第67歩 びしょぬれ
K女史が二十歳の頃、通勤に便利な所を探して一人暮らしを始めようということになった。
不動産屋が四階建てマンションの三階に空き部屋があると紹介してくれ内見に行くと連れて行かれたのは四階だった。
だがエレベーターがあるわけでもなく階段がきつい。
「三階ならと思ったのに話が違う」
クレームを言ったが不動産屋は謝るだけだ。
ただ場所が通勤に都合がよく家賃も手頃だったので
紹介された、その部屋に決めてしまった。
部屋にベランダは無く大きめの窓が二箇所ある。
寝室は窓の側にベッドを置いて生活を始めて、ある事に気がついた。
雨も降っていないのに、いつも窓がびしょ濡れで湿気の多い部屋だった。
晴れの日に窓を確認しても、やっぱり濡れている。
屋上に水が溜まっているのか水道のタンクでもあって水漏れしているのか理由はわからない。
そのうち、お母さんが一度泊まりに来た。
母を部屋に残し買い物して戻ってくると
母はTVの前で膝を抱えて震えている。
聞けば、お母さんがリラックスしてTVを見ていると
壁から手が出てきて足を引っ張られたと云う。
それでも、お母さんが一泊して朝を迎えるとKさんに
「この部屋は出なさい」と言い出した。
何でも、部屋に女の人が居るし他にも何か変だと言って譲らない。
「この部屋すぐ出なさい、ほかの部屋さがそう」
「うーん考えておく」
引っ越したばかりのKさんは何も感じなかった。
ところが、お母さんが帰ってから部屋にいると
黒い人影が部屋の中を横切ったり歩き回ったりするようになった。
『えっ』
何かをされる訳ではないが忘れた頃に音もなく
『サッ』と見えたりすることが多くなった。
そのことは、お母さんに黙っていたのだが、
お母さんは何度も部屋を出るように連絡してきて、しまいには
「頼むから」と力強く「お願いだから」と説得されてしまった。
「このまま、部屋にいれば、あんた命落とすよ」
入居して二ヶ月だが不動産屋に連絡を入れ部屋を出たいと申し出た。
「はい、わかりました」
揉めることもなく、あっさり許諾され
あす引っ越すという前夜Kさんはリアルな夢を見た。
寝室の、びしょぬれ窓の前にボブヘアーの女の人が立っていて
じっとKさんを見つめていた。
その女の顔は、ぼやけていてハッキリ見えない。
心当たりのない知らない女の人だ。
次の日、無事、引越しが終わり。
お母さんが言う所によれば、あの部屋で亡くなった男の人がいて、
その男に会いたいと思っている女がいて、
だが女の方は生きている、
それが部屋に出ていると、お母さんが言う。
「なんでわかるの」聞くと
「わかるの」お母さんが答えた。
お母さんが説明してくれた。
「黒い影の男も厄介だけど生きている、あの女のほうが非常に悪影響なんだよ」
そしてKさんは自分の母親が隠れた、すごい感性を持っていることを
知るきっかけになったという。




