33話 始動
思った以上に大学の負担になってます・・・!
甘く見ていた、これからは5日に1つになると思います。
時間があれば速まるかもしれませんが。
「お主にセフィリアの婚約者を演じてもらいたい。」
「いきなり何言ってやがる糞爺。」
一段落した当たりを見計らってネストへ入ると、案の定ネストキーパーに呼び出された。
そしていきなり出された言葉がこれだ。
やはり面倒なことになった。
今日はどうも自分の思うように運ばないことばかりなのでイライラしており、つい暴言を吐いてしまった。
まあ、本人は気にする余裕も無さそうだからいいだろう。
俺の両隣の2人に注意を向けていたからだ。
許可したわけでもないが、気が付いたら囲まれてた。
「ディックさん、そんなことをレイ様に頼むのは止めて欲しいですね。」
「まったくです。
周りに変な誤解をさせたらどうするんですか?」
「うお・・・」
「あわわ・・・」
「ぬう・・・」
エルスとルルからかなりの威圧感が放たれる。
それにレオンとクルス、信じがたいことにディック殿までもが気圧された。
(すごいな、一時的とはいえここまでの気当たりを見せるとは。)
俺としては成長は嬉しいことだしこの程度ならばこの間まで日常的に受けていたので、感心しただけだが。
なのでさっさと疑問を口にする。
「そもそも、そんなことを私に頼む意味なんてないでしょう?
貴方の権力を使いさえすれば、冒険者の1人や2人簡単に消せるでしょうに。」
それにセフィリアさんが答える。
「物騒なことをおっしゃますね。
そんなことをしてたら人望が一気になくなってしまいますよ。
そういうことは、ばれなくても噂のような形で広まるものですから。」
「あくまで例えの話ですよ。
私はディック殿ならいくらでも対処の術を選べるだろうと言いたいんです。」
「あはは・・・
確かに普通の人ならばそうなんですけどね・・・」
「?(俺たち)」
セフィリアさんが心底困ったという風な表情に、俺を含む全員が首を傾げる。
その疑問にディック殿が答える。
「あの糞餓鬼はサイデンハルト家の次男だ。
今のお主ならばこれだけで通じるだろう?」
「!(仲間)」
「・・・なるほどね。
そりゃまた一段と面倒な。」
各国の主な家についてもほぼ完全に把握することが出来てる今ならば、確かにその言葉だけでどういう状況か理解できた。
もと貴族の彼らも、言わずもがな。
(ちょっと聞いただけだが、丁寧な態度と物腰だったからそれなりに身分の高い人間とは思っていたが、まさか『四家』の1つとは。
いくらネストキーパーでも厳しいか。)
デルト王国には、侯爵や伯爵なんかの爵位から切り離された最上位貴族が存在する。
それらは俗に『四家』と呼ばれている。
戦士の国らしく、どの家も武力に優れ、代名詞ともいえる武器を一種類もっているそうだ。
その権力は他の貴族と一線を画し、法の制定や国王への諫言の権利など、さまざまな特権を得ている。
なんでも初代デルト王の親友にして、建国時に活躍した最大の英雄たちの子孫だとか。
・・・実にありきたりな設定だ
サイデンハルト家はその1つで、槍を司どる家。
その子息ということは、あの男もやはり槍を使うのだろうか。
ネストは国家から独立し、独自のシステムにより成り立っており、国からの影響力はほぼ遮断されている。
しかし、流石に完全にとはいかないもので、相手の家がもし本気になればなかなか面倒なことになる。
流石に潰したりなどは、デルトが世界中の冒険者から憎まれることになるのでありえないが、依頼の減少などの細かい嫌がらせならばいくらでも可能だ。
下手な扱いをすれば、少なからず打撃を受けるだろう。
しかし。
「その割にはずいぶんな扱いをしていたように思えますが?
直接にではありませんが、はっきりと死ねって意味の言葉を言ってましたよね?」
俺に頼みごとをしてくると言うことは少なからず脅威に感じてのことのはずのことだと思ったのだが、あの時のこの人の態度を考えればどうも噛み合わない。
「・・・あの男、オルトバーンはいけ好かない奴ではあるが、礼儀正しく誠実な男だ。
破談になってもお主が考えてるような陰険な手段は使ってはこないと確信してるのでな。」
「貴方が認めるとは。
本当に好青年みたいですね。」
ディック殿が素直に他人を褒めたことに驚く。
この人はそのオルトバーンという人物を嫌っているはずだが、その程度で見る目が曇ったりはしないだろう。
ということは、その男は本当に誠実で、しかも権力を持ち、さらに容姿までいい(俺が見たのは後ろ姿だけだったがそれだけでも端麗な容姿だと確信できた)。
「それって、断る理由が無いじゃないですか。
貴方が個人的に嫌ってるというだけですよね。
さらに言えば私を巻き込んでまで断りの理由を付ける意味までない。
いっそのこと仲を認めるのも手だと思いますがね。」
俺がそう言うと、ディック殿が目を血走らせる。
「そんなこと認められるか!
とにかくあの男は好かんのだ!
儂のたった1人の孫娘をあのような者に渡すなど耐えられ・・・ぐはあ!!??」
「いい加減にしてくださいお爺様。
感情論だけで語られても困ります。」
「うわあ・・・」
「ひでえな・・・、そこまでするか?」
「セフィリアさん、意外に行動力あるんですね・・・」
「ん・・・、まあ気持ちはわかりますが・・・」
「見事な一撃ですね。
的確に脳を揺らす箇所に、意識を辛うじて断ち切らない程度の力で一撃。
恐れ入りました。」
暴走していた老人の頭を、セフィリアさんがどこからか取り出した鉄製の棍棒で殴った。
周りの皆はその行動に呆気に取られていたが、俺は見事な一撃に感心していた。
この人も、なかなかの実力者らしい。
そう言えば本人の意志を聞いていなかったので、聞くことにする。
「貴方はどう思ってるんですか?
その人のことを。」
「正直言って良縁だとは思ってるんですが、私も・・・・
とても素晴らしい方だとは思うんですが、どこかで踏ん切りがつかないんですよね。
あの人よりだったら、貴方のほうが興味が惹かれますし。」
「私ですか?」
困ったような様子で、なんだか凄い爆弾を投下された。
両隣の2人が一気に不機嫌になる。
「ええ、貴方ほど謎めいた存在を私は知りません。
私、好奇心がとても強いんですよ?
色々なものを見てみたい一心で冒険者になったくらいですから。
まあ、今は不本意ですがネストで受付嬢をやらされてますが。」
「はは、それは気が合いますね。
私も「好奇心は猫を殺す」を地で行くような性格ですし、好奇心は人一倍強いと自負してます。
貴方とは話が合いそうだ。」
「そうですね。
私も貴方とは仲良くしていきたいと思ってます。」
「・・・レイ様、楽しそうです。」
「私たちにはそんなこと言ってくれたことないのに・・・」
軽く会話が弾み笑顔で会話する俺とセフィリアさんを見て、エルスとルルが今度は落ち込んでいた。
それを見て、この人はさらに笑みを深くする。
「ふふ、大変そうですね。」
その言葉だけ聞けば同情してるようにも聞こえるが、表情がそれを裏切っている。
だから俺も笑みを深くして返す。
「確かにそうですが、それ以上にいつも楽しませてもらってますよ。
この2人といると、飽きませんからね。」
俺がそう言うと、2人は顔を赤くして黙ってしまった。
「・・・そうですか。」
羨ましいものを見るような目で見てくる。
なんだか空気が家族の団欒みたくなってしまった。
次の一言でぶち壊されたが。
「でも、お2人にそのような恰好をさせるのはどうかと思いますが。
どのような趣味を持とうと貴方の自由ですけど、本人に無理やり―」
「これは彼女らが勝手に着たんですよ!
俺の趣味ではありません!
というか、何故今更になってから言いますかね、せっかく気にならなくなってきていたのに!」
今になってそのことを蒸し返されるとは思わなかった。
「そうなんですか?」
「別に隠さんでもいいぞ?
儂らは別に気にならんからな。」
「糞爺・・・!
「偽装」でお前に化けて悪さして、社会的に抹殺してやろうか!?」
それからしばらく、切れる俺とそれを宥める仲間、誤解を解こうとしない2人で、ぐだぐだな会話が展開された。
「それで、私としてはそのような面倒なこと御免ですね。
下手したら私まで目を付けられます。」
やっとのことで気を落ち着けることが出来たので、さっさと自分の意見を言う。
「そこを何とか頼みたいのだがな。
報酬は金貨5枚だ。
言っておくが、これは儂の完全なポケットマネーだ。
儂の誠意を理解してもらえると思うが。」
「・・・何故そこまで?
別に私でなくてもいいでしょうに。」
個人で金貨5枚も出すなど、いくらネストキーパーといえど相当な出費だ。
俺としてはそこまでして俺に頼もうとすることが理解できない。
「・・・お主は途中からいなくなっていたから聞いてなかったと思うがな、実は、婚約者がいるからという理由を付けて断ったのだ。
だがあの男も粘ってきて、それで最終的にその婚約者と決闘をして勝った方にセフィリアとの仲を認めると言ってしまってな。」
その言葉に驚く。
「・・・貴方らしくありませんね。
その手の交渉は得意分野でしょうに。」
この人ならば、言論でねじ伏せることなど容易であったはずだ。
ちょっとやそっとの綻びがあったとしても、それをさらに利用して相手を追い詰められるほどの経験を持っているのだから。
しかし、次の言葉で俺は呆れながらも一応納得した。
「セフィリアが以前別のクズに絡まれた時に、「自分より強い人間と付き合います」と言ったのをそいつは聞いていてな。
孫の言葉を違えるわけにはいくまい。」
「この爺馬鹿が・・・」
孫が絡むとホント頼りにならんな、この人は。
まあ人間、それくらい弱点があった方がいいのかもしれんが。
「それで、オルトバーンはランクで言えばBの中位の猛者だ。
そこらの連中では太刀打ちできん。
だから、儂が用意出来る最強のカードであるお主に協力してもらいたいのだ。」
「とは言いましてもね。
貴族とことを構えるなんて勘弁ですよ、はっきり言って。
どんなとばっちりを食らうか分かりません。」
いくら相手が誠実な人間だとしても、その家すべての人間がそういうやつなわけがない。
仮に俺が引き受けて、それでその男を伸してしまったとしたら、顔に泥を塗られたと思って反撃してくる奴が必ずいるだろう。
その時はあらゆる手を尽くして家ごと潰させてもらうが、そんなことをいちいちしていたらきりがない。
「・・・さっきから気になっていたのだがな。」
そこでいきなり、ディック殿が鋭い視線を向けてくる。
「何故そこまで引き受けたがらないのだ?
お主のその面倒なことになるという理由は建前にすぎんのだろう?」
「え?(全員)」
「・・・はて、何のことでしょう。」
ディック殿の言葉に、全員が疑問の声を上げる。
俺は白々しくとぼけてみせる。
(うーん、やはりばれたか。
孫が絡むと冷静になれないからもしかしたらと思ったんだが。)
「お主の魔法があれば、そんな面倒事など意識する必要がまったくない。
儂はあの男に、相手の外見をまったく伝えていなかったからな。
今の姿を変えてしまえば何の問題もないはずだ。
そして魔法を使えるように、儂が外見を教えない、という配慮をしたことを予想してないお主ではないだろう?」
その通り。
「偽装」さえあれば今回の依頼はなんのリスクもなく達成できる。
そしてこの人ならば、それを使える舞台を整えてくれているのは予想していた。
それなのに直ぐに引き受けなかったのは、報酬をできるだけ多くするためと。
―――この依頼が、俺にとって喉から手が出るほど引き受けたいものだと言うことを、悟らせないようにするため
相手が貴族、しかも四家と聞いた瞬間、この依頼は俺にとって絶対に受けなければならないものとなった。
『目的』のために。
「私としては貴方たちのことを気に入ってますから手伝うのは吝かではありません。
ですが、引き受けてしまえばその相手に悪いですからね。
正直あまり乗り気になれないのですよ。」
そのことを知られても特に問題はないが、情報の漏えいはあらゆる意味で利点は無いので、できる限り隠しておきたい。
(何か、自然にこの依頼を引き受けることのできる因子は無いだろうか。)
先ほどの言葉は自分の本心でもあるので、嘘だと思われる心配はない。
なので、ディック殿は特に疑わずに受け入れてくれた。
「まあ、そうだな。
では条件をさらに上乗せする必要があるのか。
ふむ、引き受けなければ書庫への出入りを禁止する、というのはどうだ?」
「意味ないですね。
もうあそこにあるめぼしい本はすべて読み終わりました。
もうその脅しは効きません。」
「あの蔵書量をか!?」
「本当に呆れますね。
あの量ならばふつうの人間は数年かけて読むものでしょうに。」
「読み終わったものはしょうがないですよ。」
「く、では、以前儂の邸宅の庭を滅茶苦茶にしたことは―」
「あれもあの後すぐに直してあげたでしょうが。
言っておきますが、壊したのは事実だろう、とか言っても無駄ですからね。
もう跡形もなく修復が終わった以上、壊したという証拠もないのでひたすらしらを切らせてもらいます。」
「うむむ・・・」
俺の弱みを攻めようとしてくるが、俺は特にヘマをしていない上に人望も今ではあるのでどうしようもない。
もし妙な噂をこの人が立てようとしても、そんなことをしたら自分の人望を失いかねないからだ。
直ぐに脅しのネタが尽きてしまい、困り果てていた。
俺としても断りたくはないので困っていたら、セフィリアさんが、俺にとってはとても重要なことを言ってきた。
「実を言いますと私としても、出来れば貴方に引き受けてもらいたいのですよね。
碌に話したこともないような方とお付き合いするのは私としても嫌で―」
「セフィリアさん、それは本当ですか?」
「え?」
いきなり空気の変わった俺に、彼女だけでなく他の皆も困惑した。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
「貴方はその男とあまり会話したことが無いのですか?」
「え、ええ。
最初にお会いしたのもほんの2か月前ですし、ずっと私は受付嬢をやっておりますので空いてる時間が無いので。」
「・・・へえ。
そうなんですか。」
意図せず平坦な声が出る。
「ディック殿、貴方のことですからその男が来た時はいつも傍にいたのでしょう?
そいつはどんな言葉を彼女にかけていたのですか?」
「そんなことを聞いてどうするのだ?」
「いいから貴方の主観を外して、覚えてる範囲で一字一句違えず教えてください。」
「わ、分かった。」
俺の気迫に若干押されながらも、彼は話してくれた。
それによると
曰く、「一目ぼれを初めて経験しました」
曰く、「貴方を一生守らせてください」
曰く、「貴方のために強くなります」
などなど歯の浮く台詞を次々と口にしていたらしい。
「私は穴があったら入りたいです・・・」
「す、すごいですね、その方。
そこまで情熱的な台詞をスラスラといったのですか?」
「私も言われてみたいですね。」
自分のことだけに、セフィリアさんは顔を真っ赤にして消え入りそうな声で答え、エルスとルルは羨ましそうにしていた。
そしてレオンとクルスは苦笑を浮かべ、ディック殿は怒りを再燃させていた。
そして俺はと言うと。
「・・・・・・・・・反吐が出る。」
その言葉に反応し、驚いた様子で皆が俺を見て―――
―――言葉を失った
「前言撤回、どこが好青年だ。
まったくの自覚無しに他者を見下してる最低の人種だな。
まったく、本当に今回の依頼は都合がいい。
そんな奴を合法的にぶちのめせるんだから。」
―――俺から放たれる怒気によって。
「ど、どうしたのだ?」
「ああ、貴方は気にしなくてもいいですよ。
それと、この依頼引き受けさせて頂きます。
条件がありますが。」
「条件、だと?」
「ええ。」
放たれる怒気はそのままに、綺麗な笑みをつくる。
「条件は1つだけです。
私がその男に決闘の場ですることを、何も言わずに見ていてくれればいい。」
「お主、まさか殺したりは―」
「大丈夫ですよ。
殺したりはしません。
ただ―――」
さっきまであった、引き受けた時の相手への遠慮は今は微塵もない。
そして、引き受けるための理由もさっき見つかった。
何故なら。
「徹底的にやらせてもらいますからね。
その心底気に入らない糞野郎が、改心するまで。」
俺は心底嫌いな人間にあったら、ぶちのめしてやらねば気が済まないからだ。
夜、最初の夜からずっと泊まっている宿屋で皆で集まっていた。
と言うか呼び出された、他の4人に。
当然議題は。
「何故あんなことを引き受けたんですか(だ)?(全員)」
それに対する答えは簡単。
「気に入らんからだ。
相手がな。」
当然皆は納得できないようだ。
「どうしてですか?
話を聞いた限りでも、そして周りの評判でも悪い人間だとは思えませんよ?」
話が終わってから今まで、相手の評判を聞いて回っていた。
それによると、その評判は頗る良い。
誰もが賛辞の言葉を投げ、理想の騎士だと絶賛していた。
だが、俺にとってはそのようなものどうでもいい。
俺が最も信用するのは自分の見たもの感じたものだからだ。
「それは見てくれだけだ。
いや、事実、中身も一般の基準からしたら素晴らしい人間なのだろうな。
しかし、俺にとっては一番嫌いなタイプの人間だよ。」
「そうなのか?」
「少なくとも、俺はそう確信している。」
その言葉を聞いた皆はしばらく渋い顔をしていた。
(まあしょうがないわな。
まともな感性では俺のような考え方は出来ないんだから。)
そんなことは分かっていたので、特に落胆することもない。
「分かりました。
貴方がそういうなら私は何も言いません。」
だから、このルルの言葉には驚いた。
「貴方がすることにはいつも理由がありますからね。
今回もそうなのでしょうから、私は貴方がすることをゆっくり見させてもらいます。」
「それは、俺を無条件に信用しているということか?」
信じてくれるのはいい。
だが、それが自意識を無くした上でのただの依存だとしたら、それを許すわけにはいかない。
自意識を失った人間はいずれ破滅する。
「違います。」
だが、彼女、いや、彼女らは違ったようだ。
「それではただの依存ですからね。
私たちは貴方の決定に疑問を持ちながら、それがどのような結果に結び着くのかを観察させて頂きます。
これならば文句もないでしょう?、レイ様。」
笑顔でそう言うエルス。
自分の意見をしっかりと持った上で、相手の意見がどういう結果を生むのかを知ろうとする。
このような時の理想的な回答だ。
「・・・成長したな、君らは。」
俺はその成長に素直に感嘆し、喜ぶ。
「それに、貴方の狙いはそれだけではないのでしょう?
相手を倒す以外にも、何かが。」
「ん?、そうなのか?」
今度はクルスが鋭い指摘をする。
レオンは相変わらず。
「その通り。
別の目的があってのことだ。
しかしレオンは本当に・・・」
「な、なんだよ。
悪いか、察しが悪くて。」
「いや。
むしろお前はそのままの方がいいだろうな。」
「は?、何故だ?」
「そのうち分かるさ。
それに、今はそんなことはどうでもいいしな。」
そこで俺は立ち上がり、窓から月を見上げる。
皆の視線が俺に集まる。
「予定はいろいろと狂うことになったが、早いに越したことは無い。
計画を早めることにしよう。」
そして、両手を広げ、告げる。
「さあ始めよう、世界よ。
俺は動き始めるぞ、お前を変えるために。
そのために先ずは―――」
いったん言葉を切り、笑みをつくる。
「―――デルト王国に、楔を打ち込んで見せよう。」
誰もが気付かず、知りもしないこの出来事。
しかし、これがこの世界の、最初の歴史の変換点であった。
面白いと思ってくだされば、どうか評価を