26話 交渉再び
なんかだらだらとしてしまってますね。
でも、日常的な場面も書きたいんで、伸びますが勘弁してください。
「待たせた。」
それだけを言いネスト前に居た他の3人と合流すると、全員一様に安堵と喜びの表情を見せる。
しかしエルスの様子を見ると、男性陣は不思議そうな顔をし、ルルは怪訝そうな顔で棘のある声で聞いてきた。
「・・・何があったんですか、エルスさん。」
「あー、その・・・」
「なにやら行く前と比べものにならないほど血色が良くなってますし、さらにストレスで荒れていた身体が元通りを通り越して艶めいて見えます・・・
本当に何があったらほんの10分ほどでそんなに変わるんですか。」
なんと答えたらいいか分からないようで、顔を赤くして目を逸らす。
その様子にさらに不機嫌になり、若干拗ねたような様子で言い募るルル。
とりあえず説明をすることにした。
「俺のせいで予想外に傷つけてしまったようだったから、少しサービスして身体の老廃物、汚れ、悪い部分を魔法で除去させてもらった。
身体の構造と仕組みさえ理解していれば意外と簡単なんでね。
ま、そのために抱き締める、というか身体に触る必要があったんだが。
血色がいいのと艶があるのはそのためだな。」
「おおー!(男性陣)」
「レイ様!?
い、言わないでください!」
素直にあったことをそのまま伝えるとエルスがさらに顔を赤くして縋るように言ってきた。
男性陣は歓声を上げ、ルルは顔を引き攣らせながらも無理に笑顔をつくっている。
「・・・そ、そうだったんですか・・・!
それはとても羨ま・・・いえ、大層妬ましい展開でしたねえぇ、エルスさん!」
「る、ルル・・・?
言葉を言い換えた意味が全くない上に悪化しているようだけれど?」
嫉妬でだろう、言葉の発音や高低がめちゃくちゃになりながらのその発言にエルスは一歩引いた。
「落ち着けルル。
あー、別に他意があって抱きしめたわけじゃないし、言いにくいがこれには女性にはかなり恥ずかしい結果が生まれるものだから、そう嫉妬に狂わないでやってくれ。」
「・・・すごく不安になる言葉が聞こえたのですが、どういうことでしょうか。」
ルルの怒りを抑えるために言ったその言葉に全員が動きを止め、エルスはこめかみに汗を垂らしながらそう聞いてくる。
さっきは良かれと思ってついやってしまったんだが、冷静になってみると流石の俺でもかなり言いにくい。
だが、隠しても意味がないので正直に答える。
「詳しく説明するとあれは使う相手の身体に触れて、身体のあらゆる場所、毛細血管の一本に至るまでに存在する不要物をすべて体外に強制排出させるものだ。
あと、肌や髪なんかの組織を最善の状態にすることなんかもできる。
しかし、それには身体情報を細かく分析しなければならないんだが・・・」
「・・・あ」
「・・・・・・うわあ・・・」
そこまで説明すると、始めにルルが言葉の意味に気付いて顔を真っ赤にし、次にクルスがそれはないとばかりに片手で顔を押える。
エルスは始めはどういう意味なのか分かっていなかったようだが、段々と理解が追いついて来たようで無言のまま徐々に顔を赤くしていく。
「つまり、これを使うと使われた相手が知られたくない身体の情報がすべて俺の頭の中に入ってくるわけだ・・・
具体的にぶっちゃけてしまえば、スリーサイズとか処女膜の有無とか、な・・・」
「・・・・・・」
俺が顔を背けながらそう言うと、言葉にすらなら無いようで、エルスが顔を赤一色にして崩れ落ちる。
それだけならまだしも、嗚咽を漏らしながらさめざめと涙まで流し初めてしまった。
その様子はまるで暴漢に襲われた乙女のようで、周囲の通行人の憐憫と同情をこれでもかと集めていた。
そしてその周囲の感情と比例して、俺に膨大な敵意と義憤が集まる。
それは俺でも冷や汗が流れるほどのもの。
とりあえず急いでエルスを抱えて路地裏へ引っ込む。
―――3分後
路地裏から出る。
エルスはさっきとは打って変わって、鼻歌など歌いながらご機嫌の様子で横を歩いている。
俺はまた面倒な約束ごとをする羽目になったので、軽く溜息を吐いているが。
(今回は俺の自業自得だからしょうがないか。)
「・・・今回は本当にエルスさんばかり役得ですよね。
明日の朝起きたら酷いことになってるかもしれませんので、覚悟しておいてください。」
「ちょ!?
一体何をするつもりなのあなたは!?」
その様子からまたルルが嫉妬して、エルスが焦る。
(確かにルルには何もしてやれてないんだよな。
聞いたところでは今回が初の実戦だったのに、結構活躍していたにも関わらず。
しかも今回はエルスは失態を犯してしまったのにいい目ばかりみてるんだから当然か。)
これではアベコベなので後で何か埋め合わせしなければならない。
と、そこで重要なことに気付いた。
(あれ?
いつの間に俺はこんな思考をする人間になってるんだ・・・?)
不味い。
なんか甘くなってる気がする。
普通の人間であればいい傾向かもしれないが俺には目的がある。
こんな生易しい考え方をするようでは不味い。
これではこれからの茨の道を生き抜くことなど出来ない。
今回はさっきのエルスに対しての行動に引きずられた結果だろうが、早急に何とかしなくては。
さしあたっては、
(ディック殿には悪いが、今回の交渉で元に戻らせてもらおう。)
徹底的にやる決意をして、気を引き締める。
・・・ま、依頼で頑張ってくれた皆には何かしら喜んでもらえるようなことをしようと思ってるが
望んで主人となったからにはそういった面もしっかりしなくてはならないからな。
「ルル、あとでご褒美をあげるから今は抑えてやってくれ。
レオン、ネスト陣はどこに?」
ルルはこの言葉でとりあえず納得してくれた。
「あいつらなら、先にネストに報告に行った。
だがそしたらセフィリアさんが出てきて、話を詳しく聞きたいから仕事が一段落して時間に余裕が出来るまで待ってて欲しいそうだ。」
「ふむ、具体的にはどれくらいと言っていた?」
「1時間。」
「そうか・・・」
少し時間ができた。
しかし何とも微妙な時間の空きだ、1時間で何ができるか・・・
(エルスとの以前の約束を果たすか?
だがそれには時間が少し足らんな。)
と、そこであることを思いだした。
(そういえば、あれからもう数日が経ってる。
そろそろ発見された頃合いか。
もしかしたら・・・
よし、やるか。)
予想が当たっても外れてもこれなら悪いようにはならないだろう。
くくっ、と不気味な笑いを漏らした俺に皆が少し退いたが、気にせず提案する。
「エルス、君と以前した約束を今果たそうと思うんだがいいだろうか?」
「え?、でもそんな暇は・・・」
「せっかくだ、ネストキーパー様にも御相伴してもらおうじゃないか。
これからそれなりに長い付き合いになるかも知れないからな・・・
くははっ!」
「なんだその不安しか呼ばない笑い方は。
お前、一体何を企んでる。」
「企むなんて人聞きの悪い。
俺はただの厚意から彼に御馳走したいだけだぞ?
まあ、あっちが余計なことを言ってきた場合はその限りではないがな。
じゃ、材料を集めてくるから。」
まったく説得力のない言葉を残して、材料を求め昨日見つけた市場に向かう。
皆何とも言えない表情をしていた。
「・・・何だこれは?」
仕事が終わって面会した時のディック殿の最初の言葉がこれだ。
「見ての通り食事ですが、何か?」
「何故ここに持って来ているのですか?
別にわざわざ面会室に持って来なくても、受け付け前の広間は食堂も兼ねてますし、少し程度の時間ならばお待ちしますが・・・」
当然のことだとばかりにそう言うとセフィリアさんが、一般的な意見を言ってきた。
「いえ、ちょうど昼食時ですしあなた方もさっきまで仕事をしていたからまだなのでしょう?
ちょうど以前この街から出る時に食事をつくる約束をしていたんで、せっかくだから御馳走しようと思いまして。」
レオンに朝何かをされて泣きじゃくっていたエルス、それをなだめるために出した提案がこれ。
・・・好きな相手の手料理を食べられるということで、あっという間に機嫌を直してくれました
(・・・なんか気が付かないうちに自分がどんどん女っ誑しになってる気がする
悪気や悪意でやったわけじゃないのが救い・・・いや、なお悪いか。)
自覚無しでどんどん女を落とすなんて、どれだけ性質の悪い人間か想像もつかない。
これからは気を付けるとしよう。
―――ここで俺はそう決心していたわけだが、無意識の行動故に抑制できるわけもなく、このことは今後の頭痛の種となることになる
「ふん、若造、今度は何を企んでいるのだ?
お主のことだ、ただの厚意だけではあるまい。」
言葉だけでは敵意と警戒しか伺うことができないが、その声音と表情はどこか楽しげだ。
「失敬な。
私はそんなに悪い子ではありませんよ?」
「齢70を数えこの道で30年生きてきた儂から、譲歩を引き出そうと虎視眈々と狙う者のそんな言葉を信じる者はおらんだろう。」
「くくっ・・・!
まあそうでしょうね。
でも、本当に今回は純粋な厚意からですよ。
これから付き合いが長くなりそうですからここで親睦を深めておきたいと思いまして。
依頼の話だって長くなりそうなんですから先に何か腹に入れておいた方がいいですし。」
「・・・とても信用できる言葉ではないが、不思議と嘘の匂いが感じられんな。
面白い、警戒を解くわけではないがその提案に乗ってやろうじゃないか。
7人分ということは、こやつも同席して構わないのだろう?」
「ええ、食事は大勢いた方が楽しいですからねー。
というわけで皆、お代官様の許可が下りたぞ。
席に着けー。」
「誰がお代官様だ!
まあいい、セフィリア、お前も座りなさい。」
「は、はい・・・(5人)」
棘だらけの言葉の応酬にも関わらず、お互いに楽しげな笑みを崩さないことに理解が及ばない様子だった皆を座らせる。
「しかしまあ、見事に儂の見たことのない料理ばかりだな。
味は保障できるのか?」
「これは・・・何やらゼリーみたいなものですね。
でも甘くはなさそうです。」
ディック殿がそう言うと、セフィリアさんも不思議そうにそう言う。
「これって、普段は粉にして水に溶いて焼いて、って食べるものですよね?
わあ、水で茹でるとこうなるんですか。」
「こっちの肉、ずいぶん分厚いがかみ切れるのか?」
クルスは興味深そうに、レオンは不安そうに。
「このスープ、色が薄いですけど、不思議と味は薄くはなさそうですね。
透き通っていて綺麗です・・・」
「野菜も一見茹でただけに見えましたけど、味付けされてるんですか。
全体的に健康に良さそうでいいですね。」
ルルが目をキラキラさせながら、エルスは喜びを無理やり抑えてるかのように務めて平静な声で、それぞれ感想を漏らしている。
「死ねレオン。
まあ、俺はこれらを美味いとは思うんだが、味覚なんて人それぞれだからな。
食べてもらわないと分からんよ、うまいかどうかなんて。
さて、召し上がってくださいな。」
そう言って促すと、ある者は恐る恐る、ある者は何でもなさそうに、またあるものは「何で俺だけ・・・」とぼやきながら食べ始めた。
そして食べ終わる。
特に誰もしゃべることもなく、しかし食べる速さが遅いということもなく、ゆったりとした時間が過ぎて行った。
「・・・不思議な味だったな。
塩味だけで言えば間違いなく薄いのに、不思議と物足りなく感じない。
複雑ですっきりとしたものだった。
それに、心が落ち着く。」
「面倒な言い方しないで、はっきりといってください。」
「実に旨かった。」
「ちっ、自然に言いやがったこの爺さん。
そこはもっと面白いリアクションしろよ。」
「聞こえてるぞ、小僧。」
他の皆もディック殿と同意見のようで、味に関してはしきりに頷いていた。
「すごいですね、これなんて言う料理なんですか?
というよりあなたは料理もできるんですね、欠点あるんでしょうか・・・」
「その辺は面倒なんで、あとにしましょう。
いい加減依頼の件を進めないと。」
ちなみに今回作ったのは、御飯、お吸い物、豚の角煮、茶碗蒸し、葉っぱのお浸しだった。
醤油とか味噌を使いたかったんだが、その辺は流石になかったので、いろいろと手を尽くして近い味に仕上げた。
ただ、どれも色が混沌としたものになったのだが。
話を進めたかったので、セフィリアさんには悪いがそれは後回しにさせてもらう。
ただ、エルスとルルがなんか落ち込んでいた。
「どした?、2人とも。」
「いえ・・・」
「女として少しショックだったといいますか、何と言いますか・・・」
つまり、男の俺が料理ができるのに、女である自分たちが料理できないことが複雑だったと。
「そんなに気にすることじゃないだろう。
今までずっと貴族として暮らしてきていきなり没落したんだから。
これからゆっくり覚えていけばいいさ。」
「そ、そうですよね。」
「はい、頑張ります!」
俺が食後のお茶を楽しみながらそう言うと、2人は元気にそう答えた。
しかし、俺のさっき言った言葉の意味を理解すると絶句してしまった。
「・・・お主、さらりととんでもないことを言いおったな・・・
儂らが聞いているにも関わらず。」
ディック殿が呆れたようにそう言ってくる。
セフィリアさんは口を手で押さえている。
他全員は慌てふためいて、どうしたらいいか分からなくなっている。
「はっ、貴方たちなら既に大まかな予想がついてたでしょうに。
まったく問題ありませんよ。」
俺はそう言い、なんでもないという様子で悠然とお茶をたしなむ。
「そもそも、彼らほど特徴的な人間がいつまでも正体が隠し続けられるわけがないんです。
それでも普通の人間には明かそうとは思いませんが、貴方たちは権力者だ、しかも世界中から冒険者が集うネストの、ね。
そう遠くない内に間違いなく知られることになります。
それに確証が無かっただけで、貴方は彼らがその手の人間だったと気付いてたでしょう?
それならこっちから伝えたほうが色々と都合がいい。」
「・・・確かにな。
自分からばらしてしまえば、後々の交渉でいきなりそのことを言われて動揺することもなくなる。
今回で言えばさらに、逆に儂らの動揺を誘う結果になったわけだ。
そうしてこれからの主導権を握ろうというのか?」
「その通りですが何か?」
「何故そんな無邪気な笑みができるのだ。
それだけ腹黒い性格をしているのにも関わらず。」
「腹黒いからですよ。」
「・・・その通りだな。」
「もういい加減に依頼の話にいこうじゃありませんか?
時間、なくなりますよ。」
俺が笑顔でそう言うと誰も何も言わなくなってしまった。
彼は深呼吸して気を落ち着けてから、真剣な表情になった。
「とりあえず連中の報告にあった、お主が採ってきたという素材を見せてくれ。」
無言で横に置いていた大人ほどもありそうな袋を投げる。
それを長は容易く受け止めて、中を確認すると呆れた表情になる。
「間違いなく「星銀竜」の一部だな・・・
お主はどれだけ規格外なのだ、連中の話を聞いてもまったく信じられんかったぞ。」
「ふむ、何故でしょう?」
「簡単だ、単純に強い。
ランクでもAに限りなく近いBであり、その硬さと力だけなら本物の竜にも劣らないほどだ。
Gランクでこれを仕留めた者など前代未聞だぞ・・・」
「へー。」
「気のない返事だな、つまりお主はAランカーに匹敵するということなのだぞ?
人としての最高峰の強さの強者たちと。」
(確かにすごいことなんだろうな、周りでもうどんな顔をしていいのか分からないでいる5人の反応を見ると。)
しかし。
「そんな分かり切ってたことを今更言われましても。」
「・・・・・・(全員)」
俺としては「刃虎」の強さでBでと言われた時点で、Aより強いのは自分の中で確定されてたので驚きなんかない。
あの化物と比べれば、分かり切ってたことだ。
「心外な反応ですね、皆さん。
現に貴方がさっき自分で認めたわけじゃないですか、長。」
「・・・それでもそれだけ不遜な考えができることが私には信じられませんよ。」
「まあいいじゃないですか、セフィリアさん。
それより、報酬の件はどうなるんでしょう?
確か、本来は金貨2枚でしたよね?」
「何を言っている。
始めの説明で言ったはずだが?
我らネストは依頼でどんなことがあろうと一切責任を負わん、と。」
「ええそうですね、覚えています。
ですが、ネストが出した依頼の場合は別なのでしょう?」
すまし顔で答える長だが、俺がそう言うとその表情が崩れた。
「ああ、やはりそうでしたか。
確証はありませんでしたが、予想通りでしたね。」
「・・・カマをかけたのか。」
「はい。」
苦々しい表情をする彼に笑顔でそう言う。
普通の依頼であれば、何かあればその依頼主に不備があったということで追及を逃れられる。
しかし、この場合はそうはいかない。
ネストが出した依頼なのだから、その責は当然ネストへと向かわなければならない。
これでもし、知らぬ存ぜぬを貫くようであれば、信用は地に落ちる。
よって、報酬の上乗せなどの謝罪が無ければ不味いのである。
「そうだな、金貨10枚出そう。」
「じゅっ!?(仲間)」
「おじい様!?」
ほう、いきなり結構思い切ったものだな。
ざっと眺めた時の依頼の中で、Aランクのものは報酬が大体金貨数枚だったから妥当なところだ。
小出しにしては余計なことを言われかねんから、いきなり相場を出して文句を言わせたくない。
その金額なら文句もないし、すぐに飛びつかせてもらおう。
(・・・と、普通なら思うだろうな)
「じゃ、金貨13枚で。」
「ええっ!?(5人)」
「ふざけてるのか貴様は!?
10枚でも破格なのだぞ!」
周りは驚き、長は怒りを露わにする。
「それでも、貴方ほどの人間がいきなり渡せる金額のギリギリをいきなり出してくるわけがありません。
少しでも支出を押えようとするでしょう。
しかし、あまりに金額が少なすぎても怪しまれてしまう。
よって、貴方が出した金額は貴方が妥当だと思った金額の7割程のはずです。」
「くっ!」
「おや、また当たったようですね。
どうします?」
どんどん容赦なく追い詰めていく俺。
だが、ここで長が目に力を取り戻して睨みつけてきた。
その気迫はかなりのもので、俺以外の全員が息を飲んだ。
「小僧、少し世間話をしようじゃないか。」
皆いきなり何を言い出すのだろうか、と疑問顔をしている。
「どうぞ。」
そう促すと彼は語り始めた。
「儂はな、お主が「魔の森」の素材を大量に持ってたことを不思議に思い、あの周辺に人を向かわせて調べさせたんだ。
流石に森の中までは行かせなかったが。」
「正しい判断ですね。
それで何かわかりましたか?」
「いや、お主に繋がりそうなものは何も。」
当然だな。
「だが、その代りに妙なものを見つけた。」
「?(全員)」
「まだ新しい人の死体だ。」
ここで、この人が何を言いたいのかに気付き、仲間が顔を青くする。
セフィリアさんはなんのことだかわかってなかったようだが。
その様子に満足気な笑みを浮かべ続きを口にする。
「すべてで6体の死体。
その中には現在行方不明であった、商人グッゾの遺体も含まれていた。
ほとんどが魔獣に食い荒らされてたんで、特定には手間がかかったが。」
「な!?
グッゾというとこの国で一番の商人であった、あの人物ですか!?」
セフィリアさんが驚いてそう言うと、エルスとルルが震え始める。
(無理もないか。
思い出したくもないだろう、奴隷にされかけてたなんて。)
顔には出さず、心で2人を気に掛ける。
「それは大変だ。
ところで何故そんなことを私に伝えるので?」
まあ、もうわかってるんだが社交辞令的にそう聞く。
「予想される彼の死亡した時間と、お主が初めにこちらに着いた日を考えると見事に一致するのだが。」
「気のせいでしょう。
もしくは偶然ですね。」
証拠なんか何もないので、俺は余裕でそう答える。
いくら疑わしかろうと、証拠がなければ何もできないのだから。
しかし、次の言葉にその考えは崩される。
「そうか、それで儂が言いたいことはこの一言に集約されるわけだが。」
そう言うと、彼はいったん言葉を切って口にする。
「お主が彼を殺した場面を見たと言う者がいる、と言ったらどうするかね?」