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妖精計画〜鬼の子と桃の花〜  作者: 洗井 熊
第1章 Sランク
6/18

6.ドワーフ

【ドラッセン渓谷の東側】


 数時間後。

 俺は今日中に王都に帰るために再度火竜を狩っていた。既にノルマの内、4頭は狩った。



「あと2頭か…中々いないな」


 結構探してるが、あと2頭が中々見つからなかった。ザムドさんには東側で狩るって言ったから狩場を変えるのは避けたいところだ。

 いや、狩場を替えてサクッと倒せば問題ないけど…



「いや、やっぱやめとくか」


 諦めてここで探そう。上空にも見当たらないし、既に巣で休んでるのかもしれない。



「ならもう少しだけ奥へ行くか」


 俺は少しだけ渓谷の奥へと更に進んだ。



「ん?」


 何かが聞こえた。

 誰かの悲鳴のような…他の冒険者が東側にいるって情報はザムドさんから聞いてないけど、狩場を変えたのだろうか?



「兎に角行ってみるか」


 俺は急いで声のする方へ向かった。





 数分後


「あれは!」


 目の前で竜に襲われている人がいた。上空から今にもブレスを吐きそうな火竜と、その場で座り込む人が2人。



「…ドワーフ族か?」


 成人しても背が低く、髭や体毛が濃い、筋骨隆々の亜人。鍛治や建築の神を信仰し、酒が大好きで、職人気質な種族だ。



「なんでこんなところに!」


 俺は一瞬で間合いを詰め、ドワーフ2人を火竜から守るように間に入った。



「火ま…術ゼロフレイム!」


 一瞬、魔法と言いかけた。魔法と同時に火竜のブレスを防いだ。火竜は霧散されてもブレスを吐き続けた。

 相当お怒りのようだ。



「ここは火竜討伐任務を遂行中で現在は立入禁止区域だ! ギルドの通達を無視したのか!」


 俺はブレスを防ぎながら2人に説教した。



「す、すまん。どうしても取らなければならない素材があったんじゃ」

「し、師匠が悪いんじゃありません! 師匠は私の為に…」


 何やら事情がありそうだけど、今は後回しだ。火竜を何とかしなければ。



「火魔術フレイム」


 俺は空いてる手を火竜へ向けて火魔術を放った。

 放たれた火炎は火竜の顎へ当たると、そのまま火竜の首は吹っ飛ばした。胴体だけが地面へと墜落した。



「す、凄い…火竜を一発なんて……」

「凄まじい魔術だ。火を司る火竜を火の魔術で倒すとは……」


 2人は俺の魔術に驚いていたが、俺は番いがいないか警戒しながら火竜の遺体を収納魔法で丸ごと収納した。



「番いは、いないか…」


 暫くしても別の火竜が襲ってくる事は無かった。ノルマまであと一頭だからついでに出てきて欲しかったが仕方ない。



「さてと、取り敢えずこんなとこにいる理由を聞こうか?」


 俺は2人に詰め寄った。



「とある貴族様への納品を間違えてしまって…」


 説明しようとしてるのが恐らく高齢の男性ドワーフ。そんな彼を師匠と呼び泣きじゃくっているのが、



「師匠のせいじゃありません。私が貴族様への依頼の品を間違えたから…」


 若いドワーフの女の子だ。

 髭や体毛なんかはなく、背の低い少し膨よかな人間の女の子にしか見えない。



「理由になってないな」


「その貴族様を怒らせたから別の品を納品しろと訴えられたんじゃ。ワシは鍛治()で、鍛治士は信頼が命じゃ。間違えた品を納品したなんて広まれば最早鍛治士として食っていけんくなる」

「それは違います! あの依頼は師匠をはめる為のものです! わざわざ私に剣を作るよう依頼したのに今一どんな剣が欲しいか言わないし、あれはなんか最初からおかしかったです!」



「ちょっと落ち着け。つまり貴族は…剣を納品するようその子に依頼してきたが今一なんの剣か言わず、納品された剣にいちゃもんつけてきて、別の品を納品しろと? それが出来なければその事を広めると?」


 要約するとこうか?



「まさしくその通りじゃ」

「です」


 2人はコクコクと頷いた。


 随分とお粗末ないちゃもんだな。まぁ貴族なら多少の事なら権力でどうとでもなるのだろう。これだから貴族や権力なんかと関わり合いたくないのだ。



「はぁ…それで火竜の繁殖期に火竜の巣に来るなんて、死んだらどうする気だったんだ?」

「その、あれじゃ…火竜討伐隊が組まれると聞いて冒険者が火竜を狩っとる間にお目当ての素材を取ろうと思ったんじゃ」


 結構、強かだった。



「まぁそれで、素材は取れたのか?」

「これじゃ」


 ドワーフの爺さんは若干得意気にその素材を見せてくれた。



「これって、まさか…」

「ああ。親竜が子竜に与える餌の中でも絶品と言われる実、『水晶果実』じゃ」


 水晶の様に綺麗で甘美な実。

 魔力も豊富に含まれており、『竜種のいる所にこの実あり』とまで言われてる極上の果実だ。

 ん?



「水晶果実は分かったけど、なんでその貴族はその実を冒険者に依頼しなかったんだ? どう考えても鍛治士に取りに行けるレベルの品じゃないぞ?」

「正確にはこの実を使って作る『魔笛』を納品しろと言ってきたんじゃ」


 また物騒な名前が出てきたな。


『魔笛』

 吟遊詩人や演奏者が奏でると魔物を呼ぶ事が出来る笛だ。広範囲に広がって攻めてくる魔物を、一箇所に誘き寄せて一掃する時なんかは使うけど…



「それを貴族がなんのために…」


 なんともキナ臭くなってきた。嫌な予感がする。

 王国やギルドを通しての正式な魔笛作成の依頼なら分かるが、この状況で魔笛を作らされた鍛治士だと、魔笛を作ったなんて周りに言わないだろう。

 

 もし、仮に、王国を魔物の群れが襲い、その魔笛作成をしたのが自分だと知られれば極刑は免れない。

 つまり、その貴族はこのドワーフの鍛治士は絶対に魔笛について口外しないと踏んだのだろう。



「冒険者や他の奴らに、バレない様にした訳だ」


 完全に仕組まれてる。

 その貴族は魔笛を使って魔物を誘き寄せて何かをする気だ。



「その貴族の名前は?」


「……」

「……」


 2人は黙り込んだ。



「諦めろ、俺にバレた時点でこの事はギルドに報告する」

「そんな⁉︎」


「ただし! 先ずは内密に調べるのが先だ。今その貴族を訴えてもシラを切られるのがオチだ。お前らは知らないフリして依頼通り魔笛を作って納品しろ。ギルドへの報告はうちのクランリーダーに相談してからだ。安心しろ、うちのクランリーダーは王族だから悪い様にはしない。アンタらが鍛治士として生きていける様うまく取り計らってくれる筈だ」



「ワシらを泳がせる気か?」

「悪いけどそうさせてもらう。じゃないとそれこそ取り返しがつかなくなる可能性がある。魔笛は悪用するとそれくらいヤバいんだ」


「そ、それくらいは知ってます! でも、絶対なんかおかしいんです」

「どういう事だ?」


「その貴族様はうちのお得意様で、いつも本人が直接依頼に来て納品後はいつも満足されてるんです。それなのに今回依頼に来た人はよく知らない人で…自分はあそこの執事で代理で来たって…」

「その貴族に確認は?」


「貴族様の家の印が押されてる証明書を見せられて…私たちも最初は疑ったんですが、取り次いでもらえず…おまけになんか凄く怖い人で…」

「仕方なく、か……」


 取り敢えずはその執事だな。黒幕がいそうだが、その貴族なのか別の誰かか…



「分かった、取り敢えず俺はあんたらを信じるよ。だからその貴族にも迷惑がかからない様約束する。だからその貴族の名を教えてくれ」


 2人は顔を見合わせると、ゆっくりとこっちを見るとようやく教えてくれた。



「……バルド様です」

「え?」


「アルバート・フォン・ラインバルド様です」



 とんでもない貴族の名前が出てきた。貴族の中でもトップ中のトップ。

 貴族位は『公爵』。

 超がつく名家ラインバルド家。

 おまけにアルバートと言えば今代の当主で、財政・治水・医療等様々な面で王国に貢献している『王の右腕』とまで呼ばれてる偉人だ。


 成程。

 お得意様でもあるが、ラインバルド家に楯突いていい事なんて一つもない。ラインバルド家にいちゃもんつけられた、なんて言ったところで誰にも信じてもらえないだろう。



「これは相当な事案だな」


 Sランクになると決心していきなしこれかよ。だから面倒事は嫌だったんだ。でも仕方ない。知ったからには放っておけない。



「すまんな」

「ご、ごめんなさい」


「いや、アンタらが謝ることじゃ…」


 しかし、この時の俺は一瞬油断していた。



「しまった⁉︎ ゼロフレイム!」


 俺は魔法を発動させて咄嗟に火のブレスを防いだ。水晶果実に釣られて別の火竜が接近していたのに気づかなかった。

 いや、このブレスは火竜ではない。



「べ、別の火竜ですか⁉︎」

「いや違う…あれは…」


 火竜の倍以上はある体躯。煌めく鱗。全てを焼き尽くさんとする覇気。

 水晶果実の甘い香りに釣られたのか、とんでもないのが現れた。


 こんな場所ではなく、ドラッセン渓谷のもっともっと奥地にいる火竜の上位種。

 ランクでいうなら、S〜SSランク級。

 大災害級の存在。

 絶対の支配者。



「あれは、火龍だ…っ!」

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