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バカラで会いましょう2

作者: WAIai
掲載日:2026/10/19

「うい。ひいっく」

夜、女性ー天野涼子はふらふら歩いていた。

周りは店の明かりで眩しく、皆、楽しそうにはしゃいだりしている。

しかし涼子だけは俯いて歩いており、すれ違う人が避けるようにしていく。

ー男なんて…!!

悔しくて涙が出でくる。

涼子はもう数軒まわって、酒を飲んでおり、許容範囲を越えていた。

「まだまだだー!! ひいっく!!」

大声で叫び、両手を挙げる。

ますます白い目で見られたり、無視されたりするのだが、酔いのお陰で気にならなかった。

夏の暑さも涼子の騒がしさを嫌ってか、汗をかくことはなかった。

しかしまた喉が渇いてきたので、どこかに入ろうか迷う。

ー自分のお金で飲んだんだもの。他人に迷惑はかけていないわ。

涼子は20代で、事務職についていた。

お給料はそこそこ良く、職場の人間関係も悪くなかった。

…のだが、

「馬鹿野郎!! 私を、私を捨てるなんて」

満月に近い月に向かって吠えると、足をだんだんと強く踏む。

色んなことが順調だと思っていただけに、突然の出来事にショックが大きかった。

壁をつたい、細い道へ入って行く。

楽しそうな人々が羨ましかった。

腕を組んだり、手を繋いだり、皆の楽しみはこれからのような気がした。

ー私も酒を飲んで楽しむぞ!!

先を見れば、一軒の店がある。

ひっそりとしているので、隠れ家的なもののようだった。

明るさに飽きていた涼子は、暗闇の癒やしにつられて、進んでいく。

身体は熱かったが、涼しさを感じる。

「ーバカラ?」

店の看板は青く光っており、ゆっくりとドアを開く。

するとカウンター席のみの狭い店内で、涼子は中にいた人物に注目する。

「ーいらっしゃいませ」

声は包み込むような優しさがあり、悪くはなかった。

歳は涼子と同じくらいだろうか。

バーテンダーの格好、白のシャツにベストを合わせており、なかなかのイケメンだった。

ーもてるんだろうな。くそ!!

涼子は心の中で毒づくと、バーテンダーに言う。

「ーお酒、大量にください!! よろしく、ひっく」

手を上げて大声を出すと、店内に響いた。

しかしバーテンダーは動じず、ゆっくりと様子を見てくる。

「まずは席に座ったら、どうですか?」

「はーい!!」

涼子は小さなバッグを椅子に置き、隣の席に座る。

客は涼子だけのようだった。

ー何が出てくるんだろう? 楽しみ。

そう思える自分がいるだけ、まだましだった。

ピンク色の花柄のワンピースを構い、整えると、バーテンダーに言う。

「あのー!! ちょっと話を聞いてもらえますか?」

「はい、何でしょうか?」

バーテンダーは優しい顔で見つめてくる。

そういえば、エアコンが効いているのか、暑さの陰は見受けられなかった。

ふうと息を吐くと、カウンターに倒れ込む。

「お客様、大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫。私、酔わないから」

確かに頬が赤くなっていなかった。

カウンターの木の温もりは優しく、ふふと涼子は笑い、口を開く。

「その、私、フラれまして。結婚を意識していたのに、突然ですよ、突然。別れようと言われて…!! 聞けば私の他にも女がいたらしくて、妊娠させたとか何とか。あー、悔しい!!」

カウンターを叩くと、バーテンダーは優しく言ってくる。

「そうだったんですか。それはお辛いですね」

「そうなんですよ!! あーもう死にたい!! ずっと本命だと思っていたのにー!! あの人がもう会えないって言うから、うう。悲しい」

ぐすっと鼻をすすると、バーテンダーがグラスを差し出してくる。

「ーはい、どうぞ。プッシー・キャットと言います」

「プッ? 何それ。まあいいや、飲んじゃえ」

涼子はグラスを持つと、豪快に一気飲みする。

するとフルーツの味をたくさん感じ、すっきりしたものだった。

「あー、美味しい!! もう一杯!!」

「はい。作らせていただきますね」

バーテンダーは静かに言ったのだが、涼子は対照的にうるさく叫ぶ。

「あー、もう死にたい。死にたい…!! バーテンダーさん、包丁を貸して」

「駄目ですよ。それに、他にも男性は大勢いるでしょう? その人のことが好きだったのは分かりますが、死んだら終わりです。逆に悔しくありませんか?」

「悔しい…? 何が?」

「だって、そのふった男性は幸せになるのかもしれないんですよ? それなのに、あなただけが死のうとしている。それではつり合わないと思いませんか? 逆に幸せになってやるくらいの気がないと、自分が辛いだけですよ?」

「…なるほど。神様ー!! 私に幸運を!!」

涼子は天井を向くと、大きく叫び出す。

男ならいくらでもいるのは確かだが、どうしても固執してしまうのだった。

「諦め悪いのよね、私!! いつもそう!! 気が強いとか、1人で生きていけるだろうとか、よく言われるんですよ。ひっく」

「それは頼もしいですね。でもそれを言った男性達は見る目がないと思いますよ。あなたは可愛らしい人ですし、必ず運命の相手がいるはずです。ゆっくりいきましょう」

「ゆっくり…。…でもおばあちゃんになっちゃう!! まだ20代だけれど…!!」

カウンターを拳で叩くと、涼子はバーテンダーを見つめる。

次の一杯を作ってくれたようで、差し出してくる。

「ーどうぞ。ダミー・デージーです」

「ダミ? 何だが分からないけれど、いいや。飲んじゃえ」

ごくりと口に含むと、しゅわっとしたソーダの味がまずくる。

それから果物の甘味を感じ、これもまた一気に飲んでいくのだった。

「バーテンダーさん、もう一杯!!」

「はい、次で終わりですよ」

「えー!! そんな、お金なら…」

バッグを取ろうとして、席から転ぶ。

「大丈夫ですか!?」

「痛たたたー!! …な、何とか大丈夫です」

涼子は膝を確認すると、少し赤くなっている程度だった。

ふうと息を吐き出すと、椅子に手をかけ、ゆっくりと立ち上がる。

すると不思議なことに、ふらついていた身体が、何だか軽くなった気がした。

涼子はこめかみを押さえると、バーテンダーが席を指す。

「どうぞ。お座りになって。話をきますから」

「わーい!! ありがとう、バーテンダーさん!!」

涼子は拍手すると、いそいそと椅子に座る。

それからカウンターに肘をつき、バーテンダーに話しかける。

「私、男運がないんでしょうか? 私だって気が強いわけでもないし、淋しい時は淋しいって我慢しているのに…!! どうして、皆、分かってくれないのかしら…?」

「失礼ですが、子どもの頃から、すでに冷めていませんでしたか?」

「え? 子どもの頃…? …そういえば」

周りが子どもに見え、涼子は背伸びしていた気がする。

私だけは先生に褒められようとか、群れで行動するよりは1人でいたほうが楽とか、あとオシャレも皆より早かったような気がする。

早く大人になりたくてしょうがない子ども時代だった気がする。

それをバーテンダーに伝えると、彼はにこりと微笑む。

「大人になってどうですか? 嫌なことは毎日ありますが、楽しいこともありませんか? ずっと大人ぶってきたんでしょう?」

「…それは、そうですけれど…。えっと、でも何だろう。むなしいというか、悲しいというか。仕事がつまらないわけではないんですけれど、その、気を遣ったり、弱いところは見せられないとか考えたり」

「…では、本当のあなたを知っているのは、私だけになりますね」

「!! そういえば…」

バーテンダーには、すんなり告白できるのだった。

この人、不思議な人だなと見ていると、最後の一杯が差し出される。

「ーはい。エンジェル・スペシャルです」

「エンジェル…? 天使のことですか?」

「そうですね。飲んでみてください」

涼子はグラスを手にすると、口をつける。

オレンジの味がまず広がり、甘いのかと思ったが、ほろ苦さを感じ、大人の好む味だと感想をもつ。

「…甘い中に苦いものか。人間の世界が詰まった一杯ですね」

「素晴らしい。例えが美しいですね。ありがとうございます」

バーテンダーが拍手してきたので、涼子は照れて髪を耳にかける。

酔いが冷めてきたのか、それともバーテンダーに話したことですっきりしたのか、頭がしゃっきりしてきた。

「叫んだり、暴れたり、すみません」

「いや、いいんですよ。たまには発散させないと。辛いですから」

「ありがとうございます。あー、この後、カラオケに行こうかな」

「いいですね。大きな声を出しても構わないですし。どうかご自愛ください。辛いこと、悲しいことはたくさんありますが、そう思ったら、またいらっしゃってください」

「バーテンダーさん、うう」

涼子は涙腺を緩めると、子どものように泣きじゃくる。

バーテンダーはすっとハンカチを出してきて、渡してくる。

「す、すみません…。うわーん!! 悔しい!! 良い男をゲットしてやる!!」

「そのいきです。ちなみに」

バーテンダーは秘密を暴くように、小声で言ってくる。

「今日、お出ししたのは、全部、ノン・アルコールなんですよ。気がつきましたか?」

「え…。ノン・アルコール? そうだったんですか?」

「はい。いかがだったでしょう?」

「それはその…。美味しかったです、全部」

涼子はそうか、全部、ノン・アルコールだったのかと知ると、どうりで頭がすっきりしてくるはずだと、納得する。

「ー今度は、本格的なカクテルを飲みに来ます」

「約束ですよ。それでは、良い男性に出会えるといいですね。頑張ってください」

「はい!!」

涼子は晴々とした気持ちで、はっきり答える。

バーテンダーの優しさが胸にじんときて、人間も悪くないなと思う。

「お会計、お願いします」

「はい。ではこちらへ」

涼子はバッグから財布を取り出すと、会計を済ませる。

それからバーテンダーに笑いかける。

「私、今度は彼氏を連れてきますね」

「その調子です。またいらっしゃってください」

「はーい。じゃあ、また」

元気を取り戻りした涼子は、店を出る。

すると途端に熱気に襲われる。

うわっと思いつつも、負けてたまるかと、一歩一歩、確実に進んでいく。

ー私だって、まだやれる!! しっかりしろ、自分!!

両頬を叩くと、涼子はヒールの音を高く鳴らしながら、進んでいくのだった。


「ーようやく元気を取り戻したか」

バーテンダーは独りごちると、首を揺らす。

疲れたわけではないのだが、賑やかだった分、1人になるとつまらなくなる。

「よし、連絡するか。…すずに」

そう言って笑うと、バーテンダーはスマホを引き寄せたのだった。

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