14.許可
ナナイの村近辺、林の中。
スロッカスの沼地での依頼を終え、厄介事に巻き込まれた俺は、今回だけの仮拠点にしている村近辺へ転移した。
流石に村の中に転移するのは面倒事が増えるだけなので、それは避けたい。
「驚いたわね。貴方、転移魔術が使えるの?」
「……まぁ」
彼女は感心こそすれ深くは追求してこなかった。アルムド帝国では割と使える人が多いのだろうか?
「アンタは?」
「フウカ。私の名前は、フウカ…よ」
彼女はフウカとだけ名乗った。恐らく偽名だろう。
どうやって身の潔白を証明するのかは知らないが、すぐバレる様な嘘をついてきた。
まぁ結構自信満々そうだから、どういう出方をしてくるか楽しみだ。
「俺は、イフトだ」
「ふーん、割といい名前じゃない」
「そうか?」
「お世辞よ、真に受けないでよ」
こいつ…殴りたい…
「で、フウカは使えないのか? 転移魔術は?」
「私も使えるわよ。まぁイフトと違って発動まで相当時間かかるし、まだまだ練習中だけど」
へ〜凄いな。それは素直に感心した。
俺以外に使える奴がいるとは思わなかった。
いや、1人いた。
王国のもう1人のSSランク。
「取り敢えず村はすぐそこだから、着てる物脱いで」
「はぁ?」
「毒が付いた物、村に入れる訳にはいかないだろ? 燃やして廃棄するから」
「わ、分かったわよ」
何故か焦っている。
「…まさか、着替えが無いのか?」
「あ、あるわよ! じゃなくて! そ、その…ここで脱ぐの?」
それが理由か…
「全部な訳ないだろ…汚れたマントやら、フードや手袋に靴だよ」
「…私、中まで全身泥まみれなんだけど」
「確かにあそこは酷い場所だけど、なんでそんなに汚れてるんだ?」
「アンタのせいでしょ!」
ああ、俺の魔法の爆風で沼地に顔面ダイブしたからか。
「分かったよ」
俺は収納魔法で予備の予備の服を幾つか出した。それと水の入った桶だ。
「あっち向いてるから、水である程度洗ったらそれ着てろよ。村に入ってからちゃんと洗おうぜ。風呂も用意してあるし」
「あ、ありがと…」
♢
10分もすると、どうやら済んだみたいだ。
フウカとやらは、俺の予備の服を着てまた別のフード付きマントを着ていた。余程顔を見られたくないらしい。
俺は下に着ていた服だけで、おまけに今は素足だ。予備があるとはいえ、やはりちゃんと洗ってから着たい。少しでもあの泥沼が残っている状態で服など着るのは嫌だ。
「済んだわよ」
「おう。じゃあ燃やすぞ、ファイヤーボール」
汚れた衣服は一瞬で灰と化した。
「…貴方の火魔術強力すぎない? ファイヤーボールで一瞬で灰にするなんて聞いた事ないけど」
「術式に威力調節組み込んでるからだよ」
俺はシレッと嘘をついた。そう言う輩にはいつもこう返してる。
本当にただの下級魔術なのだが、魔法の影響か俺の魔術は威力が高い。
だということだけはバレない様にしないと。
「じゃあ行くか」
「ええ」
♢
【ナナイの村】
村長から借りている空き小屋。ようやく帰ってこれた。数時間しか経っていないのに、もう何日もあそこにいたような気がする。
「さてと、取り敢えず通行証でも見せてもらおうか?」
「いきなしね、風呂にでも入って来たら?」
「風呂には入りたいけど、その間にアンタが逃げないとも限らないだろ」
「もし逃げる気なら、着替えてる時に既に逃げてるわよ」
「どうかな」
「疑り深いわね。まぁいいわ、でも通行証じゃないわよ」
フウカは収納魔術を発動し、中から綺麗な封書を取り出した。
俺はそれを確認した。それは通行証ではなく滞在許可証だった。
中身を簡単にまとめるとこうだ。
『アルムド帝国のとある令嬢が、貴国ザムスガル王国のギルドに興味があり、1ヶ月の滞在と冒険者としての参加を許可して欲しい』
それに対しての王国からの正式な許可印がなされている。本物で間違いない。
「ならフウカは本名?」
「当たり前でしょ。まさか偽名だとでも思ったの?」
「思ってた」
「…最低。許可証を持ってるのに偽名なんか使って私に何の得があるのよ?」
「悪かったよ」
「あら案外素直なのね…は! まさかイフトって、偽名なんじゃ?」
「俺が偽名使ってどうするんだよ」
「それもそうね」
フウカはフッと小さく笑っていた。
表情は見えないけど、その笑い方で何故か悪い奴に見えなかった。俺もつい笑みが溢れた。
♢
「にしても少し喉が渇いたわ…その、申し訳無いけど飲み物ないかしら?」
「収納魔術に入れてないのか?」
「あったわよ。あったけど…その…飲もうとした時に毒竜の群れに襲われて、その時に水筒ごと落としちゃったのよ」
「ああ、それでか。アイツらは汚い物が好きだからな。反対に綺麗な物が嫌いで、そんなの出したら匂いだけで襲ってくるぞ」
ああ、そうだ!
その手があった…大量の綺麗な水を用意したら毒竜なんかすぐ寄ってきて魔法一発で終わってた。
すっかり忘れてた。
「そうだったの…だからあんなに怒ってたのね」
「災難だったな」
俺は収納魔法からお茶を取り出した。水筒に入れてあるからまだ冷えている。コップに注ぐとフウカにあげた。
「あ、ありがと」
「取り敢えず冷たいのしかないけどな」
「充分よ」
あ、そうだ。これは聞いとかないと。
「フウカは、ギルドに興味があるのか?」
「ええ、まぁ。イフトは冒険者なのよね?」
「まあな。一応さっきの毒竜討伐で『五竜種討伐』達成でSランク冒険者になる予定だ」
「ブー!?」
フウカは口に含んだお茶を盛大に噴き出した。
「貴方、Sランクなの? それに五竜種討伐って、あの特別Sランク『竜殺し』?」
「おう。風竜と雷竜と氷竜は前に倒してて、この前火竜倒したから、今回の毒竜で五竜種達成だ」
「驚いたわね…特別Sランクって試験免除になる程の偉業達成でしかなれないって聞いてるわ。貴方何者…」
ギルドに興味があるって言うだけあって、フウカは相当冒険者について詳しいみたいだ。
俺はフウカと少しだけ冒険者やギルドについて話した。
そしてここからが本題だ。
「それで俺は今は未だAランク冒険者なんだけど、こう見えて結構な地位だからさ、ギルドに口利きしてやるよ。そうすれば王国内でもっと自由に動けると思うぞ」
「ほんと⁉︎ それは、凄く助かるんだけど…その…」
話が美味すぎると思ったのか、最初こそ嬉しそうにしてたフウカだが、そこまで馬鹿ではないようだ。
俺の話を聞いて、少しだけ怪しんでいる。
「まぁ帝国からの令嬢とは言え、その、好き勝手にされても困るしな。簡単に言ったらこうだ、俺が口利きする事でフウカは王国内である程度自由に動ける。その代わり何かしたら責任は俺にくるから、その分の監視はさせてもらうぞ、って事」
「そうよね。うん、でも助かるわ」
監視なんて言葉を使ったから怖がるかと思ったが、フウカは逆に安心した様だ。それくらいの方が逆に安心できるみたいだ。余程自由に動きたいみたいだ。
本当にただ沼地に興味があって寄っただけなのかも。
ん、沼地と言えば…
「悪いフウカ、もう限界だ…」
「へ?」
「俺、風呂入ってくる…」
「あ、うん、行ってらっしゃい…」
なんか臭い気がしてきた。汚れてはないと思う。でも入らないと気が済まない。気ではない、俺は今臭い。俺は風呂に入らなければならない。
いや、速攻で入る!
①
フウカ
「ふぅ、あぶなかったわ。念の為に許可証を作らせといて良かったわ。まぁそのせいで追手を放たれた訳だけど。ここまでこれたらこっちのものよ。まぁ私がどの国の滞在許可証を作らせたかまでは向こうにはバレてないだろうし…1ヶ月? 絶対にイヤよ! 私は絶対に冒険者になって自分の力で成り上がってやるんだから!」
イフト
「何か言ったか?」
フウカ
「ううん、なんでもない」
②
イフト
「あ、そうだよ! 鑑定魔法の火相でフウカの名前を見れば一発だったじゃん! すっかり忘れてた……まぁいいか」
魔物相手なら兎も角、人相手にするにはちょっと気が引けてしまった。
フウカ
「なに?」
イフト
「ううん、なんでもない」




