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008_名誉と不名誉

すみません、今回も5000文字を少し超えました。

でも切捨てなら5000文字ですから、もう5000文字でいいですね。

「お前ら・・・どんだけ暇なんだよ?」


発言を求められての第一声、自然に出た言葉がコレ。


他にも言いたいことは色々あるけど・・・先ずコレな。

相手は生徒会会長の鹿原先輩と生徒会の面々。 もち、伊藤もな。

そんでここは生徒会室。 生徒会定例集会に俺は呼び出されていた。


「蒼、抑えろ」 一緒に呼び出された昂輝の第一声はコレな。

今まで二人して・・・実に下らない話を聞かされていたんだわ。

マジでキレそうになる。 俺が。 昂輝は冷静。 他人事と割り切ってやがる。


俺だって他人事だと割り切りたいが、糞ムカつくことにそれが出来ない。

当事者だから。 二重の意味で。 だから話を聞く義務がある・・・あるのか?


・・・・・・・・・


「どうする? まだ茶番に付き合うか?」


昂輝が聞いてくる。 こいつも少しはキレてるのか? なかなかいい煽りだ。

・・・鹿原先輩、昂輝に睨まれてちょっとビビッてやんの。


仕方ないよな、昂輝って強圧系のイケメンだし。190cm、100kgの筋肉戦士だし。

164cm、53kgの俺とは迫力が違うしね。・・・せめて170cm、65kgは欲しいわ。

伊藤は180とちょいかな? 182cmくらい? 体重は70kgちょいかな?

伊藤より少し背の低い・・・風紀委員だったかな? 85?いや、90kgくらいか?

確実に格闘技経験者だな。 昂輝なら勝てると思うが、俺には荷が重いかも?

・・・しっかし、あの制服の下は絶対に筋肉の塊だぞ。 ちょっと羨ましい。


・・・・・・・・・


て、俺は何を考えてるんだ? 筋肉に見惚れている場合じゃないだろ?


「昂輝はもう部活に行けば? こんな下らない話に付き合う必要はないから」


しっかりと、言いたいことを云わせて貰わないとね。

相手が鹿原先輩だろうが、伊藤だろうが、いい筋肉だろうが遠慮する気はない!




   ◇ ◇ ◇




「・・・いったい何なのよ? この部屋は?」

「映画研修部の部室ですよ」


そう、俺たちは会談場所を生徒会室から映研部室に移動した。


昂輝と俺の怒りに・・・いや多分、昂輝の怒りに震え上がってポンコツ化した他

の生徒会メンバーを外し、鹿原先輩と伊藤と筋肉の三人を俺たちのホームに招待

したというわけだ。 こっちの方が圧倒的に快適だし。 お茶もお菓子もあるし。


そして何より、いきなり俺を不快にしてくれたアレが無い。 それが一番。

あと、身内だけならざっくばらんに、気軽に本音で語り合えるしね。

筋肉? こいつはいい筋肉してるから、他人から名誉身内に昇格な。 俺の独断。


で、その筋肉と鹿原先輩だが、初めて入った映研部室に驚いている。

豪華さでは生徒会室に負けるが、快適性では圧倒的にこちらが優れているからだ。


「これ、何枚くらいあるんだ?」

「だいたい500タイトルくらいかなぁ? キネ旬ベスト100はコンプしてますよ」


筋肉が棚に並べられた円盤群に驚いているが・・・驚く程の数かな?

俺のコレクションの1/4くらいだけど。


「これ全部観たの?」 「残念ながら・・・2/3くらいしか観れてません」


鹿原先輩の問いにも素直に答える。 でも2/3は結構いい数字だ。

自宅に在るコレクションなんかは1/5も観れていない。 それが円盤収集家。

観たい映画や話題作は直ぐに買う。 それはいいのだが観る時間が足りない。

夜更かしは姉ちゃんに禁止されているし、自分でも不摂生をする気はないし。


「これは?・・・映画用の衣装なのか?」 「・・・そうかも知れません」


沢瀬がネットオークションで落札したウェディングドレスに目を見張る筋肉。

無理もない・・・俺だって驚いたわ。 【幼馴染】にそんなシーンは無かったぞ。

何時、何処で、誰が着ることになるのか? 気になって仕方がない今日この頃。


ところで、何で俺が鹿原先輩と筋肉相手に和やかムードなのかというと・・・

伊藤待ちだ。 正しくは伊藤と昂輝待ち。 伊藤にはアレ絡みの罰としてケーキを

買いに行かせたのだが、昂輝は俺はハンバーガーがいいとか言って買いに行った。


俺の親友がフリーダムな件・・・俺の周りってこんな奴ばっかか? 伊藤以外は?


「蒼君、ティーカップを用意して貰えませんか」 「わかった」


そして沢瀬はお茶を用意している・・・クッキーの生地を用意しながら。

クッキーを焼くのは明朝らしいが、生地を一晩寝かせた方が美味しいとのこと。

電子レンジに加え、プロ仕様のオーブン迄ある映研部室には大型冷蔵庫も完備。


「卓上コンロに土鍋にすき焼き鍋にジンギスカン鍋迄あるって・・・」


あぁ、うん、多分、普通の映画研究部の部室には無いモノかも?

でも全部私物だから。 部費の流用なんかしてないから無問題。


ちなみに鍋コレクターは田辺な。 ナベ繋がりってわけじゃなくて、

単に鍋料理が好きなだけ。 家じゃ鍋なんか食べられないらしいから。

土曜日の昼なんか、しょっちゅうみんなで鍋を突いているらしい。


土曜は通学禁止な俺としちゃあ、ちょっと羨ましいものがある。


「お前ら、好き放題にやり過ぎだろ?」


筋肉の適切極まるツッコミには返す言葉も無い。 思いっきり自覚があるから。



   ◇ ◇ ◇



「ごめん、まさかあれだけ美倉の機嫌を損ねるとは思っていなかった」


伊藤と昂輝が戻ってきてお茶会、開始一番に伊藤からの謝罪があった。


「蒼君、やっぱりオコでしたか? 何があったんですか?」


「生徒会室に俺の肖像画が掛けられていた。 とても詰まらん話を聞かされた。

 その詰まらん話に無関係な昂輝を巻き込んだ。 以上の三点。 伊藤の謝罪を

 生徒会からのものとしてもいいが、受け入れるかどうかは話し合い次第だな」


沢瀬に答えてから、伊藤チョイスのチョコレートケーキを食べる。

ビターチョコにオレンジピールが沢山、甘いクリームにジャムの酸味、旨いな。


「肖像画の件は俺たちに非があることを認めるが・・・詰まらん話とは何だ⁉

 それにこれはお前だけの問題じゃない! 帝山学園生徒全体の問題だ!!」


筋肉が沢瀬を無視して俺にキレる。 ガキかよ? こいつ、本当に三年生か?

周りをみろよ。 鹿原先輩も伊藤も、沢瀬の戸惑いにちゃんと気付いてるぞ。


「蒼も坂口先輩も感情的になり過ぎだ。 これじゃ話にならんから、

 以降は俺が取り仕切る。 不満がある奴は居るか?」


「ちょっと待て! 何でお前が仕切るんだよ⁉」 「あんたじゃ話にならんからだ」


ほぉ、やっぱり昂輝もちょいギレしてたか⁉ 昂輝が仕切るんなら俺は文句無い。

・・・多分伊藤も。 鹿原先輩はどうだ? 昂輝の人柄は解かっている筈だが?


「解かりました、藤堂君にお任せします」

「ちょっと会長、こいつは美倉の「藤堂君はこの場では誰よりも公正な人物です」


「そしてこの件に関しては、きっと私たちの味方になってくれる人物です」


流石、鹿原先輩だ。 昂輝をよく見ている。 しっかりと理解している。


俺だって端から四面楚歌は覚悟の上。 昂輝が生徒会側に立つことは予想済み。

それでも生徒会から強圧的に指示されるのと、昂輝に諭されるのとでは違うのだ。

その辺りの心の機微が理解出来たら・・・筋肉よ、貴様は筋肉先輩に昇格だ。



「それでは先ず、坂口先輩が全く理解出来ていない処から始める。

 蒼、帝山学園女王の名誉とお前が今食べているケーキ、重要なのはどっちだ?」


「そんなもん、ケーキに決まってるだろ」 「その理由は?」


「前者には全く価値を感じない。 学校そのものは通学が楽でいいと思うが。

 そして後者は旨い・・・比較する意味を感じない程に後者が優越している」


昂輝の質問は実に下らん内容だが、真面目に答えることにする。

そしてその、当り前過ぎる返答に、筋肉は驚きの表情を見せている。


こいつ、本気で帝山学園とか女王の称号とかに価値を感じていたのか?


帝山学園なんか歴史こそ長いが、バブル崩壊時に投資で大損して経営破綻した

ポンコツ学校だぞ。 女王なんか試験が首席でミスコン一位に選ばれるという

条件さえ満たせば、男で寝込んでばかりの俺にも与えられるポンコツ称号だぞ。


そんなもん、価値などあるわけなかろうが!



・・・と、俺は思っているが、そうじゃないと考える奴もいる。 価値観なんて

そんなもの、寧ろ後者の方が多いらしい。 そこは沢瀬や五十嵐に散々諭された。

だから与えられた不名誉、女王の称号を叩き返さずにいるのだ。



「蒼も坂口先輩も相手の考えをしっかり理解しろ、なんて無理なことは言わない。

 そんな考えを持っている奴もいる。 そのことが、判っているだけで十分だ」


昂輝の発言に沢瀬以外の全員が頷く。 沢瀬、蚊帳の外ですまん。 後で説明する。



「それで最初の問題、歴代女王の肖像画だが、何で現役生である蒼の肖像画迄

 掛けられていた? 規則では卒業後に掛けられる筈だが? 会長、説明願います」


「私ども生徒会の不始末です。 この件は後程正式な謝罪を考えていますが、

 先ずは経緯を説明します。 先日彼の肖像画が完成し納品されたのですが、

 丁度いい収納場所が見当たらず、大掃除の日まで仮に掛けておこうという話

 になりました。 ですが、美倉君を招聘する時には外しておくべきでした。

 在校生であるのに卒業生扱いをされて、さぞ気分を害されただろうことを

 思えば、美倉君にはお詫びの言葉もありません」


招聘? 礼儀を尽くされた覚え等ありませんけど? 徴集の間違いだろ?


まぁそこはどうでもいいけど。 とにかく、自分の肖像画なんか見たくないの!

解かんないかな? お澄まし顔で花を背負った自分の肖像画が飾られた部屋で、

上座に置かれた飛び切り豪華な席に着かされるって、完全に羞恥プレイじゃん。


「肖像画の件は解かりました。 早急な撤去か、蒼を生徒会室に招かないかを

 後日でいいので選択願います。 あと謝罪ですがケーキが謝罪ということで。

 伊藤、ポケットマネーで買っただろうが、後で代金を生徒会に請求しろ。

 会長もそれで問題ありませんね?」 「OK、問題無いわ」


「次は痴漢問題の件だけど、その前に俺も呼び出された件を片付けようと思う。

 ということで、コレ、バーガーの領収書だけど、生徒会持ちでいいですね?」


「ちゃっかりしてるわね。 いいわよ」


・・・昂輝の奴、貸しの帳消しの為にバーガーを買ったのか? 便乗したのか?

どっちか判らんな。 多分買出し時間に調停案を模索しただろうから後者かな?

さて、最後は一番糞どうでもいい痴漢問題か、マジで興味ないから好きにして。



「最後に蒼の痴漢対策問題だが、これは蒼、お前が悪い」 「何でだよ⁉」

「どうせ面倒だから相手にする気も無かったのだろうが、結果的に触り放題の

 出血大サービスを、帝山学園生徒を代表する女王自らが提供したことになる」

「俺、一応は被害者よ? 悪いのは痴漢でしょ? 俺を責めるのは筋違いでは?」

「帝山学園生徒に対する風評被害の原因に、関係者各位への加害者に成り得る」

「女王自らが痴漢バチ来いビッチなら、平民も同類に視られるということか?」

「そういうことだ」 「いや、それ極論過ぎない?」 「極論だが、面白い」


「真実に近いかどうかじゃない、面白いかどうかが全て。 それが風評の怖さだ」


「確かにそうだけど、風評被害の可能性なんか気にし出したらキリ無くね?」


「話の腰を折るようで悪いが美倉・・・風評被害なら既に出ている。

 今回の一番の問題点がそこなんだ、ちょっとこれを見てくれ」


そういって筋肉がスマホを見せて来た。 TKネット? 何だコレ?

鳥取県民ネット? 徳島県民ネット? 栃木県民ネット? たこ焼きネット?


「このスマホは美倉を触っていた奴から押収したものだが、TKネットという

 会員限定サイトで、美倉(おまえ)に関する記事が写真付きで公開されている」


ほぉー・・・何々、名門帝山学園に於いて40年ぶりに女王に選出された美倉蒼

はスレンダーで男装好きな才媛である。 特筆すべきはその容姿、芸能界でも類

を見ない程の美貌は女王を超え女神の域に達している。しかもこの超絶美少女は

全くと言えるほど警戒心を持たない無防備状態でまさかの触り放題。完全無抵抗。

自分が何をされているのか解かっていない節すらある箱入り娘の可能性大。

○○電鉄○○駅から○○駅、8:06発の各駅停車〇号車に乗車、絶対のお薦め!!



・・・・・・何これ?  男なのに才媛って、とんでもないデマじゃん。


「このTKネットって?」(沢) 「多分、痴漢ネットだろうな」(昂)


「成程・・・2月くらいから、急に痴漢が増えた気がしていたが、これが原因?」


「2月って?」(沢、鹿、伊) 「4ヶ月も前からか・・・」(昂) 「お前・・・」(筋)


「 「 「 「 「 ちょっとは危機意識を持て (持ちなさい)!!!!! 」 」 」 」 」


何故かフルボッコ状態になった。




「ところで、さっき押収と聞こえたが? 警察には?」


「伝えていない。 痴漢は現行犯でないと駄目だし、現行犯で突き出しても

 根本的な解決は期待出来ないからな。 日本の司法は性犯罪には甘過ぎるから。

 なら、犯人を抱え込んで最大限情報を引き出してから、自首させる方がいい」


「犯人は自首することに納得しているのですか?」(沢)


「奴には警察に突き出されたくなかったら、指示に従えとしか言ってない。 当然

 約束は守る。 最後に自分で出頭するように指示するだけで、突き出しはしない」


成程、ただの脳筋かと思っていたが悪知恵は働くのか。


現行犯限定の痴漢だと後日出頭は無意味だろうけど、TKネットの内通者として

出頭させようというわけか。 それなら協力者扱いになり微罪で済むだろうから

自首もさせ易いだろう。 ・・・意外と侮れないぞ、この筋肉は。



「それで、最大の問題はその返信欄にある。 美倉、覚悟して読め」



返信欄・・・えーと、女王様がこれだけチョロいお嬢様なら、

一般女子も同様にチョロいお嬢様の可能性あるのでは? だと、馬鹿か? こいつ。



「実際に、我が校女子の痴漢被害が僅かに増えている傾向が見られる。

 お前に責任があるわけじゃなし、このサイトが原因であるとも言い切れん。

 それでも、お前には自覚を促す必要がある。 と、お前自身は思わないか?」



う~ん、痴漢なんかどうでもいいじゃんと言える雰囲気では無くなったな。

もう視線がフルボッコ状態よ! 言葉のフルボッコよりキツイわ!!



「すみません、痴漢対策させて貰います」 と、降参するしかなかった。




結局、昂輝に朝20分早起きをお願いして、各駅停車利用に替えて貰った。

痴漢対策で早朝電車利用だった沢瀬も、同じ電車を利用することになった。


何故か沢瀬の一人勝ち。 昂輝の一人負け。 原因は俺。


「すまん、この穴埋めはきっとする」 「要らない、両手に花と思えばいい」


・・・昂輝よ、その科白・・・溜息交じりに言うのは止めて。


沢瀬は棘棘(とげとげ)だけど、俺は棘無いでしょ?


男だから・・・花でもないけど。

観たい映画や話題作は直ぐに買う:油断すると絶版になるから仕方ないのです。

                特にマイナー作品は要注意。


土曜は通学禁止:学校が休みで授業が無いから、学校行事等があれば解禁。

        基本、蒼の身体は多くの休養を必要とすることからの必然。


上座に置かれた飛び切り豪華な席

通称:女王の座、女王或いは王に選ばれた者には生徒代表として生徒会会議で

決められた事項に対する拒否権が与えられが、拒否権の発動条件として当該議会

への参加を義務付けらえており、その際に女王(王)が座る専用席のこと。

通常時は布カバーを掛けられ、たまに上着を掛けられたり、物を置かれたりする。


蒼のオコ理由 :糞どうでもいいことで呼び出され、時間を奪われたから。


昂輝のオコ理由:蒼が女王の称号を心底嫌がっていたのを知っているから。

        それなのに、女王としての自覚とか義務とか云われたから。

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