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異世界の愚か『もの』 ~世界よ変われ~  作者: ahahaha
行動開始 ~純粋な愚か者の願い~
29/84

29話 歪んだ世界

今回は文字数約6000とちょっと少ないですかね。


―――あれはいつのことだったか


そうだ、ちょうど6年前、俺が12歳だった時の春だ。

あの頃はまだ、日本にいたんだっけ。




「ねー、令。

 令の夢って何?」


平日の夕食時、『あいつ』がそう突然聞いてきた。

当然、俺はまず疑問を口にする。


「突然何だよ。」


「今日の学校の授業でさ、先生が明日までに考えて作文にしなさい、って。

 あたしはそういうのあまり考えたことは無かったから、令のを参考にしようと思って。」


「なるほどね。

 でも、俺の言ったことをそのまま写すつもりじゃないだろうな?」


「え!?

 そ、そんなわけないじゃん!」


「お前は・・・」


あまりにも分かりやすいその反応に溜息を吐いてしまったが、とりあえずは答える。


「俺の夢か・・・

 そうだな、理科が好きだから、人の役に立つ発明をしたい。」


ちょっと考えたら意外なほどあっさりと見つかったその夢を、素直に口にする。


「発明?」


「そうだよ。

 よくテレビでやってるだろ、環境破壊とか。

 俺はそういったもので苦しんでる人たちの力になりたい。

 そもそも今問題になってることってさ、全部人間が引き起こしたことじゃないか。

 それならそれをどうにかするのも人間の役目だとは思わないか?

 だから俺がなんとかしてやる!

 そうすれば助かる人も大勢いる。

 人が同じ人間を助けるのは当然のことだ。

 そして、人は素晴らしい可能性を持ってるんだから、少しでも多くの人が助かればそれだけ未来の希望も広がるんだ。

 そんなことをやり遂げた時のことを想像したら、わくわくしないか?」


ちょっと興奮気味に説明する。

しかし、こいつは冷めた目で俺を見てきた。


「そんなことできるわけないじゃん。

 それにあんたね、それってあたしと1つしか変わらない12歳の子供が考えるようなこと?

 頭の中どうなってんのよ、一体。

 まあ、普段の行動見てると完全に老人の生活だから、特に違和感も無いけど。」


俺はあっさりと夢が否定され、率直に老けてると言われたことに頭にきながらも、年上としての威厳を保つため、何とか平静を取り繕う。


「ははは・・・!

 別にいいだろうが、この年で新聞とか科学雑誌とかを読みふけり、植物とか猫とかを縁側で愛でることが趣味でも!

 お前らみたいに漫画とかゲームにうつつを抜かすよりはるかに有意義だろ!」


「それでいて朝起きるのが朝の5時とか6時だもんねー。

 その年で町内のご老人と仲良くなってるし。

 でもその分あんた、同年代の友達数えるほどしかいないんだから、もう少し身の振り方考えたほうがいいと思うけど?」


「・・・・・・・・・」


(こいつ、気にしてることを!)


俺はさっさと夕飯を平らげて、自分の部屋に戻ろうとする。


「とにかく、俺の夢はそれだ。

 だけどこれって、お前が言った通り11歳のガキが考えるような内容じゃないから、書き写すことはできないよな。

 まあ、頑張ってくれ。」


「んなっ!?

 あんたまさかこれを狙って!?

 ち、ちょっと!、もう時間がないんだけど!?

 それに今日はお父さんも仕事で帰ってこないし!?」


慌てだした『あいつ』に、溜飲を下げ、ほくそ笑む。


「それはお前の不始末だろ?

 宿題を後回しにするからだ。

 自分で何とかするんだな。」


「鬼!、悪魔!、家族なんだから手伝ってくれたっていいじゃない!」


「俺は家事で忙しいんだよ。

 それ以上言うようなら、食後の特製プリンは無しだ。」


「それを持ち出すなんて!?」


「頑張れ、『 』。

 一応応援はしてる。」


そんな言葉を言いながら、俺はその場を後にした。




―――これが俺の、『あれ』を経験するまでの、夢であり、目標であり、目的


―――世界について何も知らなかった、幼子の言葉




2年後、俺は『世界』に負けた。

いや、そもそも戦いにすらなってなかった。

ただ一方的に、傷つけられ、貶され、罵倒され、否定され、絶望させられ、そして思い知らされた


―――世界の何よりも醜い、自分自身を


俺は何も分かっていなかった。

素晴らしい可能性をもつということは、同時に、どこまでも堕ちていく可能性もあるということも。

人の弱さ、醜さも。

どこまでも歪んだ、この『世界』のことを。




そして思った。


―――歪んでいるならば、何故『世界』はそのままなのだろう?


ただ歪んでいるだけならば、金属をたわめると元に戻ろうとするように、戻ろうとする力が働くはずではないのか。


そして気付く。


―――『世界』とは、歪んでいる姿が正しい姿なのだと


歪んでいる状態こそが、「正常」。

まっすぐな状態、平和こそが、「異常」。


その中を人は、多くは疑問に抱くこともなく生きていく。




自分に問う


―――こんなものでいいのか、と


『世界』がこんなものでいることを、容認するのか、と




答は、『否』




『世界』に負け、『世界』に従い、『世界』を諦める

ただ漫然と日々を過ごし、ただ糧を得、ただただ生きる




そんなもの、『世界』に飼われている奴隷にすぎないではないか




『人間』ではない




俺は、そう考えて生きてきた。

いつも、心中でお前をいつか打ち破ってやる、変えてやる、と、いかれたことを考えながら




そして、俺は『異世界』の存在を知った。

この世界も、本質は向こうと何も変わってはいない。

人が争い、妬み、殺しあう、どこまでも歪んだ『世界』。

だが、それは、間違いなく正しいことだ。

さっきと言ってることが矛盾しているように感じるかもしれないが、俺はそう思う。

争いの無い世界とは、つまり欲望の無い『世界』。

そんなものは地獄と変わりない。


しかし、ならば「今」の『世界』を受け入れられるのか?

答は『否』、断じて『否』

だから今の俺の、夢は、目標は、目的は、ただ1つ









―――現在(・・)の世界の、『破滅』









―――side ディック(ルッソの街・ネストキーパー)




好奇心だった。

この、儂と対等にやりあえる男が何を考えているのかに興味を持ってしまった。

だから、答えなくてもいいと前置きをした上で、聞いた。

それを今は大いに後悔している。

この男の語った目的は、実に単純で、最も壊れた回答だった。




―――世界の『破滅』




普段ならば、笑い話にすらなりえない、ただの法螺話。

なのにこの男が口にするだけで、無視できない現実味を与えられてしまう。

実現できると、僅かでも思ってしまう。

何でもないように言ったことで、何故かこの男が本気だと分かってしまった。

何故、聞いてしまったのだろうか。

聞かなければ、問題なくこの男と交流出来ていたのに。

儂はこの男を、この上ないほど気に入ってしまっていた。

ある候補として考えるほどに。

今日の会話でその思いは、もはや明確に自分の心に刻みこまれてしまったのだ。

儂に媚びへつらう軟弱ものばかりの今時、欠片も臆することなく儂と対等にやりあえる若者。

それはどれだけ稀有な存在だろうか。

この30年で、間違いなく数人しかいないだろう。

なのにこの言葉を聞いてしまった。

冒険者は自由人である。

そうは言っても、一端の正義感は当然持ち合わせて居る。

当然、儂自身も。

これからこの世界に甚大な被害を出すかもしれない目の前の存在を見逃すことは、その正義感に反してしまう。

それがいかに馬鹿げた話だとしても、何とかするべきだろう。

だがどうやって?

この、全く死ぬところを予測できない存在を、どうやって止めるというのだ。


「心配ですか?、ディック殿。

 私のこれから為そうとしていることが。」


そんな時に、まるで心を見通したかのように聞いてくるすべての元凶。


「そんなに心配しなくても、私の考える『破滅』とは貴方たちの考えるようなものではありません。」


「何?」


言っている意味が理解できない。


「貴方は、今の世界をどう思います?」


そして、真剣な表情で聞いてくる。

その顔に冷静になれたので、ゆっくりと考えた上で答えた。


「良いとは言わないが、決して悪いとも言わない。

 どっちつかずの、ちょうどいい世界だと考えている。」


良いことも、悪いことも、すべてを包括してこその世界だ。

そこに不満を持つはずもない。

いや、もてるはずもない(・・・・・・・・)、世界をどうこうできるはずがないのだから。

しかし、この男は違うのだ、それを理解させられた。


「私は歪み切ってると思いますね。

 あまりにも歪んでいるせいで、それが正常だと思ってしまうほどに。

 誤解、妬み、偏見、差別、例を挙げればきりがない。

 それでいて、そのことに誰も気づかない。

 それしか知らないから。

 それしか理解できないから。

 そのせいで、後で絶望的な破滅が待っているとも知らずに。

 愚かも愚か、どうしようもなく愚かだ。」


吐き捨てるように、無表情でそう言う。

声音から、そして身に纏うその凄みから、それが決して冗談などではなく本心なのだと分かる。


「だから、この世界を壊すのか?」


自分で驚くほど冷静に、そんな物騒な言葉が口から出る。

普段ならば、恐々と聞いているはずなのに。

さっきから感じている違和感が、儂にそうさせた。

それがなんなのかは分からないが。

儂のこの言葉に、男は笑みを浮かべた。


「違いますよ。」


予想外の言葉とともに。

嫌な世界だから壊すのではないのか?


「ディック殿、私の言葉を変えないでください。

 私の望むのは、「現在」の世界の破滅です。

 決して、この世のすべてを壊してやろうとかそんなものではありません。」


言ってる言葉がまるで異世界の言葉かのように、儂には全く理解できなかった。


「私はね、おかしいことを言うようですが、世界はそういうものだと認めてもいるんです。

 欲望があるからこそ人は愚かになる。

 だが、欲望なくして「生」はない。

 そいうものだと理解はしているのですよ。

 ですが。」


目を瞑り、静かに語り続ける。

儂はいつの間にか、この男の言葉に聞き入っていた。


「『世界』はそれが行き過ぎてるとは思いませんか?

 誤解と偏見と無知と愚かさから差別する。

 それが元でやがて大きな争いに発展する。

 それがやがて、世界の崩壊につながるとも知らず。

 だから。」


目を開く。

そこには、強い意志と、燃え盛る野望があるように感じられた。


「私がこの世界に問いかける。

 お前はこのままでいいのかと。

 自分が死ぬのをただ座して待つのかと。

 この世界のすべての「人」に。」


手を握り締め、叫ぶ。


「俺がこの世界に選択肢を与えてやる!

 このまま滅ぶ道と、そして、「今」の歪みきった世界を僅かでも正し、生き残る道を!

 この世界に、すべての「人」に、与えてみせる!」


魂の叫びと呼ぶにこれほど相応しい叫びが、今まであっただろうか。

今のこの男の姿は、そんなことを素直に思い浮かべるほどの「高貴さ」があった。


「私の言う「現在」の世界の「破滅」とは、つまりそういうことです。

 さっきの私の2つの道のどちらを選んでも、「この世界」は終わる。

 それが、「崩壊」によるものか、「変革」によるものかの違いはありますがね。」


「・・・お主は、世界が前者、滅びを選んだらどうするのだ?」


気になったことを、言葉にする。

この男が、どんな行動を取るのかに興味があったのだ。

さっきのをまったく反省していない自分に、多少呆れた。


「何もしません。

 ただ素直に、己の天寿を全うしますよ。

 そんな世界に興味はありませんが、「友達」や「仲間」が居ますからね。」


笑みを浮かべながらそう告げられた。

今までとは打って変わって、あまりにも普通のその言葉に儂は固まらざるを得なかった。

そして、儂の中に疑問が生まれた。

そして、それを考えていくうちに、先ほどの違和感の正体に気が付いた。


「私の話は以上です。

 皆、行こう。」


席を立つ、男とその仲間。

その背中に儂は、言葉を投げかける。


「優しいのだな、お主は。」


その言葉に男は立ち止まり、セフィリアは驚きを、彼の仲間たちは驚きに加えて嬉しさを浮かべた。


「・・・今までの私の言葉のどこをとったらそんな発言が飛び出すんですか?

 貴方も、私の仲間も、「私」という人間を見るときだけ目が腐ってるんじゃないでしょうね。」


そんな憎まれ口も、こいつの本心を知った後なら可愛らしく感じる。


「お主の言葉を聞いたからだ。

 今までのお主のこの世界を憎むかのような言葉の数々。

 それは、お主がこの世界を好きだったからこその発言であろう?」


そうだ。

この男の言葉は恨み言ばかりだったが、何故か暖かさを感じるものだったことが儂の感じていた違和感だったのだ。

それは、世界を憎み切れていない証。


「そして、あれほどの憎しみを覚えるほどの絶望を味あわされて尚、お主はこの世界の為に動こうとしている。

 そんな人間を、優しいと言わずになんと言うのだ?」


そして、この男はいまだにこの世界を救おうとしているのだ。

その手段は分からないが。

すると、溜息を吐いて言ってくる。


「「愚か者」、ですよ。」


背を向けて、そのまま喋る。


「世界に絶望させられたのに、世界にしがみつき、世界を女々しくも良くしようとする。

 誰よりも醜く、薄汚い、そして愚かな「愚か者」です。」


そして、魔獣の素材を詰めた袋を持ち、去っていく。

後には儂とセフィリアが残された。


「セフィリア、あの男はいいやつだな。」


微笑みながらそう言うと、孫娘も微笑む。


「そうですね。

 行動に惑わされてしまいそうになりますが、彼は常に自分の仲間のことを気にしていたように思います。

 そして、さっきの貴方とのやり取りで、よく分かりました。

 あの人は恐らく、自分の認めた相手にはとても優しいのでしょうね。

 興味の尽きない人です。」


その言葉に、思うところがあったので、ためしに聞いてみる。


「お前はあの男をどう思っている?」


「まだ、興味の対象どまりですね。

 でも、これからどうなるかは分からない、そう思わせてくれる人だとは思ってます。」


と、そこで急に慌てだした。


「そ、それは可能性の話ですからね!?

 無茶させないでくださいよ、あの人たちに!」


恐らく、今までの儂の行動からあいつらを排除しに動くと思ったのだろう。

こいつに近づこうとした男たちにした儂の所業の数々を考えれば、無理もないことだが。

だが、今回は無駄な心配だ。


「心配するな。

 儂はあの男が気に入っているからな。

 野暮なことはせんよ。」


「え?、それって・・・」


そう言うと、驚かれた。

儂もあのような男が相手であれば安心できるのだがな。


「さあ、仕事に戻るぞ。

 あいつに落とされた爆弾についても対処を考えねばならぬからな。」


全く、厄介事を持ち込んでくれたものだ。

いや、教えてもらわなければこの街は終わっていたから、感謝をするべきなのだろうが、何故かそんな考えしか出てこない。


「爆弾、ですか?」


「そうだ、なんでも―」


セフィリアに話すと、顔を真っ青にした。

奴の話では期限は1、2か月。

それまでに何とかしなくてはな。




―――side out



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