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異世界の愚か『もの』 ~世界よ変われ~  作者: ahahaha
行動開始 ~純粋な愚か者の願い~
24/84

24話 罪と罰

レオンでまた遊んでしまいました(笑)

楽しんでいただけると幸いです


それと、今回出てくるのはあくまで私個人の考えです

それを踏まえた上でお読みください


次回更新は予定があるので、一周間ほど間が開くかもしれません

出来るだけ頑張ってみますが、ご了承ください

馬車に揺られて街道を行く


俺は馬車の中には乗らず屋根の上に陣取り、戦利品を弄っていた。

なんとなく気になって馬車の中を覗く。

暗い。

まるで行きの時の再現のように気まずい空気に包まれていた。

その空気の中心はエルス。

険しい表情で必死に何かを考え込んでいる。

我が従者たちはその様子を心配そうに、ネスト陣は困ったように眺めている。

ネスト陣はそもそも何故こんな空気になってるのかすら分かってないのだから当然の反応か。

何もしてないのにあんな針のむしろのような状況に立たされてるんだから、同情を禁じ得ない。

まあ、その原因は俺なわけだが。

この様子に、あの時のことが思い出される。









目の前に血の池が広がっている。

とても一体の魔獣から出たとは思えない量だ。

濃密な鉄の匂いに心がざわついてしまったが、何とか抑える。


「あーうー・・・」


魔力の使いすぎで頭が働かないということもあったのだが。




さっきの魔法ははっきり言ってしまえば、ただ下位魔法をひたすら繋ぎあわせただけのもの。

しかし、無数に組み上げた魔法を嵐という1つのイメージに纏め上げることで、魔法1つ1つの威力の底上げと発動を簡略化することが出来るのでまったく意味が無いわけではない。

それに加えて、使われる魔法はあくまでも下位なので、頭が痛みや眠気などで鈍っている時でも使用することが出来る。

今回は相手が悪く効果はいまいちだったが、これは本来なら対軍勢用のモノで畑違いだったのだから仕方がない。

舞台が戦場であれば、この一発で趨勢が決することもあり得るだろう。

数という最も原始的で効果的な力を象徴した魔法として開発してみたのだから、そうでないと困る。


これだけ聞けばいいことだらけだが、当然デメリットもある。

魔力の消耗が夥しいのだ。

下位魔法をいくつも並列使用して上位魔法分の威力を持たせるというのは、例えるなら乾電池で家の消費電力を賄おうとするようなもので、効率が悪すぎる。

今の(・・)俺ではこれ一発でスッカラカンになってしまうほどだ。

そんなものが実戦で使える訳がないので頭のゴミ捨て場に放り込んでいたのだけれど、今回はこれを考えておいて助かったわけだから、世の中分からんものだ。




頭を強引に働かせて、何とか腰の袋の中から例の丸薬を取り出し口に入れる。

途端に口いっぱいに広がる青臭さ、苦み、渋み。

人の味覚で感じられるあらゆる不快さが、これ1つで味わえる。


「うぐおぉぉ・・・」


思わず悶絶してしまったが、これで普通に動けるようになった。

これには気付けだけではなく人の身体の治癒力を高める効果もあり、もともと生命力の高い俺が使えば回復魔法無しでも、この程度の骨折なら2日ほどで治るはずだ。

折れてしまったナイフを添え木代わりにして左腕を固定、肋骨は身体の筋肉を器用に動かして強引に元の位置に戻した。

あまりにも骨がポキポキ逝くものだから、いつの間にかこんなことが出来るようになってしまった。

そして、さっきの魔法でそこら中に飛散したトカゲさんの装甲を回収する。

出来れば残った胴体から採取したいのだが、今の俺たちには回収しても運ぶ術がない。

馬車ではあそこまででかいものは必要部位だけでも入りきらんからな。

装甲の欠片と切り裂いた両腕を、ある発見に驚きながらも淡々と集め袋に入れて担ぎ、満足しながら彼らの方を向く。


―――まだ呆けていた


(ちょっと常識を壊し過ぎたかね?

 今更だが。)


少しの罪悪感を覚えたが、このままでは話が進まないのでテキトウな石を拾い、投げる。


  コツッ


「あイタッ!?」


  コツッ


「きゃうっ!?」


  コツッ


「ひゃあっ!?」


  ドゴオッッッ


「げふぉおっ!!??」


最後のは当然我らがレオン君。

数m吹き飛んでピクピクと痙攣しています。

クルス、エルス、ルルの3人は可愛らしい反応をしてくれました。

そして、エルスがこちらに気づく。


「れ、レイ様・・・

 言い訳はしません、私は取り返しのつかないことをしました。

 ご自由にお裁きください・・・」


震えながらそう言ってきた。


「あの、レイさん。

 どうかエルスさんにお慈悲をお与えいただけませんでしょうか。

 結果はああなってしまいましたが、悪気はなかったはずです。

 私たちはいままでずっとエルスさんのお世話になってきました。

 ですから、どうか・・・!」


「僕からもお願いします、レイさん。」


真剣な表情で、懇願するように弁護する2人。

見様によってはとても美しい光景だろう。

なのだが。


(何で誰もレオンのことを心配しないんだよ・・・)


地面に倒れ伏し、頭から血を流して地面を濡らし始めたレオンの姿が、それを台無しにしていた。

そのせいで本来なら美しく見えたかもしれない2人の姿が、悪魔のようにしか感じられない。

自分のせいだということを棚に上げて、レオンのことを心の中で励ました。

励ますだけに留めて、気にしないことにしたが。


「ルル、君はさっきはエルスに対して苛立ちを感じていたようだったがもういいのか?」


ちょっと意地の悪い笑みを浮かべてそう言ってやる。

ルルは狼狽し、顔を赤くしながら答えた。


「ふぇ!?

 あの会話を聞いてたんですか!?

 あ、あの、それについてはあなたが傷ついたことに冷静さを失ってしまってですね!?

 本当はあんなことを言いたかったわけでもなくて、ついキツイ言い方をしてしまったというわけでして、えと、その・・・」


「落ち着いて、自分の考えを言ってみろ。」


十分楽しんだので、これくらいにして真剣に聞いてみる。


「・・・さっきはあんな言い方をしてしまいましたが、私はエルスさんが好きなのであまり酷いことはして欲しくないんです。」


「うん、極めて分かりやすい言い方をしてくれて助かるよ。

 ホントに君は俺の考え方を読むのが上手いな。」


俺に対して意見を言いたいならば、余計なことをきっぱりと取り払って要点のみを伝えるのが一番だ。

それをこの子はしっかりと理解していた。


「ルル、ありがとう、・・・でも気を遣わなくてもいいわ。

 私はどんなことをされても文句の言えないようなことをしてしまったのだから。

 きちんと罰を受けて、罪を償いたいの。」


「エルスさん・・・」


そのルルの発言にエルスは何かを悟ったかのように答えた。

ルルは悲しそうに顔を俯けた。

クルスは何も言わず、何かを考えている。

何とかこの場を切り抜ける方法を考えてるのだろうか。


「何ふざけたことをほざいている。」


その言葉に呆れを覚えて、つい言葉が荒くなってしまった俺には関係なかったが。

3人ともビクッと身を震わせた。


「罪を償う、だと?

 そんなことが出来ると思っているのか?」


「え・・・」


「罰を受ければ罪が消えるなんてのは、罪人の救済のために社会が生み出した幻想にすぎん。

 子を殺された親が、親を殺された子が、殺害者が捕まって牢に入れられて、何年が経ちました、あの人の罪は消えました、ですからあなたたちはもう彼を恨まないでくださいね、あ、復讐なんてしたらあなたたちが罪人ですからね、なんて言われて納得できるとでも?」


「えと、あの、そんなことは・・・」


「君の言っていることはそういうことだ。

 罰を受けてただ救われたいと願っているだけ。

 覚えておけ、罪がその人間から離れることは無い。

 一生その人間を苦しめ、苛み、侵しつづける。

 それが罪であり、罪という名の罰だ。」


人にとっては罪そのものが罰であり、罪を軽くするための罰など存在しない。

あるとすればそれは全て偽り、幻想、妄想、罪を恐れる人間の心が生み出した人間の弱さ。

それが俺の罪に対する考え方。


「あ・・・、その・・・、私は・・・」


エルスは顔を真っ青にして何も言えなくなってしまった。


(ふむ、少し言い過ぎたか。

 だがこれは間違いを正すために言わなければならないことだったからな。

 これ以上穏便な言い方は俺には出来んかったし、しょうがない。)


悪いとは思ったが、仕方ないことだと思い割り切る。

こんな空気では話もままならんので、換気することにする。


「エルス、落ち着いてくれ。」


両肩に手を置き、真正面から見つめる。

ちょっと卑怯なやり方かもしれないが、これが一番手っ取り早い。


「あう・・・!?」


案の定、エルスは顔色の悪さが吹き飛び、身を震わせて顔を赤くした。

その様子に内心でほくそ笑む。


(・・・俺、ロクな死に方しないだろうな)


同時にそんなことを思ったりもしたが。

ちなみに周りでは、クルスが姉に激励するような目を向け、ルルが顔を赤くして羨ましそうにして、レオンが「花畑キレイだな・・・」とか「爺さん、迎えにきてくれたのか・・・?」とか呟いている。

・・・三途の川って世界変わっても共通なのか

とにかくさっきまでの深刻な空気をぶち壊すことに成功した。


「とりあえずいろいろと聞かせて欲しいんだがいいか?」


「え、はい。」


手を離すと名残惜しそうな顔をしたが素直に答えてくれたんで、さっさと聞きたいことを聞く。


「それじゃあ、さっきは何故魔法を使ったんだ?

 君はそんなことをするほど馬鹿ではないと思ってたんだが。」


そう聞くとエルスは明らかに狼狽し、俯いた。

困ってるというよりは、言っていいのか悩んでいるという様子だ。


「ふむ、俺が聞きたいのはあったことのありのままの姿だ。

 言い難いこともあるだろうが正直に言ってほしい。

 別に言い訳じみたことを言っても怒ったりしないから頼む。」


そういうと顔を硬くし、何かを恐れながらも説明してくれた。

説明と呼べるか分からない内容だったが。


「・・・・・・、何も、覚えていないんです・・・」


「何?」


「本当に覚えていないんです。

 レイ様が不可思議な技術で優勢に戦い初めたところまでは覚えています。

 ですが、その後の私が魔法を使った時のことは一切・・・

 記憶がはっきりしてるのは、結果としてレイ様が吹き飛ばされたところからなんです・・・」


「・・・そうか。」


エルスの言葉にクルスとエルスは信じられないといった表情を見せる。

それも当然だ。

魔法を使う時は意識をはっきりさせ、イメージを明確にしなければならない。

記憶が無くなるほどの意識が定まらないような状態で使えるようなものではないのだ。

彼らにはエルスの言葉は単なる言い訳に聞こえたことだろう。


(そうなると、最後の可能性がますます濃厚になってくるな。)


ある可能性に思い至った時から、俺には大体予想できた内容であったのだが。

次の質問をする。


「それじゃあ、まださっきの規模の魔法を使えるだけの魔力が残ってるか?」


「え、魔力ですか?

 ・・・・・・・・・大丈夫ですね。

 さっきの魔法は恐らく私の最大規模のものでしたが、今日はあまり魔法を使わなかったのでそれなりに残ってます。」


質問の意味が分からなかったのか一瞬キョトンとしたが、瞑目して自分の状態を確認した後そう答えた。

ゴブリンたちとの戦いでは小出しで間に合ったそうで、あまり使わずに済んだそうだ。


「今、それを使ってみてくれないか?

 ただし、出来る限り小声で、さらに発動して水が集まるところでいったん止めてくれ。」


「・・・はい。」


不思議そうだったが負い目からか理由を聞いてくることはなかった。

隣の人間に問題なく聞こえるくらいの声で、短い歌ほどの言葉を詠唱して、少し離れたところの上空に直径5mほどの水の立方体が完成する。


(・・・確かにあの時と同じくらいの量だ

 しかしあのくらいの声量だと・・・)


顎に手を当てて考え込む。


「声をもう少し抑えることはできないのか?」


「えと、駄目だと思います。

 それなりに大きい声でないと魔法を使えるほどの集中力が得られないので。」


「ふむ、なるほど。

 君はその魔法を動かすことが出来るか?」


彼女は首を振る。

肯定ではなく否定の方向に。


「私の力では、これをただ単純に落とすぐらいしか出来ません。

 修行すれば自由に動かせるようになると思いますが・・・」


「そうか。

 じゃあ動かそうと頑張りながらそれを落としてみてくれ。」


「ふうぅぅぅ・・・、ふっ!!」


目を閉じて動けと念じるエルス。

だが、水は僅かに軌道をずらしながら落ちただけだった。

滝のような音がし、落ちた場所に大穴が空く。

水が撥ねて体にかかる。

戦いで火照っていたので気持ちがいい。


「・・・それで限界なんだな?」


「は、はい・・・」


恐縮した様子で答える。

その様子に嘘は見られない。

表情を変えずに嘘を吐けるような性格ではないので、事実なのだろう。


(あれが限界か。)


「もう一度確認したいんだが、本当にあの時のことを覚えてはいないんだな?」


「お疑いになるのも尤もですが、私は本当に覚えていないのです・・・」


悲しそうに俯いてしまう。


(信じていないと思われてしまったか?)


「勘違いしないでくれ、傷つけてしまったのならすまない。

 少なくとも君が嘘を吐いていないことはよく分かった。」


「あ・・・」


頭を撫でて誤魔化す。


「・・・エルスさん、さっきから自分ばっかりずるいです・・・」


「え!?、あの、これはあれよ!」


(どれだよ。)


ルルの拗ねたような発言に対するエルスの返答に、思わず苦笑して内心で突っ込みを入れる。

これでエルスから聞きたいことは終わった。


「うお?

 爺さんどこ行った?

 俺に天国を見せてくれるんじゃなかったのかよ。」


ここで都合よくレオンが復活した。

その発言に大量の言ってやりたい言葉が浮かんだが、必死に抑える。


「レオン、早くこっちに来い。

 話がある。」


「・・・レイ、なんだかお前にすごく罵詈雑言を浴びせたくなったんだが、お前になんかされたっけ?」


「いや、お前は俺の戦いが終わった気の緩みで気絶していたんだ。

 当然俺は何もしてないぞ。

 なんかあったとしたらさっきの夢の中での話じゃないのか?」


これまた都合のいいことに、こいつも記憶が飛んでるようなので偽りの事実を刷り込むことにする。


「俺の爺さんが何をしたらお前に対して苛立ちを感じるようになるんだよ。」


「恐らくその爺さんは悪魔の仮の姿で、お前に対して俺についての悪い作り話を吹き込んだんだろう。

 人にイタズラをするのが好きな、奴らの考えそうなことだ。

 そうして俺たちが仲たがいするのを狙ってたんだろうが、生憎なことに俺たちの友情はそんなことでは揺るがないほど強固なものだ、運が悪かったな。」


「ゆ、友情だと・・・!?」


「何だ、友達ではないとでも言うのか?」


「いや、そんなことは・・・

 だがお前の俺との接し方を考えるとだな・・・」


「レオン。」


そこで優しげな表情をつくって騙る(・・)


「昨日言ったことを忘れたのか?

 嫌がらせは俺にとって愛情表現の一種なんだよ。

 傷つけたのならすまない。

 だがこれは、俺がお前を対等の存在と認めてる証なんだ。」


「お、お前は俺のことをそんな風に思ってくれてたのか。」


「ああ、これからもイロイロ(・・・・)と迷惑をかけるだろうが期待してるぞ。」


「・・・ああ、ありがとう!」


そうして笑顔を浮かべて抱き合う俺たち。


一方は満面の無邪気な笑みを

一方は満面の邪悪な笑みを

それぞれ浮かべて、俺たちの絆は深まった


その様子を見て、俺に恐怖の視線を送る3人が居たが。

折れた骨が痛んだが我慢した。





「それで聞きたいことってのは?」


「正確には、お前ひとりではなくエルスを除いた君ら全員に対してのものだ。」


「僕らにもですか。」


「なんでしょう?」


「君らはエルスが魔法を使う前に、どんなことを考えていた?」


「はあ?」


「どうしてそんなことを?」


「ええっ!?」


ちょっとルルの様子がおかしかったのに首をかしげたが、気にしないことにする。


「気になることがあるんでな。

 包み隠さず教えてくれ。」


「まあいいんだが。

 俺は確か・・・お前の動きを見てて自分でも真似できないかと考えてたな。

 ・・・俺には無理だと分かっただけだったが。」


「僕は単純にあなたのことをすごいなあーと思ってただけでしたね。」


「あうう・・・」


レオンとクルスは直ぐに答えたのだが、ルルは顔を赤くして俯いてしまった。

何を考えてるのか大体想像がつき、悪いとは思ったが、詳しい内容が聞きたかったので聞き出すことにする。

近くに寄って顔を近づける。


「すまん、言いづらいことなんだろうが言ってくれないか。

 他の人間に聞こえないように小声で構わないから。」


そう言って、耳を寄せる。

消え入りそうなほど恥ずかしそうにしていたが、そうすると話してくれた。


「あの、かっこいいな、と・・・」


(あーやっぱりね。

 そりゃ言い難いわな。)


「ありがとう。

 無理に言わせてすまなかった。」


笑って頭を撫でてやると花のような笑みを浮かべた。


(さて、これで聞きたいことは無くなったな。)


手を離し、顎に手を当てて考え込む。


(こうなると、この(・・)可能性が一層現実味を帯びてきたな。

 まったく、なんて面倒な。)


俺の中ではこの依頼とこの出来事から、ことの真相の予想と1つのシナリオが頭に浮かんでいた。

だが、それを決定付けるだけの知識が自分には無い。


(これは早急に何とかしなければな。

 図書館でも探してみようか。

 ・・・いや、ネストキーパーを利用させてもらうとしよう)


今回のことについての一定の考察とそれに対する対処、そしてネストキーパーから譲歩を引き出すまでの工程を頭に思い浮かべ、ほくそ笑む。


(・・・なんか段々自分が悪魔に思えて来るな)


気にしないことにして、目下の問題を考えることにする。

すなわち、エルスの処遇。

正直とても困っている。

ただの彼女の暴走であれば適切な処置がいくらでも浮かぶのだが、今回はそうはいかない。

彼女だけの責任ではない可能性がかなり濃厚なのだ。

さっきの話をきいて余計にそうなった。

と言っても、まだ確率としてはせいぜい6:4ほどで、エルスの線が完全に消えた訳でもない。

大抵の人間は、悩むくらいならば罰を与えなければいいと思うかもしれない。

だが、そういうわけにもいかない。

さっきはああ言ったものの、罪に対する罰というのは本質的には意味が無いが、心情面で言えばなかなか重要になってくるものなのだ。

今回の場合、もし何もお咎めなしにすると、後々このことがしこりとなって必ず悪影響を及ぼす。

罰には一種の儀式のような意味もあり、罪人に自分は許されたという錯覚を与えることで、これからのことに前向きにさせる気分転換の意味もある。

それは必ずしもいいことであるわけではないのだが、今回はこれがかなり重要になる。

このままだとエルスはいっそう罪悪感に苛まれてしまうだろう。

そうさせないためにも形式としてでも罰を与えることで、吹っ切れて貰わないと困る。

だが。


(エルスだけの責任ではないなら軽い罰を。

 完全にエルス個人の責任ならばそれなりに重い罰を。

 それぞれ与える必要があるんだが2つの場合で対処の仕方が違い過ぎる、どうしたもんか・・・)


一方を立たせれば一方が立たず。

上手い対処の仕方が浮かばない。

そのまましばらく考え込み、


(・・・軽いが重い罰、これでいくか。)


どうするかをやっと思いついたので、いつの間にか瞑っていた目を開ける。

すると目の前にいたエルスがビクッと身を震わせた。

他は息を呑んで見守っている。


「エルス。」


「は、はい!」


真剣な顔で言うと緊張した面持ちで答えた。


「君は、俺に言うべきことがあるんじゃないか?」


「え、あの・・・」


「間違ったことをした時に一番最初に言う言葉とか。」


「・・・あ!

 あの、謝って済む問題ではありませんが、このようなことを仕出かしてしまい真に申し訳ありませんでした!」


ことの大きさだけに、「謝る」という最も基本的なことを忘れてしまっていたエルスがそう言い頭を下げる。


(ん、まずは正解っと。)


といっても、これは次の為の布石に過ぎないが。


「それだけか?」


「え・・・?」


「まだ言うべきことは残ってるぞ。

 謝るというのは、過去についての清算をしたい時に使うものだ。

 では、これからどうするかの言葉も述べるべきではないか?」


「う、その、これから、は・・・えと・・・」


「やっぱり分からんか。」


分かってたらそれはそれで困ってたんで、狙い通りなのだが。


「い、いえ!

 そんなことは!」


「焦らんでもいいさ。

 これは宿題にするから。

 仲間内でいくら相談しても構わない、だが、ネスト陣とはダメだ、普通の会話もな。

 向こうの街に着いた時に改めて聞かせてくれ。

 レオン、ネスト陣を馬車まで運ぶのを手伝ってくれ。」


「お、ああ。」


そう言って俺はライガンさんとフルートさんを、レオンがサムスさんを運ぶことにする。


「あ、あの、レイ様。」


「なんだ?」


「・・・もし、答えられなかったらどうなるのでしょうか。」


待っていた予想通りの質問に冷淡に答える。


「何もしない。」


「え?

 な、何も、ですか・・・?」


「そう、何も。」


「そ、それでは困りま―――」


「何も聞かず、話さず、言わず、ただ君をいないもの(・・・・・)として扱うようにするだけだ。」


「・・・え?」


何を言われたのか分からないようで、間抜けな声を漏らした。

だが、言葉の意味を理解した途端、顔色が真っ白になる。

口を開閉しているのだが、言葉になっていない。


「それが、俺が君に与える罰だ。

 君らは先に馬車に戻ってくれ。

 俺とレオンは、少ししてから向かう。」


そう言い、彼らに背を向けネスト陣を回収に向かう。

彼らは俺に何を言っても意志を変えないことを理解して、クルスとルルがエルスを支えながら歩いて行った。

この場に、俺とレオンだけが取り残される。


「おいレイ・・・!!」


怒りを抑えきれない様子でレオンが話しかけてきた。

俺はそれを右手で抑える。


「レオン少し話をしてから行こうか。」


そう言うとレオンは気勢を削がれてしまい怯んだ。




そして俺は今現在唯一の『友達』に、今回の件の仮説を含めて自分の考えを説明した









そして現在に至る。

今の空気は俺が意図して作り上げたものなんだが、流石に悪いことをした。

仲間には(・・・・)そう思う。

わざと彼らとネスト陣の間で会話が進みにくいようにするためにそうしたんだが、こりゃ気が滅入る。

エルスはそんなことを気にする余裕もないようだが。




実を言うと俺はこの罰、エルスが答えられないとは微塵も考えていない。

今回なぜこのようなことになったのかを順番に考えていけば、直ぐに答えが出る。

難しいように感じるのは、失敗した時の罰が重すぎるから。

そのせいで、果たしてこんなに簡単な答えでいいのか、と疑心暗鬼になってしまうのだ。

答えは実に簡単で軽い、だが、失敗した時のことを考えた時、それが重いように感じてしまう。

故に、軽いが重い罰。


(俺、性格悪いよな・・・)


自分の性格を再確認して、笑う。

もちろんエルスが失敗した時は、俺は宣言通りにするのだが。

一度発言してしまった以上、責任は取らねばならない。

だが、馬車の中にはあれがいる。

万が一にもエルスがそうなることはない。


(あいつは、勝手に行動して流れをいい方向に持ってくだろうな。

 馬鹿は偉大なり、といったところか。)


苦笑を浮かべて、空を見上げる。

青空だった。

仰向けになり、改めて馬車の()を警戒する。









もし俺の仮説が正しくて、()が動き出したらすぐに始末が出来るように


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