでディック殿がそうしてくれていた。
(尤も、あの人このままなし崩しに関係を進めようとしてる節があるから、注意は必要だがな。)
どうも最近あの老人は、俺とセフィリアさんの仲を取り持とうとしてる気がする。
「お2人の様子を見て仲が良くないと思う人はいないと思いますよ。
お互い気兼ねなく本音で話し合える関係というのは素晴らしいと思います。
・・・私のような、普段から無条件で敬われてしまう者からすれば余計に。」
「こんな関係の夫婦ばかりの世の中だったら、碌な子供が育ちませんね。
・・・・・・まあ、悪い気はしませんが。」
オルハウストの言葉に、セフィリアさんは半眼でそう言った。
しかし、最後の表情は満更でもなさそうだった。
俺には今のオルハウストの言葉と表情の方が気になったので深く突っ込むことはしなかったが。
(この男・・・
最初見た時から思ってたが、貴族であることを疎んでるのか・・・?)
街で見た時、この男は周りから避けられていた。
その立場からすればそれは仕方がないことだ。
普通の貴族ならばそこでただ、平民となれ合いになる気が無いのでまったく気にしない。
だが、この男は、ほんのわずかに、表情に寂しさを滲ませていた。
それに、ネストでも「私の素性を知ってなおそのような態度を取ってくれた者」と言ってたし。
そうだとすれば、かなり好みの性格だ。
もちろん、友人として、だが。
「ここからあとどのくらいで着けそうか分かるか?」
心中で様々なことを考えながら、それをおくびにも出さず聞く。
オルハウストは少し考えた後、答える。
「さっきの速度を維持すれば、後6時間といったところか。
しかしもう夕方だし、もう2時間走ったら後は明日の朝にした方がいい。
それでも明日の昼には着けるだろう。」
「分かった、それじゃあ走りましょうかセフィリアさん?」
「貴方は鬼ですか!?」
イイ顔でそう言うと、セフィリアさんが半泣きで叫ぶ。
そろそろいいか、十分遊んだし。
「冗談ですよ。
ここからは私が貴方を背負うんで、貴方は走らなくて結構です。」
「え?
そ、それはありがたいですけどそこまでしていただくわけには―」
「別に気にしなくてもいいですよ、そもそも貴方が今こんな目に会ってるのも元は私のせいなんですし。
ちょっとからかいが過ぎましたね、王都に着いたらお詫びに服やアクセサリーを買わせてください。
それに加えて、私がこれからの移動中の足になるのでそれでご勘弁を。」
「あ、はい・・・」
いきなり態度を変えた俺に目を白黒させ、流れのままに答えてしまう彼女。
これで、後にからかったことを引きずる可能性は無くなった。
遊んだあとは、ちゃんとケアをしないとね。
「君は悪い人だね。
全部確信犯かい?」
こいつはすべてお見通しだったようだが。
その問いには、笑みを浮かべることで返した。
2時間周りの景色を置き去りにするような速度で走り、辺りが暗くなったところで野営の準備をする。
魔法で火を熾し、夕食の準備をしていると、オルハウストが近寄ってくる。
「なかなかの手際だ。
そこらの店よりもおいしいものが食べられそうだよ。」
「嬉しい言葉をどうも。
お世辞でない分素直に嬉しいよ。」
さっきの表情の動きと声の質から、言葉が本音だと分かる。
取り繕わない素直な言い方は好きなので、軽く笑みを浮かべて答えた。
因みに今セフィリアさんは、日課だとか言う鍛錬のために今少し離れたところで長めの棍を振るっている。
ここから見ても、動きが相当洗練されていることが分かる。
本人はCランカーと言っていたが、今鍛錬している彼女からはそれ以上の実力に感じられる。
尤も、実戦の場合はどうなのか分からないが。
「綺麗なものだね。
青い髪が動きとともに揺れて、まるで戦女神のようだ。」
「否定はしない。
しかしお前、言いたいことがあるなら回りくどいことは言わずに直接聞いたほうがいいぞ。
俺のような人間には。」
「・・・どういうことかな?」
「早い話、俺の技術について探るように言われてるんだろ?
王様にさ。」
「っ!?」
(図星か。
まあ当然のことだろう。)
俺のような並外れた力を持つ者が居たら、それを利用しようとしない人間はまずいない。
居るとしたら、力に恐れを為し怯えている者だろうか。
この国の王は本人も実力者らしいので、それには当てはまらない。
となると、俺の力の秘密、特に決闘で使った武器と魔法について知ろうとするはず。
オルハウストがそれを探るように命令されていることは十分に考えられた。
「ばれてたか。
君は底が知れないね、本当に。」
こいつは俺の言葉を聞くと、苦笑を浮かべていた。
だが、その顔には苦悩から解き放たれた安堵の色が見て取れた。
諜報関係の仕事は、どうやらこの男は嫌いらしい。
人となりはいいし、普通は人と距離を取りがちの俺にこの短時間で気に入られる性格の持ち主だから、その気になればどんな情報でも聞き出せそうなものなのに。
難儀な男だ。
そんなところも気に入ってるのだが。
そんなわけで―――
「俺の魔法は、基本的には他の者が使うものと変わらない。
ただ、物事の様々な理を組み込むことで基本性能は飛び抜けてるが。
それに加え、独自解釈を加えた魔法陣を使用することで、魔法の高速化と簡易化、脳への負担の軽減、魔力効率の大幅上昇など様々な利点を得ている。」
「は?」
唖然とする男に、さらに続ける。
「それと闘気だが、俺の決闘の情報は知ってることを前提に言わせてもらうが、普通の人間には野菜で金属と張り合うなど出来はしない。
あれをやるには植物などの生命体の構造を細かく理解し、その上で闘気をその構造に逆らわないように流す必要がある。
血管だとか維管束だとかに沿うようにしないと駄目なんだよ。
そうしなければ、物質が闘気に耐えきれずいかれてしまう。
そんなわけで、あれははっきり言って俺以外は使えない技術だな。」
「ち、ちょっと待て!
何故いきなりそんなべらべらと喋り出してるんだ!?」
我慢できなくなったオルハウストが慌てた様子で言う。
それに対して平然と答える。
「何だよ、元はこれが目的だったろうが。
素直に聞いてればいいじゃないか。」
「それはそうだが、私は君の機嫌を損ねないように決して無理に聞き出そうとするな、とも言われている。
だから君が黙っていてもなんの問題も無かったんだぞ?」
無理に聞き出そうとすれば、誰だって機嫌を損ねてしまう。
国賓として招いている人間に、そんなことをするわけにはいかないだろう。
相手は実力に訴えることが出来ない以上、別に喋る必要もない。
恐らくはこういうことなのだろう。
それに、この男としてはそもそも命令内容自体に納得していたわけじゃないから、俺にばれたことで命令に従う必要が無くなり安堵してる部分もあったのだろう。
「さっき言った内容は別に隠すようなことでもないからな。
それに今の説明ならば、俺以外に不可能な技術ばかりだということが良く分かるだろう?
これは教えて置いた方が、後で技術狙いの下心満載な輩の相手をしなくて済むようになるから都合がいい。
納得できたか?」
俺としては、あの程度の情報であれば教えてしまった方が後の遺恨が減らせてむしろありがたいのだ。
だから、王のその命令にはむしろ感謝している。
―――尤も、本当に重要な情報は与えていないし、教えることで人に対する戦略が増える、という下心もあるのだが
「・・・成程ね、それならばいいか。
私としては君とは仲良くしたいから、君が私に嫌気がさして自棄になったのかと思って焦ったよ。」
説明を終えると、こいつはあからさまにホッとしていた。
「そうなのか、それに関しては同感だ。
俺もお前と仲良くやっていきたい。」
そして俺が笑みを浮かべてそう言うと、オルハウストは顔をまるで少年のように輝かせた。
その外見とは裏腹の、子供っぽい仕草に苦笑してしまう。
「お2人とも、何やら仲良くなってるみたいですね。」
気が付くと、セフィリアさんが布で汗を拭きながらこっちに歩いてきていた。
その顔はとても嬉しそうだ。
「私たち2人が嬉しい気分になるのは分かりますが、貴方まで嬉しがることですか?」
「短い間とはいえ、旅の仲間が良好な関係を築いていくことが嬉しくないわけがないでしょう。」
「成程、それもそうだ。」
湧いた疑問を口にし、答えを聞き納得する。
と、セフィリアさんが汗を拭いている姿を見て、ある提案をすることにした。
「ところでセフィリアさん、入浴でもしますか?
私の魔法で結構簡単に作れるんですが。
もちろん覗き防止用の壁も作ります。」
「っ本当ですか!
是非お願いします!」
その提案に、途端に飛びついてくるセフィリアさん。
その様子に、思わずオルハウストと2人で笑い声をあげてしまう。
その間ずっと、彼女は恥ずかしそうにしていた。
こうして、俺はこの世界2人目の友を得た。
―――この出会いが招くことになる、・・・を知らずに
面白いと思ってくだされば、是非評価を