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異世界の愚か『もの』 ~世界よ変われ~  作者: ahahaha
初めての異世界 ~楽しき満たされぬ日々~
18/84

18話 決意

これで2章は終わりです。

次でようやく依頼が始められます。

これからは元の基本3日で1つを目指します。


装備を整えるともう辺りが暗くなり始めていたので、急いで宿を探すことにする。

幸いにもその手の設備も充実しているらしく、こちらは楽に見つけられた。

名前は「暁亭」。

・・・何故に日本語?とは思ったが気にしない

中に入ると1人の少年が受付に居た。

内装は普通のホテルを質素にしたようなものだった。

和なのか洋なのかはっきりしろよ。


「宿泊をしたいのですが、部屋は空いていますか。」


「ご利用ありがとうございます。

 今空いていますのは1人部屋が2つ、2人部屋がいくつかと、4人部屋が1つですね。

 値段の方は一泊の朝食付きで、それぞれ銅貨60枚、銀貨1枚、銀貨1枚と銅貨80枚になります。

 どういたしますか。」


「・・・では2人部屋を2つで頼みます。」


「おや、それではベッドが1つ足りませんがよろしいので?」


「ええ、ベッドを使うのは4人ですので大丈夫です。

 銀貨2枚ですよね、どうぞ。」


俺が笑顔でそう言うと全員の視線がレオンに向く。

どれにも憐憫の情が見て取れる。

レオン自身は涙目になっていた。

まあ、放っておこう。


「ではこちらの鍵をどうぞ、部屋は2階と3階になりますので。

 朝食ですが、時間になりましたら街の鐘がなりますのでその時に1階の食堂にいらしてください。」


「ありがとうございます。

 レオン泣いてないで行くぞ、エルス、こっちの部屋をルルと使ってくれ。

 それと荷物を置いたらこっちの部屋に来てくれ、話があるから。」


「分かりました。

 ルル、行きましょう。」


「はい、それではレイさんまた。」


少年は気になったようだが、何も言わずにいてくれた。

エルスに2階の鍵を渡して、項垂れるレオンを掴みそれぞれ部屋に向かう。










「それで話と言うのは何なんですか。」


男性陣の部屋に全員がそろったところでクルスが話を切り出す。


「いや、昼に俺の戦い方について説明するって言ったろ。

 それとネストで使ったあれについても。」


「ああ、そうだったな。

 気になって仕方なかったんだよあれ。」


他の皆も同じ気持ちらしく興味深々といった様子だ。


「まず、俺がネストで使った魔法は「振動」を応用したもので、結論から言えば相手の頭の中をかき回して気絶させることが出来るものなんだよ。」


「・・・相当極悪なものに聞こえますが。」


「ああ、人間に対して使用するものじゃないぞ・・・」


「改めてあなたの恐ろしさがよく分かりますね。」


「同感です。

 まあ、もうあまり驚けなくなってる自分にもちょっと怖くなりましたが。」


上からクルス、レオン、エルス、ルルの発言。

発言の割に皆の表情は若干呆れが入っている程度のようだ。

俺の行動に慣れてきているのだろうか。


「あれ?

 でもレイ様、それなら前兆も何もなかったのは何故ですか。

 何も揺れたりしませんでしたが・・・」


流石に本職だけあってエルスは今の説明では不足していることに気づいたようだ。

だが説明面倒なんだよな、まあいいか。


「ちょっと長い説明になるが、いいか?」


皆が頷いたので解説を開始する。




あの魔法の肝は、まず振動魔法によりある特殊な振動数の音を作り出すことにある。

物体にはそれぞれに固有振動数というものがあり、その振動数の音を与えられ続けると「共振」もしくは「共鳴」により物体が揺れだし、その揺れはどんどん大きくなっていく。

そしてその揺れに物体が耐え切れなくなったとき、その物体は破壊される。

今回の場合、物体に当たるものを頭蓋骨の中の脳に設定して行った。

もちろん揺らす程度の段階で止めたがそれでも脳が直接揺らされるのだから堪ったものじゃない。

しかし、これだけだと音というのは全方位に広がっていくので、使った途端に周囲の人間が全滅してしまう。

よってもう一段階、音を収束する工程を付け加えている。

音というのは収束することで、特定の人物のみに言葉を伝えるなどと言った芸当が可能だ。

スパイなんかがよく使っていそうなあれである。

前兆が無かったのは、そうして他の人間に影響を与えないよう気を使ったためなのだ。

この魔法は隠密性に優れ、周りになんの痕跡も残さないことから、極めて優秀な対人魔法と言える。




振動数などの言葉を分かりやすく噛み砕いた上で説明する。

説明を終えると皆が呆然としていた。


「本当に呆れますね・・・

 というか今の説明から判断するとあの人たち、いえ、あの時ネストに居た全ての人をあなたは気分ひとつで皆殺しにできたということですか。

 しかもなんの証拠も残さずに。」


「あなたを敵に回したら最後、何が起きたのかも分からない内に殺されてしまう、ということでもありますね。

 味方だと分かっていてもゾッとしてしまいます・・・」


これはクルスとエルスの言葉だ。

皆顔色を青くしている。

まあここだけ聞いたらそう思うよな。


「ところがそう簡単にはいかないんだよ。

 これの対抗策は意外と簡単なんだ。」


「ん?

 さっきの説明を聞いた限り欠点らしきものは無かったが。」


「・・・間にものを挟むこと、ですか?」


レオンも理解出来ていたか、まあこいつは馬鹿ではあるが別に頭が悪いわけではないからな。

そしてルル、また大正解だ。


「ルル大当たり。

 この魔法は俺と相手の間に物体を介在させると簡単に防げるんだ。

 ちなみに音を収束させないようにしても、その時は俺もこの魔法の犠牲になるんでね。

 さらに言えば闘気を集中させた場合でも防ぐことができる。

 正体がばれない内は絶大な威力を誇るが、ばれてしまえば割と簡単に攻略されてしまうんだ。

 だからばれたら困るから、おいそれと使えはしないんだなこれが。

 まあそうなっても相手に対するけん制にも使えるから無意味ではないんだが。」


「あう・・・」


「むう・・・」


ご褒美にルルを撫でながら言うと、エルスが微妙な顔をする。


「それは魔獣には使えるんですか?

 人間とはいろいろと構造が違うと思うのですが。」


「はい、今度はエルスよくできました。

 その通りでこれは事前の検証が必要だから魔獣にも使えん。

 あくまで対人専用だな。」


「ふふ・・・」


今度はエルスを撫でてやる。

ルルは名残惜しそうにしていた。

なんかこの人たち本当にキャラ変わってきたよな。

だがレオンの話だともとに戻り始めてるだけのようだし、最終的にどうなるやら・・・


補足で、ここでは言わないが、この魔法を人間相手に使えるのは自分の脳で検証したからだ。

手近なところに人間は自分しかいないのだから仕方がなかった。

極めてゆっくりと音を調整していったのだが、音が合って脳が揺さぶられた瞬間の感覚はとんでもないの一言。

とても言葉では言い表せない酷い目に遭った。

苦労した分、今ではこの魔法は気に入ってるがな。


「この魔法についてはこんなところだな。」


「なるほどな、それでもう1つ、お前の戦い方はどういったものだ?

 マーカスのところでも、武器をいくら勧められても固辞してたよな。」


「俺の場合は基本はこれだな。」


そう言い、腰のナイフを2本抜く。

ナイフとは言うが、その刃は50cmほどもあり、剣と言っても通じそうだ。


「これに加えて俺は全身、必要なときであれば歯まで使って相手を殺す。

 魔法も使うし、俺の場合は決まった攻撃手段はないようなものだな。」


「歯、ですか・・・」


噛みついて魔獣を仕留めている様子を想像したのだろう、微妙な顔をする皆。

隠す意味もないのであえて殺すという直接的な表現をさせてもらったし、しょうがないか。


「マーカス殿の店で武器を買わなかったのは、あの店のどの武器よりもこれらの方がいいものだったからだ。

 伊達にBランクの魔獣ではなかったようだ。」


「そりゃそうだ。

 「刃虎」はランク付けの通り、Bランクの連中でも生きるか死ぬかの戦いになるような化け物だからな。

 そいつの刃から造られたナイフなんて、金貨で数枚は余裕でいくぞ。」


「そんなものか。

 俺の説明はこれくらいだな。」


「それにしてもあなたの使う魔法は本当にすごいものですね。

 説明を聞いて仕組みが分かっても、私では再現できませんよこれは。」


改めて感心したように、エルスが言う。

そしてしばらくして、決心を固めたようにして聞いてきた。


「レイさん、あなたのその魔法を私に教えて頂けませんか。」


「無理。」


決死の覚悟を固めて放ったエルスの頼みを、俺は微塵の迷いも間も無く切って捨てる。


「あ、あの、もう少し考えてくれても―」


「別に意地悪とかでは無いよ。

 ただ純粋に、教えても君らに「究理式」を使いこなすのは無理なんだ。」


その俺の発言に、驚きと困惑を浮かべる皆。

そんな彼らに三度説明を開始する。




「究理式」も「恩寵式」も、想像することにより発動させるという仕組みは変わらず、以前説明した通り威力や発動速度などのほとんどの点で「究理式」の方が優れている。

だが、この方式は俺が使うことを前提として構築したために、普通の人間が使う場合には根本的な欠陥が存在する。


それは使用するときに「理性」が必要とされるということ


例えば、この方式で水を造り攻撃しようとする場合、これも以前説明したが、酸素と水素の科学反応という「理」をイメージし水を生成する。

平時ならば、知識さえあれば決して難しいことではないが、これが使用される場面は争いごとなのだ。

一瞬の認識の遅れが死に繋がる状態では、状況の認識にすべての意識を割く必要がある。

そんな時にあーだこーだと、物事の「理」について考えられるはずもない。

そもそも元来争いごととは、争う生物が本性をさらけ出し、「本能」の赴くまま全身全霊で死力を尽くす場合がほとんどである。

そんなところに、「理性」を以って世界の「理」を考えるなどという方式が入り込む余地など在るはずがない。

以前俺は「恩寵式」を時代遅れだという発言をしたことがある。

だがそれは「俺が使用する」という前提がある場合でのことだ。

他の人間にとって「究理式」は、遥かに発展した最先端技術どころか、単なる「欠陥品」に過ぎないのである。




ここでついでにもう1つ、「恩寵式」の魔法についても補足しておく。

皆の話を聞いたところ、この世界の魔導士の中には「固有魔法」と呼ばれる本人独自の現象を引き起こすことが出来る者がいるらしい。

その中には普通では絶対にできそうもない、「奇跡」としか言いようの無い不可思議なことを起こせる者も居るのだとか。

これについては俺なりに考察を重ね、何故そんなことが出来るのかについての仮説を考えてみた。

簡単に言うとやはり想像することで起こしているのだろう。

人の感情とは複雑で、ただ漠然と火を起こそうと想像したとしてもその内容は十人十色、まったく同じ想像をする者など存在しない。

そしてその想像の「個性」が、奇妙な化学反応のようなものを起こし、初めに願っていたこととはまったく別の魔法へと変質したものが「固有魔法」となったのではないか。

「魔法陣」や「詠唱」といったものも、これに一役買っていると思われる。

これらは「究理式」にはまったく必要のない無駄な過程だが、その無駄が使用者の想像を深化、複雑化することがあるのだろう。




このような点を踏まえると、一から十まで使用者の考えたことに沿い、それを超えることの無い「究理式」よりも、想像次第で如何様にも形を変え、時には使用者の想像を超えた結果を引き起こすことも出来るだろう「恩寵式」の方が優れている点も多いのである。


まあ単純な威力の点では、この世の理に従うことで莫大な威力を得ることに成功した俺の使う魔法に、ただの想像力のみでそれに打ち勝つ魔法を造ることなど人間には不可能であろうが




「とまあこういうわけだ。」


理解出来そうにない部分を省き、ようやく説明が終わる。

この説明を聞いたエルスは難しい顔をしていた。


「成程、それでは無理ですよね・・・

 もしかしたら今よりずっと強力な魔法を使えるようになれるのでは、と期待していたのですが、やはりそんな都合の良い話なんかありませんよね。」


「姉様、精進あるのみです!」


残念そうに言うエルスをクルスが励ましている。

どうやら諦めてくれたようだ。

しかし結構話し込んでしまったな。


「レイさん、時間も遅いですし、今日はこれくらいにしませんか?

 明日は依頼もこなさなくてはなりませんし。」


いいタイミングでルルが提案してくれた。

よくみたらレオン以外の皆は総じて眠そうにしていた。

まあ今日はかなり濃密な一日だったから無理ないか。


「そうだな、これぐらいでお開きにしよう。」


「分かった。

 じゃあ俺は下から毛布でももらってくるよ。

 最近は暖かくなってきたが夜はまだ冷えるからな。」


そう言いレオンが部屋を出ていこうとする。


「待て、そんなことせんでいい。」


「な、お前は俺に着の身着のままで過ごせというのか!?」


「レイさん、いくらレオンさんでもそれは酷いと思いますよ?」


「はい、いくら兄さんでもそれはちょっと・・・」


「いくらレオンとは言え、服だけでは風をひくかもしれませんし。」


「・・・君らもたいがい酷いことを言っていると思うがな。

 そうじゃなくて、ベッドを使わないのは俺だから普通にレオンは寝ればいいってことだ。」


「ええっ!?(全員)」


皆驚いている。

いくら俺でも事前に何の通達も無しにそんなことはしないんだがな。


「それはそれで不味いだろ?

 従者の俺たちが主人を差し置いてベッドで寝るなんて。」


「そうですよ。

 ここはやはり兄さんに床で寝て貰いましょう?」


「ルル・・・」


「レオンが泣くからそういうことは言ってやるな。

 主人が言ってるんだから別にいいだろ。」


「ですが―」


「それに。」


まだ言い募ろうとしたルルを黙らせ、続きを口にする。


「快適な環境に慣れてしまうともしもの時困るからな。

 『あの時』みたいに・・・」


そう口にした時の自分の表情を俺は知らない。

だが、皆は俺の表情を見ると息を呑み、何も言わなくなってしまった。


「俺は外で寝るよ、そっちのほうに慣れてしまったからな。

 近くにいるから何かあったら教えてくれ。」


そして俺は固まった皆を置いて部屋を後にする。









今、俺は木の上で作業をしている。

内容はあの銃の整備だ。

これはこっちに来て初めのひと月で弾を使い切ってしまったのだが、思い出の品だったのでそのままとってあったのだ。

思い出と言うよりは自分の戒めと言えるのかもしれないが。

そうしたのは正解だったようで、後にこれは俺の『切り札』の核となった。

分解し、マーカス殿の店で買ったさび止めの油を塗り、余分な油を拭き取ってから組み立て直す。

そして出来上がった銃を眺める。

銃身部分に彫り込みがあり、こう彫られていた。


「R.S.よりR.S.へ」


名前は覚えていない『あいつ』が、幼いころの俺の誕生日に贈ってきたモデルガン。

町を歩いている時にかっこいいとぼやいていたところを聞かれていたようで、その時覚えたてだったイニシャルを思いつきで彫ったのをプレゼントしてきた。

その理由はその方がかっこいいから、だったな。

そのモデルガンを『あれ』の後で俺が実戦にも使えるように改造したのがこれだ。


思えばとんでもない状況だよな。

いきなり異世界なんて訳の分からんところに飛ばされて、記憶は人物の名前だけがピンポイントでなくて、何度も命の危機に遭って、とんでもない力を手に入れて、


―――人間を、殺した


そして仲間を得た。


果たして、今の俺を見たら『あいつ』はどう思うだろう

うらやましいと思うだろうか

人でなしだと苦笑するだろうか

大変だったと同情するだろうか

すごいと褒めるだろうか

人殺しだと蔑むだろうか

俺がよく仲間をつくれたと感心するだろうか

恐らくどれも違う

『あいつ』の最期の言葉から想像できるのは1つだけ


「・・・『何で私は死んだのにあなたは生きているの?』、だろうな。」


最期の瞬間まで、「生」を望んでいたのだから





これについて考えすぎると抜け出せなくなりそうなので、これからに思いを馳せる。

俺は他の人間とは、常識、価値観、倫理、視点などいろいろとずれている。

それらは人間にとって根幹となる要素の一部だ。

それがずれているのだから、俺は自分を十分な『異常者』だと考えている。

このずれはこの世界の「魔法」を学ぶのに大いに役立ってくれたし、そのことを否定しようとは思わない。

そのおかげで、もしかしたらこの世界の人間の中で最強とも言える強さまで至ったかもしれないのだ。

だが、「異常者」の「者」という単語からも分かるとおり、所詮「人間」に過ぎない。

いくらずれてはいても、人としての「感情」の呪縛から逃れることなど出来はしなかった。

想像力だけで俺の魔法を超えることはまずできないとさっきは皆に説明したが、それはあくまで「人間」の話。

この世界には魔獣という存在がある。

俺の想像を超える力を持つ存在など、掃いて捨てるほどいるだろう。

さらに、人の枠を超えたという「二つ名」持ち。

それらの存在に対して、「人間」である俺はどこまで対抗できるだろうか。

多少の恐怖は感じる。

だが、それらに出会うのがそれ以上に楽しみでならない。

俺は知りたい。

自分がどこまでいけるのか。

弱さを思い知った存在が、自分の醜さを知ってしまった存在が、一体どこまで強くなれるのか。

それをどうしても知りたい。

その結果自分がどうなろうと。


「そんなところにいたのかよ。」


下から声が聞こえる。


「宿の近くではあるだろう。

 何か用か?」


気づいていたので普通に返事を返す。

その質問に対して、奴は率直に答えを返してきた。


「最後、なんであんな顔をしていたのか皆気になっていた。

 あいつらは聞く勇気を持てなかったそうなんで、俺が勝手に代表として聞きに来た。」


「うっとおしい、だがそれ以上にお節介な奴だな。」


本当に良いやつだよお前は。

その声音だけで、純粋に俺を心配しているのだと理解できる。

だが。


「お前の過去になにがあったんだ?」


「応える必要はないな。」


突き放すように告げる。

その言葉に一瞬固まったが、直ぐに立ち直る。


「俺たちが信用できないのか?

 確かにまだ会って精々1日だが―」


「俺はお前たちを「信用」はしている。

 だが、「信頼」はしていない。」


「・・・それはどう違うんだ。」


「俺の場合は「信じて用いる」という意味と、「信じて頼る」という意味で使い分けている。

 要するに俺はお前たちに頼る気は今のところは無いということだ。

 俺の過去をお前たちに話すと、俺はお前たちを頼りたくなってしまうだろう。

 だから、話すことはできない。」


「何故だ?

 別に頼ってくれてもいいだろうに。

 仲間ならそれぐらいはできるだろ?」


「頼るというのは結構無責任なことなんだぞ、レオン。

 失敗した時の責任が、頼られた相手にまで及ぶからな。

 俺は皆にそういうことをしたくはない。

 だから誰かを頼るようなことをせず、「信頼」することもないんだ。

 別にお前たちが嫌いなわけではなく、これは俺のエゴみたいなものだが、変えるつもりもないんだ。

 すまない。」


俺の頑固さが伝わったのか、レオンはそれ以上は言って来ず、苦笑した。


「まったく、謝るぐらいなら変えればいいものを。

 もしくはテキトウに嘘を吐くでもすればいいだろうに。」


「俺はこういう時に嘘をつかないようにしているからな。」


「お前も大概難儀な性格してるな・・・

 聞きたいんだが、つまりはこれから次第でお前が俺たちを「信頼」することもあるんだな。」


疑問ではなく確認だったので、無言でいることで肯定を示す。

それは伝わったようだ。


「それなら、今はこれでいいさ。

 そもそも会って1日で全面的に信用してほしいというのも無理な話なんだし。

 お前がいろいろとおかしいせいでそんなことも忘れていたよ。

 じゃあもう俺は寝る。

 お前は頑固だからベッドを使いそうもないし、素直にありがたく使わせてもらうよ。」


「少し待て、レオン。

 最後に俺の話を聞いていけ。」


宿に戻ろうとしていたレオンを、今度は俺が呼び止める。


「昼の俺がお前に殴られる前に、お前に何かを言いかけたことを覚えているか?」


「ああ、たしか「お前は俺の中じゃ・・・」だったか。」


「その答えを今言っておく。

 ちょうど誰も聞いていないからな。」


「・・・少し聞くのが怖いんだが、聞かなきゃだめか?」


「知っての通り俺は人をからかうのが好きでね。

 そのせいでレオンには結構な迷惑をかけているわけだが。」


「ああ、拒否権があるわけもなかったな。

 もう慣れたさ。

 どうぞ存分に語ってくださいな!」


レオンがやけくそ気味にそう言うのを聞きながら語り続ける。


「からかう時には実は俺なりのルールがあるんだ。

 それは自分より立場が低い人間にはやり過ぎないようにすることだ。

 立場が低いと弱いもの苛めみたいになってしまうからな。」


「ふーん。

 ん?、じゃあ従者で立場が低いはずの俺は何故こんなにやられてるんだ?」


「簡単なことだ。

 俺はお前のことを従者だとは思ってはいない。

 俺はお前のことを―」


ここで言葉を切り、はっきりと続きを口にする。




「『友達』だと思っている。」




なんといったのか分からないようで、きょとんとしている。


「俺はお前のことを『友達』だと思っている。」


だからもう一度口にしてやると、今度はあたふたし始めた。


「ど、どういうことだ!?

 おまえはそんなことを言うようなやつじゃないだろ!?

 もっと嫌な奴のはずなんだ!

 どういうことで、何を企んでいる!?」


俺はその慌て振りに満足した。


「その通り嫌な奴さ。

 だからお前にとって一番クルようにストレートに言わせてもらったんだよ。

 ん?、気分はどうだ?」


「ああ畜生!

 そうさ、お前の目論見通り大荒れで何もまともに考えられねえよ!

 寝る前にこんなことしやがって、もう寝れねえっつーのまったく!」


そう言い宿に向かおうとする。

俺はその背中にとどめをさす。


「ああ、最後にレオン。」


返事はない。

だが聞こえているはずだ。


「俺はこういう時に嘘をつかないようにしているからな。」


「うおおおお!

 グスッ、なんでそんなことを言うんだよ、グスッ、お前は!

 本っ当に嫌な奴だ~!!」


そう叫んで目を押えて走っていった。

静かになったところで、大分眠くなって鈍くなった頭で俺はあの4人を思い浮かべる。




あの4人は俺に救われたと思ってるようだが、俺はそうは思わない。

結果だけを見ればそうかもしれないが、終始自分の利益を考えた上でのものだ。

それに、一人前にもなっていない俺が、自分のことで精いっぱいの半人前の人間が、人を救うことが出来るはずがない。


だが―――


そこまで考えたところで俺は眠ってしまった









翌朝、俺はノックをしてから男部屋に入る。


「起きてるかー、野郎ども。」


「おはようございます、レイさん。

 今日は依頼ですから、昨日はなかなか寝られなくて大変でした。」


遠足前の小学生みたいなことを言うクルスの隣では、レオンが目の下に隈をつくって座っていた。


「おや、レオン君は一睡もできなかったのかね?

 いかんよ体調管理はしっかりせんと。」


「分かってて言うんじゃねえよ・・・

 だが、これぐらいならお前の期待に応えることぐらいはちゃんとできる。

 だから問題ない。」


「そうか。

 じゃあ期待してるよ。」


言葉以上に多くの気持ちが籠もった言葉のやり取りに、クルスは首を傾げていた。


「ところでエルスたちなんだが、レオンお前起こしに行ってくれないか?」


「まああいつらは朝に弱いから、絶対にまだ寝てるよな。

 だがそんなのはごめんだぞ、以前起こしに行ったら酷い目に会ったからな・・・」


「そりゃあの年で兄に寝顔を見せるのを恥ずかしいと思うのは当然だろうが、それを言うなら恋人でもない俺が行くのも相当まずいだろうが。

 クルスでは遠慮して起こせないだろうし、お前が行くのが一番だと思うぞ。」


「あっちはそんなの気にしないと思うがな。」


「分かった、お互い行きたくない理由があるならば、これで決めよう。」


2本の木の棒を取り出す。


「この2本からお前が引いて、先端に色がついてるのを引いたらお前が、何もついていない方を引いたなら俺が行く。

 どうだ?」


「・・・分かった。

 後腐れもないしそうしよう。

 ・・・・・・・・・これだ!」


引いたのは色付き。


「はい行ってらっしゃい。

 本当に期待を裏切らないでくれて何よりだ。」


「・・・逝ってくる。」


そうして部屋を出て行くレオン。


「なんか字が違ったような気がする。」


「・・・以前起こそうとした時、レオンさんは全治1か月の重傷を負ったんです。」


「・・・何をやらかしたんだ、あの馬鹿は?

 あの2人は理由もなくそんなことはしないだろ?」


「それについてはおそらくまたやると思いますのですぐに分かるでしょう。

 ところでレイさん、それなんですけど・・・」


「ああ、もちろんイカサマだ。

 俺は色付きと色無しの2本だなんて言ってないからな。」


クルスに見せながら言う。

棒はどちらも色付きだった。


「やはりそうですか。

 しかしレオンさんもそろそろこういうのに敏感になってもいいと思いますが。」


「なに、この素直さがあいつのいいところだろ。

 このままで居てくれたほうが俺は嬉しいよ。」


苦笑いを浮かべるクルスにそういうと、今度は驚いた顔をする。

そして。




「兄さん、なぜノックをしないで入ってくるんですか!

 以前言いましたよね!?」


「うお!?

 すまん、忘れてた!

 いや、だが寝てるんだからしても聞こえないんじゃ―」


「それでもするのが礼儀というものでしょうが!

 私たちが着替え途中だったらどうするのよ!」


「う、す、すまなかった!

 急いで出るから!」


「て、兄さん足元をちゃんと見てください!

 また前みたいに―」


「うおあああ!?」


「て、言わんこっちゃない!

 そして何でこっちに倒れて、きゃああああ!!??」




そして何かをたたく湿った音と、女性の悲鳴、男性の懇願が連続して聞こえてくる。

しばらくすると、音は女性の嗚咽だけになり、もう1人の女性がそれを慰めているようだ。


「・・・すごいなあいつは。

 以前も同じようなものだったのか?」


「はい・・・

 その時はもう少し長かったんですけど、原因は聞こえた限りでは同じですね。」


「一種の才能かね、これも。

 だがなかなかにおもしろかったな。」


「本人たちにとっては笑いごとではないと思いますが。」


「まあいいじゃないか。

 とりあえずレオンを治してやって、謝らせるとしよう。

 このままギクシャクされたら不味いし。

 行くぞ、クルス。」


愉快な気持ちで微笑みながら、クルスを連れ歩き昨日の思考の続きをする。









俺には彼らを救うことなど出来ない


―――だが









―――手助けなら出来るだろう


―――俺に楽しさを与えてくれる、大切な仲間を助けることぐらいなら



そして俺は、異世界での新たな人生を本格的に歩み始める



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