10話 『恩寵式』と『究理式』、そして『闘気』
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なんだかうまくいきすぎていて、落ちた時のことを考えると怖いですね
これからもよろしくお願いします
今回多分にご都合主義・チートが入っています
できる限り違和感のないように頑張ったのですが、その点を踏まえてお読みください
エルスの説明は要点をしっかりと押さえていて、大変分かりやすかったので、俺はこの世界での一般的な魔法の仕組みを理解した。
そう、理解してしまった。
「あ、あの・・・
レイ様?
どうなさいました?」
「・・・・・・・・・」
自分を心配してくれる言葉にも反応できない。
俺の目は虚ろになり、体からは完全に力が抜け、人なのか?と疑われてしまいそうなほどの腑抜けっぷりを晒している。
予想してた・・・
予想してはいたんだ!
彼らの魔法について聞いても、得るものが何もないかもしれないことくらい!
だがそれでも俺は、彼らの魔法から新たに得るものはないだろうかと期待していた。
だからこそ俺はショックなのだ。
まさか、彼らの魔法がここまでただ不完全なだけのものだとは思いもしなかった!!
この世界の魔法とは
魔法は神から与えられるもの
それぞれ、火の神、水の神、風の神、土の神が存在する
そして、神は自身を信仰することの見返りとして、人に魔法を行使することを許可するのだという
その威力はその神への信仰の度合いに比例する
その人物が信仰すべき魔法の属性は、魔力判別球とやらにより判別できる
その球の前に立ち、意識を集中すると色が変わり、赤なら火、青なら水、緑なら風、黄なら土と、それぞれ自分の信仰の対象とすべき神を教えてくれるそうだ
1人につき信仰できる神は1柱のみだと言われている
そして、魔法には魔法陣と、使用すべきものに応じた詠唱を必要とする
まれにそれらを必要としない者もいることはいるが、同じ方法でやろうとしても誰も出来ないことから、それは体質によるものと言われている
魔法とは絶大な威力を誇るが、この2つにより複雑化、高度化し、さらに時間もかかるため、戦士から決定的なアドバンテージを奪うには至っていない
エルスの話を纏めると、こういうことらしい。
そして現在に至る。
そうだな、今の心境を的確に表すなら、
「まるで完全科学主義の人間が、キリスト教の全盛期にタイムスリップした、というようなものか・・・
そしてこの何ともいえないガッカリ感は、昔、同級生が満面の笑みで難しい数式を解いたと自慢してきて、初めのほうの足し算ですでに間違えていて台無しだったときのものに近いな。」
といったものか。
当然周りは何のことを言っているのか分かってはいないが、一般魔法に何か気に入らないものがあったということは察してくれたようだ。
「レイさん。
エルスさんがお話しした内容にお気に障るようなことがあったのですか?」
ルルは戸惑いながら穏やかに尋ねてくる。
なんか和むな・・・
ちなみに話した張本人のエルスは、怒られるとでも思っているのか身を縮こまらせてじっとしている。
「ふう・・・
いや、違うんだよ。
そうじゃない。
ただ俺の使う魔法と比べると、君らの魔法はあまりに時代遅れ過ぎてね・・・」
「じ、時代遅れですか!?」
皆が驚愕し、こちらを見る。
そりゃそうだろう。
今まで自分たちがなんの疑問もなく使っていたものをいきなりそんな風に言われたのだから。
普通なら正気を疑われるのが落ちだ。
「ああ。
俺は君らの使う魔法を『恩寵式』、俺が使う魔法のことを『究理式』と呼んでいる。」
「『恩寵式』と『究理式』ですか?
聞いたことがありません・・・」
エルスが疑問の声を上げる。
そりゃそうだろう、何故なら、
「当然だ。
今考えたんだから。」
というわけだ。
「はあ!?
何ですかそれ!」
「おいおい当然じゃないか?
俺が君らの魔法の仕組みを知ったのはついさっきだ。
今以外にいつ考える暇があったと言うんだ?」
「うっ・・・
そう言われればそうなんですけど・・・」
どうやら調子が戻ってきたようだ。
いつも通りにエルスをからかうことができた。
そのまま意地の悪い笑みを浮かべて言う。
「まあ今即席で思いついたものだが、我ながらどちらの特徴もよく捉えた的確な表現だと思うぞ?」
「恩寵」とは神などの上位の存在から何らかの恵みを受け取る時に使う言葉
彼らの魔法は神から与えられるものと考えられている
故に、『恩寵式』
そして俺の場合だが、
「まあ言葉で説明をするよりも、まずは実際に見てもらった方が理解しやすいだろ。
今から燃焼魔法使うから見ててくれ。」
「レイさん、「ねんしょう」ってなんですか?」
御者に集中していたクルスが我慢しきれなくなったのか聞いてくる。
まあずっと話に参加できなかったんだ、無理もない。
「詳しく説明したいのはやまやまだが、どう考えても君らに理解できるような話じゃないんだよな・・・
簡単に君らの使う火炎魔法と同じと考えてくれて構わない。
それでおおよそ合ってる。」
そう説明し、頭の中でイメージを固め、『究理式』の魔法を発動させる。
そして出てきたのは直径5メートル程の火球
その熱量に真下の草がどんどん炭化していく
これで大体中の上ぐらいの威力
ちなみに盗賊1人に使ったのは下の中、全体に使ったのは中の下となっていた。
範囲だけでいえば火球よりも竜巻の方が広いのだが、火球は留めて圧縮しているため、その威力は竜巻とは桁違いだ。
だがここで問題が発生した。
(どうしよう・・・これ。)
間抜けなことにつくったはいいが、これをどう処分したらいいかをよく考えていなかった。
始めは適当に地面にぶつければいいと考えていたのだが、そんなことをしたら後で自然環境に多大な被害が出てしまう。
敵がいれば気にならないのだがな。
そう思っていると天の采配が
「レオン、あれって盗賊か?」
「え!は!?
あ、ああ。
たしかにそうだが・・・おまえ、それ・・・」
馬車の進行方向から服装のバラバラな20人ほどの男が馬で駆けてきていたようだ。
火球を見て完全に活動を停止していたが。
その野卑な雰囲気から盗賊とアタリをつけてみたら、ドンピシャだった。
レオンたちはこちらが声をかけるまでただただ呆然としていた。
クルスだけがものすごくキラキラした瞳でこちらを見ていたのだが、居心地が悪いからさっさとぶつけてしまおう。
火球が奴らをなんの抵抗も見せずに飲み込んだ
実を言うと、俺は森の中で燃焼魔法は下の力のものしか使っていない。
言うまでもなく大火災になってしまうからだ。
だからこの魔法の場合、俺はその威力を大雑把に推測することしかできず、実際どうなるかは分かっていなかった。
俺の予想としては、ぶつけると火が四方に拡散し広範囲に被害を与えるといったものだったのだ。
・・・「現実は小説より奇なり」とはよく言っものだ
魔法の結果、地面は火球がくり抜いたかのようなきれいな半球の形に陥没し、その膨大な熱量に炙られた表面は結晶化して、まるで大理石のような輝きを放っていた
「・・・・・・・・・(全員)」
誰も何も言わない、術者である俺自身でさえも。
・・・これから使える魔法を全て試しておかないとな
「さて、今のが『究理式』だ。
何か聞きたいことはあるか?」
「・・・とりあえず、その魔法の仕組みを教えてください。
先ほどの時代遅れという発言もこれなら納得できます。
常識である魔法陣と詠唱はおろか、全くタイムラグも無しに発動できるなんて・・・
恐らく、私たちの使う魔法とは何かが根本的に違うと思うのですが。」
気にしない、というよりは今のを無かったことにして聞くと、予想外に冷静そうなエルスの声が返って来た。
・・・いや、驚きが一周してまともそうに見えただけみたいだな。
「エルス、ルル、さっきの爆風でスカートがまくれてるぞ。
動揺するのは分かるが、そのくらい自分で気づいて直してくれ。」
「ふぇっ!?」
「そ、そんな!?」
まあ眼福ではあったがな。
赤くなり狼狽える2人をスルーし、どう説明したらいいのか考える。
『究理式』の魔法とは簡単に言えば、魔力を燃料としてあらゆる「現象」を引き起こすものだ。
一見『恩寵式』と違いが無いように見えるが、ちゃんと存在する。
例えば『恩寵式』で火炎魔法を使うときは、術者は火の神に「火」を起こしたいと願う。
そして魔法陣と詠唱という「儀式」を経ることで魔法を発動させる。
しかし『究理式』では、「火」を起こす、と念じるのではなく「燃焼」という「現象」を起こしたいと願う、いやイメージする。
火がでるという結果は、あくまで「燃焼」という「現象」が起きた時の副産物に過ぎないのだ。
最終的にはどちらも火が発生するのだが、その威力は桁が違う。
ただ漠然と「火」を起こしたいと願うのと、「現象」というこの世の「理」を理解した上で、それに沿う形で魔法を行使するのとでは、イメージのし易さという点でも引き起こされる現象の規模という点でも差がでるのが当然だ。
「理」を「究める」ことにより「現象」という魔法を引き起こす方式
すなわち『究理式』
そもそも俺の理論では、魔法に必要とされるのは明確なイメージのみであり、他にごちゃごちゃと付け加える必要は全くない。
つまり『恩寵式』で使われるという魔法陣と詠唱、不遜なようだが神ですら必要ないのだ。(というかそもそも信仰してない俺が魔法を使える時点で、各属性の神は実在するはずがない。)
・・・とはいえ、ややこしいことを言うようだが、「信仰」、「魔法陣」、「詠唱」は無意味なわけでもない。
そもそもイメージだけで魔法などという超常的な現象を引き起こせると誰が思うだろうか。
自力で起こしたと思うよりは、誰かが起こしてくれたと考えるほうが自然だ。
つまり、神への「信仰」は魔法の不自然さを和らげてイメージを助長してくれるのだ。
他も同じこと。
「魔法陣」と「詠唱」という儀式を経ることで魔法を使いやすくする。
恐らくそういった意図からそれらは使われ始めたのだろう。
しかし長年それで通してきたために、いつに間にかそれらが無くてはならないものという固定観念を生んだのだろうな。
・・・話がずれていたな
当然『究理式』で起こせる現象は「燃焼」だけではない。
低気圧と高気圧による「大気の移動」の結果、風を。
土地の「隆起」の結果、土を。
水素と酸素の「化学反応」の結果、水を、それぞれ操ることができる。
他にも「振動」、「放電」、「発熱」、「冷却」などなど。
イメージの強度に左右されるが、「分解」なんて反則技も場合によっては可能なのだ。
一体そんな代物をどう説明したものか・・・
実を言うと教えることそのものにはさして抵抗はない。
この4人ならば身に着けても悪用はしないだろう。
付き合いは無いと言ってもいいほど短いが、そう「信用」出来るぐらい俺は彼らを気に入っていた。
―――「信頼」はまだしていないが
では何を気にしているのかというと、聞いて混乱しないかということ。
『究理式』の理論は彼らの常識を真っ向から粉々にぶち壊してしまう。
普通はそんなことはあり得ないと切って捨ててしまえばいいが、生憎彼らは俺の魔法という証拠をみてしまった以上、それも出来ない。
『究理式』をつかって見せたのは失敗だったか・・・
それまでの常識と新しい常識が混ざり混乱してしまえば、間違いなく『恩寵式』の魔法ですら使えなくなってしまう。
「・・・これは魔法を、手を離せば物が落ちるといった、さまざまな世界の法則に沿う形に造り換えたものなんだ。
早い話が、君らの魔法を単純に数百年単位で高度化したもので仕組みそのものは変わらない。
詳しいことはまだ教えられないが。」
とりあえず事実ともいえるし、嘘だともいえる発言をして躱すことにする。
何か事情があることを察してくれたのか、悩ましげな表情を皆浮かべはするが、それ以上は聞いてこない。
(気を遣わせてばかりだな・・・情けない。)
それでもやはり嬉しく思っているとクルスが困ったように言ってきた。
「レ、レイさん・・・?」
「ん、どうした?」
「囲まれてますよ。」
「え?(レオン、エルス、ルル)」
「気にするな、問題ない。」
話に集中していて気づかなかったのか、3人は少々間が抜けた声を上げる。
馬車の周りを盗賊が囲んでいた。
その数約40人、なかなかの規模だ。
「てめえら、担当直入に聞く。
俺らの仲間とお頭を見なかったか。
そうすれば男は見逃してやる。」
暗に女は見逃さないと言うこの男、そして好色そうな視線を2人に送るクズどもに嫌悪感を抱く。
身を竦ませる2人をさりげなく後ろに庇いながらレオンに聞く。
「レオン、どれぐらい戦える?」
「武器が有れば20人は固いが、素手ではな・・・
せいぜい5人といったところか。」
「おお!
そりゃ凄いな、じゃ俺の討ちもらし居たら対応してくれ。
無いとは思うがな。」
「分かった。
しかしかなり距離が近いが、魔法を使って大丈夫か?
俺たちを巻き込みそうだが。」
「体で止めろよ兄貴。」
「・・・俺はマゾヒストではない。
いや、そもそもそんなことをすれば木端微塵だろうが!!」
「おい貴様ら!
俺たちを無視するな!」
「ははは
相変わらずいい反応で嬉しい限りだ。
心配するな魔法は使わん。」
「はあっ!!??(仲間たち)」
レオンで軽く遊びながら、フォローを頼む。
「ああ忘れてた。
そういえばお頭とか呼ばれてた男なら俺が殺した。
よかったな。
これでお前たちはもう探す必要もないし、直ぐに憧れのお頭と会えるぞ。」
「てめえ、一体何―――」
何かを言おうとしていたが、クルス、エルス、ルルを怖がらせた時点でもうこいつらは終わりだ。
レオン?
年上の男なら自分の身は自分で守れなきゃだめだろ。
俺は今、話してた男の後ろで大型のお手製ナイフを持って立っている。
いや、後ろというのは間違いだろうか?
今男はこちらを見ているのだから。
・・・地面に落ちた生首で
「ひいああああああ!?!?!?!?」
突然上がった血潮に他のクズどもが恐慌状態に陥る。
・・・駄目だなこいつら、冷静さを失えば数の利を生かせないのに
そんなことを思いながら俺は、
死ぬ思いをして身に着けた『闘気』を再び行使した
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