3人目の持ち主
「あ、あの…」
まだ帰っていなかったゲオルクが、申し訳なさそうに口を開いた。完全にその存在を忘れていたぜ…すまんな。
「ゲオルク、今日もご苦労だったな…」
朝から歩き回って疲れただろう。帰ってゆっくり休めよ。
「い、いえ…それでですね…」
うん?どうした?
「何か…気になることがあったのか?」
ここで気配り名人のカレンさんが、ゲオルクに話をするように促した。特に収穫なしの日が続いていたので、てっきり今日もそうだとばかり思い込んでしまったぜ…こいつはうっかりだ。
「こ、今回の件に関係があるのかどうかは分かりませんが…巡回中に奇妙な話を聞きました」
奇妙な話ですか。どんな話なのか…気になるところだね。
「な、何でも2月にも拘わらず、蚊帳を使っている者がいるそうです…」
自分ではこの件に何の関係もない話をしていると思っているのだろう…消え入りそうな声で話すゲオルクだが、それは違うぞ!大ありだぜ。ファゼルの時と一緒だ…あの女がお守りの持ち主に身の危険が迫っていることを伝えたからに違いない。
「それは…誰が話していたんだ?」
俺は思わず前のめりになって聞いてしまった。他のみんなもググッと身を乗り出している。
「ア、アリューシャという女性です。公衆浴場を回って…浴場で使う備品を売り歩いています」
浴場を専門に回る売り子さんか…。ザカリヤの子孫は商連合の主だったり大工の棟梁だったり浴場を回る売り子さんだったり…数奇な運命を辿り、今に至っているようだ。
「その娘の住所は分かるか?もちろん、調べるのは明日でいいぞ」
気が急くが、ツザナが俺達の動きに勘付き、ウルマリスを通じて俺達を監視している可能性もある。まだヤツらがアリューシャの存在に気が付いていなければ、みすみす教えてやることにもなりかねないのだ。それを知っていて今日のうちにも動く可能性は…たぶんないはずだ。
クランドールはこの件にユリーシャが関わっているので、配下の魔法戦士にアインラスクの巡回を強化するように指示している節がある。そんな状況でウルマリスが動くとは考えにくい。だから、今日はクランドール自らが出張る羽目になったのかもしれないが…何にせよグッジョブだぜ、クランドール。
「じゅ、住所を調べるのは…難しくはないです。公衆浴場で売り子をするには…しょ、証書が必要です。も、もしも取らずに商売をしていたら…出入りしていた浴場も含めて罪になりますから」
おそらく証書は市役所で管理しているはずだ。ゲオルクの立場を活かせば、調べることは難しくないだろう。
「それにしても随分と厳しいんだな…」
ちょっとやりすぎじゃないか?
「で、でも…証書を取ることは…そんなに難しくはないんです」
なるほど…そこは上手くバランスを取っているんだな。ザカリヤが始めた証書による商売の許可制は、今の時代にも活きている。その制度によって、息を潜めるように暮らしている子孫の居場所が判明するのは何とも皮肉なことだが…。
ゲオルクを送り出し、リビングに戻るとフェリシアさんが新しい紅茶を淹れてくれていた。それをチビチビと飲みながら状況を整理することにしよう。
ウルマリスとツザナ。この事件の首謀者、死を撒く盗賊団の中心人物だ。おそらく人たらしのウルマリスのもとに集まったゴロツキどもを、ツザナが考えた策でウルマリスが指揮しているのだろう。
ウルマリスにないものをツザナが補い、ツザナにないものをウルマリスが補う…感心するところではないが、上手くできている組織だよな。いずれにせよ、これまでは雲を掴むような存在だった首謀者一味を突き止めたのだ。これは大きな前進だ。
さらに俺達は3人目のお守りの持ち主も突き止めた。アリューシャから話を聞き、場合によっては保護することで、ウルマリスを止めることができるはずだ。だが、それでいいのか?ウルマリスを逮捕できなければ、いつまでたってもアリューシャの安全は保障されない。何とかして死を撒く盗賊団の拠点を突き止めなければ…。




