12話 ネスト
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―――side エルス
私の人生は、幸せだと言えるものだった。
半年前に祖国が滅びるまでは。
それからの生活は酷いものだ。
愚かだった他の貴族ほどではなかったが、裕福な生活に慣れ切っていた私たちにとっては苦行の連続。
それでも弟を、家族と言える存在を助けようと必死になった。
何度もこの身を売ってしまおうかと思ったが、父の最後の言葉に思い留まらせられた。
―――幸せに生きろ
後で聞いてみたら、父の訃報で一言も喋らなくなってしまっていたクルスがその時だけ生気を取り戻してくれた。
どうやらクルスにも父がそう言っているように見えたらしい。
身体を売ってしまえば、二度と幸せを感じることなどないだろう。
そう思い、なんとかまともにやっていこうと考えていた。
そんな思いも、捕まってしまった以上無意味になってしまったが。
疲れていたのだろう。
罠としか思えない罠に、あっさりと引っ掛かってしまった。
こんな簡単なことに引っ掛かってしまうのだから、元気だとしても遠からずこうなっていただろうけど。
自慢じゃないけれども、私たちはかなり容姿が整っているという自覚がある。
だけど、今回はそれを恨んでしまう。
容姿がいい人間が奴隷になってしまうとどうなるのかなど、言うまでもない。
好色な貴族の玩具になるのが落ちだろう。
奴隷商人の馬車の中で思う。
悔しい。
他の人が見たら、私は脱出の術を練っているように見えたと思う。
でも私はそれしか考えられない。
父の願いを果たせなかったことも。
弟を守れなかったことも。
仲間の助けにほとんどなれなかったことも。
ひたすら悔しかった。
心が静かに絶望に沈みそうになっていると
レイ様が全てを吹き飛ばしてくれた
始めは悪感情しか持たなかったが、話しているうちにそんなものは消えていた。
切っ掛けはルルが心を開いたことだ。
ルルは人見知りが激しい分、人の本質を見極めることに長けていた。
それで警戒心が緩んだことから気づいたが、彼はいつも私たちのことを考えてくれていた。
言葉が辛辣なせいで分かり難かったが、言っていることは忠告や私たちの身の安全を考えてのことが多い。
そんな人に悪感情を抱けるはずもない。
奴隷ではなく、従者として行動をともにしてほしいと言われた時は、喜びに飛び上がりそうだったくらいに彼に好感を抱いていた。
馬車の中で何の違和感もなく従者としての主人の呼び名が出てきたくらいだ。
「ご主人様、まずは何からお話ししましょうか?」
「ぶふぉ!?
何故そんな呼び名で呼ぶ・・・!」
「え?
従者なのだから当然ではないですか。」
「今すぐ止めて、名前で呼べ。」
「何故ですか?」
「俺がその呼ばれ方にいい印象を抱いていないからだ。」
「・・・嫌です。」
「なんで!?」
「従者ですから当然です。」
「従者なら主人の意向に従うというのが当然の選択だろうが!!」
こんなやり取りがしばらく続き、結局はレイ様という呼び方に落ち着いてしまった。
でも何故私はあんなにむきになってこだわったのだろう?
今でも分からない・・・
レイ様はある種、浮世離れした存在だった。
世間の常識を知らないかと思えば、誰も知らないようなことに対して深い造詣を持っている。
全く新しい魔法(本人の談ではただ発展させただけらしいけど、どうしてもそうは思えない)を独自に創り上げている。
同時に使うことが不可能だと考えられていた、「魔法」と「闘気」をどちらも扱える。
性格はどうも捉えどころがなく、冷酷な面が目立つけれども、どこか優しさと暖かさ、安心感を与えてくれる。
そんな奇妙で、どこか絶対的な存在。
レイ様が闘気を常識外の用い方をして引き起こした光景には、彼に語った通りうすら寒さを感じた。
芸術品のような美しさを放つ死体たちの中心に立ち尽くす、真紅の死神
人の身では辿り着けない極致へと行き着いた人外
私が抱いた思いはそんなところ。
負の思いを微塵も抱かないはずが無い。
だが彼が振り向いた時の表情を見てそれが勘違いと分かった。
その表情からは何も読み取れない。
と言っても無表情だからではない。
数えきれないほどの感情が同時に存在しているせいで、どの思いが大きいのか分からなかったのだ。
だが、彼がとても酷い心境でいることだけは理解できる。
レイ様にとっては心外だろうけど、私たちはその表情に安心した。
人でなければそんな表情はできないのだから。
それまではあまりにもかけ離れた存在だと思っていたせいで、心のどこかで遠慮が生まれていた。
だが、この人も私たちと同じ人なのだと分かると私は新しい感情を抱いた。
「親近感」と「好感」、そしてこの人の力になりたいという「欲求」。
そんな思いを皆も抱いたのだろう。
いつの間にか、彼をからかうような物言いをしてしまっていた。
彼の何とも言えないような表情は私たちにさらに親近感を与え、愉快になってしまう。
そうしていると彼が俯いていた。
流石にやり過ぎただろうかと思い、少し萎縮してしまう。
そして驚いたことに突然笑い出した。
いつもの影を含んだものでなく、ひたすら明るく、愉快そうに、満面の笑みで。
・・・それが私にはひどく魅力的に見えた
その後の彼の言葉、私たちを讃えるような物言いには心が浮き立つほど嬉しく感じた。
ルルのみを褒める言葉には正直嫉妬を抱いてしまったが。
そして、それを聞いた時のルルの反応にも。
―――今回できたのは、相手があなただったからです・・・
この言葉は恐らくレイ様には聞こえなかっただろう。
だが、近くに居た私には聞こえてしまった。
その時の自分の心境はうまく説明することができない。
でも1つ分かったことがある。
この思いはレイ様を単なる主人と考えていては抱かないものだということ。
この思いはただの「好感」なのだろうか
それとも・・・
―――side out
あれから1日。
あれ以外は襲撃を受けることもなく、あっさりと「ルッソの街」にたどり着いた。
そしてまず向かったのが、ネストだ。
その時の俺の様子はすごかったろう。
街だけあって人が多く、活気がある。
それを見て、かなり浮き足立っていたのだ。
と言っても、赤の他人では分からない程度のものでしかなかったのだが、お供の4人は察することができたようで、一様に苦笑を浮かべていた。
その4人は予想通りというか、衆目の視線を集めている。
まあ、無理もない。
ただでさえ容姿が良いのに、金と銀の髪が幻想的な美しさと一体感を醸し出しているのだから。
そんな人たちと一緒に居る俺に対しては訝しげな視線が。
・・・他人がどう思おうが知ったことではないがな
ちなみに、今彼らが着ている服は修理用に大量にとっておいた例の糸を俺が魔法で織り上げたもので、見栄えは質素であるもののそれが逆に素朴な美しさを感じさせる。
道中、火球と水の魔法で即席の風呂を作り入ったので、からだもきれいだ。
始めは奴隷だったため酷かったからな。
まったく、魔法さまさまだ。
そうしてネストに到着。
その建物は目立つところにあったため、迷うことはなかった。
質実剛健という言葉がぴったり当てはまる外見で、これだけでこの街の冒険者に好感を覚えた。
こういったものには、利用する人間の好みが現れるものだ。
この外見が、見た目よりも実力を重視するものが多いということが分かる。
そんなことを思いながらなかへ入る。
建物のなかは人に溢れ、酒場もあり、活気がある。
どこか粗暴な雰囲気があるが、冒険者は自由を重んじるらしいので当然だろう。
こちらに視線が集まるが無視し、受付と思われる場所へ向かう。
「すみません。
冒険者ってここでなれるんですか?」
受付には同年代、もしくは少し上に見える長い青い髪の、おとなしそうな女性がいた。
始めはこちら、というよりは俺を見て、何故か驚いた表情を浮かべていたのだが、あまりに基本的なことを聞いたためか不思議そうな顔をする。
だが直ぐに応えてくれた。
「ええ。
ここで冒険者としての登録が可能です。
登録をお望みですか?」
「はい。
5人ですがどのくらいかかります?」
「そうですね・・・
大体20分ほどでしょうか。
説明を一括でできるのでそれほど時間はかからないですね。
よろしいですか?」
「ええ、お願いします。」
「分かりました。
まあ、説明といってもそれほどののものは無いんですが。
ご存じとは思いますが、冒険者はランクがあり、G、F、E、D、C、B、Aの7段階になっています。
当然初めはGランクからですね。
と言ってもこれは、ほとんど強さの目安という意味しか持ちません。
依頼にも推奨ランクが書かれてはいますが、望みさえすればGランクの人間がAランクの依頼を受けることも可能です。
・・・ほぼ間違いなく自殺と同義ですけどね。
ランクが関係あるとしたら、「危険域」に入る時、もしくはネストが名指しで依頼を頼むときぐらいです。
ランクは自分より上の推奨ランクの依頼を5回成功すれば上がります。
そして、上がるまえに3回、推奨ランクにかかわらず依頼を失敗すれば下がります。
Gランクの場合は下がることはなく、銀貨5枚の罰金が科せられます。
さすがに何度も失敗するのを認めるわけにはいきませんからね。」
「・・・本当に自由なんですね、冒険者は。
その分いかなることがあっても自己責任ということでしょうか?」
「お話が早くて助かります。
その通りで、素行や依頼内容の不備などによるトラブル全てに対して、ネストは一切干渉いたしません。
どんな事情があるとしても、です。
あと、これは関係があることなどないと思いますが、先ほどランクはAまでとご説明しましたね?」
「ええ。」
「ランクの上に位置するものが一応は存在するんですよ。
それが『二つ名』です。」
「へえ、それは先ほどの条件でAランクから上がるんでしょうか?」
「いえ、『二つ名』はランクに関係なく、人としての枠を超えた存在に与えられる「称号」です。
今確認されているのは3人ですね。
・・・人で数えていいのかは分からないのですが。」
「ははは
物騒な方たちのようですね。
目の前にいたら私なら逃げ出してしまいますよ。」
「はあ・・・(仲間)」
俺がそういうと雰囲気に緊張して黙っていたはずの4人が、一斉に何を言ってるんだお前は、とばかりに溜息を吐く。
文句でもあるのか君ら。
「説明はこんなところですね。
では、登録してもよろしいでしょうか。」
「はい。
何をすればいいので?」
「簡単ですよ。
これに血を垂らして、名前をご記入していただくだけで結構です。」
そう言い人数分のカードが手渡される。
見た目としてはクレジットカードのようなものだろうか。
「・・・本名でなければいけませんか?」
「・・・何か事情があるみたいですね。
偽名や愛称でも別に構いませんよ。
書かれた名前はあくまで人の判別程度にしか使いませんから。」
「分かりました。
じゃあみんな、各自書いてくれ。」
そして直ぐに書き終わる。
クルスとルルは血を流す時軽く泣きそうになっていたが。
ちなみに俺は馬車の中で名前程度はかけるようになってるので問題ない。
読む、聞くはできても書くはできなかったのだ。
「はい。
これで登録完了です。
カードは再発行に銀貨10枚かかりますのでお気をつけください。」
「わかりました。
ちなみにこちらで魔獣の素材の売却は可能ですか?」
「はい、できますよ。」
俺はその言葉を聞き、担いでいた大きな袋をカウンターに置く。
「では、これをお願いします。」
「分かりました。
では確認いたしますね。」
「お願いします。」
そして、袋を開けて固まった。
そのまましばらくして、
「あの・・・
これは本物ですか?」
「それに関してはご想像のお任せします。
まあ、そういう反応をするということは分かっているのでしょう?」
「ええ、その通りです・・・
ちょっとお待ちください。
私には判断がつきかねますので。
責任者をお呼びしてきます。」
そう言い奥へ走っていく。
そのやり取りに気が付いたのか、周りの視線が集まっていた。
ま、予想通りの反応だな
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