亀と光
この通りの一角にある『お食事処シルトクレーテ』で俺達は昼食を食べることにした。今は昼下がりなので、繁盛しているようだ。それでも3人一緒の席に座れてよかったよ。
ちなみに今日の昼ご飯は、春菊の混ぜごはん、カミツキガメの唐揚げ、柔らか冬野菜と鮭のサラダ、それからたっぷり冬野菜のポトフである。
カミツキガメが食べられることは知っていたが、実際に食べることになるとは思いもよらなかった。独特の臭みを青ネギやニンニクなどで消し、さらに衣に醤油を混ぜて、みんな大好きな唐揚げに仕上げた一品である。文句なしに旨い。何も言われなければ鶏の唐揚げとしか思わないだろう…たいしたもんだぜ。
昼食を済ませて『シルトクレーテ』から外に出ると、1月にしては眩しい陽光にさらされ、俺は目を細めた。先に出ていたカレンがキラキラと輝いているように見える。こいつも変わったよな…ここ数ヶ月のあれこれを知れば、誰もがそう思うだろう。
かつてのカレンは、こんな可愛らしい格好で外出することなどできなかった。だが、収穫祭の時に色々あって…今はへっちゃらである。恋人であるラスティとの関係も良好のようだ。ユリーシャのお節介が上手くいったな。
ただ、カレン命な女の子の熱狂度はさらに上がってしまったようだ…。ユリーシャ邸の1階ではそういう女の子をよく見かける。お世辞にも友好的とは言えない視線と共にね。あの場は仕方がなかったとは言え、いつになったらこの誤解が解けるのやら…。
『シルトクレーテ』を後にした俺達は、ライール川に架かるアルコイリス城へ向かった。写実画で見た通りの…いや、それ以上に美しいアルコイリス城は、優雅や優美という言葉がピッタリだ。いつまでも眺めていられる城…というのも納得だな。
城でもあり橋でもあるアルコイリス城は、ライラリッジの有名な観光地の一つでもある。城の回廊では、今は無名の画家の作品を集めた展覧会が開かれているようだ。結構、賑わっているね…今日はもう予定はない。入場料は無料だし、ちょっと見てみるか!
侘び寂びを感じる水墨画のような絵から鮮やかな多色の色彩が印象的な空想画まで…実に多種多様な作品が展示されている。その中で俺の目を引いたのは、様々な表情の光があふれる描き方が、心の琴線に触れる空想画だ。それは写実的でありながら心が安らぐ、不思議な魅力を持つ絵だ。
「気に入った絵があれば買ったらどうだ?」
足を止め、じっくり絵を鑑賞する俺に、カレンが購入を勧めてきた。
「絵なんて分かんねえよ」
俺は苦笑しながら答えた。
「別に分かる必要なんてないんじゃないかな。自分がいいなぁ…って思った絵を買って、描いた人のファンになる。それでいいんだよ」
「そういうものか…」
アマユキに諭されると、買わないと悪い気になってしまうね。
その気になって値段を見てみると、たいした値段ではなかった。無名の画家の作品なんだから当たり前なのかもしれないが…さて、どうしたもんかね。
「そもそもショウの部屋は色彩に乏しいからな。こういう絵があることは悪いことではないぞ」
うぐっ…カレンに痛いところを指摘されてしまった。確かに俺の部屋は物がまったく増えていない。
「ショウの部屋ってどんな感じなの?」
これは掘り下げなくてもいいことなのに、アマユキが興味津々で聞いてきやがった。
「どんなって…」
誰よりも実状を知っているだけに、俺は答えに窮してしまう。
「必要な物以外は何もない。殺風景な部屋だ」
そんな俺を尻目に、カレンが余計なことを言いやがった。
「…部屋で修業でもしてんの?」
「してねーしっ!」
可愛そうなものを見るようなアマユキに全力で否定する俺は、却って可愛そうなものに見えてしまうかもしれない。
優美なアルコイリス城に相応しい幻想的な光があふれる絵画の前で、俺達の会話はどこまでも低レベルでこの場に相応しくない。紆余曲折の末に、最終的には購入してしまった…俺が買った初めての絵画を翌朝にユリーシャ邸に届けてもらうように手配して、俺達はアルコイリス城を後にした。




