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異世界の愚か『もの』 ~世界よ変われ~  作者: ahahaha
行動開始 ~純粋な愚か者の願い~
31/84

31話 知識は大切

話が動くのは次回になりますかね。

思いっきり主人公に遊んでもらう予定です(笑)

しかもレオンは使わずに




最近、他の作者さんの作品に触発されてしまい、令のIFルートで現代学園魔法ファンタジーやりたいなと思ったりしてます

まあ書くとしても、それはこれが終わるか一段落した後ですけど



―――side クルス




周りを書物に囲まれた一室。

その蔵書量は裕に10000を超えているだろう。

さすがネストキーパーの所有物だけあって、それらは綺麗に整理整頓され、誰もが利用できるような図書館には置けない代物も多数あり、義兄様はひどくご機嫌だった。

これもおそらくこの人の狙い通りだったのだろう、つくづく恐ろしい人だ。

今その部屋の中に僕たちはいる。


「・・・・・・・・・」


誰も何も言わない空間に、義兄様の本をめくる音だけが響く。

その速さは尋常ではない。

ほんの十数分で読み終え、次の本へとどんどん手を伸ばしていく。

始めは皆、そんなやり方で頭に入るとは思わなかったので懐疑的な視線で見ていたのだが、質問とかをして確認してみるとそんな考えは吹き飛んだ。

重要な部分はすべて暗記出来ていたのだ。

それを知った僕ら、その中でも一番勉強していた僕は、今までの人生の苦労を根本から否定された気がして、ひどく落ち込んだものだった。

今はこの人のやることだと割り切っているが。

それに、何でそんなことが出来るのかを聞いた時、彼はこう答えた。


「例えばこういった研究論文なんかの著者ってのは、大体自分の功績を残すために虚偽の報告をしているものだからな、この時代の人間は。

 その中から真実を抜き出してしまえば、実質の覚える内容は三分の一ほどなんだよ。

 だから、読むのは早くて当然だ。」


あまりにもあっさりと言うのでつい頷いてしまいそうになったのだが、それには虚偽の情報と真実の情報を的確により分ける必要がある。

普通の人間には無理だ。

僕らの中で、この人の性格以外の面は人外として扱うことが決定した。

・・・性格も、「一応」人間っぽいというだけだが


それはさて置き、僕らがこの部屋に入るようになってから10日が過ぎている。

その間僕らが何をやってるのかというと・・・





「そろそろどうだ。

 覚えられたか?」


「僕は半分ほどですね。」


「私も同じく。」


「私は7割ほどでしょうか。」


「・・・・・・」


僕らは義兄様から配られた数枚の紙とにらめっこしながら、それぞれ答えた。

僕、ルル、姉様の順に。

無言を貫いているのはレオンさんだ。

渡された紙には、手書きとは思えない精密さで人体構造が細かい解説付きで載っている。

その内容だけでも、世界の学者や医者を卒倒させられそうな代物だ。




これを彼は、初日に絶対に他の人間に見せないと堅く誓わせた上で僕たちに配った。


「これを見て、どうすればより強くなれるか考えることだ。

 戦いを教えるとは言ったが、俺が提示するのは言わばただの白紙の紙だけ。

 人から与えられた強さに一体どれだけの価値がある?

 そんなものは砂上の城よりも脆い偽りの強さだ、自分の力で得た強さを持つ本物に会えば、一瞬で崩れ落ちるような、な。

 だから自分で考えろ、どうすれば強くなれるのかを考え、自力で強くなれ。

 俺が渡した白紙の紙に、自分で自由に絵を描いていけ。

 そうすれば必ず前に進めるはずだ。」


そう言って義兄様は、本を読み始めた。

こちらに注意を向けるのは、分からないところを聞いた時や、どこまで学習が進んでいるのかを確かめる時ぐらい。

それ以外はずっと本を読んでいる。

と言っても特に冷たいとかそういうことは無く、時々見せる絶妙な配慮で空気を過ごしやすいものへと変える。

すごいの一言しか言えない。




「・・・なあ、なんで俺のだけ他の3人と違うんだ?

 こいつらのは身体の部位の名前がついてるのに、俺のにはないんだが。」


と、レオンさんがそんなことを言いだす。

そして一斉に呆れた視線を向けられる、もちろん僕からも。


「・・・お前、それを今更言うのか?

 もうこれ初めてから10日だぞ。

 何も言わないものだから、てっきり理解しているものだと思ってたんだが。」


その言葉には反論の余地が全くない。

確かにレオンさんの紙には、僕らのものにあるような内臓や筋肉の名前が無い。

そこには、1とか2とかの記号が書き込まれている。

そのことを最初に指摘していたのなら呆れるようなことは無かったのだが、10日もしてから言うのはどう考えてもおかしいだろう。


「う、そうなんだが、お前のやることだから何か意味があるんだろ?

 だからなかなか突っ込めなくてだな、こんな遅くになってしまったんだよ。

 だからそんな可哀想なものを見る目で俺を見ないでくれ・・・」


心底辛そうにそう言う。

だが、言われてみたら納得できる理由でもある。

1人だけ違うものを渡されれば大体の人は同じことを考えるだろう、特にこの人から渡された場合は。


「まあ、確かにな。

 理由としては、お前の場合は部位の名称を書いても意味が無いからだ。」


「なあ、それって俺が馬鹿って言いたいのか?

 俺が馬鹿で覚えられないと思ってるからこんなことをしたのか?」


義兄様が簡潔にそう言うと、レオンさんが額に青筋を浮かべる。

その言葉に失礼ながら、僕は納得してしまっていた、そうかもしれないと。

この人は昔からもの覚えが他の人より少し悪く、暗記ものは苦手だった。

名誉のために言っておくが、あくまで比較的であり、決定的に悪いわけではない。

だが、レオンさんを知っている僕たちに言わせてもらえば、これだけの量を暗記するのは不可能だと断言できる。

本人も義兄様が言った後、すぐにその考えに至ったことから、どうやらあらかじめ予想していたようだが。

しかし、この人にはどうやらもっと深い考えがあったようだ。


「それもないとは言わんが、お前の場合は名前なんか憶えても完全に無意味なんだよ。

 その紙を読んで、そういう働きをする器官があるんだ、ということを漠然と理解するだけで十分だ。」


「どういうことだ?」


「この前に依頼で分かったことだが、クルスとルル、そして特にエルスの3人は戦闘を理性的に行っている。

 ここでああすればこうなるから、こうした方がいい、とかな。

 だから、身体の構造は細かいところまでしっかりと覚えていた方が後々のためになる。

 だが、お前は違う。

 戦いの合間こそ会話ができるくらいの理性を保ってはいるが、それ以外は完全に本能に頼って戦っているんだ。

 そう言う奴は詳しい知識を持ってたとしても戦闘の役には立たんよ、戦闘中は何も考えていないんだから。

 だが漠然と理解しているだけなら、無意識下でその内容を思い出して行動できる。

 お前にとっての理想的な姿は、恐らく本能と無意識の思考の融合。

 考えることをしないことで1つ1つの行動が他人よりも格段に速くなり、その上で闘気の無意識での効率的な強化が出来る、そうなればお前に敵はいなくなるさ。

 ま、あくまで俺の勝手な妄想だがな。」


「・・・・・・そ、そうなのか・・・

 本当に凄いよお前は・・・」


義兄様の言葉に誰もが尊敬の念を抱く。

あの時こちらを見ていてそこまで細かく観察されていた上に、その戦い方にあった教える知識の内容を考えていたなんて。

そして。


「ちなみに部位名が書かれてない理由の比率だが、お前の頭の悪さが9割、さっきのが1割だ。」


「ほとんど俺が馬鹿なせいじゃねえか!?」


「冗談だ、本当は頭があれだからが6割だよ。」


「それでも過半数!?

 しかも微妙に現実味のある数値だし!?

 いや、俺はそんなに頭は・・・悪く・・・ない、よな・・・?」


「・・・お前、自分で認めてるようなものだろうが、その言い方は。

 自覚が無いよりはましだがな、周りも目を合わせないようにしてることから察しろ。

 皆をそんな哀れを誘う視線で見るな。」


「・・・グスッ」


レオンさんを弄るのも忘れない。

グズリだした彼は、何とも哀れを誘うオーラに包まれていた。

何故か笑ってしまいそうになってしまったが、それは流石に自粛した。

と、そこで義兄様が突然立ち上がる。

この10日で一度も見せていない行動に、皆が疑問顔をする。


「大体覚えてきたみたいだから、そろそろ知識の応用例を見せておこうか。

 庭に出てくれ。」


そう言って歩き出した、レオンさんを片手で担いで。

僕らは突然の事態に驚いて行動が遅れたが、直ぐに慌てて動き出した。









さっきの書斎はディックさんの家にあり、僕らはそこを一部を除いて自由に使わせてもらっている。

今立っている場所、庭も自由に使える場所その一つだ。


「レオン、テキトウに腕を強化してみろ。

 今まで通りに。」


そう言われると、レオンさんは首を傾げながらも素直に従い、右腕が光に包まれる。

闘気による強化が行われている証拠だ。

義兄様は満足気に頷くと右腕を掲げる。

てっきり闘気で強化するものだと思ったのだが、そんな様子は一切ない。

不思議そうに見ていると、口を開く。


「じゃ、レオン。

 思いっきり地面を殴ってみろ。」


表情が戸惑い一色だが、素直に彼は地面を拳で打つ。


「ふんっ!」


   ドゴッ


大きな音がして、地面に拳が10cm程めり込んだ。

それなりの威力だが、本気だったなら余裕で陥没くらいはいったことだろう。

その様子を見て、今度は義兄様が動いた。


「じゃ、今度は俺がいこう。

 よっ。」


そんな軽い掛け声とともに放たれた拳は―――


   ズドムッッッ


―――直径2メートルほどのクレーターを作り上げた


「・・・・・・」


「まあこんなもんか。

 身体の構造を理解すれば、こんな芸当も可能になるわけだ。」


「いやいやいや!?

 どう考えてもおかしいですよ、何で強化してないのにこんなことが出来るんですか!?」


僕は慌てて言い募る。

光ってないのだから強化はしてないはず。

なのにこんなことをやらかしたことに、誰もが冷や汗を流す。

すると、なんでもないことのように言い放つ。


「さっきの紙でいうと・・・これとこれとこの筋肉を重点的に強化したんだ。

 筋肉は皮膚の下の組織だから、闘気で強化しても光が漏れたりすることはない。

 だから、はた目には強化してないように見えたんだろうが、実はちゃんと強化してるんだよ。

 と言うよりだ、君らは俺が戦う時の様子を見てなかったのか?

 あの時も同じで光が漏れてなかったはずだが。」


(い、言われてみればそうでしたが、あの時は貴方が何もかもがおかしすぎて、そこまで目が行かなかったんですよ!)


ちょっとしたパニックに陥っているために、かなり失礼な思考をしてしまう。


「そ、それにしたってあそこまでの威力が出るものなんですか?

 庭が悲惨なことになってますが・・・」


姉様が顔をひきつらせながら言う。

その言葉の通り、流石ネストキーパーのお屋敷の庭だけあってかなりきれいに整備されている庭だったが、その中心が陥没しているために色々と台無し、さらに飛んだ岩や礫なんかで植物が滅茶苦茶になっている。

それを見て彼は一言。


「別にいいじゃないか。

 自由にしていいって言ってたんだから。」


「その自由はそういう自由じゃありません(無いだろ)!!」


とんでもない発言に思わず怒鳴ってしまったが、それは誰にも責めれられないことだろう。


「どうするんですか!

 今はあの人たちは仕事で出て行ってますが、戻ってきたら間違いなくどやされますよ!?」


ルルが涙目でそう言う。

ディックさんとセフィリアさんの2人は、今ネストに居る。

留守を他人に任せるなんて不用心だと人は言うだろうが、それはしょうがないだろう。

この人にかかれば、例え監獄だろうと自由に出入りできるのだから。

まあディックさんは、僕らのことを信用しているのかそのことをおくびにもださなかったが。

・・・セフィリアさんの部屋に入ったら、己を生贄に捧げて悪魔を召喚してでも殺してやると脅されはしたが

とまあ脱線してしまったが、とにかくいくらあの人が信用して任せたといっても、このようなことをされて怒らないような人間はいないだろう。

ルルが心配してるのはそこだろう。

しかしこの人にはどこまでも常識は通じないようだ。


「冗談だ。

 まあ、これは後でちゃんと直しておくから心配するな。」


「・・・貴方は出来ないことがあるんですか?

 庭を直すって相当な知識と経験がないと無理ですよ。」


僕はそう言ったが、この人がこう言うということは本当にどうにかしてしまうのだろう。

だからこのことはもう気にしないことにした。

皆もその方向で決定したらしい。


「それでさっきのなんだがな、あれに使った闘気の量はレオンが使ったのとほぼ同じ量だ。

 あ、一応言っておくが、ここまでの惨状を作り出せたのは地面が脆かったからだからな。

 岩場なんかではこうはいかん。」


そんな僕らの様子を理解して、彼は先ほどの解説を再開する。

その内容に僕らはもう何度目かにならない驚きを覚える。


「俺の使う量と大体同じって・・・

 ただ身体の構造を理解するだけでこんなに違うのかよ。」


唖然とした様子で言うレオンさんに、彼はとても満足そうな笑みを浮かべる。


「君らの一般的な使い方では、闘気で腕という大きいものを強化するが、それでは範囲が大きく無駄に体力を消費する。

 だが、身体の構造を理解して、必要最低限の部分のみを強化することが出来れば、不要な分をさらなる強化に使えるわけだ。

 仮に、お前のさっきの強化に使った闘気の量を10とするのなら、俺のやり方ならば3ほどで済む。

 戦いにおいて余分な体力を消耗するとどうなるかなど言うまでもない。

 これは魔法の場合は関係ないように思うかもしれないが、魔法でも構造を知ればさまざまな応用が可能になる。

 これが俺が君たちに与える白紙だ、これをどう使い何を書き込んでいくかは任せるよ。」


その説明に僕は心が沸き立つのを感じた。

それならば、僕は今より比べものにならないほど強くなれる!

渇望していた強さが得られるのだ!

それで嬉しく思わないほうがどうかしている!


「ただし、これだけは言っておこう。」


しかし、その浮かれは次の言葉で治まった。




「もし仮に、仮にだが、君らがこの技術を使い間違った方向に進もうというのなら、俺は責任を持って君たちを地の果てまで追い、殺そう。」




その言葉に、僕と同じように心中で浮かれていたのだろう、嬉しそうにしていた皆がはっとする。

淡々とした、冷静そのものの声音。

だが、それを言ったこの人の顔は真剣そのものだった。

本気。

そう皆が信じ込むには十分だ。

皮膚が切れてしまいそうなほど重い空気が辺りを包む。

冷や汗が止まらない。

誰も動けない。

一体どれだけそうしていたのだろう。

数時間の気もするが、数秒に気もする。

突然その空気が霧散して、義兄様が笑みを浮かべる。


「だから、君らは間違うな。

 今の思いを大事にし、驕らず、焦らず、前に進め。

 そうすれば何も問題ない。」


さっきまでの空気を作り出していた人間とは思えないほど優しげな声で諭してくる。

その変わり身の速さに皆ついていけずにいた。


「さて、そういうわけで君らはまた勉強を頑張ってくるといい。

 早く覚えればご褒美をあげよう。

 頑張れ。」


そう言うと、彼はどこかに行こうとする。


「どこに行くのですか?」


「いつも通り、マーカス殿の武器屋だ。

 今日こそ完成させてやるよ。」


僕が聞くと、楽しそうにそう返してきた。

まださっきの空気から立ち直れていない僕らは、それを見つめていることしかできなかった。




「・・・行っちゃいましたね。」


そうつぶやく。


「まあいいじゃない。

 私たちには今やるべきことがあるんだから、そっちに集中しましょう。」


「そうですね、さっさと覚えてご褒美は私がもらいますよ、エルスさん?」


「あら、私の方が暗記してる量は多いのにすごい自信ね?」


姉様が苦笑しながら手を引いてくる。

その言葉にルルが賛同し、姉様と軽口をたたき合っている。

レオンさんはその様子に微笑みながらついていく。

僕も、それについていく、誰よりも早くあれを覚えて強くなることを決意して。


(あの人に殺されたくはないので、驕らずに、ね。)


そんなことを考えながら、書斎へと皆で歩く。










そして、途中で気付いた。


―――庭、壊れたままでは?



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