34話 決闘(笑)直前
はい、最後に遊びました
題名通り、本格的な決闘(笑)は次回になります
―――side レオステッド
宿での会話が終わり、皆が寝静まった頃、俺はレイに文字通りたたき起こされた。
不思議なことに音が全くしなかったので、俺は悶絶するほど苦しんでいたのに誰も起きることは無かった。
そして何の説明も無しに、外へ連れ出された。
「・・・頼むレイ、一発だけ殴らせてくれ。
それだけで俺は明日、いや今日も生きていけると思うんだ。
このままでは憤りでどうにかなってしまう。」
酷い扱いには慣れたとはいえ(自分で言ってて悲しくなるが)、これは流石にない。
だから俺は今、怒り狂っていた。
「いいぞ?」
「そうは言うがな、お前は殴られて黙っていられるのか?
しかもいい気持ちで寝ている時にだ。
これは怒っても・・・、て、は?」
信じられない言葉が聞こえた気がする。
「もともとそのために連れてきたんだよ。
ほれ、さっさとこい。」
実に軽いノリで、指でかかってこいというポーズをとるレイ。
そう言われても、いきなり何の説明も無いとなると誰だって動けないだろう。
さっきまで殴りたいと切実に願っていた俺とて、その例外ではない。
困惑している俺に説明をしてくる。
「お前がどのくらい強くなれたのか、確かめようと思ってな。
叩き起こしたのも怒りで躊躇わずに殴れるようにするためだった。」
「・・・なるほど。」
理由、ちゃんとあったんだな。
しかしコイツ、いつも行動や言葉の順序がおかしいんだが、それは狙ってやってるのだろうか?
困惑している俺を見て楽しむために。
・・・不味い、この考え、物凄い説得力がある
このままでは落ち込んでしまいそうだったので、思考を切り上げる。
「確かに普段より心情的には殴りやすくなったが、それでも積極的に殴ろうとは思えんぞ?」
「まあそうだろうな。
予想はしてた。」
「だろ。
ん?、・・・おい、予想してたってそれじゃあ俺が殴られ損になることも予想してたってことじゃないのか?」
俺を怒らせて攻撃させるのがコイツの目的、そのために俺を叩き起こして怒らせようとした。
だが、それだけで素直に攻撃できるようになれないことを予測していたとコイツは今言った。
つまり、叩き起こされた意味はあまりなかったのだ。
「ほう、気付いたか。
いや、そう怒るな。
意味はちゃんとあったぞ、面白かった。」
「お前だけだろうが!」
怒りのままに渾身の右ストレートを繰り出す!
暗闇の中、俺の光る右腕が奴の顔に迫り。
「ふむ、それではこんなものか。」
奴の左手にやすやすと受け止められた。
しかもまるで衝撃が吸収されたかのように衝突音すらせず、当たった瞬間さえ微動だにしていない。
「・・・自信なくすぜ、まったく。」
クリミルにいたころの連中相手ならば、今の一撃をまともに食らっていれば間違いなく痛撃になっていた。
それが片手、いや、指でも止められてしまうかもしれないぐらい意に介していない。
とことん理不尽な男だ。
「ど阿呆。」
「あだっ。」
頭を叩かれた。
「お前、俺が最初に言ってたことを守れよ。
俺はどのくらい強くなったのかを知りたいといったんだ。
なのに今まで通り闘気の無駄遣いで光るような強化をしてどうする。」
「あ。」
コイツに教わったのは、筋肉なんかの最小限のものを強化する方法。
その場合、光が漏れることはない。
光ってたということは、いつも通りのやり方をしてたということか。
「ああ、すまん。
だがな、今までのやり方をいきなり変えろってのは無理だぞ?
これからゆっくりと馴染ませていかんと無理だ。」
確かに教わったやり方は、俺でも理解できるほど分かりやすく、そして革新的なものだ。
だが、身体に染みついた戦い方を変えるのは生半可なことではない。
「いや、お前は間違いなくもう新しいやり方で定着している。
さっきとっさにいつも通りのやり方をしたのは、お前が出来ないと思い込んでるからだ。
・・・仕方ない、予定通りアレで行こうか。」
それなのにレイは、こんなことを言う。
何故そんなことが分かるんだ?
「アレって何だよ。」
いつも通りの、相手に困惑を与えるような言い方に少々ぶっきらぼうな物言いになってしまう。
「コレだ。」
―――瞬間、濃密な死の気配が俺を襲う
レイは何もしてはいない、ただ立っているだけ。
それなのに、俺はとんでもない怖気に襲われていた。
歯の根が合わず、ガタガタと鳴る。
情けないとか、かっこ悪いとか、そんなことを考える余裕が一切ない。
俺の心にあるのは、「死」だけ。
意識が遠ざかる。
今、目の前にいるのが仲間だという意識がすべて飛んでしまう。
そして、俺は意識を失った。
「・・・素晴らしい。」
その声に、意識が覚醒する。
いつの間にか、レイが目の前にいた。
一体いつコイツは移動したのか。
「え?」
そして、違和感に気付いた。
レイの身体が。
―――左腕の、手首から先が無くなっていた
「出来てるじゃないか。
本能と無意識の思考の両立。
的確に己の脅威となるものを、俺の左手だけを破壊した。」
楽しそうに、無邪気な笑みを浮かべる。
その左手から鮮血を迸らせながら。
その言葉に気付かされた。
動いたのは、レイではなく俺だったのだ。
そして、仲間を、「友人」を攻撃した。
「う、うあ・・・?」
「落ち着け、この程度慣れっこだ。
明日の朝には再生できる。
切り落とされたならば、その場でくっつけることも可能なぐらいだしな。」
その言葉を証明するかのようにいつの間にか出血が止まっていた。
「・・・どういう身体をしてるんだ、お前は。」
落ち着いたあと、何故か口から出た言葉は、謝罪ではなく呆れだった。
―――何故か、罪悪感とか申し訳なさなんかの気持ちが全く湧かなかったのだ
「お前は今、こう思ってるだろうな。
「何故俺は謝らずにこんなことを言ってるんだ?」、と。
別に気にすることじゃないさ。
お前が薄情なわけでも、気が触れたわけでもない。
ただ、俺が謝罪なんか望んでないことを敏感に察しただけだ。
だから絶対に気にするな。
これは俺が望んで、俺が招いたことだ。」
その言葉は俺を気遣った故のものなのだろう。
そして、それは確かに間違ってはいないと思う。
だが、レイが謝罪なんか望んでない、というもの以外にも間違いなく要因はあるはずだ。
そう、俺自身に。
だが、その言葉に納得したわけではないが、話が進まないので気にしないことにした。
「何故、俺がその強化法を体得してると分かったんだ?
俺は無意識だったから使えてたか知らないんだが、その様子じゃあ使えてたみたいだが。」
「簡単だ、前言っただろ?、お前は本能で戦うと。
つまり、戦いでは無意識により良い手段を取ろうとするんだ。
その結果、新しい強化法を取り入れるのは自然なことだろ。」
「そんなものか?」
「そんなものだ。」
良く分かりはしなかったが、まあいいや。
「さて、それだけできればお前はもう心配ないだろうな。
今のお前ならば、例え「奴」が行動を起こしても問題なく対処できるだろう。
他の3人も。」
「そのために俺を試したのか。」
「それもある。」
「それも?」
ということはまだあるのか?
「あと、お前に話しておきたいことがあってな。」
「またかよ。
もう隠し事で3人に責められるのは御免だぞ?」
「それでその話なんだがな。」
「聞けよ。」
そんな軽いノリで話された内容は、2つ。
1つ目は、決闘の時に俺がどうすればいいかについて。
―――2つ目は、それが本当ならば、俺は「奴」を絶対に許せないと思わせるものだった
―――side out
―――side セフィリア
以前の話し合いから2日、この日が約束の日となっていた。
つまり、決闘の当日。
後1時間ほどで予定の時刻となる。
「お爺様、何故ここまでの人が集まっているのですか?」
「今は人がいないからいいが、他人の前ではネストキーパーとして接しろよ。
何故?、そんなの儂が知りたいわ。
騒ぎになることを恐れて、最小限の人間にしか伝えなかったはずなのだがな・・・」
街の中心にある、広場。
そこが決闘が行われる場所。
そこには、大量のギャラリーが集まっていた。
「一応、戦える空間は残ってるみたいですが、これでは魔法の使用が制限されてしまいかねません。
レイさんには辛い状況になってしまいましたね・・・
まさか、それを狙ったのでしょうか?」
彼の戦い方は、実際見たわけではないが、魔法を併用することを前提としたものの可能性が高い。
それを知っていて、サイデンハルト家が手を回したのだろうか。
「違うだろうな。
あの家は仮にも「四家」だ。
そんなせこいことをしたことがばれたら末代までの恥となる。
もしサイデンハルトが仕掛け人とするならば、恐らくは、家の者の力を誇示するための行動だろう。
それと、約束を反故にされないための証人といったところか。」
なるほど、そっちの方が道理に合っている。
「しかし、奴は来ないな。
せっかく用意してやったというのに。」
憮然とした様子で、お爺様が手元のカードを弄る。
「あはは・・・
それには苦労しましたよね。
なにせ立派な規則違反ですから。」
「あいつにはその分もきっちり働いてもらわんとな。
・・・と、噂をすればだ。」
通りの向こうから、件の人物が歩いてきた。
ただ、その表情にはいつもの落ち着きが無い。
「遅いですよレイさん。
後50分程ですが、準備は出来ているのですか?
「偽装」とやらを使ってはいないようですが。」
「い、いや、俺は・・・」
気軽に声をかけてみるが、やはり様子がおかしい。
それにいつもの、浮世離れした妙な空気が存在しない。
さらに、風邪だろうか、声が違うように感じられた。
首を傾げていると、新たに4人がきた。
てっきり彼の従者の4人かと思ったのだが、見たことのない人がいた。
茶髪茶瞳、肌の色は一般的な白人のもの。
背は目の前のレイさんより少し低いくらい。
そして、左目に眼帯をしていた。
歳のほどは十代後半といったところか。
藍色のゆったりとした袖を持つ上着と、ゆったりとした裾を持つ灰色のズボンをはいていた。
彼を見ると、レイさんはあからさまにホッとしていた。
「や、待たせたか?」
「そんなに待ってはいないが、これは精神的につらい・・・
これで俺は今日ずっと過ごすのか?」
「我慢しろ。
幸いというか、エルスたちが補佐してくれる。
お前はとりあえず、黙って立っていれば問題ない。
声までは変えられないからな。」
「・・・な!?、まさかお主がレイなのか!?」
「ええ!?」
「大きな声で言わんでください。
幸いここは人いないし、周りの喧騒で誰も聞いてはいなかったようですが。」
「それは他人にも使用出来たのだな。
ほとほと恐ろしい力よ。
つまり、こちらがレオン殿と言うわけか。
道理でいつもより背が高い気がしたわけだ。」
「僕らも驚きましたよ、完全に別人ですもん。」
「レオンをレイ様として扱わなくてはならないことは嫌ですけどね。」
「兄さん、余計なことは言わないようにお願いしますよ?
変なことをして評判が下がるのはレイさんなんですから。」
「・・・俺、信用ねえな。」
言葉だけならば険悪に感じるが、2人とも笑顔ということはただのじゃれ合いなのだろう。
どうやら、さっきまでレイさんだと思い込んでいた彼が本当はレオンさん、そして今来た男性がレイさんと言うことらしい。
「出来る限り私がこの人物、「グランド」と同一人物であると悟られる可能性は潰しておきたいので。
レオンに命令して、こうさせてもらいました。」
後で聞いたことだが、髪の色が茶だから土をイメージして「グランド」らしい。
「声までいつもと違うようですが?
それに、その眼帯はなんなんですか。」
「声については、私はたくさんの声を使い分けることが出来るのですよ。
それと、眼帯はこれもカモフラージュの一種です。
人は顔にこういった特徴的なものがあると、そっちに意識がいってしまい、顔を覚える人はいなくなりますからね。
精々覚えられても髪の色ぐらいに抑えられるんです。
私の「偽装」は、顔の形とかは変えられませんからね、念には念を、と言うわけです。」
「はあー、そこまでやりますか。」
正直、過剰としか思えない周到さだ。
だが、そこまで警戒するに足るとこの人が考えてるのならば、私が口にすることではないだろう。
「ところでディック殿、頼んでいたものは出来てるのですか?」
「ほれ、これだ。
まったく無理を言ってくれるものだ、ばれたら儂は確実に降格だぞ。」
「はは、私がそんなヘマをするとお思いですか?
馬鹿も休み休み言ってくださいよ。」
「ふ、そうだな。」
「まあ、自分からばらすことはあると思いますが。」
「おい!?
本当に頼むぞ!?」
「忘れるまで覚えておきましょう。」
そんな会話を彼らは繰り返していた。
お爺様は、言葉とは裏腹にとても楽しそうにしていた。
それを眺めて微笑む、私を含めた皆さん。
そして2人を眺めながら聞いてくる。
「あのカードは、ネストの登録カードでしょうか?」
「そうですよクルス君。」
「え?、レイ様はもう持ってますよね。
2枚目を発行してもらえるものなのですか?」
「そんなわけないじゃないですか。
当然、完璧な規則違反です。
さっき言っていたように、ばれたらお爺様は降格、私は首でしょうね。
それも、しばらくは冒険者としてのネストの使用を禁止されるかもしれません。」
「おいおいそりゃ不味いだろ。
そんな無茶をあの馬鹿は言ったのかよ・・・」
「貴方だけには言われたくはないでしょうね。(私含む4人)」
「セフィリアさん!?
あんたまで何故!?」
「いえ、なんだか言わなければならないような気がしまして。」
まるで長年の友人のように、スラスラと話が進む。
それがとても気持ちがいい。
「それで、何故こんなものが必要なのだ?
必要ないように思えるが。」
「簡単ですよ。
私が「グランド」であるという確証が欲しかったんです。
それと、「グランド」がGランカーであるという証拠も。」
「?、身分証明のためならともかく、最低ランクの証明などして何の意味があるんですか?」
私がそう聞くと、彼はとても楽しそうな笑みを浮かべ。
「Gランカーだと甘く見て心中で馬鹿にしていた奴に、ズタボロにされる貴族やその他の高位ランカーたち。
実に楽しい光景だと思いませんか?」
そう言った。
「・・・・・・・・・(全員)」
しばらく沈黙が続く。
「・・・まさか、そんなことのためだけに儂に創らせたのか?」
「失敬な、さっき言ったように一応身分証明も兼ねてるんですが。」
「つまり、相手に屈辱を与えるのが主目的ということじゃないですか。」
お爺様が呆然としながら聞き、クルス君が突っ込む。
「・・・ぷ、あははは!
なんですかその理由は!」
本来なら私は怒ってもおかしくないのだろうけど、何故かおかしくてならなかった。
その私の様子を見て、レ・・・グランドさんは笑みを浮かべ、他の方たちは呆気に取られていた。
と、そこでグランドさんがいきなり真剣な顔をする。
「皆、「お客様」が来なさった。
ちょっと隠れていてくれ。」
「あ、分かりました。」
その突然の言葉に困惑する私とお爺様を残し、あらかじめ話を合わせていたのか、さっさと隠れてしまった彼ら。
そして、彼らの言う「お客様」が誰なのか、私もすぐに分かった。
「セフィリアさん。
お久しぶりです、お元気でしたでしょうか?」
声の方に顔を向けると、輝かんばかりの金髪を身に着け碧眼をした、素晴らしく綺麗な顔立ちの20台前半の男性がいた。
「オルトバーン様、さっきまであちらにいらっしゃったのに何故こちらに?
それと久しぶりと申しましても、以前お会いしてから2日しかたってませんよ。」
私がそう言うと、女性ならば誰もが見とれそうな笑顔を見せる。
不思議と私には綺麗だな、と言う以外の感想は浮かばなかったが。
「様づけなどよしてください。
私は貴方と対等な関係を築きたいのです。
そしてこの決闘を貴方のために捧げ、相手を打倒した後に貴方を一生守りとおして見せますよ。
この世界のすべてから。」
世の女性ならば一度は言われてみたい言葉かもしれないのに、何も感じない。
相手から誠意が感じられないわけでも、嘘だと感じるわけでもないのに。
「それとディック殿、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」
「死ね。」
「・・・相も変わらず容赦がないですね。
貴方とはこれから末長いお付き合いになりそうですから、仲良くしたいのですが。」
お爺様の暴言を苦笑して流す彼。
「もう勝ったつもりになっているのか?、糞餓鬼。
気が早すぎるな。」
「私は真剣にセフィリアさんのことを思って、今回の決闘を提案しました。
この思いの強さにかかれば、貴方が即席で用意した有象無象などものの数ではありません。
想いの強さは、大きな力ですから。」
「有象無象ね。
好き勝手言ってくれる。」
そこで初めて彼は、グランド・・・面倒なのでやっぱりレイさんで、に気が付いたらしい。
ずっといたのだが。
「君が私の対戦相手かい?」
「いかにも。
名をグランドといいますお坊ちゃま。」
妙に芝居がかった仕草で一礼しながらそう言う彼に、眉間を寄せるオルトバーン様。
「その呼び方は止めて欲しいものだね。
ところで、私はBランカーなのだが、君は?
その手の情報は一切無くてね。」
「Gですが?」
「は?」
レイさんの言葉に、絶句する彼。
そして確認のためにお爺様に視線を向ける。
そしてお爺様が無言で頷いたのを見ると、剣呑な空気を醸し出す。
「貴方はふざけているのですか?
どうせ婚約者など咄嗟に思いついたことを言ってみただけだと思っていましたが、素人を呼ぶなんて何のつもりです。
しかも神聖な決闘に。」
そしてレイさんの方を向く。
「君、悪いことは言わない、時間が来る前に帰りたまえ。
ネストキーパーから命令されて仕方なく来たのだろう?
私の家の力を使って、誰にも文句は言わせない。
今ならば間に合うぞ、始まってしまったら、私は全力を出さねばならない。
決闘とはそういうもの―――」
「黙れよ糞野郎。」
彼は親切から言っていたのだろうが、レイさんの言葉で止められた。
「予想通りの奴で何よりだ。
これならばボロクソにすることに何のためらいもいらない。
行きましょうお2人さん。
こんな馬鹿と一緒に居ては馬鹿が移ります。」
そして、唖然としているオルトバーン様を残して、話はこれで終わりとばかりに強引に連れ出された。
「レイ様、本当にそれを使うのですか?」
決闘数分前、控え室になっている小屋で全員集まって会話していた。
会場からの人には分からないような位置に立っているので、小屋のまわりに人はいない。
「不満か?」
そう言って、武器を入れた袋を持ち上げる彼。
その様子に彼の従者たちは顔をひきつらせている。
「いえ、不満とかそう言うんではなくてですね。
うーん、なんて言うんでしょう?」
「正直言って突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込めばいいのか・・・」
「相手がとんでもなく哀れだな。
完全にピエロに成り下がっちまう。」
クルス君、ルルちゃん、レオンさんが困ったように言う。
煮え切らない返事しか返せていない彼ら。
何か、危険な武器なのだろうか?
この人ならばどんなものが出てきてもおかしくない。
「言っただろ?
徹底的にやるって。
当然精神的にもやるさ。」
その妙なやり取りに、何とも言えない空気が流れる。
「・・・そろそろ時間だな。
君たちは下がりなさい。
私も出ていく、セフィリア、後は任せた。」
「あ、はい。」
「レイ様、頑張ってくださいね。」
「心配するだけ無駄でしょうけどね。」
「ほどほどにしてやれよ。
まあ無理だろうが。」
そう言って彼らとお爺様は出ていき、レイさんと2人だけが残される。
しばらくの沈黙が続いた後、彼が聞いてきた。
「前から聞きたいことがあったんですが。」
「何でしょう?」
「貴方のご両親はどうなされたんですか?
1度も姿は愚か、存在をほのめかす言葉すらありませんでしたが。」
「・・・亡くなりました、1年前に2人とも。」
もう慣れた質問だったので、それを答えること自体にはもう何も感じない。
本当に傷つくのは、その後に見せる反応だからだ。
誰もが同じ反応しか見せない。
「へえ、そうなんですか。
それでディック殿はあんななんですね。
過保護も理由がちゃんとあったということですか。」
しかしこの人の反応は、他の誰もが見せないものだった。
私は驚いて聞く。
「同情しないのですか?」
「何故貴方が望まない反応をしなければならないのですか。
それに、人が死ぬのは珍しいことではない。
私も似たようなものですね。」
「そう、ですか。」
このことを話すと、誰もが同情するかのような目で見てくる。
私はそれが、泣きたくなるほど嫌だった。
みじめな気持ちになるだけならばいい。
だが、中には両親を馬鹿にするようなことを言うものもいるのだ。
オルトバーン様のように。
本人に悪気は間違いなくない。
だが、それで許せるものではない。
「・・・なるほど。
これがあの方を好きになれない理由だったのですね。」
今ようやく気付いた。
両親を馬鹿にされたことを、私は大人げなくも根に持っていたのだ。
「私の両親は、冒険者として仕事をしている最中に亡くなりました。
それも、高額の依頼を達成するために実力に見合わないランクのものを受けて。」
これを聞いた者の反応もまた、1つだけだった。
―――つまり、なんて馬鹿なことを、と。
どんな状況だったかも知らないで、ただそのことだけを聞いてすべてを分かったかのようにそう言うのだ。
私はおそらく期待していたのだろう。
さっきと同様に、他の人とまったく違うことを言ってくれるのではないかと。
―――そして、その想いは叶えられた
「・・・素晴らしい人たちだったのですね。」
その言葉に、私は心を揺さぶられた。
「貴方を助けるためだったのでしょう?
そんなことをしたのは。
大切なもののために、命を懸ける。
私には出来なかった、簡単でありながら何よりも難しいこと。
私は彼らを尊敬します。」
「何故、分かるのですか?」
声が震える。
「あのディック殿が、そんなことを許すような教育をするわけがありません。
絶対に厳しく約束させていたはずです。
それを破るということはつまり、親との約束を破るほどの重要なものと天秤にかけたということ。
そんな大切なものを私は、貴方以外に思い浮かびませんからね。」
その言葉に私は、抑えられない歓喜を感じていた。
そして、気が付いたら何もかもを話してしまっていた。
今までため込んでいたものをすべて。
お爺様に伝えていないことさえも。
―――この人ならば、すべてを受け入れてくれる
そんな、自分勝手なことを信じることが出来たから。
―――side out
俺はセフィリアさんに胸の内を吐き出された後、直ぐに武器を入れた袋を持って会場へ向かった。
俺が到着すると、会場が割れんばかりの歓声が上がる。
因みにその中の半分は、糞野郎を応援する婦女子の方々の黄色い声援だった。
まあそれが男どもは気に食わないのだろう、俺の方には野太い声援が送られる。
まあ俺としては、声援を向けてくれるなら男女どちらでもいいのでそのことに不満などないのだが、「殺せー!」だの「奴の顔をぐちゃぐちゃにしてやれ!」だのは流石にどうかと思うのだが。
そして、中心に着くと目の前には糞があった。
「君、すごく失礼なことを考えてはいないか?」
「失礼な。
私は何故広場のど真ん中に汚物があるのかと至極当然の疑問を思っただけですよ。」
「・・・まったく君には呆れる。
GでBに勝てるわけなどないのに、逃げるチャンスを与えられてそれをくだらない意地で台無しにするとは。
君の望んだことだ、一生残るような怪我をしても恨まないでくれよ?
まあ、ただ立っていてくれれば大怪我をすることもないだろうが。
気が付いたら終わってるだろうから、妙な心配はしないでくれていいよ。」
「よく回る舌、いや糞だな。
いや、汚物が音を出せるだけでそれは大した進化ですか。
確かに貴方は糞の中でも最上位なのでしょうね。
まあ所詮は汚物でしかありませんが。」
「・・・始まったら2秒で方を付けさせてもらうよ。
私とて、格下相手に馬鹿にされれば腹が立つ。」
(は、どこまでも上から目線か。
実にいいね、その顔が屈辱に染まる様をじっくり見せてもらおう。)
そしてお互いに距離を取る。
そして審判の壮年の男が口を開く。
「両者、武器を取り出して構えてください!」
その言葉を聞くと、糞が綺麗な銀の槍を構える。
完全に突くことのみに特化しているらしく、そのフォルムはほとんど針そのものだ。
だが、その余計な虚飾の無さに好感が持てる。
まったく、武器だけはいいものを使ってやがる。
「どうした。
抜かずに負けを認めるか?」
いっちょ前に挑発してくる糞に触発されたわけではないが、俺も袋から今回の武器を取り出す。
―――その武器の姿に、誰もが言葉を失った
太く、片方の先端が尖っている純白の身
その反対側には、みずみずしい豊かさの象徴の緑のひらひらがつながっている
そして、会場の全員が心を1つにし。
「ダイコンじゃねえかーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
怒号がルッソの街全体に響き渡った。
面白いと思ってくだされば是非評価を
新武装の登場を期待してくださっていた方には申し訳ありません
サブウエポンは次回か次々回出ますが、メインはまだ先になります