15話 ありがとう
総合評価5500突破!
500で喜んでいた日々が夢のようです
これからもよろしくです
今回はコメディ大目です
少なくとも個人的にはそう思っているんです
「な!?
レオンさん何をするんですか!」
クルスの驚愕の声が上がる。
俺はというとこの程度の不意打ちならば慣れきっているため、殴り飛ばされながら即座に体制を立て直し着地していた。
考えて行動したというよりもはや条件反射に近い。
心底驚いたせいで考えることが出来なかっただけでもあるが。
「随分なことをするな、レオン。
お前がここまで喧嘩っ早いとは思わなかった。
俺がそこまで気に入らなかったのか?」
思考がまとまらず、そんな言葉しか出せなかった。
こんな問いかけの答えなど分かり切っているというのに。
俺の心は今動揺で一杯だった。
レオンが何故こんなことをしたのか、それを考えることのみに頭が集中している。
分かっていることはただ1つ。
さっきの俺の答えが、奴の逆鱗に触れてしまったのだ。
しかも、それはレオンにとって絶対に認められないことだったのだろう。
でなければこいつが手を挙げる訳がない。
「そんなことはないさ、俺、いや、俺たちは皆主人であるお前を気に入っているよ。
だが、だからこそ今の発言を認める訳にはいかないんだよな・・・」
「やはりさっきの言葉が原因か。
俺にはさっぱり分からんが。」
「だろうよ。
お前はいつも俺たちをからかってくるが、誰かを傷つけるようなことだけは絶対に言わないからな。
分かっていれば言うはずが無い。」
「・・・俺はそんな心優しい性格をしてはいない。
だが、つまり俺はあの2人を傷つけるようなことを言ってしまったということか?」
意味の無い意地を張ることはできたが、驚きを隠せなかった。
そんなことを無意識の内に口走ったのか?俺は。
「・・・俺は今、お前の欠点を思い知ったよ。
お前どんな人生を送ってきたんだ?
人の悪意にはどこまでも敏感なのに、人の好意への対応を知らなさすぎだ。」
「ぐう・・・」
それは否定できない。
思い当たる節が多すぎるからだ。
人が好意を向けてきても余程の人でないとまず疑ってかかってしまうし、好意を信じられるような人の場合は俺と付き合っていてはダメになると思い、距離をおくようにしていた。
「お前の言うことは確かにその通りだ。
俺は純粋な好意を向けてきた人には極力深い関係を持たないようにしてきたからな。
だが、お前はそのことを間違ったことだと言うのか?
そんな良い人が、こんな人間と関係を持つことがいいことだとでも言うのか?」
「それだよ。
俺が怒っているのはまさにその点だ。
お前の意見は確かに間違ってはいないのかもしれない。
だが、それには重大な欠陥がある。」
レオンの声は静かだ。
だが、それでも言葉に押し殺されたような怒気がはっきりと見られる。
手を挙げないのは理性が最後の砦となっているのだろう。
・・・次の瞬間には粉砕されてしまいそうな脆さではあったが
「お前の意見はお前の主観でのみ構成されている。
その結果として相手がどう感じるかを考えていないんだ。
お前は思いやった結果のつもりでも、相手がどう思うかは分からないのに・・・!」
「・・・・・・」
俺は黙って聞いている。
「特に、今回お前は自分に恋愛意識を向けてきた人間に対してそうしようとしたんだ。
その結果、相手がどう感じるかお前が分からないはずがないと思うが?」
「まあ、悲しむだろうと予測はつくが・・・
だが、それならお前は後々もっと悲しませると分かっているのに付き合いを深めろというのか?
恋愛なんてものを理解できない人間に誰かを幸福にできるはずが無いだろう。」
俺は少なくともそう信じる。
人は自分の知ることしか知らないし、理解していることしか行うことはできない。
恋愛を理解できないものが、他人に愛情を注げられるわけがないのだ。
それは絶対の真理だ。
それでも無理に行おうとすれば、何かが破綻してしまう。
俺は常識や倫理など、人間が作ってしまったものならいくら踏み躙ろうとも自分の理念に背かない限りまったく構わないが、真理などの絶対的なことまで否定するほど馬鹿ではない。
そのことをレオンとクルスに語る。
クルスは苦い顔をしていたが納得していた。
「お前、実は馬鹿だろ。」
こいつにはまったく効かなかったようだが・・・
なんだかものすごく馬鹿らしいことを聞いたという顔をして、呆れた声を出す。
あまりの呆れ具合に怒りまで治まったようだ。
「・・・まさか、お前にそう言われるとはな。
ちょっと殴ってやりたいが、その前に何故そう思ったんだ?
つまらない理由だったらぶん殴ってやる。」
額に青筋を浮かべながらそう聞く。
本気でそうするつもりだった。
クルスもこの男が何を言いたいのか興味があるようで、聞く姿勢になっている。
「お前の言葉を要約するとだ、今は「恋」を理解出来ないから遠ざけようとしていたんだろ?」
「ああ、その通り。」
「じゃあ、関係を深めながら理解できるようになればいいだけじゃん。」
「・・・・・・・・・は?(2人)」
「だから今はダメなら、遊んだりして仲良くなりながら「恋」って感情もいずれ理解できるようになればいいだけだろ?」
「いやいやいや、それは不誠実過ぎだろ!?
それってつまり、付き合い持っても気持ちに応えられないと確信してるのに遊んで仲良くなれってことだからな!
それでもし「恋」を理解出来なかったら、俺はただの女ったらしだろうが!?」
「そ、そうですよ、レオンさん。
それは男として、いや人としてどうかと・・・」
何を考えてるんだこいつは!?
まさか俺にそんな好色な王みたいなことを望んでやがるのか!
クルスもこう言ってるし、どちらがおかしいかは明白だ。
「クルス、お前こいつに毒されてきてるな。
俺の今の発言は全くおかしなものじゃないぞ?
そう感じるのはお前らがごちゃごちゃと物事を難しく考えているからだ。」
「え?」
「どういうことだ?」
レオンの声は意外と落ち着いたもので、当然のことを言っただけという空気がある。
俺とクルスは、自分の考えの何がおかしいのか分からずポカンとしてしまった。
「お前ら、本当にわかっていなかったんだな・・・
いいか、普通は人の感情なんてものは理解できるようなものじゃないんだよ。
恋愛だって最初はよく分からない段階から初めて、段々と深めていくものだろうが。
分からないのが普通で、最初から分かってる方がおかしいんだ。
そんなわけで、分からないからと言って好意を向けてきた人を遠ざけるなんて馬鹿馬鹿しいことだとおもわないか?」
「あ・・・」
「・・・・・・」
そのとおりだ。
あれ?
じゃあ俺が今までやってきたことは完全に無意味だったってことじゃないか?
いや、そもそもなんで俺はレオンでも気づけるこんな簡単な理屈に気づけなかったんだ?
「レオンでもって何だよ!おい!
なんでもなにも、お前がこんなに単純なことを無駄に難しく考えていたからだろ。
こういうのは理屈ではなく感性で測るものなのに、お前はなまじ人の悪意に敏感なせいで感情を理屈で考えられるものだと思ってしまったんじゃないか?
だから分からないとダメだと思ってしまい、こんなずれた考えになったんだと思うぞ。」
どうやらあまりのショックに口に出ていたらしい。
そんな簡単なことだったのに俺は・・・
だが一番ショックなのは、
「ああ、何もかもお前の言うとおりだ・・・
ま、まさかレオンに諭される日が来るなんて・・・」
絶望のあまり地面に両手を付いて項垂れる。
「レイさんこんな日もありますよ!
ですからそんなに落ち込まないでください。
レオンさんがこんなにもの分かりがいいことなんて、僕でも見たことがないんですからよほど運が悪かったんですよ!」
そんな俺をクルスが慰めてくれた。
だがクルスよ、ありがたくはあるんだが余計みじめになるからやめてくれ。
「ク、クルス、お前まで!?
幼馴染にまで罵倒される俺っていったい・・・」
落ち込む俺、慰めるクルス、さめざめと涙を流すレオン。
周りの通行人が変なものを見る目で見てくるなか、俺たちはしばらくそのままで動けなかった。
「とにかく、今回は俺が完全に馬鹿だったということで。
本当にすまなかった2人とも・・・」
落ち着くことができた俺がまずしたことは、謝ること。
ここまでの大失態を演じてしまっていた以上は当然だ。
「まあ、僕はそもそもあなたの意見を認めてしまっていましたから別に僕には謝る必要はありませんよ。」
「・・・いろいろと言いたいことはあるんだが、とにかくこれからはちゃんとあいつらと向き合ってやってくれればそれでいい・・・」
クルスは笑顔で、レオンは渋い顔で言ってくる。
「そうか。
まあこれからは遠ざけようとせず、誰ともちゃんとまともに向き合うから大丈夫だ。
それとレオン、ありがとな。」
「はい?」
「何だその信じられないものを見たって顔は。
実際、お前の言葉が無ければ俺はこれからもずっと親切な人間を遠ざける寂しい奴でいただろうし。
そんな大事なことを教えてくれた相手に感謝をしないほど恥知らずではないぞ。」
「ん、ああ・・・そうか。
じゃあたっぷりと感謝してくれたまえレイくん!
ハッハッハッハ!」
いらっ
素直にありがたかったから感謝したが、ここまで調子に乗った反応をされるとは思わなかった。
やはりいくら感謝しているとはいえ、イラつかないわけがない。
仕返しの方策を頭を高速回転して考えていると、あるものが見えたのでどうするか決めた。
「レオン、お詫びとしちゃなんだが、一発殴ってくれないかさっきみたいに。
なんか悪いことをしていたと自覚したことで後ろめたさが拭えなくてな。
殴られることですっきりしたいんだ。」
「え、いや、いくらなんでも殴れと言われて、はい分かりましたといくわけにも・・・」
「本人がいいって言ってるんだからいいだろ。
さっきの怒りを思い出して、思いっきりやってくれ。」
「・・・分かった、じゃ、いくぞ。」
そう言い、レオンは真剣な表情に切り替えると、腕を振りかぶる。
意外とあっさりと乗ってきたな、それだけ怒りが強かったということか。
そして思いっきり殴りかかって来た。
俺はそれを素直に受け入れ、吹き飛ぶ。
と言っても、吹き飛んだのは軽く風の魔法を使ったからだし、地面に叩き付けられたときも一見派手に見えるがちゃんと受け身をとったので問題ない。
レオンは自分の想像以上の結果に唖然としていた。
「お、おいレイ!
大丈夫なのか、今とんでもなく派手な音がしたぞ!?」
「何を言っている。
お前が起こした結果だろう、お前が、な。」
レオンがやったということを強調して、周りにも届く声でそう言う。
これで準備良し。
あとは勝手にことが進んでくれる。
「じゃ、レオン後は頑張ってくれ。
死なないとは思うから大丈夫だろ。」
その言葉にレオンは不思議そうな顔をするが、
「兄さん?
何をしておいでですか?」
「ええ、本当に。
いったい何をしたのか説明して頂戴?」
そう言い両肩を掴まれると顔が一瞬で青くなる。
レオンの背後に般若がいた。
「ル、ルルにエルスか?
こ、これにはちゃんとした理由があるんだ。
だから離してくれ!」
レオンの必死さに思わず笑いがこみ上げてくる。
「へえ、どんな理由があったら主人を殴り飛ばす理由になるのですか?」
「私たちにはあなたが酷いことをしたようにしか見えないのだけれど。」
「説明するから聞いてくれ!
いいか、俺たちは・・・」
そこでレオンは気づいたのだろう、俺に図ったな!という恨めし気な視線を送ってくる。
俺はそれに肯定の意味を込めて晴れやかな笑みを返してやった。
俺に殴り掛かった理由を説明するには、さっきの会話の内容を話す必要がある。
つまり、2人の恋心に関する話をしていたということをだ。
そんなことを本人に、しかも女性に話すには相当の無遠慮さが必要だ。
当然、レオンには無い。
仮に言えたとしても、余計に怒らせるだけかも知れんし。
「俺たちは?(般若2人)」
「・・・い、言えない。」
「こっちに来てください。
ゆっくり「お話」しましょう?兄さん。」
「レイ様とクルスはどこかに寄っていてください。
恐らく30分ほどで「お話」が終わると思いますので。」
「レ、レイ!
この2人を止めてくれ!
もとはと言えばお前のせいなんだぞおおお!!??」
「何をいう。
俺はお前が振ってきた女の話で殴られた哀れな被害者さ・・・
しくしくしく。」
必死の叫びを嘘泣きで躱しつつ、さらに爆弾を投下する。
女性陣の形相がランクアップした。
無表情になり、殺気が噴出し始めたのだ。
「兄さん?
私の気持ちを知っていてくれていると思いましたのに、レイさんに女性の話を持ちかけたのですか・・・?」
「そんな下世話な話をした挙句レイ様に手を挙げたというの?
救いようが無いわね。
私たちが教育してあげるからいらっしゃい。」
「レ、レイイイイイイイイイイ!!??
俺が悪かった、調子に乗りました!
だからどうか助けてくださ・・・って居ない!?
あの野郎があああ!
覚えてやがれ、夢枕に毎日たってやるからなあああぁぁぁぁぁ!!!???」
俺とクルスはそんな叫びを背に浴びながら街を歩いていく。
「夢枕って、あいつ生き残ることは諦めたのか?」
俺が思ったのはそんな疑問だけだが。
「レイさん。
さすがにレオンさんでもあれは気の毒です・・・
もしかしたら本当に死んでしまうかもしれませんよ?
僕でもあんな2人初めて見ましたもん。」
「クルス、良かったな。
今日は初めてのことがたくさんじゃないか。
これでお前の人生はますます豊かなものとなったぞ!」
いい笑顔でそう言うと泣きそうな顔をしてしまったので、さすがにここまでにしておく。
というかこいつ今、自然にレオンさん「でも」って言ったな。
だいぶ染まってきているようだ。
「冗談だ。
ちょっと調子に乗ってたからな。
これから俺がやろうとしていることをすれば、ますます付け上がりそうだったから釘を刺しておこうと思ってな。」
「?、これから何をしに行くんですか?」
「なに、さっき言った通りあの2人とこれからはちゃんと向き合おうと思ってるんだが、その前にちゃんといままで遠ざけていた埋め合わせをしておこうと思ってな。
今レオンは評価が地の底まで下がってるが、これが終わればちゃんと元に、いや、いままで以上のものになるからその辺も大丈夫だ。」
「レイさん、僕の反応で遊んでないで考えをちゃんと教えてください。」
おお、ばれてたか。
「お前はどんどん悪意に敏感になっていくな。
しかも驚きの速さで。」
「あなたの弟子のつもりですから。」
「はは、嬉しいことを言ってくれる。
では弟子クルスよ、1つ聞きたいんだが。」
「はい、なんでしょう師匠。」
お互い笑顔の、和やかなやり取り。
「この辺にアクセサリーショップはありそうか?」
「!!、はい、あの店なんかよさそうですね。
品もいいですし、良品が置いてそうです。
早く行きましょう、あの2人がとどめをさす前に渡してあげないと。」
この一言で理解してくれたクルスが、冗談をもらしながら笑顔で先に走っていく。
やり過ぎはしないだろうと分かってるだろうに、あいつらはお互いに仲間なのだから。
走っている姿を苦笑して眺めながら俺は呟く。
「ありがとうレオン。
お前のおかげで俺は大事な何かを取り戻せそうだ。
ただ、俺はひねくれてるからこんな形でしか感謝を示せないんでね。
まあ許してくれ。」
穏やかな昼下がり、ルッソの街に男の叫びが轟いた
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