8.デート
翌日
朝一皆んなが夜営してた場所へ戻った。誰も特になんの心配もしておらず、中々後一頭が狩れなかったと説明すると、普通に納得していた。
皆んなはテキパキと後片付けを済ますと、俺たちは王都へ戻った。
♢
「ただいま〜」
俺はザックと一緒に借りてる宿の一室へと戻った。
合同任務の後処理は3人のSランクがするそうだ。俺は狩った火竜の死骸をまとめて全部ギルドの処理倉庫へ放り投げて帰ってきたとこだ。
ギルドの職員さんの引きつった顔は見なかった事にした。
「おかえり…イフト…」
「おわ!」
ザックが部屋の隅で毛布に包まり虚空をジッと見つめていた。目の下には隈があり、寝ていないのが分かる。
「ど、どうした? デート、上手くいかなかったか?」
「いや、成功したと、思う…」
「そ、そうか、良かったな」
「おう」
ザックはハハッと苦笑いした。
「…何かあったのか?」
「聞いてくれイフト!」
ザックは勢いよく俺に近づいて肩を掴んできた。
「知ってたかイフト、ミラさんて夢魔族のクォーターなんだ!」
「ああ、俺も昨日ニャコナさんに聞いたばかりだ」
「お、俺は…あんな凄い、アレをした事がなかった…」
「アレ?」
ああ、夜の営みってやつか。
因みに俺は初恋を拗らせたままで未だ未経験だ。そういうのは大人になってからと決めている。
まぁ相手が出来ればの話だが。
「正直、デートは上手くいったと思う。服装も褒めてもらえたし、食事もいい感じだったし、デート場所も楽しそうにしてもらえたと思う」
「なら良かったじゃないか」
「だがアレが駄目だった。ホテルに行ったまでは良かったんだが…俺は…ミラさんについていけず…途中で…気を…失ったんだ…」
「そ、そうか…」
生々しいな。15才にする話じゃないだろ。
「気づいたらミラさんは居なくなってて置き手紙があったんだ」
俺はザックからその置き手紙を見せてもらった。
『服装も場所も食事も誰かと決めた感じがしましたが、デート自体はとても楽しかったです。正直、割り勘は覚悟してたのでとても良かったと思います。ここ最近の相手としては合格です。ただ私はサキュバスの血が少し入っているので、あっちの方ももう少し頑張ってくれたらなぁと思いました。なので、55点です。ミラより』
うわぁ…採点されるのかよ。
ザックに掛ける言葉が見つからない。
ザックは壊れたように無表情で小さく笑っていた。
「ま、まぁあれだ…合格みたいだし、100点満点で55点なら良い方なんじゃないのか?」
「そ、そう思うか?」
ごめん、嘘だ。
俺ならせめて70点は欲しい。でもデートは合格みたいだし、ザックのいうアレを頑張ればいけるんじゃないのか?
「そ、そのなんだ…子供の俺が言うのもなんだけど、精力剤っての? 使えばまだザックにもチャンスあるんじゃないのか? ミラさんもあっちの方頑張ってって書いてるし」
「そ、そうだな。うん、そうだ。精力剤さえあれば、もしかしたら俺にも未だ…」
「そ、そうだよ、頑張れザック! ザックなら大丈夫だって!」
俺は精一杯ザックを励ました。
ぶっちゃけ疲れてるので今すぐ寝たいが、このザックを放っておくわけにもいかない。
「よっしゃー! なら今すぐ薬屋に行って精力剤のレシピ聞いてくるぜー!」
ザックは元気になったのか勢いよく飛び出して行った。単純な奴。
「やれやれ」
俺は布団にダイブし、そのまま一休みした。魔笛の件は後で報告しに行こう。ふぁ〜本当に疲れた。
♢
お昼頃
俺は屋台で売られていた、焼き鳥ならぬ各竜の焼き竜5本セットを頬張り、水晶果実の搾りジュースを飲みながら、クラン本部へと向かっていた。
龍種程上手い肉ではないが、なんと言ってもタレが絶品だ。竜肉の臭みすら消してくれる。
水晶果実が飲みたくなったのも、あの2人のせいだ。美味い。
♢
クラン『王者の剣』本拠地
俺はクランリーダーのアイリスさんの執務室へ行くと、昨日の魔笛の件を話した。あのドワーフの2人を泳がせてる事もだ。
「あのアルバート殿がな、俄には信じられん」
「あの2人もそう言ってました」
「しかし1つ疑問なのだが」
「?」
「なぜそのドワーフ達は、水晶果実を王都で買わなかったのだ? わざわざ危険を犯して火竜の巣に行かずとも手に入るのでは?」
ああ…そこはやっぱ王族か。
金銭感覚がおかしいのか。
「魔笛に使われる水晶果実は実を丸々使います」
「そんな事は知っている」
「……搾りジュースなら兎も角、あの実がいくらするか知ってるんすか?」
「さあな?」
「最低でも50万ドラはします」
「それがどうした?」
やはりか。
50万ドラがこの人には5000ドラくらいにしか感じないんだろうな。
「アイリスさん、50万ドラは一般の人からしたらポンと出せる金額ではありません。おまけにあの2人は納品を間違えてる事になってるので、恐らく報酬も出ません」
「なるほど。市場に売られてる搾りジュースは加工されているから、いくら集めても素材には使えない。実を丸々手に入れるには少々高値という訳か」
ようやく通じたか。
おまけに火竜の繁殖期で水晶果実自体の値も上がっている事だろう。50万ドラではすまないかもな。
「分かった。その件はこちらに任せろ。もう少ししたらエルドが依頼から帰ってくる。この件は奴に任せよう」
エルドさんか。
長髪で美形のエルフ族。別名、耳長族。
エルドさんは王都でも指折りのイケメンだ。おまけにクールで頭脳明晰。
しかし、その戦闘スタイルは本来のエルフとは違い、かなり荒々しい。
『剛腕』のエルド
弓や魔術を得意とするエルフ族なのに、エルドさんはそれらを一切使えず、拳でSランクまで昇り詰めた猛者だ。
「エルドさんなら安心ですね」
「うむ。ああ、それと竜種の件だが『水竜』の目撃情報があったぞ」
「水竜、ですか」
「ああ。王都より西の大河『煌江』にて目撃情報があった。貨物船を何隻も沈められて困ってるそうだ」
煌江か。西の大国『琉華鳳国』との間にある巨大な河だ。
相性的にはあまりよろしくない。
ふむ。
西の琉華鳳国との国境『煌江』で水竜。
東のアルムド帝国との国境『スロッカス沼地』で毒竜。
どっちも嫌だな。
「木竜は…」
「ないな」
即答された。
「少し考えます」
「明日には返事をくれ」
俺はクラン本拠地を後にした。
♢
「水竜か毒竜か…どっちも嫌だな」
ギルドの依頼書が貼られている掲示板を眺めながらそう呟いた。
しかし呟いた所で掲示板に他の竜種の依頼が増える訳ではなかった。
「さて、どうするか?」
冒険者は依頼外で無駄な魔物狩りはしない。
襲われた場合等は別だが、あまり狩り過ぎると生態系を壊しかねないからだ。生態系を狂わすと、突然変異種などヤバい魔物が生まれたりもするからだ。
現に、死氷山アイスバーンでも山の主であった氷竜がいなくなり氷猿ブリザルが暴れ出した。あれも放置しすぎると、ブリザルから突然変異種が生まれてたかもしれない。
「さて、どうするか…」




