41話 『自分』
王都は次回です!
何度も予定変更してすみません
今回も結構なやんだんですが、その分好きな話です
楽しんでいただけると幸いです
「あ、あの、私の予想の遥かななめ上、いえ下を行く答えが返ってきたのですけど?」
「思ったことを言っただけだ。
そう深い意味はない。
言葉のまま受け入れろ。」
しかし、浅い意味はある。
人は深刻に悩んでいると、考え方が凝り固まってしまうものだ。
つまり、いくら諭されようと理屈で説明されようと、自分の考えに囚われて、頑なに信じようとしなくなるのである。
それを防ぐために、まずは先ほどの深刻な空気をぶち壊す必要があった。
なので、わざと軽いノリで答えさせてもらった。
今のルルは予想外の反応をされて混乱してるので、これならば俺の言葉をありのままに聞くことが出来る。
(さて、ここからは真面目な話。)
気持ちを切り替えて、ルルに語る。
「君はどうやら「化け物」と呼ばれることを嫌ってるみたいだが、それはそんなに悪いことか?
俺は別に言われてもどうとも思わんが。」
慣れてるからな。
「な!?
貴方のような人外染みた存在と比較しないでください!
私は絶対に嫌です!」
ルルが怒りだす、わざと勘に障る言い方をしたので狙い通りの反応だ。
しかし人外って、まあ「染みた」ということはまだ「人」と認識してるようだからいいか。
「君は物事の一面しか見てないだろう?
「化け物」であることのメリットを一度でも考えたことがあるか?」
「メリットなんて、そんなもの・・・!」
苦渋の表情で無い、と言おうとしたところで口をはさむ。
「あるぞ、絶対に。
この世に存在するすべてのものは必ず二面性を持つ。
それも、究極に矛盾した相反するもの、『正』と『負』の面を。」
「え?、その、貴方の言葉が矛盾だらけでさっぱりなのですが・・・」
疑問符を大量に浮かべるルルに、分かりやすく説明する。
「そうだな、それでは楽しい講義の時間だ。
先ずはこれを見てくれ。」
軽く手を挙げ、魔法を使う。
円の上に三角や四角がいくつか載っただけの、極めて単純な下位魔法用の魔法陣が、無数に夜空に浮かび上がる。
下位と中位用の魔法陣は、上位のものと違い単純な構成なので念じるだけで簡単に起動でき、グリモワールの補助は必要ない。
そして、様々な色の光球が山の様に宙に浮かぶ。
「うわあ・・・!」
ルルが感嘆の息を吐く。
光ってはいるものの、決して目を焼くことのない穏やかな光を放つ色とりどりの光球。
それが無数に、まるでホタルのように夜空を漂う。
これでルルの様な反応をしないのは、精神に異常のある者だけだろう。
(俺もそれに含まれることが多いがね・・・
いつもではないが。)
自分の精神性を少し自虐したところで、聞く。
「君はこれを見て、どう思った?」
「綺麗、と。
ここまで幻想的なものは初めて見ました・・・」
うっとりとした、だが未だに影を引きずった表情で彼女は答えた。
「そうだろうな、俺もこれは美しいとは思う。
自分で創っておいて、自画自賛するようではあるが。」
「ここまでのものを創っておいてそう思わないのは、むしろその方が嫌味と取られてしまいますよ?」
「それもそうか。
いやしかし、ホントに綺麗だ。」
そこで言葉を切り、夜空を見上げながら言う。
「―――一軍を殺しつくせる、殺戮の光なのにな。」
「・・・・・・え?」
ルルが何を言われたのか分からない様子で、呆然と呟いた。
「これら1つ1つが、人1人を容易く殺せる威力を持っている。
それが数百。
小さな部隊なら全滅させてもおつりがくる。」
「あ・・・」
ここで初めて、これが殺傷を目的とした「魔法」であることにルルが気付く。
「これの主目的は殺傷だ。
なのに君がこれに対して抱いた感情は、危機への「恐怖」では無く美しさへの「賛美」。
これは矛盾だとは思わないか?」
「そ、そうですね・・・」
「人に「美しさ」という『正』の感情を与える反面、同時にその「存在が脅威である」という『負』の面も持ち合わせる。
まったくベクトルの異なる性質。
相反する究極の矛盾した二面性。
それをこれが、すべてのものが持っている。」
「すべて、ですか・・・?」
ルルの恐々とした言葉に、頷く。
「剣は斬って「殺す」こと、殺すことでなにかを「助ける」こと。
水は喉を「癒す」こと、氾濫してすべてを「押し潰す」こと。
食料でさえも、餓えを「満たす」ことと不足により「戦争」の引き金になりえる可能性をもつ。
この世に相反する2つの性質を持たないものは存在しない。
いい面があれば悪い面が、その逆も然り。
そしてそれは、正負の性質のどちらかが大きければ大きいほど、その反対の性質もまた大きくなる。」
ルルを見る。
こちらを真っ直ぐ見ていた。
「「化け物」にもそれは当てはまるぞ。
そして、君が目を囚われていた『負』の面。
それがあるなら、その逆の『正』の面が必ず存在する。
それも、今まで君が苦しんでいた分、それだけ強大な『正』が。」
「『正』・・・、私に・・・?」
「そうだ。
要は考え方、使い方次第と言うことだよ、どんなものも。
一面が辛いものならその逆の面も見ろ。
そうすれば、自分を恐れる必要など何もない。」
「・・・・・・」
ルルは辛そうな表情で考え込む。
俺の話を認めてはいるようだが、やはり自身を「化け物」と思うことには抵抗があるようだ。
俺の今までの言い方では、「君は化け物だがそんなことは気にするな。」と言ってるのと同義なのだから仕方がない。
今まで辛い思いをしてきたのに、そう言われることを素直に受け入れられたらそれはそれで問題だ。
(では次に進もうか。)
ルルが、俺の言葉を額面通りにそのまま受け入れない自意識のある「人」であることを確信したところで、次に進む。
もしここでルルが自身を「化け物」と認めてしまうようなら、見捨ててしまう腹積もりだったが、これなら問題ない。
「そもそもルル。
君の考える「化け物」とは何だ?」
「へ?」
いきなり質問をされキョトンとしていたが、直ぐに考えを纏めて発言する。
「・・・私は「憑き人」のように、他の人と逸脱した存在だと思います。
力でも、能力でも、何でもいいから他人と大きく離れたものを持つ存在だと。」
「く、はははっ!」
その言葉に、思わず笑ってしまう。
ルルは自分の考えを笑われて機嫌を少し悪くした。
憮然とした様子で聞いてくる。
「笑い事ですか?
今の私の真面目な話は。」
「そりゃな。
その基準でいったら俺はどうなるんだ?」
「え?
・・・・・・あ。」
言ってみてから、自分が俺のことをリッパな「化け物」だと言ったことに気付いたようだ。
「俺の力、技術、性格、それらはどれも他者から大きく離れている。
君は一応従者の身分なのにな。
俺は「化け物」と、そう言いたいのかね?」
「あー、その・・・」
バツが悪そうに視線をさ迷わせるルル。
そんなルルに笑いかける。
「そんなことは無いだろう?
君らは俺の異常性を認識しても、あくまで人間として扱っている。
つまり、君の考えは間違ってる。」
俺のことを人外「染みた」存在と呼んだことから、彼らは俺のことを人として認識していることが分かる。
「では、何が「化け物」だというのですか。
私には分かりません。
今まで「憑き人」は「化け物」だと、「人」ではないと言われ続けてきた私には・・・」
今までの自分の考え方を否定され、前後不覚になり沈んだ声を漏らす。
それを見ながら語り出す。
「ルル、俺はな、例え君らが、世間が、世界が、俺を「化け物」だと呼ぼうとまったく気にしない。
それはなぜか分かるか?」
「・・・いえ。」
俺が何を言いたいのか分かっていないルルに言う。
俺のこの上なく自己中心の考えを。
これ以上ないほどの不敵な笑みを浮かべて。
「「俺」がその意見を決して認めないからだ。」
「・・・はい!?」
「「俺」という存在が、自身を「化け物」だとは認めない。
ただそれだけのことで俺は「人」で居られる。」
「そ、そんな我が儘なことを言いましても!?」
「おや、否定出来るか?
これは結構な真理だと思うが。」
不敵な笑みを崩さないまま続ける。
「そもそも君は何故俺に疑問を投げかけた?
「化け物」と言って欲しかったからか?
「人」と認めて欲しかったからか?
それとも他の何かを求めていたのか?」
ルルはいきなりの質問に初めは面食らっていたが、直ぐに考えを纏めて言う。
この切り替えの早さはルルの長所だろう。
「恐らく、「人」だと言って欲しかったのだと思います。
恥ずかしいことに、貴方に認めてもらうことで安心したかったのだと。」
「それだよ。
君はつまり俺の言葉を聞きたかったのではなく、その先にある「自身の感情」を得たかったんだ。
周りの意見も、俺の意見も関係なく、ただ自身の「安心」を得たかった。
そこにあるのは「自分」だけで、他者の割り込む余地は存在しない。」
「そ、それは!
・・・そうですね、貴方の言うとおりなのかもしれません・・・」
否定しようとしたものの、それが事実であるので認める発言をする。
表情が陰るルルに言う。
「そう落ち込むな、それは悪いことでもなんでもなく自然なことだ。
人は自身を中心としてしか物事を見ることはできない。
どんな出来た人間でもな。
人のために尽くす人が居る。
その人は人を助けることによる「充実感」を「自分」が得たいからそんな行動をする。
人を貶す人が居る。
そいつは人を貶めることによる「快感」を「自分」が得たいからそうする。
人とはそんなものだ。
誰もが最終的には、「自分」のために行動する。」
それは見方によっては酷く醜い姿。
だが、紛れもない事実。
そのまま俺は続ける。
「要するに結局のところ「人」が重要視するのは「自分」がどう考えるか、感じるかということだ。
ならば、「人」なのか「化け物」なのか、という問いの答えもそうだと俺は考える。」
「自分の意思1つで「人」にも「化け物」にもなるというのですか?
それはあまりにも暴論が過ぎるのでは・・・
確かに貴方の意見が正しいのだと理性では理解してます。
ですが、感情がそれを許しません。
それでは人の良心や善意を全否定してしまいます。
私はそれを認めたくありません・・・」
俺の意見を聞いて、ルルはそう返してくる。
自分の意見を否定をされたにも関わらず、抱いた感情は喜び。
理路整然とした言葉に惑わされながらも、「自分」の意思を優先した末の言葉なのだ。
俺にとってこれ以上嬉しいことは無い。
「そう思うのも仕方ないのだが、別に否定してるわけではないさ。
良心や善意は決して無意味ではなく、とても大事なものだ。
人は良心、善意、悪意、そういったものを「基準」として「自分」の行動を決める。
それらが無ければ人は迷い、動けなくなる。
まあ、無理に納得してもらわなくても構わない、これはあくまで俺個人の考えなのだから。」
なので、そう優しげに言った。
自分の意見を持つのはいいことだと言外に告げる形で。
そして、言葉を続ける。
「自分で「人」だと思い込んでいれば、その人物はどこまで行っても「人」という思いが防波堤となり、最後の一線を越えずに済む。
逆に自分で「化け物」だと思っていれば、普段どれだけ温厚な人柄だろうといつかボロが出てしまい「化け物」となるだろう。
そう言うわけで俺は、「化け物」とは自分でそう思い込んでしまうようになった「もの」だと考えている。」
そう言ったところで、ルルの目を見る。
「そこで聞こうか。
ルルライン・エル・エクセリア。」
「!」
その驚きは、自分の家名を知られていたことによるものか、それともそれ以外の何かか。
そんなことには頓着せず、ルルの額に右手の人差し指を当てる。
「君は、「人」か?、「化け物」か?」
「それは・・・」
「世間の評価がどうとか、過去の経験が辛いとか、そう言うのは今この瞬間だけ忘れろ。
そして純粋に、君の「意志」のままに選べ。
自分の呼ばれたい方を。
己の欲望のままに。」
ルルは呆然と俺を見つめる。
俺もまた、ルルを見つめ続ける。
「君が選んだ方の存在として俺は君を扱おう。
そしてそこにも世間の評価も、過去の経験も関係ない。
君が望むようにおれは君を呼ぶ。
世間がどう思おうと。
過去のガキが君を罵ろうと。
権力者が君をのけ者にしようと。
理が君を断じようと。
家族が君を否定しようと。
俺は君を、その存在として呼び続ける。」
ルルの瞳が潤みだす。
「そして、もし世界が君に望まぬ道を強いろうとするならば。」
言葉を切り、続ける。
己の「意志」を。
「世界を相手に戦いを挑む。」
「っっ!!??」
ルルが涙を流し、手で口を覆う。
「君のためではなく、ただ己の欲望のために。
俺は仲間の君にそんなことを強いる世界を認めない。
どんな相手だろうと滅ぼそう。
俺は、君という存在を絶対に否定しない。」
そこで言葉を切り、息を吐く。
そして問う。
「君は、「人」で在りたいか?」
―――side ルルライン
『来るな、化け物!』
そう言われた時、足場が崩れていく感覚がした。
子供だった。
特に深い意味も知らず、様々な約束をしていただけのこと。
―――それでも、初恋の相手には違いなかった
その相手に、怖がられた。
何かの間違い。
そう思って、震える脚で彼に近づいた。
―――彼が、落ちた
私から逃げた末に。
私が、殺した。
そのことは私の心を深く抉った。
遊んでいて、魔獣を恐れて足を踏み外した結果だとして、事故として片づけられた。
それはほとんど間違っていない。
「魔獣」の部分を「私」に変えるだけで、完全な事実となるのだから。
それから、私はずっと「憑き人」の力をどうしても使わなければならない事態を除いて使わなかった。
嫌われたくないから。
もう二度と怖がられたくないから。
兄にさえも、告げなかった。
もし言って否定されれば、壊れてしまっていただろうから。
そのまま、墓まで持っていこうと思っていた。
―――今、この時までは
誰も認めてくれなかった。
誰もが「憑き人」を忌避していた。
「化け物」と言っていた。
だから、私も自分が「化け物」なんだ、と漠然と思っていた。
「君が選んだ方の存在として俺は君を扱う。
そしてそこにも世間の評価も、過去の経験も関係ない。
君が望むようにおれは君を呼ぶ。
たとえ世間がどう思おうと。
過去のガキが君を罵ろうと。
権力者が君をのけ者にしようと。
理が君を断じようと。
家族が君を否定しようと。
俺は君を、その存在として呼び続ける。」
目の前のこの人が、こう言ってくれるまでは。
初めてだった。
そんなことを言ってくれる人は。
初めてだった。
「憑き人」を「人」だと言ってくれた人は。
初めてだった。
選択肢を与えてくれた人は。
この人は、あくまで私の意見を尊重しているのだ。
本人の望まぬことはしない。
ただ、己は道を選ぶための道具を手渡すだけ。
そして後は、相手に任せる。
その結果が、自分にとって望まぬものだろうと。
自分の欲望に照らし合わせて、自分の意見を無理やり与えるよりも、相手が自分で選んだ選択をしてくれるほうが嬉しいから。
私は彼が、自分のことを優しい人間ではないと言っていた理由をようやく理解した。
究極の独善思考。
それがこの人の真実。
自分の考えを、他の何よりも尊重する。
ああ、確かに優しくなどなかった。
この人は。
―――凄い人だ
言葉にしてみると、何と陳腐な言葉だろうか。
だが、それ以外なんと言えばいいだろう?
「優しい」などと言うありふれたカビの生えたような言葉など、この人にはふさわしくない。
これ以外にいくら言葉を並べようと、それはこの人を貶めるだけ。
だからこれだけで十分。
「凄い」人なんだ。
今、私の心をここまでの喜びと感動で満たしてくれているのだから。
「そして、もし世界が君に望まぬ道を強いろうとするならば。
世界を相手に戦いを挑む。」
もう、涙で前が見えない。
ここまでの激しい感情、今まで味わったことが無い。
愛しさで心がどうにかなってしまいそうだ。
この感情の前には、過去の子供などどうでも良くなってしまう。
だから私は。
「君は、「人」で在りたいか?」
この問いに、全身全霊で、諦めていた言葉を返す。
「私、は。
「人」でありたい、です・・・!
兄さんと、エルスさん、と、クルスと。
そして何より・・・!
貴方と同じ、「人」に!!!」
涙をボロボロと流しながら、愛しい人に飛び込む。
その人は、さっきと同じように優しく抱きしめてくれた。
「了解した。
では、俺は以後君を「人」として扱う。
異存はないな?」
その事務的な言葉とは裏腹な優しげな声に、叫ぶ。
「あるわけがありません!」
「そうか。
では今後ともよろしく。」
「はい!」
満面の笑みで、涙を拭かず答える。
そのまま私はしばらくの間、しがみつき続けた。
後ろの茂みの中に居る、泣いている男性と、不機嫌そうな女性と、それらを必死に宥めている少年に気付かずに。
―――side out
―――side ???
王城の謁見の間。
今そこに、国の重鎮たちが集まり報告と情報の共有をしていた。
その会議も終わりが近づき、最後の報告に入る。
玉座に座る俺の前に、1人の隊長が顔面蒼白で立つ。
その様子を、俺も含め他の全員で怪訝な表情で眺める。
既にサイデンハルト家の二男を下した冒険者の招集には失敗したと報告は受けている。
それに伴い、周囲から冒険者の1人まともに連れてこれない無能者だと誹りを受けていることも知っている。
だが、それにしては顔色が悪すぎる。
「どうしたゴッツ。
体調でも悪いのか?」
気遣う言葉を投げかけると。
「ヒイイィィィ!!??」
奇声を上げた。
「・・・・・・」
不審者を見るような目を誰もが向ける。
「・・・貴方、気は確か?」
隣にいる娘が全員の言いたいことを代弁する。
「な、ななな、何でもないですとも!?
ちょっと最近悪夢を見続けているだけですから!
あ、あの時のことを・・・」
この男は軽薄な面はあるものの、豪胆な人物として知られていたはずである。
なのに今は、葉の擦れる音を聞いただけで逃げだしそうなほど弱弱しい。
それがどうしたらこうなるのか。
考えられるのは、件の冒険者が何かをしたということか。
「それでは、報告を頼む。」
気にしても答えが出ないので、さっさと進める。
「は、はい。
私は2日前にルッソの街に到着。
その後ネストへと向かい、例の冒険者と接触を持とうとしました。
そうしたところ、運よくネストにその冒険者、「グランド」を、発見・・・
せ、接触、を・・・」
段々声が弱くなり、聞こえなくなる。
その様子に多くの者がいら立ちを募らせる。
俺が叫ぼうとしたところで、言葉をつづけた。
「「グランド」は王都への招集令を拒否。
その後、私に手紙を渡して、私はその場を後に・・・」
「何故、無理やりにも連れ出さなかったのだ。
高々1人だぞ。
Bランカーを下したとはいえ我が愚弟如きだ。
力づくでどうにかすればいいだろう。」
そう口にしたのは、サイデンハルト家の長男であるオルダインだった。
どうもこの男は弟を見下しているところがあり、度々このような言動を繰り返している。
いつもはそこで、弟のオルトバーンの諌める声がするのだが。
「・・・・・・」
意外なことに、微塵も動揺せずじっとゴッツを見ていた。
何も言わない弟に兄はどうやら負けを認めたと勘違いしたらしく得意げな表情をするが、私と私の周りにいる5人はそうは受け取らなかった。
(成長してるな。)
この男はただ、このような些事に気を留めなかっただけなのだ。
今まではどこか頑固で融通の利かない男だったのだが、その面が薄れている。
考えられるのは、やはりグランドという男の影響か。
(どんな者なのだろうか。)
これほど人に影響を与えるほどの人間がどのような男なのか、興味が尽きない。
だがそれは置いておこう。
「手紙を受け取ったといったな。
見せよ。」
「え、あ、はい。」
俺の前まで歩いてきて、恭しく手紙を差し出す。
そしてその内容に目を通していく。
室内すべての人間の目が、今度は自分に向かうのを感じる。
そんなことに今更動じるようなことはないが。
そして目を通し終わると。
「クックック・・・」
怪訝な目を向けられる。
しかしそんなことは気にせず。
「グワッハッハッハハハハ!!!」
大笑いしてしまっていた。
全員の目が点になっている。
だが、そんなことはどうでもいい。
可笑しくてたまらない。
「父上、どうされたのですか?」
「これが笑わずにいられるか!
見てみろ、最高だぞ?」
まだ笑いながら、手紙を娘へ差し出す。
そして数秒の後。
「な、何ですかこれは!
笑いごとですか!?」
顔を真っ赤にして叫んだ。
そして、疑問顔をする他の者たちに手紙をまわしていく。
そして、様々な反応を見せる。
苦笑するもの、憤慨するもの、大笑いするもの。
手紙の内容はこのようなものだった。
我、冒険者、即ち自由人なり
故に汝の命令、聞くこと能わず
されど、命令にあらず、懇願なれば話は別なり
さすれば我、疾く汝が元に参上す
尚、我害為そうすならば、器小さき者の所業と心得られよ
良き返し、切に願う
直訳すれば、
私は冒険者で自由が好きだから、命令に従いたくない
なので、貴方の命令は聞くことができない
だが、命令ではなく、お願いであれば話は別
それならば私は、急いで貴方の元に現れよう
なお、私に害を与えようとするならば、それは器量の小さな者の行いと考えよ
よい返事を、切実に願う
こんなところか。
明らかに俺のことを挑発している。
さらに言えば、こちらの器を図ろうとしている。
もしこのようなことを言われ、憤慨して刺客を差し向けようものならば、それはこの手紙の通り小さな人間だということを自白したことになる。
挑発すると同時に、反撃されることの防護策も講じているのだ。
これを書いた者は、相当の切れ者だろう。
全員が手紙を見たところで、宣言する。
「使者を出すぞ。
今度はこの手紙の通り、「命令」ではなく「懇願」として、だ。
オルハウスト、お前がグランドという男と一番年が近そうだ、頼めるか?」
「お任せください。
陛下。」
腹心の1人が素直に従ってくれたことに笑みをこぼす。
「な、言いなりになるというのですか!?」
「たかが冒険者の1人にそこまでする必要がどこにあるのです!?」
「しかも『四剣』が使者など!?」
「皆の言うとおりです!
こんな無礼者にそこまでする必要があるとでも言うのですか父上!」
だが外野がうるさい。
だが言ってることももっともではある。
「黙れ。」
だが俺には関係ない。
自分の勘が、この男は只者ではないと告げていた。
だからそれに従う。
今まで何度もそれに助けられてきたのだから。
俺が静かに告げると、誰もが息を呑み、静かになる。
「貴様らがなんと言おうと、この俺、デルト王ガイエスが決めたことだ。
何を言おうと覆らん。」
誰も何も言わなくなった。
「では頼んだぞ。
弓のカズルエル家当主、オルハウスト・アル・カズルエル。
失礼のないよう丁重にな。
言っておくが、丁重の意味をはき違えるんじゃないぞ?」
「分かっております。
吉報をお待ちください。」
「では今日はこれで解散だ。
皆、職務に戻れ。」
ぞろぞろと部屋を出ていく家臣たち。
それを見ながら思う。
「さあ、果たして俺の悩みを解消してくれる人間であろうか。
なぜかそんな気がする。」
最近の俺の悩みがこれで解決してしまいそうな予感を感じながら、ひとりごちた。
面白いと思ってくだされば是非評価を
古文苦手なんで、手紙に不自然なところがあったら教えて頂きたいです




