23.兄妹
俺とフウカはギルドへ行く前に武具屋に来ていた。フウカは早速武器を買うつもりだ。武具屋のおっちゃんと親しそうに話すフウカ。昨日出会ったばかりだというのに、このコミュ力の高さは貴族だからだろうか?
「ん? そういやフウカ、武器ここでいいのか?」
「なんで?」
「いや、こんなしみったれた店じゃなくて、もっといい武器扱ってる工房とか紹介するぜ」
「しみったれた店で悪かったなイフ坊」
ここの武具屋はいうなれば小売店だ。実際に目の前のおっちゃんが武器を作ってる訳ではない。俺が知ってる、白練工房や十剣工房に所属している職人たちが作業に集中する為、売りをこういう店に任せているのだ。
俺が昔、白練工房で絡まれた理由でもある。
「私はここがいい」
「なんで? お金がないとか? まぁ工房で特注してもらうとそれなりにするからな」
「なくはないけど…」
「ん?」
「私ね、イフト。前も言ったかもだけど昔から冒険者に憧れてたの。自由で、ちょっと荒っぽくて、身分を問わなくて、なんていうか…自分の力で生きてますって感じが堪らなく好きなの」
フウカはそんな風に思ってたのか。
「だから…今はまだイフトに甘えてるけど、少しずつ自分の力で成り上がっていきたいの。だから家のお金でいい武器や道具を買ってもそれは親の力な訳で、その…自分で稼いだお金で少しずつ装備やら道具は用意していきたいの」
「フウカ…」
そうだ。俺だってそうだ。
もし仮に豪邸を建てるのにフウカがお金を出すって言っても多分俺も受け取らない。自分の稼いだお金で建てたい。
だから、ザックもアイリスさんも、ニャコナさんもアルベルトさんも俺にお金出そうかなんて言わない。
みんな分かってるんだ。
それが冒険者の醍醐味だって。
「ま、まぁ帝国を出る時にテントやら色々と親の金で買った物も沢山あるんだけどね。ははっ」
フウカは照れて少し恥ずかしそうにはにかんでいた。
「くぅぅ…おっちゃん、そういう話に弱いんだ! しょうがねぇ、今日はサービスだ! 今回だけ、1つだけまけてやらぁ!」
おっさんは今のフウカの話で鼻水をすすりながら涙ぐんでいた。
「ほんと、やったー! おじさんありがとー」
そしてこれである。
フウカは、さっきの話が嘘だったんじゃと思うくらいもうはしゃいでいる。
ルンルンで武器を選んでいる。
これだから女って怖い。
「お待ちなさいな!」
すると、武具屋の扉が勢いよく開かれ聞き馴染みのある声がした。
凄く嫌な予感がする。
「だ、誰…?」
フウカは恐る恐る俺の方に振り向いた。
俺はなんとなく誰か分かってしまったので項垂れた。
「貴女ね! 最近帝国から来て愛しのイフト様に付きまとっているという害虫女は!」
「は? が、害虫女ですって…」
はぁ…
やっぱコイツか…
「イフト様ん! お久しぶりですわ〜!」
「あ、ああ…久しぶりだなナミ…」
その瞬間ナミは膝から崩れ落ちた。
「い、イフト様が、わ、わたくしの名前を、よ、呼んで…」
怖い!
この娘、毎回こんなだから話が進まなくて怖いんだよ!
涎垂らしながら口元はニヤけてるし目がいっちゃってるんだもん。
「イフト…、誰よこの女…」
「え、あ、この娘は…」
すると、武具屋の扉が壊れるんじゃないかってくらいの勢いでまた開かれた。
「おら、イフト! 今日こそ決着つけるぞ!」
「…また、やかましいのが……」
「な、なんなのよ…」
「お、おっちゃん、こんな展開も嫌いじゃないぜ」
「げへへ、イフト様〜」
「勝負だイフトー!」
武具屋はしっちゃかめっちゃかとなった。
「う、うるせー!」
♢
暫くして漸く落ち着いたので、改めて自己紹介する事にした。
勿論するのは俺だ。
「コイツは、冒険者のナギ。年は16で俺の1個上。クラン『十六夜天魔』に所属しているAランク冒険者。『雷神』のナギ」
「おう! ライバルのイフトがSランクになったって聞いたから駆けつけたって訳だ!」
そしていちいち声がデカい。
「そんで隣のが…」
「オーホッホッホッ! ワタクシはこの馬鹿兄の双子の妹、ナミ! 同じく十六夜天魔に所属する自称Aランク、『風神』のナミですわ! オーホッホッホッ!」
シーン
武具屋が静寂に包まれた。
正確にはナミの高笑いだけが響いていた。
「えっと…バカ兄貴の方が毎回俺に絡んでくる声のデカいナギで。ダダ滑りしてる妹が実際はBランクのナミね」
「おいイフト! 2回も自己紹介する必要あるか⁉︎ しかもなんか2回目雑だろ!」
「ひどいですわイフト様ん! こんな兄と一括りにするなんて! で、も、そんなヤレヤレ系のイフト様もス・テ・キ! キャ!」
これである。
この2人に絡まれると話が全く進まなくて時間が勿体なく感じてしまう。
だが今日はいつもとちょっと違った。
「そこの貴女!」
「わ、私?」
ナミは鋭い眼差しでフウカを睨んだ。
「聞けば冒険者になったばかりの駆け出し。おまけに仮冒険者。そんな方がイフト様と一緒にいるなんて不釣り合いですわ」
「な、なんですって…」
ナミは俺にではなくフウカに用があったみたいだ。
「イフト様は最年少Sランク冒険者。登録時には、十六夜天魔のアルベルト様に一撃を喰らわした程の御方。そんな方が、貴女みたいなFランク冒険者(仮)と一緒なんて神が許しても私が許しませんわ」
ナミは祈る様に手を組み自慢げに語り出した。
「ああ、今でもこの目蓋に焼きついて離れませんわ! 馬鹿兄に無理矢理ギルドに連れてこさせられた時はぶっ殺そうかと思いましたが、まさに運命の巡り合わせ! 私より年下のイフト様が勇ましくアルベルト様に一撃をお見舞いした時は、誰もが驚愕し、その姿に心を奪われましたわ!」
な、なんかすっげー美談にされてるがそんないい話ではない。
実際はアルベルトさんにボコボコにされてヤケクソの一発がたまたま当たっただけなんだけど。
「おい、勘違いすんな! 俺は認めてねーからな! 俺は、あの時決めたんだ! ぜってーコイツだけには負けたくねーてな!」
ナギはこいつでめんどくさい。
冒険者登録以降、事あるごとに絡んでくるようになった。
俺がランクを上げたらコイツも上がり、俺が何かしたらコイツも負けじと対抗してくる様になってきたのだ。
まぁ流石に1人で五竜討伐までは真似れなかったみたいだけど。
「確かに俺が1人で倒せた竜は水竜だけだがな…あと少しだ」
「何が?」
「特別Sランクは『ドラゴンスレイヤー』だけじゃね。『ビーストスレイヤー』…」
「⁉︎」
ナギは俺の驚いた顔を見てヘヘっと笑ってみせた。
「と…」
「特別Sランク『獣王殺し』。ギルド指定の10体の獣王種。竜種に負けない程のAランクの魔物。猪系のベヒモス、熊系の鬼熊、獅子系のスフィンクス、馬系の麒麟など。個体によってはSランクの龍種に匹敵する程の獣王を討伐する事でなれる、あのビーストスレイヤー」
説明ありがとうございます、フウカさん。
ナギは開いた口が塞がらず口をパクパクとさせていた。
さすが冒険者マニア。
「て、てめー俺の言いたい…!」
「きゃっ」
ナギはフウカの肩を掴んだ。
「おい、イフト」
「何?」
「この女は?」
「さっきお前の妹が説明しただろ。アルムド帝国から来てる冒険者のフウカ。アイリスさんに頼まれて俺が今世話してる」
ナギはわなわなと震え出した。
「か、可愛い…」
「へ?」
「運命だ…」
「へ?」
「フウカ、俺と…ごふっ」
戸惑うフウカを他所に、気づいたら俺はナギの頭にチョップを喰らわせていた。
「帝国の貴族だって言ってんだろ。俺に用があるんじゃないのか?」
あれ?
俺今ナギの邪魔をした?
あれ?
「く、まぁいい。あと4体だイフト! あと4体倒したら俺も特別Sランクだ。へへへ、ビビったか?」
「マジか…」
素直に驚いた。
あの龍種に匹敵する獣王種。それをコイツ1人で6体も。
いや、それってもう特別SSランクの『獣神殺し』になるんじゃ…
てか、それなら竜種くらい簡単に倒せそうだけど…
「安心して下さいなイフト様ん。馬鹿兄が倒したのは獣王と言っても幼体。体の大きさは成体の半分以下。オマケに成体のいない間に奇襲して、毎回アホみたいに苦戦してやっとこさ。イフト様みたいなスマートな偉業には程遠いなんちゃって特別Sランクですわ」
「おおーい! 何バラしてんだバカ妹!」
そういう事か。
でもマジでビビったぜ。
なんせ…
「でもなイフト! 幼体とはいえ獣王種! ぜってーテメェには負けねーからな!」
そう、俺はコイツに負けた事はない。
依頼でも、実戦でも。
俺だって負けたくないのだ、コイツにだけは。
「早くSランクに上がってこい、ライバルだろ?」
「へへ、見てろよ」
俺は煽る。俺だって負けない。
ナギは嬉しそうに笑った。
「次に会うときは俺もSランクだからなー」
そう言い残してナギは走って去っていった。
あれ?
何か忘れてないかい?




