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異世界の愚か『もの』 ~世界よ変われ~  作者: ahahaha
デルト王国 ~望んだ望まぬ名声~
36/84

36話 改心、そして再戦

はい、題名通りまだ続きます

次で終わると思いますので、どうかお願いします


今回かなり書きにくかったんで変な部分が無いか心配です

「傲、慢だ、と・・・?

 ど、う言うこ、とだ。」


俺に喉を圧迫されているため碌に言葉を発せなくなっている男が、やっとそれだけを口にする。


「どうも何も、そのままの意味だ。」


そう言って男の拘束を解く。

酸素を求めて荒く息をしている糞野郎。

俺はそれを興味の無い目で見ながら、続きを口にする。


「それは他者の人生の支配だと気付かないのか?

 お前は口で綺麗ごとを言っているようだが、その実、ただセフィリアさんを支配したいだけだ。

 それも、ただのステイタスとして。」


何時の時代も、見栄えのいい女性を侍らせることは男にとって、私はこれだけ身分が高いんですよ、という事実を周囲に示すステイタスとなる。

はっきり言って虫唾の走る話ではあるが。

そして、この男もその例に漏れない。

意識してではなく、感情の暴走の結果なのが唯一の救いか。


「貴様!

 私を侮辱するのもいい加減にしろ。

 私は本心からあの人を欲しているのだ、そのようなことを言って私を貶めるか・・・!」


怒りを押し殺した声でそう言ってくる。

そして、周りの女性陣からも批難の声が飛んでくる。


(コイツ、本当に人気あるな。)


自分が批難されているのにどこか他人事のような気分でそれを聞く。

だが、このままでは詰め寄って来そうだったので、拘束はしておくことにする。

右手人差し指を空中ですらすらと動かす。


すると、奴の足元に魔法陣(・・・)が浮かび上がる。


奴は驚いて飛びのこうとしたが、その前に身体に岩が張り付き行動不能に陥る。

タイムラグのほとんどない魔法の行使に、そして俺が魔法を扱えたという事実そのものに、周囲がどよめく。

相手が動けなくなったことに満足し、相手が何か言ってくる前に言葉を続ける。


「話は変わるがお前、今までセフィリアさんとまともに会話したことが無いそうだな。

 長くてもせいぜい数分、しかも必ず縁談の話から始めるとか。

 いくら一目惚れだからってねえ。」


「・・・それがどうした。

 好きになった人がいるなら、何とかして添い遂げようと努力するのは当然のことだ。」


自信満々にそう言ってくる。

俺は冷めた視線を奴に向ける。

恐らくその考えは、この時代としては極普通のことなのだろう。

魔獣や戦争の脅威がある以上、さまざまなことに性急な行動を取ることが求められる。

そして、恋愛事にもそれは当てはまってしまった。

少しでも気に入った人間が居たら、その人と添い遂げようと必死にアプローチする。

それが普通なのだ。

だからこそ、セフィリアさんも、ディック殿も、この男が気に入らない理由が分からなかった。

あまりにもありふれたことだから。


「当然ね。

 自覚が無いというのは本当に救いようが無いものだな。

 ここまで来ると、俺も無意識に似たようなことをやってるんじゃないかと心配になる。」


俺はそれで同情する気になどなれない。

気に入らないことがあったら、他人のことなど気にせずそれを正させてもらう。

何を言いたいのか分かっていない奴に、言葉を放つ。


「お前がやっているそれ、「昆虫採集」と同じだろうが。」


「なっ!?」


あまりにデリカシーの無いその発言に奴は絶句し、周囲の主に女性から罵声が飛んでくる。

まあ当然だろう、要するに俺は女性を虫と同列視する発言をしたわけだから。

実際にそう見ているのは糞野郎なんだがな。


「貴様は私がそんな不純な動機でセフィリアさんに交際を申し込んでいたと言いたいのか!?」


「違うのか?

 珍しい虫を見つけたら、それを捕まえようとして必死に追いかける子供。

 見目麗しい女性が居たら、それを口説こうと必死に追いかける男。

 その2つにどんな差があるというんだ?

 あるなら是非教えてくれ、それで俺が納得出来たら喜んで負けを認めて、お前の軍門に下ろうじゃないか。」


そう俺が言ってやると、奴は何かを言おうとしてすぐに止め、そのまま少し考え込む。

そして顔色を険しくしていく。

まったく反論の余地が無いことに気が付いたのだろう。

今までの自分の行為がどんなものなのかにようやく気付いたようだ。


(当然だな。

 今までは「一目ぼれ」という聞こえのいいオブラートに包まれていたから気づかずに済んでいた。

 だが、一度それを崩されてしまえば、それまでの蓄積が一気に押し寄せてくる。

 それに耐えるのは難しいだろう。)


「そんな・・・私は・・・そんな恥知らずなことをしてきていたというのか・・・?

 ・・・・・・うう、いや違う!

 認められるかそんなものは詭弁だろう!

 お前の言うとおりだとしても、私のあの人が好きだと思う気持ちは本物だったんだ。

 それが間違いなものか!」


「まあ確かにね。

 一目惚れだろうとなんだろうと、その中に愛情の一種があることには変わりはないわな。

 お前は周囲の評判では人格者だったみたいだし、そこまで否定する気はない。」


ここで俺は一度相手を持ち上げる。

本当にこの男は、行ってきたことそのものは騎士と評するに申し分ないものなのだ。

単身で他人を助けるために魔獣を討伐したことや、汚職を行っていた為政者を捕まえたことが何度もあるらしい。

ディック殿が誠実だと言って居たのも、その点では間違いではない。

そう言うと、奴の顔色が正常と言える程度には良くなった。




―――すぐに落とすけど




「だが、お前は勘違いしているようだがな、俺は別に一目惚れそのものを否定しているわけじゃないぞ。

 俺が否定してるのはお前だよ。

 一目惚れそのものは、その後で自分たちなりに仲を進展させていくことが出来るならば、それは素晴らしいことだと思う。

 だがお前は行動を間違えてしまった。

 セフィリアさんと仲を深めることをせずに、性急な行動をしてしまっている。

 そんなもので仮に恋仲になったとしても、それは絶対にろくなことにはならないね。

 これが俺がお前を嫌いになった理由その1だ。

 そしてそれ以外にもある。」


奴は俺の言葉を黙って聞いていた。

俺の言葉を受け入れ初めているのならいいが。


「もう1つはお前のセフィリアさんに語った言葉だ。

 「守る」「救う」「幸せにする」。

 それらの言葉の裏に潜む無自覚の悪意に欠片も気づいていない。」


奴が何かを言い出す前に、続ける。


「どこが悪いというのだ?

 いいことではないか、その3つは。」


確かに、世間の見方ではそうなのだろう。

だが、俺の見方ではそれらはたちまち醜いものとなる。

そして同時に、とても尊いものにも。


「「守る」も「救う」も、それは見かけ上だけは綺麗だがその本質は酷いものだ。

 どんな高潔な精神の持ち主だろうと、どんな聖人君子だろうと、どちらも他者を見下した上での行動になってしまうのだから。

 「貴方」は「私」よりも弱い、だから「私」は「貴方」を「守ろう」、「救おう」。

 無自覚の見下し、批難、嘲笑。

 そんな形に絶対になってしまう。

  何とも皮肉なことだよな、誰よりも人を守ろうとする者は、誰よりも傲慢に、身勝手に、そして否定的な人間にならねばならないのだから。」


「・・・お前は、過去の偉人に何か恨みでもあるのか・・・!

 それはお前の偏見だ!

 すべての人間がそんなもののわけがないだろう!」


言葉と同様に皮肉気な笑みを浮かべる俺に、尊敬している人間を侮辱された気分にでもなったのだろう。

鋭い視線を飛ばしてくる。


「俺は過去の偉人の方々に敬意をもってるさ。

 そのことを理解した上で彼らは行動を起こす。

 自分のしていることがエゴの塊だということを自覚し、苦しみ、それでもなお進もうとする。

 自分勝手でもいいから他者を「守り」、「救う」ことが出来る。

 この上なく素晴らしい人たちじゃないか。

 そして、これは確かにお前の言うとおり俺の偏見でしかないさ。

 だが、その上で聞こう。

 お前は俺の言葉を、完全に否定できるのか?」


「それは・・・」


「出来ないのだろう?

 偏見ではあっても、これは俺という1人の「人間」の意見であり考え方だ。

 同じ人間である以上、ある程度は考え方は同じなんだ。

 まあ俺の場合は、そのある程度は僅かなものだと思うが。

 それでも、俺の考えたことが他人の感性と完全にずれることはありえない。

 俺が考えたことは、間違いなくわずかなりともお前は理解できるはずだ。

 そこで言いよどむのが何よりの証拠だしな。」


俺がそう言うと、さらに顔を俯けてしまう。


「俺は、誰かを「守る」とか「救う」と言う行為を否定する気は断じてない。

 だがそれには条件がある。」


そこで言葉を切り、続ける


「自分のその行為がどういうものなのかを、理解していることだ。」


「私は違うと、そう言いたいのか?」


「違わないのか?

 お前がセフィリアさんに言っていた言葉は、ある共通点がある。

 それは彼女の主観が全く入っていないことだ。」


「何?」


「例えばさっきの「幸せにする」。

 これは聞こえはいいだろうが、その実、自分がその人物に一方的に何かを「する」という一方通行の考え方が生み出すものだ。

 それは、一種の他者の支配と言い換えることもできる。

 一方的ということは、他者の意志を気にせず行うということなのだから。

 それを望んでいる者相手ならば、それもいいだろう。

 だが、彼女はそれを望んでいると思うのか?」


「・・・無い、な。」


素直に認める目の前の男。

恐らく、これが()の地なのだろう。

自分のした間違いを、素直に認めることが出来るのだ。


「そう言うことだ。

 この場合、彼女に言うべき言葉だったのは「幸せになろう」だったろうな。

 これならば、彼女の意思を尊重する言葉だし。

 「守る」とか「救う」にも同様のことが言えるのは今のお前ならばもう分かってるだろう。

 どちらも相手のことを考えず、自身の一方的な感情の発露だ。

 そもそも人間に、一人前になるのすら難しい人間に、自分以外の人間をもう1人どうにかするなんて、傲慢な考えだとは思わないか?

 少なくとも俺はそう思うね。」


「はは、確かにな。

 なるほど、君の言いたかったことがよく理解出来たよ。

 私は本当にセフィリアさんのことを、無意識の内に支配したがっていたのか・・・

 恋心とは、ままならないものだな・・・

 そんなことをしようとしていたことに気が付かなかったのだから。」


穏やかな表情になり、そう口にした。

大分応えてるようで、その表情は苦渋なものだ。




そして、そのまま俺にとって一種の爆弾を投下してきやがった。




「しかしまあ、君ならば出来るんじゃないのか?

 人を「救う」ことも「守る」ことも。

 その強さがあれば。」


「へ?」


俺は一瞬、何を言われたか分からず、思わず間抜けな声を出してしまった。

そして、どういう意味なのかを考えてみる。


(「すくう」、「掬う」?

 ああ「救う」か、成程ね。

 でも誰が?、俺が?

 何を?、他人を?

 どうやって?、この力を使って?

 どうして?、この力を持ってるから?)


そして意味を理解した途端。


「ぷ!、く、は!

 あははははははは!!!!」


思わず爆笑していた。

それを変なものを見るような目で見る周囲の人々。

だが、俺にはおかしくてたまらなかったのだ、奴のその言葉が。

だって。




―――俺が誰かを救えるなど、微塵も考えたことがなかったから




「おかしいことを言うなあんたは・・・!

 俺が救う?、人を?

 冗談でも笑えん・・・て笑ってるか。

 ははは!」


ひとしきり笑った後、俺は困惑している奴に向き直る。


「俺は誰も救えんよ。

 少なくとも結果的にそう見えるようなことはあるかもしれんが、自分から望んでするようなことは絶対にありえない。

 何故か分かるか?」


その質問に答える者はいなかったので、しょうがないから答えを言う。


「俺がその光景を想像できないからだ。

 人は自分の考え、想像が及ぶ範囲のことしか出来んからな。」





思わず思い出す、『あれ』を。


滅多に会えず、だが会えた時は精一杯の愛情を注いでくれた『母』。

その人を俺は、守りたいと思っていた。

最期、彼女は俺の目の前で劫火に包まれて灰になった。


いつも忙しく仕事をして、俺たちの生活費を稼いでくれた『父』。

その人を俺は、支えたいと思っていた。

最期、彼は俺の目の前で生ごみ以下の奇怪なオブジェに成り下がった。


生意気なことを言いながらも、いつも俺を頼り、俺自身も憎からず思っていた『  』。

そいつを俺は、救いたいと願った。

その結果があんなこととはな。


そんなことがあったからだろう。

俺は、誰かを「守る」ということも、「支える」ということも、「救う」ということも。

それらをすべて、微塵も想像できなくなってしまっていた。

だから俺には出来るはずもないのだ、そんなことは。




―――だが。



―――だからといって、ね。





「まあそんなことは今どうでもいいわな。」


自分の思考を切り上げ、俺は困惑している彼を見る。


「それで、お前はどうするんだ?」


俺はそれを聞いた。

今の自分が最も知りたいことだった。


「・・・素直に私は身を引くさ。

 私は今、敗北感で一杯だからね。」


想像通りの反応。

よって俺も予定通りの言葉を返す。


「足りないね。」


「は?」


「足りない、と言ったんだ。

 大馬鹿者。」


俺は若干の怒りを含んだ視線で彼を見る。


「どういうことだ?

 まさか君は私に何か要求でもするのか?」


「要求と言えば言えなくもない。

 だが、少し違うな。」


「では・・・そうか。

 セフィリアさんには謝罪しよう、それとディック殿にも。

 今まで間違ってたことをしていたのだからな。」


少し考えて、彼は模範的な解答をしてくる。

間違ったことを認め、謝罪をするのは権力を持った者には難しい。

それをさも当然のように言うことが出来るとは。


「間違いか。

 あれは確かに俺の基準からすればそうだが、一般的にはそうではないんだが。

 まあそう思ってるなら謝るといいだろう。

 だけどそれも外れだ。」


「では何だというのだね・・・?」


困惑する彼。

だが俺はその前に聞いておきたいことがあった。


「ところでお前の名前って?」


「は!?

 さっきまで戦ってたのに知らないのか!?」


「はいな。」


「・・・・・・・・・オルトバーン・ロス・サイデンハルトだ・・・」


何かものすごくショックを受けた様子でそう名乗った。

てか、フルネームを聞いたのは初めてだな、そういう点ではディック殿にも責任があるのではないかと思う。

まあそれは置いといて、言う。


「俺はお前に対して、相当な怒りといら立ちを感じていたんだ。

 それはお前の行動によるものでもあったさ。

 だが、一番の理由は別だ。」


何を言いたいのか分かっていない奴に、俺はその理由を言う。









「お前は、もったいない(・・・・・・)んだよ。」









「・・・は?」


間抜けな声を上げるのを聞く。

周囲も何を言いたいのか分かっていないようだ。

それを意に介さず、告げる。


「もったいないと言ったんだ。

 何故お前はそんな風になってしまった。」


「え、いや?

 何故って・・・」


俺の言葉はあまりにも理不尽な言葉だろう。

だが、言わずにはいられない。




―――何故お前はそんな風になってしまったのだ、と




この男は、まっすぐなのだ。

この男の周囲の評判がその証拠。

しかし、その方向を間違えてしまった。

他者からの名声、評価、賞賛。

それらを得るために行動を起こすようになってしまったのだ。

でなければ、今回のようなことは起きなかっただろう。

それが、もったいなくてならない。


「お前は、それだけまっすぐな気性を持っていながらどうして・・・

 方向さえ間違わなければ・・・」


顔を俯けてしまう。




「本当の意味で人を救えるようになっていたはずなのに・・・」




俺は、さっきも思ったように人を「救う」など出来るとは思えない。




―――だが、だからと言って、憧れないわけではない




「俺がいくら焦がれても、欲しても、決して出来ない行為・・・!

 それをお前は出来るようになっていたはずなんだ!

 なのに何故そんなことになってるんだよ・・・!」


悔しい。

俺は力を手に入れたのに、どうしてもそれが出来ないことが。

いや、そもそもそこから間違ってるのだろうか。




―――失うことで得た力で、人を救おうという考え方そのものが




だから、俺はどうしてもコイツがむかついてならない。

俺が出来ないことをできる立場にいながら、それを出来ないでいることが。


「なあ、貴族様。」


―――だから俺は、やらせてもらう


顔を上げ、奴の目を覗き込む。

気圧されて冷や汗を流す奴の顔が見える。


「思い出せ。

 お前がしたかったことは何だ。」


―――その歪んでしまった方向を力尽くで捻じ曲げる!









「思い出せ、オルトバーン・ロス・サイデンハルト!

 貴様の最初の願いは何だった!」


そう聞いた途端、奴の目が大きく見開かれた。









―――side オルトバーン




「思い出せ、オルトバーン・ロス・サイデンハルト!

 貴様の最初の願いは何だった!」




目の前の、自分より若い青年の言葉に、私は考えさせられた。


いつからだったろう。

始めは嬉しかった賞賛の言葉を、どこかで当たり前のことのように考えるようになったのは。


いつからだったろう。

気付かぬ内に、行動の動機が名声を得るためという不純なものに成り下がっていたのは。


サイデンハルト家

この国において、最上位に位置する貴族


その家に生まれるものには、生まれた時から騎士になることが宿命づけられる。

それは次男として生まれた私でも例外ではない。

しかし、それを不満に思ったことなどなかった。

むしろ感謝したものだ。




―――人を、救うことが出来るのだから




今でも、行動そのものは人助けと言えるものではある。

しかし、実際はその動機が全く違う。

純粋な思いと、不純な名誉欲。

どちらがいいかなど、言うまでもない。


そのことに何故気付かなかったのか。

簡単だ。

周りに誰もそれを指摘してくれる人がいなかったのだ。

だれもが、私と同じだった。

成長する内に、心が腐ってしまうのだ。

社会に穢されて。

汚いことに慣らされて。

そうして、心が摩耗してしまうのだ。


中にはあの方のような人もいたが、大抵の人間はそうして段々と壊れてしまっていたのだろう。


今、それを彼に気付かされた。




私はそのことに気付かされると、凄まじい爽快感を味わっていた。

視界が広がり、今まで見えなかったものが見える。

まるで、殻を破ったかのような心持ちだ。

生まれ変わったというのはこういうことを言うのだろうか。




私は彼に、感謝の念と、ある欲求を抱いた。





―――side out









しばらくの間呆然としていた彼が、目に光を取り戻す。

今までのものとは違う、とても澄んだ色の光だ。


(成功、と言っていいのかね?)


俺には判別がつかない。

これからの行動で判断するしかないだろう。


「グランド君。

 頼みがあるんだが聞いてもらえないだろうか?」


そんなことを考えていたら、言葉をかけられた。


「頼み?」


「もう一度戦ってもらいたい。」


その言葉に周囲がどよめく。


「いいんで?

 もう戦える身体ではないでしょうに。」


俺がそう伝えると、澄んだ笑みを浮かべて言う。


「いいんだ、セフィリアさんのことももういい。

 不思議なことに今はとてもいい気分でね。

 私はただ君と戦いたい。

 勝ち負けもどうでもよくね。」


俺はその言葉を聞き、しばらく考える。

そして手を振り岩の拘束を解き、そのまま彼に近づく。


「戦ってもらえるのだろうか?」


「ええ構いません。

 ただ、ちょっと準備がいりますが。」


そう言いながら俺は、また右手の人差し指を動かす。

そして再度出現する魔法陣に彼は身体を強張らせるが、それは無用な心配だ。


光に包まれて、彼の怪我は少なくとも見かけ上は綺麗に無くなった。


その結果に目を丸くする様を苦笑しながら見ながら、今度は手で彼に触れる。

そして自身の身体の呼吸(・・・・・)を彼のものと同調させる。


瞬間、身体から急速に力が抜けていくのを感じる。


そして彼は逆に、力を取り戻していく。


「ふーむ、これにはやはり慣れないな。」


「これは一体・・・?

 何故体力が戻ったんだ?」


その質問に対し、俺は淡々と事実を口にする。


「生命力の譲渡。

 戦いはフェアでないといかんよね、やっぱり。

 まあ基礎能力で相当の差が出てしまってるから、フェアという言葉は当てはまらんかもしれんが。」


「・・・君は本当に私の常識を覆してくれるな。」


驚くことなく、呆れることを選んだらしい。

まあ気持ちも分かる、普通ならば絶対に無理なことだからな。

そのことはまあ今はいいか。


「ところで、貴方の武器は無いようですがどうするんで?

 私はあるものを使わせてもらいますが?」


「問題無いよ。

 私の家の者が替えを持っているらね。

 しかし武器って、また野菜かい?」


流石にまたあんなもので戦われたくはないのだろう、いやな顔を隠せない彼。

俺は笑って否定する。


「いえいえ。

 それはもういいですよ。

 ちゃんとしたのを使わせてもらいます。」


「分かった。

 では少し間をおこうか、お互い持ってこなければならないだろうし。」


「了解。」


一旦別れ、お互いに装備を手に入れに行く。




そして数分後、再度対峙する俺たち。

彼が持っているのは、形は同じだがその身はほのかな青みを帯びている。

恐らく、あれが本来の得物なのだろう。

それに対して俺が持ってるのは袋。

しかも動かす度にジャラジャラと音がし、泥棒がもつ袋のように大きく膨らんでいる。


「・・・また珍妙なものが出てきそうだね。」


「ははは、期待してくださいな。」


「まともなものであることを祈るよ。」


俺は困っている彼を尻目に、綴じている紐を外し袋をひっくり返す。


   ガシャガシャガシャ


細かい破片と、11本の持ち手の無い刃が音を立て地面に広がる


見ようによっては、子供のおもちゃのように見える。

だからか、多少の敵意を向けられた。

俺は苦笑を浮かべ、その破片に魔力を込める。


そして、周囲全員が目を見張る




欠片と刃が、独りでに組みあがり、2つの形を作り上げる。


一言で言えば、輪

欠片が2つの輪を形成し、それにそれぞれ6本、5本の刃がぶら下がっている

キーホルダーのような形状で、刃には尻の部分に小さな輪がついており、それと輪がつながっていて、自由に動けるようになっている

そのため今は重力に従い、すべてが輪の下の方に集まっている

輪の大きさは直径45cm、刃の長さは約60cm

その色は綺麗な銀色である




その様子を見て俺は満足しながら、構える。









「さあ初陣だ。

 《戦輪魔書・グリモワール》。」



そして、高らかにその装備の名称を口にする。

とびっきりの笑みを浮かべて。



やっと出せた新装備。

以前言いました通り、メインウエポンはまだ先になります

しかし今回は難産でした


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