13.邂逅
スロッカスの沼地に来てから数時間後、俺はようやく毒竜の5頭目を討伐できた。
これで『毒竜の肝』を5つ手に入れたので、依頼は達成。後はザックの分の1つだけだ。
しかし沼地は中々歩くことが出来ず、おまけに毒竜以外の魔物が多くて難儀している。
「あと1頭か」
ほんと装備を買っておいて良かった。
おまけに鑑定魔法のお陰で魔物からの不意打ちを喰らわずに済み、思ったよりかは汚れていない。
「まぁ水魔法が使えたら楽に洗えそうだけど。洗浄魔法とか無いのかな?」
聞いた事もない魔法を想像してみた。あったら凄く便利だ。お店とか開いたら繁盛しそうだな。
「ん?」
下らない事を考えていたら、鑑定魔法が毒竜の名前を捉えた。それも結構多い。
「ここに来て大量か…巣でもあったか?」
まだ遠くて見えないがこちらに近づいてきている。
「あまり汚れたく無いし、広範囲魔術で一気に仕留めれば、1頭くらい肝が残るだろ」
周りに他の魔物がいないのを確認して、その場で待機し、魔術をぶっ放す準備をした。
「来るなら来やがれ」
肝を取ったら転移魔法で直ぐに帰ってやるぜ。
「ん? なんだ? 誰か、追われてるのか?」
前方から毒竜の群れがこちらに向かって物凄い勢いで迫ってきていた。泥沼をお構いなしに撒き散らしながら。
そして、その先頭には泥まみれになりながら逃げている人の姿があった。
「おいおい、またドワーフじゃ無いだろうな? 厄介ごとは勘弁だぞ」
しかし放っておくわけにもいかない。これでもSランクになる予定の冒険者だからな。
「火魔術フレイムボム」
最近ようやく習得できた二つ目の中級魔術だ。
俺は両手の指先を毒竜に向け、人に当たらない様調節し、一気に魔術を放った。十の火の爆弾が毒竜に命中すると爆発した。フレイムボムは大きさとは裏腹に中々の威力の魔法だ。
先頭にいた人は爆風により俺の横を掠めて、後方まで吹き飛ばされた。
爆煙で毒竜の様子は分からないが、鑑定魔法で『爆死』が出るまでフレイムボムを放ち続けた。
それにしても不思議だ。
フレイムボムは確かに着弾すると若干爆発するのだが、俺のフレイムボムは爆裂系魔術みたいに派手に爆発する。
俺の魔術は我流だからなんかおかしいんだろうな。
「終わったな」
全部の毒竜に死が表示されたので俺は魔術を放つ手を下ろした。毒竜の死骸に近づくとやりすぎた事に気づいた。幾ら極小の火魔術とはいえ、あれだけ連発すれば流石に原形が残っていなかった。
「あ、1頭残ってる!」
俺は運良く、後方にいたお陰か辛うじて原形がある死骸を見つけた。これでザックの分も毒竜の肝を回収できた。
「あ、しまった! あの人大丈夫か?」
ついつい忘れてしまった。俺が爆風で吹き飛ばしてしまった人を。
その人は運良く毒を避けてただの汚い沼に顔面からダイブしていた。
「ふー、毒に顔面から突っ込んでたら即死だったかもな。いやー良かった良かった」
「よくないわよ!!」
その人は勢いよく起き上がると、俺をキッと睨みつけてきた。しかしフード付きマントを被ってるせいか、顔はハッキリとはわからない。
「女の人?」
「見たら分かるでしょ! あーもう最悪よ、臭っ! 何よここ!」
「何って…スロッカスの沼地だけど」
「そんな事は知ってるわよ! たくっ、助けてくれた事には礼を言うわ、ありがとう」
「お、おう」
「でもね! 助け方ってもんがあるでしょ! 何よあれ! どれだけオーバーキルすれば気がすむのよ! 見なさい! 私全身汚物まみれよ!」
めっちゃ説教された。流石にここまで言われたらカチンとくるな。
「助けられといてそこまで言う事ないだろ? それに、そもそもなんでアンタここにいるんだよ? 毒竜を倒せない程度の奴がスロッカスの沼地に何しに来てんだ?」
「そ、それは…」
「待てよ、確かスロッカスの沼地に関する依頼は俺しか受けてない筈…おまけにアンタが来た方向って…帝国じゃ…」
「わ、私は…」
怪しい。かなり怪しい。もう怪しさしかない。
「あんた、もしかして帝国の…」
「そ、そうよ! 悪い! 王国に用があって来ただけよ! 怪しいならちゃんと調べてもらって構わないわ!」
開き直った?
いや、それにしては堂々としている。
「…そこまで言うなら取り敢えず確認は後回しにしてやる。こんな所に長居したくないしな」
「そ、そう?」
「だけど」
「な、何よ…」
「なんでスロッカスの沼地にいたんだ? 帝国から正規のルートで王国に入るなら、ここより北の関所から通るのが普通だろ? なんでわざわざこんな沼地にいるんだ?」
「そ、それは…」
やはり怪しい。女性がこんな沼地にいるなんて…冒険者ですら嫌がるこの沼地に。
「あ、あれよ! なんか、その、ほら、この沼地にしか生えてない草が、美容に良いって聞いたから、ついでに取っておこうかな〜…って」
「……」
バレバレの嘘をついてきた。
いや、待て…もしかしたら俺が知らないだけで本当にあるのかもしれない…カマをかけてみるか。
「…そんな草、聞いた事ないんだけど」
「……」
沈黙が続いた。
「う、うるさいわね! いいでしょ別に! ちょっと寄ってみたかったのよ!」
「……」
逆ギレしてきた。最悪だな。
「取り敢えずさ…」
「な、何よ…」
「後で調べても問題ないんだな?」
「ええ、全然構わないわ」
「なら俺はナナイの村に帰る予定だから、アンタも来いよ。そこでしっかり確認して少しでも怪しかったら即行で王都のギルドに突き出してやるからな」
「村に行くのは賛成。こんなところいつまでもいたくないし」
ならなんで来たんだ…
「なら、飛ぶぞ」
「へ?」
俺は彼女の肩に手を乗せると、転移魔法で一気にナナイの村付近まで飛んだ。この際、転移したのがバレても問題ないだろ。
どうせ、そんなに長く関わる訳じゃないし。
いざとなったら転移系のアイテム使ったとか言おう。
もう一秒でも早くこの沼地からオサラバしたいのだ。本当に臭くてたまらない。




