37話 完成形
書きたかったことが一気に消火されました
満足です
学校蔑ろにしてますが
後、終わると言っていて少しオーバーしてしまいましたすみません
「良いですか?
始めてしまって。」
俺が両手のグリモワールを弄びながらそう聞くと、驚いていた彼は2,3度深呼吸をした後、はっきりとした口調で答えた。
「構わない。」
それを合図に、俺は動く。
「起動。」
そう告げると、両手のグリモワール、右手の刃が6本の《ダビデ》、左手の5本の《キキョウ》が、輪本体に刻まれた魔法陣を発光させて、俺の手から僅かに離れた位置を高速回転し始める。
遠心力により刃はすべて外側を向き、直径160cm程の巨大な2つの丸鋸が出来上がる。
辺りに、虫の羽音のような音が満ちる。
その様子を油断のない目で見るオルト殿。
それを満足気に見て、そして意地悪気に告げる。
「今度はさっき見たいに油断しないのですね。
もししてたらまた地面に転がしてやろうと思ってたんですが。」
「う、それは言わないでくれ・・・
思えば、あれも何とも情けないものだな。
戦いの場で油断する時点でもう騎士としては落第もいいところだ。
戦いで油断などする者がこの先生き残れるわけがないのに、私はそれに気付かず言い訳に使うなどと言う大恥を晒してしまったわけだ。」
「・・・分かってるならいいですよ。」
バツが悪いそうにしながらそう言う彼に、俺は若干の不満を感じた。
「せっかくそのことで弄ってやろうと思ってたのに・・・」
「・・・何かものすごく不穏な言葉が聞こえたんだが。
自分で気付けて良かったよ・・・」
「じゃあ行きますよ。」
俺は彼の言葉を無視して動き始める。
「せいっ!」
右手のダビデを投げる。
投げる等と軽く言ってはいるが、その速度は異常だ。
メジャーリーガーの剛速球よりも確実に速い。
だが、その視認が難しい速度に、彼はついてきていた。
槍を構えてそれを打ち落とそうとする。
しかし。
ドガガガガガガッッ
「う、ぐおおお!?」
連続した音が響き、苦悶の声を上げる。
しかし何とか彼はダビデを弾くことに成功して、ダビデは横に飛んでいく。
そして行きとは遥かに遅いものの、それなりの速度で俺の手元へと舞い戻る。
因みに、回転しているのも戻ってきたのも、魔法のお蔭である。
もっとも、魔法陣によるものと俺自身が行使したもの、という違いはあるが。
「凄まじい衝撃だ・・・
数秒は痺れてまともに動かせないな。」
「弾けただけで私は驚きですが。
私は貴方が吹き飛んでそのままダビデがざっくり、と言う想像をしていたんですがね。」
「・・・ぞっとしない話だな。
ダビデとはその右手のものの名前か。
何か意味がありそうだな。」
「ええ、ありますよ。
こっちの左手の装備はキキョウと言います。
それと安心してください。
半分は冗談です。」
「半分は本気だったと?」
「ええ。
ざっくりの部分が。」
「そこは一番駄目だろう・・・」
軽い言葉を交わしてはいるが、その実俺は大分驚いていた。
高速回転することにより発生する巨大な「遠心力」
それだけでも相当なものだというのに、それに加えてグリモワールは刃が自由に動くようになっている
そのため回転している時に刃を受け止めた場合、受け止めたところとまったく同じ個所に5、6回の衝撃がくることになる
同じ箇所と言うところが肝で、そこに一気にダメージが蓄積されるのだ
痺れるで済めば十分御の字であり、普通ならば骨折、悪ければ武器ごと輪切りである
―――そして、さっき戦っていた時の強さのままだったら、彼は間違いなく骨折、油断などしていたら輪切りになっていたはずなのだ
武器の面ももちろんあるだろうが、それだけでは説明が付かない。
それなのに受け止めれたということは、そういうことなのだろう。
「一皮剥けたみたいですね。」
「どういうことだ?」
俺が笑みを浮かべながら言うと、不思議そうな顔をされる。
「闘気による強化はおおよそ、3つの要素で強さが決定します。
何か分かりますか?」
彼は少し考えてから答える。
「私は「量」しか思い浮かばないな。
いや、さっきの君を考えれば使い方も関係あるか。
・・・どのみち全部は分からないが。」
「正解は「量」と「運用法」、そして「質」です。」
「質?」
「ええ。
心拍数や脳波、体温、呼吸、病気の有無。
それら無数のバイオリズムにより決定する要素です。
これは厄介でしてね。
量と運用法は自分の意思で制御が可能なのですが、これは無理なんですよ。
私のように呼吸なんかの生理現象を自由に制御するのは常人には不可能ですから。」
「・・・つまり君はそれが出来ていると?」
「はいな。
さっきの生命力の譲渡もこれの応用ですから。」
生命力、闘気が他人に譲渡出来ないとされているのは当然である。
生命力は十人十色で、まったく同じものなど存在しないからだ。
だが、俺の場合は森での生活でバイオリズムの調節が可能になっている。
そうでもしないと体内のエネルギーを無駄に消費してしまい、生きてられなかったのだ。
そう言うわけで、体の活動を調節し、相手のものに近づけることが出来る。
その状態で相手に触れると、後は闘気が勝手に高いところから低いところへ流れる水のように、体力の多い者から少ない者へと流れ込むのである。
さっきのはそうして行っていたわけだ。
「・・・君は仙人か?」
「へえ。
こっちでもそう言う存在は伝えられてるんですね。
ホントどこまでが通じるのか分からんな。
ああ、話が完全にそれてましたが、私が言いたいのは貴方の闘気の質が大幅に向上してるということです。」
そう言うとオルト殿は目を丸くする。
「そうなのか!?
しかし何故?
私は特に何もしてないが。」
「貴方の精神性の変化が原因ですよ。
肉体は精神と密接に関わってます。
具合が悪いと思い込んだら本当に具合が悪くなるとか聞いたことありません?」
「ああ、確かによく聞く。
しかし、あれは本当の話だったのか。」
「貴方は先ほどのことが原因で精神性が大幅に変化したんでしょうね。
そのおかげでさっきまでのヘタレ具合が嘘のような質になってます。」
「ヘタレって・・・
まあ言われてもしょうがないのだが。
しかしそれでか、さっきからやたらと調子がいいのは。
本当に君には世話になってるな。
感謝してもしきれない。」
「私が望んでやったことですからそんなもの要りません。
ですが、これだけは覚えておいて頂きたい。」
真剣な目を向けると彼は黙ってこっちを見た。
「闘気の質の向上が必ずしもいい成長ではありません。
善意や誠意でなく、悪意や欲望でも質は向上します。
ここで重要になるのは感情の種類ではなく量、思いの強さです。
ですから強さを得たとしても、それを何故得たのかを考えるようにしてください。
そうでなければ貴方はいずれ、力に溺れ身を滅ぼすでしょう。」
「・・・肝に銘じておく。」
軽い気持ちを一切感じさせないその表情と言葉に満足する。
「さて、続けますか。
話ばかりでは観客さんも飽きてしまうでしょうしね。」
「そうだな。
しかし敬語は止めてくれないか、さっきまでの君とのギャップが大きすぎて違和感がすごい。」
「嫌ですよ。
私は認めた相手が年上の時は敬語で接するようにしてるんです。
貴方にそんなことまで指図される謂れはありませんね。」
「評価されてると考えるべきか、遠回しにお前如きが指図するなと馬鹿にされてるのか判別に困るな。」
どう捉えるべきか悩んでいる彼を無視。
今度は俺ごと移動してグリモワールによる連続攻撃を行う。
ダビデで縦から切りかかり、キキョウで彼の逃げようとするであろう方向を塞ぐ。
それを見て、避けるのは無理と判断したらしく槍で突きを放つ。
普通ならばさっきのようにまた腕が痺れることになるのだが、今の彼は視野が広がっているようだ。
「はあ!」
ダビデが弾かれてしまったので、深追いせずに距離を取る。
そして、今度は速力を生かして後ろに回り込んで両方で切りかかる。
それを片方は最小限の動きで避け、もう片方はさっきと同じ方法で受け、弾く。
そのまま激しく打ち合いながら話かける。
「本当、さっきとは目に見えて動きが良くなってますよ。
闘気によるものだけでなく、動きそのものが数段洗練されてる。」
「君に言われると嬉しいのだがっ!
この状態でそこまで余裕を保たれてるとっ、とてもそうは思えない、な!」
「御謙遜を。
グリモワールの刃を受け止めずに、内側の輪の部分を叩いて攻撃を逸らすことにもう気付いたではありませんか。
そうすれば刃の連撃を受けずに済みますからね。」
「軽く言ってくれるものだ・・・!
一撃受ける度にこちらは精神を削られる思いだというのに!」
彼は俺のグリモワールによる攻撃を、輪本体を攻撃することで効果的に防いでいる。
言葉で言うのは容易いのだが、これは彼自身が言ったように相当の集中力と勇気がいるので精神的につらい。
輪を狙うということは、刃の部分を受け止めようとするよりもある程度近づかなくてはならない。
高速で回転している、生半可な武器なら真っ二つにできる脅威に。
それが出来るだけでこの男の度量がうかがえる。
(さっきまでは俺が挑発したこともあって、視野が狭かったんだろうな。
視野が広がったことで戦略に幅が出来、さらに考える余裕も出来ている。
これはやった甲斐があった。)
話してる間も、考えてる間も、ひたすらに装備を繰り出す俺とそれを必死に受け止める彼。
その様を見て周りは盛り上がっている。
俺の攻撃を受けながらも、目の光を失わずに機会をうかがっているオルト殿。
俺はちょっと、サービスすることにした。
手を止めず話しかける。
「オルト殿。
次のには気を付けてくださいね。」
「オルト殿って。
まあ別に構わないが。
私の名前は長いか?」
「ええ。
と言うより貴方も結構余裕ですね。
まだ話す余裕がありますか。」
彼は捌きながらも苦笑した。
「これは空元気だよ。
こうでもしないとやってられない。」
(そうして、余裕を見せよう思えることが余裕なんだがね。)
それは悪いことではない。
戦いにおいてメンタルは非常に重要だ。
空元気でも、そうすることで戦いに向けての気構えが生まれ、切り抜けようという意志が生まれる。
それがどれだけ大事なものか、理解できるのもそう遠くはないだろう、この様子ならば。
「では行きますか。」
回転しているキキョウを振りぬき槍を弾いて距離を取り、足元に魔法陣を展開する。
「魔闘技《火車切》。」
ダビデとキキョウが真紅の炎に包まれる。
因みにこれは、以前言った定義で言えば魔闘技に入らない。
ある理由から、「星銀竜」の素材で出来たグリモワールには闘気をこめるわけにはいかないのである。
だが、それでも十分な硬度と強度、具体的には以前のナイフの数倍、を誇っているので、魔法を込めても全く問題ない。
だから魔闘技と呼んでもいいほどの威力を持っている。
余談だが、日本刀の火車切とは違い、火車を切ったから火車切ではなく、火車で切るから火車切である。
「避けた方がいいですよ。
これは。」
そう前置きして投擲する。
オルト殿は怪訝そうにしながらも、さっきまでのように弾く方が効率がいいところを、助言に従い強引に身を捻って躱す。
それが彼を救うこととなる。
彼の後ろの床に炎の刃が触れた瞬間、その床が爆発する。
「んなっ!?」
爆発による土煙が晴れるとそこには2つ、爆発でごっそりと抉れた地面と、その抉れよりも大きい回転の方向に沿った裂け目が存在していた。
それを見て思わず顔色を青くする彼と観客たち。
「とんでもないことをしてくれるものだ・・・
もし受けてたら木端微塵だったぞ。」
「だから忠告したでしょうが。
怪我もしてないんだから文句言わない。」
「そうだな。
もし当たってたら怪我とか言う以前に死んでたからな。」
「・・・おお。
あはは。
上手いことを仰る。」
「笑いごとではないぞ!?」
気にしないで俺は再度魔法陣を展開。
手元にグリモワールが戻ってきたところで、もう一度。
「魔闘技《雷切》。」
ダビデが今度は、閃電を迸らせる。
キキョウはそのまま回転している。
「じゃあもう一丁行きますか。」
「おい!?
君は私を殺そうとしてるのか!?
まさかさっきまで馬鹿にしてたことを根に持ってるのか!?」
「・・・・・・・・・」
「図星!?」
「行けグリモワール!
奴の口を塞げ!」
「それは死人に口無しってことか!?
て、うおお!?」
俺が投げたグリモワールを、彼は慌てながらも上の方を狙ったダビデを屈んで躱す。
そして一手遅れて飛んできたキキョウを槍で弾こうとする。
―――だが、それは悪手である
先を飛んでいたダビデに溜まっていた電気が、後ろを飛んでいるキキョウへ槍のように飛んでいく!
「いぎゃあああああああ!!??」
結果、2つの間に居た彼は盛大に電流を浴びてしまいましたとさ。
電位差を利用した、後方からの不意打ち。
先ほどの《火車切》で、避けなければならないという認識を刷り込ませたことにより、不意打ちの成功率は跳ね上がる。
「おーい。
まだやれますかー?」
まあ答えなんか分かり切ってるのだが。
「・・・無論だ!」
相当な痛みだったろうに、まるで何事も無かったかのように立ち上がった。
その表情は苦痛に染まってはいるものの。
―――とても楽しそうだ
「了解!」
その様子に俺も楽しくなっていた。
そして、また切り結ぶ。
今度はグリモワールによる斬撃だけでなく、足技や体術も併用する。
いきなりスタイルが変わりやりづらくなり、グリモワールは何とか防げているが、何度か蹴りを食らう。
しかし、それでも楽しそうな表情を崩さない。
そして、今度は彼の戦い方が変わる。
さっきまでの槍の穂先だけを使った戦い方から、石突きを使った受け、払い、流しを行う。
それにより、目に見えて被弾は減っていく。
なので事態は俺が若干優勢であるものの、大差がつくことは無く進行していく。
その中、頭の片隅で俺は思う。
(ああ、そうだ。)
さっきのと同一人物とは思えないほどの手応え、そして意志の強さ。
(これだった。)
その変化を目の当たりにし、俺は思い出す。
(忘れてた、いや、思い出さないようにしていたのか。)
ほんの些細なこと、俺がちょっと背中を押してやっただけだった。
(こんな大事なことだったのにな。)
過去の絶望を味わってから、蓋をしていた思い。
(ほんの些細なことで、どちらの天秤にも傾く。)
あれだけのことで変わるなど、不安定もいいところだ。
(だが、それゆえに尊い、そして価値がある。)
万感の思いを込めて呟く。
「これが、『人』。」
思い出すのは、過去、俺が言っていた言葉。
『人は素晴らしい可能性を持ってるんだから、少しでも多くの人が助かればそれだけ未来の希望も広がるんだ。』
すっかり忘れていたその言葉の意味。
俺が、過去の思いの一部を取り戻した瞬間だった。
―――side オルトバーン
(状況は間違いなく私に不利だ。)
今はある程度拮抗しているものの、それはもうすぐ崩れる。
その理由は簡単、闘気の使い方だ。
さっきの彼の行動で、回復はしたのだが使い方に差がありすぎる。
彼の言い分では私の闘気は質がかなり向上したようなのだが、かといって私の運用法そのものは変わっていない。
つまり、彼のものと比べて効率が悪すぎるのだ。
その状態では、どちらが先に力尽きるかなど言うまでもない。
このままでは、負ける。
そのはずなのに。
(何故、ここまで楽しいのだろうな・・・)
楽しい。
まるで童心に帰ったかのように、見るもの聞くもの感じるものが新鮮に感じられる。
いつもは堅実な戦い方を好んでいた私が、セオリーに無い石突きを使った戦い方をし始めたこともそれが関係しているだろう。
しかも、直ぐにそれに慣れることが出来、今ではそれが普通だったかのように戦えている。
心が沸き立つ。
(このままでは終われないな!)
せめて、一太刀!
それが今の私の思い。
幸い、私はまだ一度も切り札を使ってはいない。
それでも勝てる気はしないのだが、一撃浴びせるのには十分!
相手の猛攻を捌き続けながら、隙をうかがう。
だが、相手が相手か、隙など微塵も存在しない。
逆に、私が見せた僅かな隙に、強引に割って入ろうとしてきた。
(凄まじい・・・!
あんな些細な綻びを狙えるものなのか!
これでは・・・ん?)
ふとある考えが思い浮かんだ。
それは、普通の人間だったら通じないもの。
「だが、やってみる価値はある!」
猛攻に合間を縫って、槍で弾き距離を取る。
そして、一瞬で手順を練る。
(間違えば負け。
だが成功すれば。)
―――一矢を報いることが出来る
「うおおおおおおお!!!」
咆哮を上げて、闘気を全開にする。
もはや、後のことなど考えず、ただ全力を振り絞る。
私の様子を、彼は油断なく見ている。
(これほどの実力差があったら普通は油断するだろうに。)
心の中で苦笑する。
私は分かっていた、彼が全く本気ではないということを。
彼からは何か、そう確信させる気配がするのだ。
だが、それを怒りはしない。
彼は私のために再戦を受けてくれたのだ。
その立場でどうして、文句など言えようか。
「はあああああ!!!」
そして突っ込む。
再度、先ほどのまき直しのような光景が展開される。
私が若干押しているという形で。
だが、所詮は若干。
このままでは私が圧倒する前に、私が力尽きるだろう。
だから、その前に!
私がその思いで槍を操った瞬間。
「うあ!?」
私が声を上げて、一瞬だが体勢が崩れる。
槍が僅かに彼の武器の刃に触れてしまい、それに釣られた形だ。
そして彼はその隙を見逃さない。
「せあっ!」
槍を振るい弾かれたことで、距離が空いていた。
そのため彼は、武器を両方投擲してきた。
そして私に彼の兇刃が迫る!
私はそれを見て。
―――予定通り全力で避けることに成功した。
「何!?」
今日初めての驚愕に声を彼が上げる。
私が思いついたのは簡単。
彼はどんな些細な隙も見逃さない。
ならば、自分から隙をつくってしまえばいい。
そうして相手を誘い込むのだ。
怪しく思われないように、闘気を全開にし、相手に余裕をなくさせて考える余裕を奪った。
そして隙が出来てもおかしくない、刃に触れて体制が崩れるという隙の作りかたを選んだ。
そして、成功した。
今彼は武器を持っていない。
―――まさしく、千載一遇の好機!
私はすぐさま彼に向かい、切り札を使うための準備、思考を纏め始める。
「我が求めるのは風!
すべてを削り引き裂く至高の刃!」
私の切り札、それは「魔法」。
それも、戦闘用に特化させて、詠唱の時間もその威力も申し分のない一撃となっている。
それを武器に乗せて放つ!
そうすることでさらに威力は跳ね上がる!
「風の神シルフィード!
我に力を貸し与えたまえ!」
そして、完成する。
まだ、避けてからほとんど時間は経過してはいない。
そのため、まだ彼の手元に武器は―――
―――何故、武器を投げた?
そこで気付く。
あそこで武器を投げる意味など無かったではないか。
彼の速さならば、手で持って攻撃してきてもほとんど時間は変わらない。
なのに何故、自身が危険に晒されるかもしれない術をとったのだ?
瞬間、いやな想像が頭をよぎる。
(まさか、読まれていた?)
だが、だとしたら何故投げる。
その時、頭に彼があの武器を取り出した時の光景が何故か過ぎった。
11本の刃
バラバラになっている輪
・・・バラバラ?
電流が奔ったかのような衝撃を受ける。
(まさか!?)
後ろを見る。
そこには、後ろへ飛んでいく彼の武器が。
いや、おかしな点に気付く。
武器が、光っている!
「解散!」
そんな彼の声が響く。
途端、輪の部分が弾けてバラバラになり、刃が飛び出してきた!
「く、ああああああ!!!!」
自分に刃が複数迫る。
明らかな直撃コース。
それを俺は、避けようと必死になる。
永遠とも思える瞬間。
結果。
―――私は避けることが出来た
まさしく言葉通りの紙一重。
そして、奇蹟と呼ぶにふさわしい運の良さ。
全てを私は何とか避けることができて、わずかに当たる位置を通り過ぎていった。
弾ける一瞬先に気付けたことも大きかった。
いくつもの要素が重なり、私は賭けに勝つことが出来たのだ。
(運も実力のうちだ!)
私は歓喜し、彼に向き直る。
彼は目を見開き驚愕していた。
私が今日、ずっとしていたその表情を彼がしていることに笑いそうになってしまうが、それも後だ。
魔法を起動し、槍に纏わせる。
「ゲイルシュトローム!!!」
槍が、さらに竜巻の槍を纏い、彼に向かう!
そして、轟音が響き渡った。
凄まじい土煙が舞う。
因みに、観客の人たちは私の一撃を知っていたので、私が詠唱を開始した辺りからすでに避難していたため問題無い。
いくら彼とはいえ、この一撃を受けては無傷では居られない。
倒せはしないだろうが、手傷は与えられるはずなのだ。
―――そう、直撃していれば
「・・・・・・・・・そんな・・・」
そして土煙が晴れる。
「・・・素晴らしい一撃でした。
皮肉もなにも無しに、今のは賞賛に値します。
・・・惜しむらくは、後一歩踏み込んだ想像をしていなかったことですね。」
彼は、無傷で立っていた。
「何故だ・・・」
呆然と呟く。
その理由は簡単。
「何故外れたんだ!」
そう。
今の一撃は防がれたのでも、失敗したのでもない。
逸らされたのだ。
何かによって槍が動かされ、結果、私の魔法は外されてしまった。
「君は一体何をしたんだ!?」
思わず叫んでしまう。
それを見て彼は、少し申し訳なさそうにした。
「これですよ。」
そう言って彼は、足元に刺さっている彼の武器の刃を抜く。
そして、その尻の方の空間を弾いた。
すると、私の槍が動く。
そこで気付いた、私の槍を逸らしたものの正体に。
「糸!?」
「そう。
「地蚕」の糸です。
カーボンナノファイバーの数倍の強度を誇る強靭極まりない糸。
まあそれは通じないでしょうけど。」
「君はそんなものまで仕込んでいたのか・・・」
最早、脱帽するしかない。
彼はいったいどこまで周到なのだ。
「そんなものまで仕込んでいるとは・・・
その武器は本当になんというか。」
私がそう言うと彼は、面白そうに、そして申し訳なさそうに笑う。
「うーん。
まずそこから誤解があるみたいですね。」
「?、誤解とは?」
私がそう言うと、彼は信じられない言葉を口にした。
「私はこれが武器だって、一言でも言いましたか?」
思考が止まる。
どう言うことなのか、理解できない。
だが、鈍った頭で考える。
確かに彼は、「あるもの」や「装備」だとは言っていたが、武器とは一言も言っていない。
「これは私が本来の役割だけだと味気ないので、オプションとして攻撃機能を付けただけなんですよ。
ですから、本来はこれは武器ではないんです。」
「・・・では、それはなんなのだ?」
やっとそれだけを口にする。
するとからかうように言われる。
「ヒントはこの装備の名前です。
あ、2つまとめてのほうですからね。」
あの装備の名前。
《戦輪魔書・グリモワール》
そこで気付く。
「戦輪」はあの形そのままだろう。
だが「魔書」とは?
思考を重ねる。
魔書とは一般的に、魔法について書かれた書物を指す。
しかし、それが当てはまるとは思えない。
そのまま考える。
そして、あることを思い出した。
以前軽く聞いただけだが、魔書にはある機能があると昔は信じられていた。
それは―――
「どうやら、気付かれたようで。」
笑顔でそう言って来る。
「そう。
このグリモワールの本来の役割は―――」
そして気付く
先ほど弾けて地面に刺さっていた刃が、綺麗な円形に、そして等間隔に並んでいることに
「―――魔法の補助装置ですよ。」
その6本の刃、ダビデのものと思われる刃が、輝きを放つ!
「オルト殿。
貴方に敬意を評し、私の力をお見せしましょう。」
先ほどの刃が私から外れる位置を飛んだのは、狙っていたのだ!
この状況を作り上げるために!
いつの間にか、私はキキョウのものと思われる糸で縛られて身動きが取れないようになっていた。
「攻性六芒星《ダビデの新星》完全展開。
出力50パーセントで固定。
上位魔法起動準備。」
私の周囲で見たことのない魔法陣が浮かび上がる。
「さあ、ご覧あれ!
これが俺の『究理式』、その完成形だ!」
そして叫ぶ。
「《魔天楼》!!!」
周囲が闇に包まれる。
面白いと思っていただければ是非評価を
ところで、《魔天楼》と《魔天楼〈バベル〉》はどっちがいいでしょう?
出来ればお答え頂きたいです