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妖精計画〜鬼の子と桃の花〜  作者: 洗井 熊
第1章 Sランク
10/24

10.大英雄


 アルベルト・ザガード。

 冒険者ランクは、S Sランク。

 あの激昂のザムドさんと同じ、王国最強クラン『十六夜天魔』に所属している英雄中の英雄。

 てか、この人こそが最強だ。


 数年前、俺がギルドで冒険者登録した日、試験官を務めたのがこの人だ。本当に運が悪かった。なんでも、偶然に偶然が重なって、あの時試験官を務められたのがこの人しかいなかったのだ。


 ギルドとしても10才程度のガキに冒険者が務まるとは思っていなかったのだが、意に反して俺はあのアルベルトさんに一撃喰らわせてしまったのだ。

 勿論、鬼火は使ってないしその後はアルベルトさんにボコボコにされた。だが、噂が広まるのは早い。良い意味でも悪い意味でも。沢山面倒事に巻き込まれた。

 この件があって俺は注目されないよう最近までコソコソと頑張ってきたのだ。



「今回の依頼は随分長かったですね」

「まあな。遥か南西のザザンカ大砂漠で黄金蠍の討伐とアラブヒナ王国にゲートの設置だ」


 ザザンカ大砂漠か。

 南にあるドラッセン渓谷を抜けると、広大なミテト大森林が広がっている。その大森林を抜けた先にあるのがザザンカ大砂漠だ。

 行くだけで何ヶ月もかかる。

 そのザザンカ大砂漠の西の方にあるとされる『オアシス』アラブヒナ王国にゲートを設置出来ればどれだけ楽になるか分からない。

 この人が成した偉業は挙げればキリがない。



「あそこの王様との交渉は中々難儀したが取り敢えずゲートの設置は許可してもらえたぜ」

「凄いですね」


「その代わりの黄金蠍の討伐だ。あれ一匹で億はする。タダで何匹も狩らされたぜ」

「マジっすか」


 黄金蠍の猛毒は毒竜の比じゃない。黄金蠍の毒針は一瞬で相手を絶命させる。

 おまけに外殻は全て黄金で出来ている。黄金蠍は討伐難易度が高い分、討伐出来れば一瞬で大金持ちだ。

 しかし、億もするとは思わなかった。ザザンカ大砂漠にしか生息していないからそこまでの情報はなかった。



「なんだ鬼髪、金が欲しいのか?」

「そうですね、その為にSランクになろうと思ってるので」


 アルベルトさんは一瞬キョトンとした顔をすると、豪快に笑い出した。



「案外俗物的じゃねーか鬼髪」

「自分の家が買いたいんで」


「ああ、あのクソ広い土地か。土地だけ買ってどうする気かと思ってたが…」

「まぁ夢の1つなんで…」


 アルベルトさんは俺の肩に手を乗せると、優しい眼差しで俺を見つめた。それはまるで父親が子供の成長を感じたかの様な、そんな眼差しだった。



「Sランク試験、受けるのか?」

「いえ、あと竜種一頭狩ったらなれそうなんで…」


「一人で五竜種討伐による特別Sランク『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)』か」

「はい、今度毒竜倒したらなれるみたいなんで」


「スロッカスの沼地に行くのか?」

「そのつもりです」


 アルベルトさんは一瞬だけ周りを見ると、俺の耳元で小さく囁いた。



「アルムド帝国の動きが怪しい、行くなら気をつける事だ」

「……うす」


 俺も小さく頷いた。東にあるスロッカスの沼地を抜けるとそこはもう帝国の領域だ。

 本当になにが起こるか分からない。


 少しだけアルベルトさんと談笑したが、アルベルトさんは十六夜天魔の本拠地に顔を出すそうで、そのまま別れた。

 アルベルトさんの周りには常に人だかりが出来ている。


 俺は遠くに写るアルベルトさんの背中をチラリと見て、ドワーフ2人の元へ向かった。





 街外れにある、とある工房。『十剣工房(じゅっけんこうぼう)』。ドラッセン渓谷で出会ったドワーフ2人の工房で、聞けば王都で5本の指に入る名工らしい。



「親方いるかい?」

「ああ、いるぜ。って、アンタかい…」


 あの時の男性ドワーフ。年齢は今年で150歳らしい。人間の3倍くらいの寿命らしいので、人間にしたらまだ50歳程度らしい。


 お店にはあの時いたドワーフの女の子と、他にもドワーフの女の子が2人。計3人の女の子がいる。

 あの時の子はペコリとお辞儀をすると、そのまま作業に戻っていった。俺に会っても反応するなと別れる際に念押ししといたのだ。


 女の子ばかりだ。親方はハーレムを作っていた。



「バカ言え。コイツらはみな、物好きな弟子供だ。もっとデカくて有名な工房に弟子入りすればいいものを、なんだってこんな辺鄙なジジイのとこなんかに…」


 聞こえてたみたいだ。まぁ3人とも真面目そうに働いてる。

 剣を打ってる者や、素材を整理している者、剣を研いでる者。

 剣士でない俺が見ても分かる。ここは良い店だ。



「新規の客だけど構わないか?」

「勿論だ。依頼は? 剣か?」


 俺は愛剣『火鬼丸』を親方へ見せた。親方はじっくりと俺の剣を品定めしている。



「銘は?」

「火鬼丸」


「打ったのは?」

「『白錬(はくれん)』のシーラ婆」


「やはりか。数年前に引退したくせに、まだこんな剣が打てるんか」



 火鬼丸は、俺がどうしても剣が欲しくて打ってもらった剣だ。魔法を使う俺には基本的に無縁だが、どうしても腰に下げたくて打ってもらったのだ。

 当時の俺は有名な鍛治士なんて知らなかったから、『白錬工房』に行って暇そうにしてた婆さんにお願いしたんだが、まさかそれが王都一、二の鍛治師『シーラ婆』とは思わなかった。


 あの時、確かに工房の時が一瞬止まった。


 なんせ当時シーラ婆は半分引退しており、若手育成に力を注いでいて、決してあの時も暇してた訳ではないのだ。

 それをそこらの若造が、最高位の鍛治師に剣を打ってくれと簡単にお願いしたんじゃ、若手鍛治士たちは気が気じゃなかっただろう。



「わし以上に気難しいあの婆さんがよく打ってくれたもんじゃ」

「まぁ色々とあって…」


 ほんと色々あった。若手鍛治士たちに取り囲まれるわ、腕試しに素材を取って来させられるわ、シーラ婆に気に入られたり、と。

 本当に色々あった。



「なぜ白錬工房に持っていかん?」

「その剣を婆さん以外に研いで欲しくない」


「……冒険者と同じで鍛治士界隈も絶賛育成期間中じゃ。あと数十年もすれば名工と呼ばれる者たちで王都も活気付くわい」

「婆さんが完全に引退したからな。暫くは親方に研いでもらうよ」


 なんとなくだが、俺は親方を気に入ってる。この工房の雰囲気も好きだ。

 今の白錬工房は婆さんがいないからあまり好きじゃない。

 それに親方も婆さんに負けないくらいの名工、『十剣のグリオラ』と呼ばれる程の鍛治師だ。



「わしで、いいのか?」


 その問いには若干の困惑が見てとれた。恐らく魔笛の件があり、俺の事を警戒しているのだろう。



「ああ、頼む」


 この剣に関して言えば、魔笛の件とは全く関係ない。俺は剣士でもなければ、研ぎ師でもない。専門家に任せないと、逆に剣が可哀想だ。

まぁあまり使わない使い手に飾りとして持たれてるだけで充分に可哀想な剣だが。



「了解だ」


 親方は快く引き受けてくれた。

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