11.十剣工房
【十剣工房】
俺は親方に工房の奥に招かれた。親方は補助として、あの時ドラッセン渓谷にいた女の子「イルルカ」ちゃんも手伝えと連れてきた。というのは表向きの理由で本当は魔笛の件だ。
「あ、あの…」
「ん?」
「それで、どうなりました? その…例の件は?」
イルルカちゃんは魔笛の件が気になるみたいだ。他の2人にはドラッセン渓谷で俺に会った事は言ってないらしい。イルルカちゃんはかなり小声で喋っている。少しビクビクしながら。
「ああ、ギルドには報告してない。言ったろ、うちのクランリーダーは王族だから悪いようにはしないって。それに魔笛の件は俺じゃなくて『剛腕』のエルドさんが引き継ぐ」
「剛腕っていや〜耳長族か?」
親方は剣を研ぎながら少し嫌そうに尋ねてきた。
「そうだけど、あ…」
ドワーフとエルフは仲が悪いので有名だ。何故かは分からない。最早お互い理由なんてないのかもしれない、それくらい大昔から仲が悪かったのだ。
「だ、大丈夫。エルドさんは頭いいから、無闇に接触なんてしてこない筈だ。2人は普通に魔笛を作って納品するだけでいい」
「わ、分かりました」
「バカ言え。わしは耳長などなんとも思っとらん。確執があるのはわしらより幾つか上の世代までじゃ」
しかし、エルフは長命だ。エルドさんなんて既に300歳を超えている。エルフの寿命は短くて1000歳。人間で言ったらエルドさんは大体30歳前後だが、それでも親方より年上だ。
エルドさんにはあるかもしれない、その確執とやらが。リーダーはその辺りどう思ってこの件に関わらせようと思ったのだろうか?
まさか何も考えてない事はないよな。いや、あり得るな。あのリーダーだからな。
「ほら出来たぞい」
「ありがと」
ほんの少し会話してる間に剣の研ぎが終わった。うん、綺麗になった。
「ほんの少し刃こぼれしてる程度じゃったからな。それより、もっと使ってやれ。剣が泣いておるぞ」
「う、すんません」
「まあ、お主は火龍を追い払える程の魔術師じゃしな。使わんのなら大事にしまっておけ」
「それは断る。だってカッコいいじゃん」
魔術師だからって剣を使わない考え方は古いぜ親方。剣を持ってる、それだけで相手へ剣士だと誤認させる事だってある。
「まぁ好きにせい」
「おう、ありがと。また来るよ」
俺は工房を後にした。あまり長居して誰かに勘ぐられたら厄介だしな。
俺は工房の出口でわざと剣を出して納得した顔をし、腰に下げた。
演技も重要だ。誰に見られてるか分からないし、ただ剣を研いでもらいに来た客を演じとかないとな。
♢
更に次の日。俺は何もない平原にきていた。
ギルドの掲示板にも依頼がなかったし、近隣に村や町もない。誰かいる気配もない。
「新魔法の契約でもしますか」
最近はソロでの活動が多い気がする。
ザックは他のメンバーと組まされてる。日頃の態度が悪いせいか、昨日の夜もクランリーダーであるアイリスさんに怒られたと、ヤケ酒を飲み、飲み屋で暴れて、また怒られてた。
アホだな、あいつは。
まぁそこが唯一ザックの憎めないとこだけど。おっと、気を引き締めますか。
アルベルトさんが言うには帝国の動きが怪しいみたいだし、国境であるスロッカスの沼地で何が起こるか分からない。鬼火があるとは言え、万全を期す必要がある。
「少し整理するか」
俺が現在使える火魔法。
『灯火』火を司る転移魔法の精霊。
『火炉』火を司る収納魔法の精霊。
『火天』火を司る火遊びの精霊。
『消火』火を司る無効魔法の精霊。
『火鈴』火を司る結界魔法の精霊。
『浄火』火を司る浄化魔法の精霊。
『火鈴』は、現在俺が購入した土地に結界を張っている。大事な土地だし、ゴミとかを不法投棄なんてされたらたまったものじゃない。
余程の敵じゃない限り基本的には使わない。俺が防御等に使うとまた貼り直さないといけない。
『浄火』は、アンデッド系の魔物に有効な火魔法だ。基本的には僧侶系が用いる聖魔術しか効果がないアンデッドだが、浄火はそのアンデッドを屠る事が出来る。これも基本的には使わない。
「もう1つ補助的なのが欲しいな。さてと…精霊さん、精霊さん、遊びましょ」
俺は火天の魔法で、火遊びの精霊を呼び出した。
「おや、また遊んでくれるのかい?」
「ああ」
「嬉しいな」
「それなら良かった」
「今回は…そうだ! 魔法を5つも習得してるし、更に上のランクの精霊と遊ぼうよ」
これは初めてだな。更に上のランク…どういう意味だろう?
「今回は、『天火日』。どんな悪条件な気候ですら穏やかな晴天に変える、天候を司る精霊だよ」
「!」
「ふふ、頑張ってね」
マジか。天候を変える程の魔法って。ヤバすぎるだろ。
火遊びの精霊は一旦消えると、辺りに巨大な火が現れた。そして、その火から神々しい精霊が現れた。
天火日…まるで太陽の様に丸く、巨大な球体。辺りが一瞬で焼かれてく程の超高温。
「熱い…」
火魔法を使う俺が熱いとさえ感じる超高温。氷猿ブリザルを挑発した時に使った『ヒート』とは比べるまでもない熱量。
球体に光が集まると、その光は圧縮され俺に向かって超高速で発射された。
その光を熱光線と呼ぶ事にした。
「っ⁉︎」
手を翳し熱光線を無効化する。一瞬の出来事でいつもの「火魔法ゼロフレイム」と言う暇さえなかった。
しかし熱光線は消える事なく俺の右肩を掠めた。
「くっ!」
発動が遅かったか?
いや、無効化されてない。あの熱光線に消火は効かないのだ。
まるで『鬼火』の『黄天火』のような魔法だ。天候を変える精霊のくせに、厄介な魔法を使ってくる。
天火日はどんどん熱光線を発射してくる。俺はそれを辛くも躱す。
「どうする…」
いや待て。
確か火天は、どんな悪条件も穏やかな晴天に変えると言っていた。
天火日はあの熱光線で俺を射殺す事で、穏やかな晴天に変える気なのだ。
つまり、あの熱光線は攻撃魔法ではなく、正確には穏やかにする魔法なのか?
「つまり…」
どうすりゃいいんだ⁉︎
俺に死ねと?
マジでふざけんな!
今までもヤバかったが、今回も相当だ。
「取り敢えず喰らえ、黄天火!」
俺は鬼火魔法を発動させ、天火日に向かって放った。黄天火は、天火日に命中し焼き貫いた。
しかし、天火日は一瞬で元の状態へと戻った。火の精霊だからか火が効きにくい。おまけに実体もないっぽいから、すぐに元の形へ戻る。
天火日は熱光線を乱射してきた。俺はそれを躱す事しか出来ない。
「くそ! 『緑』は前に火天に怒られたし…」
「くっ!」
「『白』は…無意味だろうな」
「なら…」
「あれしか…」
「疲れるんだよな、あれ…」
俺は立ち止まると、天火日に手を翳した。
「死ぬまで燃え尽きろ! 『黒天火』!」
黒い火を放った。正確には放ち続けてる状態だ。
天火日は苦しむ?様に燃え消えようとするが、その瞬間から再生し出す。
それを永遠繰り返す。燃えては再生、燃えては再生を。
「黒天火は『虚無』の火。お前が無くなるまで燃え続けるぞ。根気勝負だ」
今の俺にはこれしか思いつかなかった。天火日が消えるまで燃やすしか出来ない。後はあいつの再生力が尽きるのが先か、俺の魔力が尽きるのが先かだ。
何分経っただろう。
ずっとこの状態だ。あいつも相当、根気強い。いや、待て…本当にアイツはこれで消えるのか?
あいつの再生力が尽きると俺が勝手に思っただけで、何の根拠もなかった。
急に不安になってきた。
「マジかよ…黒天火は最強の鬼火だぞ…」
ヤバい…俺の魔力の方が…先に…
すると突然、天火日は姿を消した。黒天火も強制的に切られた。
「やれやれ、これじゃあ天火日の存在まで消えちゃうだろ?」
突如、天火日がいた場所に火天が現れた。
「今回は許してあげるけど、今度から『黒』も禁止だよ。これは遊びなんだから、全く」
緑に続いて黒も禁止された。
「はぁ、はぁ、はぁ…遊びなら対等な条件の相手を用意しろよ。じゃないと遊びにならないだろ?」
俺は疲れてその場に座り込んだ。おまけに愚痴ってしまった。
怒られるか?
「うーん、君にはまだ『天火日』は早かったかな? ちゃんと考えれば今の君でも倒す方法はあったのに」
マジかよ。
あんな黄天火並みの速さで貫いてくる熱光線の乱射を避けながらどう倒せと?
実体が無ければ、再生力も半端じゃない。黒天火で燃やし尽くす以外にどう倒せと?
「…おや? ふむふむ、うーん、まぁ、仕方ないか」
「どうした?」
「えっとねー、今回は僕が中断させたから『天火日』とは契約出来ないけど、『火相』って精霊が君の力になりたいんだって」
「ひあい?」
「うん。『火相』はねー、火を司る鑑定魔法の精霊だよ。これがあれば今までとは見える景色が変わるよ。もしかしたら天火日の…おっと、これ以上は余計だったね」
弱点があったって言うのか?
火相を使いこなせればそれも見えてくるってわけか。
「それじゃあ、また遊ぼうね」
「おう。今回は引き分けみたいなもんだから、次は勝つって天火日に伝えといてくれ」
「ふふ。ランダムだから次も天火日とは限らないよ。まぁ火相は使いこなせれば相当有利だから頑張ってね」
「おう」
やれやれ、スロッカスの沼地に行く前に死ぬところだった。
結局、天火日とは契約出来なかった。天候を変える魔法…ヤバすぎるだろ。
まぁ棚ぼたとは言え、『火相』という補助魔法としては最高の精霊と契約出来ただけ良しとしよう。
おまけに『天火日』という精霊がいる事も知れた。
さてと…準備もほぼ出来たし、火相の魔法を試して、数日休んだら行くか。
アルムド帝国との国境、臭くてじめじめした最悪な地域の1つ、スロッカスの沼地へ。
ほんと…やる気が出ない。




