23話 嵐
総合10000突破・・・
ほんと、ここまで行けるとは思いませんでしたよ。
みなさんありがとうございます!
やっと戦闘終了!
今回、とんでもなく書き方に迷いました
どうも女性の心情は書きにくいです
主人公は書きやすいのにな・・・
―――side エルセルス
頭が真っ白になった
何故私は手をだしたの?
自分でもまったく分からない
褒められているクルスを見て、羨ましいと思ってしまったのはある。
頭でそんなことを気にすることは無いと分かっているのに、感情が制御できなかった。
時間が経てば経つほど負の思いが強くなり、焦りが増していった。
自分でこんなに嫌な性格だったのかと驚いたほどだ。
だけどこんな迂闊な行動を起こすほどのものではなかったはず。
彼は高速で縦横無尽に戦うので、迂闊に魔法を使うと巻き込んでしまう。
迂闊に手を出せば、今拮抗している状況が一気に悪い方向へ流れかねない。
あの魔獣と戦い始める前に言っていた、リズムが崩れるというのはそういうことなのだろう。
それを理解していたので、戦いに手をだすという選択肢は考えられなかった。
なので加勢したいという甘美な欲求を抑え、私は黙って見ていた。
レイ様が危機に陥りそうになる度に心が張り裂けそうになるのを何とか抑えていると、急に状況が変わり始める。
恐らくは専用の兵器や魔法を使っても壊せないであろう魔獣の身体を易々と切り裂く、私たちにはどんなものか想像もつかない技術で一気に優勢に戦い始めた。
魔獣の苦しみ方からして、恐らくあれは音に弱かったのだろう。
地中に潜む生態を持っているからなのだろうか、理由は何にせよそれをこの短い時間で把握してしまい、弱点を的確に突く戦法を採った。
今までの心配がまったくの杞憂だったのだと私たちは理解した。
あの人はいつも必ず切り札を隠していて、もし苦戦しているように見えるとしたらそれは余程のことでない限り全て偽りのものなのだろう。
あまりの非常識ぶりにもう呆れることしか出来なかった。
それからは今までの不安から解放され、安心して戦いの行く末を見ていられた。
・・・嫉妬は相変わらずあったのだけれど
―――そのはずなのに
―――気が付いたら、私は魔法を使っていた
その時のことはまったく覚えていない、どんな魔法を使ったのかすらも。
結果が結果だったために、自己防衛で心を閉ざしてしまったのだろうか。
分かっているのは、私の行動で取り返しのつかない事態を招いてしまったということだけ。
私の最大威力と思われる水の魔法が激突した。
だけど妙な軌道を描いて、見事なほどあの人の攻撃を邪魔する結果になってしまった。
しかも魔獣はダメージを受けた様子がない。
自分の行動の結果に私が気づいた時にはもう手遅れだった。
魔獣の攻撃を受けてレイ様がとんでもない速さで吹き飛んだ。
―――それを引き起こしたのは私
「あ・・・」
(ワタシハイッタイナニヲシタ?)
自分で自分の行動が信じられなかった。
気が付くと周りの人が信じられないものを見るような目でこちらを見ていた。
それにより一気に現実に引き戻される。
「ね、姉様・・・?
えと、一体何を・・・?」
状況を受け止め切れてないクルスの引きつった笑みが、心に突き刺さる。
ルルがこちらを見ながら口を両手で押さえているのが印象的だった。
「あ、あああ・・・」
言葉が発せない。
頭がまともに働かず、取りとめのないどうでもいいことしか考えられない。
醜くも、いくつもの言い訳の言葉が頭を過ぎる。
そしてそれすらも言葉にならない。
いや、そもそも私にはなにも言う資格なんてない。
記憶が曖昧だということなど理由にはならない。
私があの人を死んでもおかしくない事態に陥らせてしまったという絶対的な事実が周りの皆のすべてなのだから。
こんな事態を引き起こした張本人がなにを言えるというのか。
もうダメ
あの人の信用を裏切ってしまった
手を出さない方がいいと言っていた理由を十分に理解していたはずなのにこんな真似をしてしまった
こんな私に生きてる資格なんてない
負の思考の連鎖にどんどん引き込まれていく。
そしてもう引き返せないところまで堕ちて―――
「エルス、呆けてる暇があるならどうしたらいいかを考えろ。」
いく寸前で、冷静な声に引き戻された。
レオンが真剣な表情で私の両肩を掴み、こちらを見ていた。
―――何故こんな表情が出来るんだろう
「お前らも、過ぎたことを気にしても責めてもしょうがないだろ。
あんたらもそんな表情をすんな、あいつがやられたから次は俺らなんだぞ。」
「・・・お前、主人がやられたってのに薄情すぎやしないか?」
「兄さん、こんな時に自分の心配ですか・・・!?」
サムスさんとルルが怒りを滲ませて責めるように言う。
ルルは好きな人があんなことになってる時に言われたからか、言葉には憎しみすら混じっている。
私が言えたことではないけど同感だった。
あの人の心配より、自分の心配を優先する発言をしたレオンに反発心が湧いた。
溺愛しているルルにこんなことを言われたら、レオンなら絶望するはず。
なのに。
「なに、朝にあいつに「期待に応える」って言っちまったからな。
こんなことぐらいで望みを捨てるわけにはいかんさ。」
まったく気にせず飄々と受け流して見せた。
なんのことを言ってるのか分からないけど、なにやら今までは無かった信念のようなものが感じられた。
ルルの驚きは私よりも顕著で、怒りが霧散していた。
「クルス、ここからあいつを射って注意を引いてくれないか?」
「そうですね、先ほどの戦いで消耗してはいますがあのくらいであれば問題ないです。
さっさとレイさんを救出しましょうか。」
いつの間にかクルスも立ち直っていた。
さっきまでは私に劣らず混乱していたのに。
「え、クルス?
それってどういうこと?」
「落ち着いてくださいルル、怒らずに冷静に考えれば直ぐ分かることですよ。
レオンさんはこちらに注意を引いているうちに誰かが回り込んで、レイさんを助けようって言ってるんです。
そうですね、僕が矢を射って注意を引き、レオンさんが攪乱するので、姉様とルルは回り込んでくれませんか。
サムスさん方は自由になさってください。」
「え、あ、わ、分かった。
・・・ておい!、それじゃあお前らが危険過ぎだろ!?」
一瞬勢いに呑まれそうになったが、直ぐにその考えの問題点に気づいてサムスさんが反論した。
「いえいえ、これは僕たちが引き起こした事態ですので僕らで何とかしないといけませんよ。
あなたたちが危険な仕事を担う必要はありません。」
「っ!?
クルスそれは違うわ!
あなたたちは何も悪くなんかない!
私が、勝手なことをしたから・・・!」
私が勝手な事さえしなければこうはならなかった。
もうこの短い間で何度この言葉を念じたことか。
いくら自分の行動を悔いても罪が消えはしないのに。
あの人を傷つけてしまったという事実が辛くて仕方がない・・・
本当になんで、何を考えて、私はあんな真似をしてしまったのだろう。
間違いを犯した記憶すらないことが、さらに私の罪悪感を加速させる。
それでも他の人、ましてや弟に罪をなすりつけるなんて最低な真似をするほど落ちぶれてはいない。
だからその言葉だけは受け入れられなかった。
「姉様、いまさら1人で抱え込まなくてもいいですよ・・・」
「ホントにな。
この半年でどれだけ俺たちがお前に苦労をかけたと思っていやがる。
こんな時に支えになれんでどうする?」
「・・・・・・ふう、そうですね。
それにレイさんがあれで死ぬとは思えませんし、ここは協力して早くお助けしませんと。
エルスさん、気にしないでとは言いません。
あの人を傷つけたことは腹立たしいですし、間違ったことをしたのは事実ですから。
でも、それを挽回できないわけではありません。
辛いのでしたら誰よりも頑張ってさっさと挽回してくださいな。」
クルスが呆れたように、レオンが怒ったように言う。
この中で一番私を許せないであろうルルまでそう言ってくれる。
クルスとレオンも、今までとは違ってどこか頼りになるような存在になっていた。
確かに国を出てから半年の間、私が皆を指揮って行動していたから苦労をしなかったわけではなかったのだが。
クルスは私に守られることが多かったのに、いつの間にか私を守れるほどにまでなっている。
―――皆、この短期間で成長してるんだ
私はやっと負の思考の連鎖から抜け出した。
そうだ、気にしてる暇なんて無かったんだ。
後悔してるなら、どんなことをしてでも自分の何を犠牲にしてでもそれをこれから償えばいい。
皆が成長してる、私だけ取り残されたくはない。
そして、後悔するのを止めて前を見る。
彼らに私はたった一言を、あらゆる感謝の思いを込めて言う。
後ろを見て後悔するのではなく、前を見ることを教えてくれたことに対して。
「ありがとう、みんな・・・!」
まずはあの人を助ける。
償いになるはずもないけど、何もしないよりはずっとまし。
不思議なことに決心をすると心が急に楽になった。
罪の意識が消えたわけではなく、未だ罪悪感に押しつぶされそうなのに。
私はこの罪を背負って、これからを生きる決心をした。
「キュアァァァアア!!!」
魔獣がこちらを睨んできた。
今までは勝利の余韻に浸ってたのか、こちらには関心を払っていなかった。
(お前がレイ様に勝ったわけじゃない!)
その様子に自分のせいだというのに理不尽な怒りを感じたが、直ぐに気を取り直す。
余計なことを考えていては魔法は使えない。
「サムスさん、ライガンさん、フルートさん。
こんなお願い恥知らずとは思いますが、どうかお力をお貸しいただけないでしょうか。」
頭を下げて、頼み込む。
私が引き起こした事態なのに、助力を頼むなんて恥知らずにもほどがある。
「いやいや、さっきのお前たちの絆を見ておいて助けないなんて選択肢があるわけがないだろ。」
「まったくだ。
なかなかにいいものだったぜ?、たった1人をみんなが励ます光景ってのは。
しかも全員が美形だから金を払ってもいいようなもんだった。」
「ええ、皆さん、エルスさんだけの責任なのに誰も責めないものですから。
・・・少しレイ君に嫉妬してしまいましたよ。」
それなのに全員こう言ってくれた。
誰もが何の責任も無いのに気前よく引き受けてくれた。
・・・?
(なんだろう、今の自分の考えにすごく違和感があった・・・)
何もおかしいことは無いはずなのに。
私だけが魔法を使った結果のはずなのに。
どうしてそのことがこんなにおかしく感じられるのだろう。
「キアアアアアアアア!!!!!!」
そんなことを考えていたのだが、突進してきた魔獣により中止せざるを得なくなった。
「はは!
クルス、お前の出番無くなったんじゃないか?」
「う、で、でも僕も闘気で身体を強化して攪乱くらいはできますよ。」
そんな軽口を叩いているレオンとクルス。
「まったく、そんなことを話してる場合?
サムスさん、貴方たちにはレイ様の救助を頼んでいいですか?」
そう言うが、私も初めはあれだけ怖がっていた存在だったのに、何故か今はそれほど怖くは無かった。
ネストの方々が頷いたのを確認する。
そして、全員が攪乱やレイ様の救助のために走りだす。
―――そして、彼らが急に吹き飛んだ
「・・・・・・・・・え?(私たち)」
あまりの事態に皆言葉が出ない。
魔獣の仕業かと思ったが、彼(彼女?)も目を真ん丸にして驚いていた。
・・・意外と可愛らしい
では一体だれが?
そう思った瞬間。
(ッッッ!!??)
辺りに莫大な魔力が吹き荒れた。
たとえ魔導士100人が束になっても出せないような、大瀑布にも等しい量。
その魔力の噴き出す場所に目を向けると、
「≪テンペスト≫」
魔神が佇んでいた
―――side out
岩壁に叩き付けられる。
勢いも相まってとんでもない衝撃が襲う。
肺の中の空気が全て吐き出された。
(あー、折れた。)
他人事のようにそう思う。
何が?というと具体的には左腕と肋骨、そして・・・ナイフが。
(悪あがきは成功。
だけどまさか、これまで折られるとは・・・)
俺が行った悪あがきとは尻尾が来た時に、2本のナイフを交差させて尻尾を受け止めた、というもの。
(ここまでやってなお貫かれるとはな。
いや、内臓にはほとんど影響がないからまだましか?)
障壁を3枚破り、後ろへ風で跳び速度衝撃を弱めたのにそれでもナイフを2本折られた。
武器は失い、障壁の無理な使用により体力の消耗も激しい。
だが、そのおかげで腹に突き刺さったのに内臓が潰れるのを防ぐことが出来た。
(まったく、エルスの奴―――)
この状況を引き起こした張本人のことを想う。
まったくあいつは本当に、
(面白いことをしてくれるものだ・・・!)
こんな目に遭ってるにも関わらず、俺には怒りがまったく湧かない。
むしろこの予想外の状況を作り上げてくれたことに関して、感謝すらしていた。
思わず笑みが浮かぶ。
(やっぱり人とはこうでないと。
こういうことをしてくれるからこそ連れてきたかいがあったというものだ!)
俺が仲間をつくった理由。
それは情報を得るためという面も当然ある。
だが、それ以上に自分には想像もつかないことを仕出かしてくれないかという期待のほうが大部分を占めていた。
この半年、森での始めに4か月は危険があったがその分俺にとってかなり楽しかった。
生きているという実感が得られたがために。
だが残りの2か月になると、もう死角からの不意打ちすら予想の範囲となってつまらないことこの上なかった。
生きる上で、快楽を得られないというのは生物にとって耐えがたいことだ。
この2か月、俺は半分死んでいるようなものだったのだ。
それでも満足できる強さまで到達できるまで、我慢していたのだが。
そんなことを考えていた俺にとって、他人という不確定要素は求めて止まなかった厄介事の火種だ、元貴族で世間知らずというのだから尚更だ。
だから従者として彼らと行動しようと考えた。
そして今、エルスは予想通り予想外を引き起こしてくれた、嬉しくて当然だ。
・・・まず間違いなく他人には理解されない考え方だと自覚している
まあ、さっき彼女に対して戦いを邪魔されたことに怒りを抱いていたので、結果としてはプラスマイナスゼロか。
ちなみに怪我をしたことについては、骨折などは俺にとってありふれ過ぎていて怪我の内には入らないので問題にならない。
―――だが
(なぜエルスなのか、それは疑問だな。)
衝突した土煙が晴れてきて彼らの様子が見えた。
エルスが顔色が悪いどころか顔色が無くなっているのが分かる。
誰もこちらをみてはいなかった。
エルスは、あの中で一番頭がいい。
普段の行動を見ているとクルスの方が頭が良いように思えるかもしれないが、クルスが察しが良くなるのは基本俺に関してだけだ。
それに比べてエルスは、人の心情を読み測ることは不得手だが、どんなことにも並以上の考察を展開することが出来る。
ルルは反対に人の心情を読み取ることに長けているので、なかなかバランスがいい4人なのだ。
ちなみに一番頭が悪いのは、・・・言うまでもないか。
だから、俺が戦いに手出しして欲しくない理由をエルスは間違い無く理解していたはずなのだ。
レオンが暴走するよりも100倍くらいはあり得ない確率だった、まあもとが無いに等しい確率ではあったが。
(しかし事実、エルスは魔法を使ってしまったわけだ。
ふむ、人の心が複雑で読み取ることは難しいと分かってる以上、あり得ないとは言えないんだが・・・)
しかし、どうしても違和感があるというか不可解だ。
頭がいいはずの人間がこんな真似をしたことだけではない、それを行ったのが俺に対して好意を抱いている人だというのが。
確かに手柄を立てることが出来れば褒められるとか考えたりするだろうが、失敗した時のことを考えて、嫌われるかもしれないという考えに至ればふつうは行動したりしない。
人間とは無理に危険を冒そうとしないものだからだ。
(考えられるのは3つだな。)
1つ、すべては俺の考えすぎで、本当にエルスだけの責任だという可能性。
2つ、エルスが誰かに唆された可能性。
そして最後は・・・
(これであってほしくだけはないな。
・・・欲しくは無いのだが、状況からしてはこれが一番あり得る話ではある。)
そして、常識で考えればこれが一番あり得ない話でもある。
(いくらありえない可能性であっても念のため注意だけはしておかなくてはならないか。)
過去の教訓から、俺は常識というものがどれだけ脆いものかを知っている。
いくら注意してもし過ぎということはないだろう。
これからどうするかを考える。
このことは後でエルスに話を聞いたうえでもう一度考えることにする。
いままでは無視していたが、相当の痛みが身体を蝕んでいる。
肋骨も折れているので、さっきまでのような機敏な動きは出来ない。
そして、考え事をするには問題無いが、頭の働きもそれなりに鈍っている。
これじゃあ頭の演算領域をすべて使う必要がある上位魔法は使えない。
だが上位魔法以外ではあの装甲を破れない。
・・・手詰まりになってしまった
そんな時、向こうでの展開が目に入り度胆を抜かれた。
さっきまで圧倒されて怯えていたのに、立ち向かおうとしているのが見える。
(本当に人とは読めないものだな。
変わるの早すぎるだろ・・・)
呆れと、それ以上の感心が芽生える。
エルスですら、未だ罪悪感に囚われているが行動しようとしていた。
前を向き、勝てそうもない存在に立ち向かうほどに、この僅かな時間で全員成長していた。
(すごいな今日は、予想外がたくさんだ。)
それがとても楽しく、嬉しい。
彼らはどうやら戦いを避けて、生き残ることを優先しているようだ。
それならば、上手く立ち回ればどうとでもなるだろう。
―――俺の考えてる可能性が無ければ
なんとか行動を起こす前に俺が奴を何とかしなければ不味いことになるかもしれない。
だが、その手段が
(あ。)
思いつかなかったのだが、あることを思い出した。
まだ上級魔法とかの区別をつくる前に思いついた、ある魔法。
あれも一応上級と言えるだけの威力を持っていた。
あれならば今の頭でも使うことが出来る。
一瞬、始めに上級魔法を使わないようにしたことが頭を過ぎるが、
(馬鹿馬鹿しい、予想外の事態なのにいつまでも過去のことに拘ってどうする。)
自分のそんな考えを鼻で笑って一蹴する。
そして準備を始める。
まずは風の魔法で顎を思い切り打ち上げて、ネスト陣を気絶させる。
念のためだ。
苦労して立ち上がり、今の自分で出来る限りの魔力を練り上げる。
頭の働きが鈍ってるだけでは魔力が弱まるようなことはない、魔力に必要なのはあくまで精神力だからだ。
辺り一帯を不可視で無害の、それでいて明確な異常が包み込む。
そして瞑目し、イメージする。
無限の手数
大自然の力
抵抗すらできない脅威
洪水のごとくすべてを呑みこむ災害
折れていない右手を、上に挙げてかざす。
そして、その想像を具現化するキーを口にする。
「≪魔嵐≫」
名前というのは、イメージを明確にするのに非常に役立つ。
なのに俺は、普段使うような魔法には名前を付けてはいない。
それは、名前を付けるものを限定することで、限定したものの効果をより高めるためだ。
その限定したものこそが上位魔法なのだ。
・・・決して名前を考えるのが面倒だったからではない
そうすることで生まれる上位魔法たちの威力は、俺の想像を超える結果を生むことも珍しくない。
広場全体が暗くなる
太陽の光が遮られたためだ
―――空を覆う魔法の槍によって
何百、いや何千の、一発一発が岩を貫く威力を持つ下位魔法により構成される殺戮の雲
トカゲさんが呆然と上を見ている。
気絶していない仲間も。
そんな彼らを何の感慨も無く見ながら、右手を無造作に振り下ろす。
途端に火の、氷の、風の、土の、電気の槍が降る
避けることなどできない
地上では暴風が荒れ狂い、あらゆる生あるものの動きを阻害している
動きが鈍ったトカゲさんに、さっきまではただ真っ直ぐ落ちるだけだった槍が方向を変え襲いかかる
「~~~~~~~~!!!!!!」
トカゲさんが何かを叫んでいるように見える。
だがまるで空襲のような轟音に掻き消されてまったく聞こえない。
これはこの魔法に利点の1つだ。
苦悶の声も断末魔の声も一切聞かずに済む。
いつもなら感じる後味の悪さが小さくて済むのだ。
予想できた展開が前に広がっている。
(やっぱりか・・・)
トカゲさんには、あまり効いていない。
(呆れる硬さだよまったく。)
予想できたことだ。
岩を割る俺の蹴りが効かなかったのだから。
(これはあまりやりたくなかったんだがな。
惨いから。)
出来ればやりたくなかったがしょうがない。
全ての槍を、奴の頭にぶつける。
「~~~~~~~!!!!!!!」
苦悶の顔が、さらにキツクなった。
頭がまるで、ドリブル中のバスケットボールのように前後左右に跳ね回る。
かなりキツイものがある、動物愛護団体が見たら確実に非難の嵐だ。
(いやはやホントキツイし惨いな。
だけど、だから、オモシロい。)
思わず凄惨な笑みを浮かべてしまう。
これがしたくなかった理由。
どうも俺は、終わって冷静になったら後悔するくせに、こういうことが大好きなのだ。
普段は嫌に思う、苦悶の叫びも聞きたくなってしまう。
かなり歪んだ人間だよな。
そんなことを考えてると、トカゲさんがこちらに一歩一歩近づいてくる。
最後に一矢を報いろうとしているのか、健気なことだ。
―――だが、数の暴力には敵わない
一本がとうとう、金属疲労して脆くなった装甲を割る。
血が噴き出す。
他の場所でまた一本刺さる。
血が噴き出す。
それを繰り返す。
どんどんその数が、地面を濡らす血の量が増えていく。
刺さっていない頭の面積の方が少なくなる。
それでもまだ歩く。
そしてとうとう俺の目前にたどり着いた。
槍の雨に晒されながらも、ここまで耐え切ったのだ。
嵐が止む。
―――もう、必要が無いから
トカゲさんが、頭の大部分を失いながらも尻尾を振り上げる。
俺は動かない。
奴の数少ない残った箇所、口が、笑ったように見えた。
そして、地響きを上げながら倒れる
俺は戦いの余韻に、目を閉ざした。
既に冷静になってしまった俺に、凄惨な勝利を喜ぶ気持ちはなかった。
面白いと思っていただければどうか評価を!




