007_どんな映画に?(後編)
すみません、分割しても5000文字を大きく超えました。
でも分割ポイントを間違ったとは思っていませんし、
三話に分割する内容でもないので、長い後編となってしまいました。
ちなみに前回と今回の執筆時には、少し体調を崩していたのですが、
筋はあるのに言葉が出ない。書いても何かしっくりこないで結構大変、
休み休みの執筆で、時間がかかってしまいました。
プロの作家さんや毎日更新される作家さんって、本当に凄いですね。
体調を崩されるってことが、あまりないのでしょうか?
「ヒロインの名前は仮だけどルナ。 妹役の田辺が瑠香だから。 でもヒロインは
田辺との関係性を主人公に隠す為、ナルと名乗る。 台詞があるのはこの3人
だけなんだけど、舞台が学校内だからクラスの連中にも出演して貰うつもりだ」
「その・・・エキストラが必要なシーンって多いのですか?
基本的な撮影は全て夏休み中でと考えていたのですが?」
伊藤の想定に沢瀬が的確なツッコミを入れる。
撮影の現実性、これが小説や漫画にはない、脚本の難しい処だ。
二学期に入れば、イベントラッシュで伊藤は生徒会から離れられなくなる。
つまり撮影は今から期末試験が始まる迄のわずかな期間、実質6月中のみ。
その間にシナリオ調整やら何やらと、全てを終わらせるのはかなり厳しい。
夏休みにエキストラを集めて撮影することも不可能ではないが・・・
勝手極まる理由で製作する映画の為に、そこまで協力して貰うのは気が引ける。
まぁ伊藤のことだから、田辺みたいに撮影を意識しないことは無いと思うが。
「撮影スケジュールに関しては問題無いと考えている。 多数の生徒が出演する
シーンは通学時間帯の数分と、昼休み一回で撮影可能な程度だから」
成程、その程度なら6月中に撮影可能だろう。 沢瀬も納得したようだ。
田辺は興味が無いのかPCで何かの作業を始めている。 こいつは放置決定だな。
今は田辺よりも伊藤の話に注力すべきだ。
続く質問の無い事を確認してから、伊藤はストーリーを語り始めた。
彼女との出会いは、夏休みが終わった最初の月曜日。
季節外れの転校生渡辺ナル、そのあまりの美少女ぶりにクラス中が騒めいた。
空席だった僕の隣に座った彼女の印象は『天才の手に拠り造られた芸術作品』
それが動いて話すのだ。 その声だけが、彼女を現実だと感じさせてくれる。
・・・・・・・・・
だけど不思議なことに、彼女がクラス中の耳目を集めたのは一日目のみ。
二日目になるとごく普通に周囲に・・・というより背景に溶け込んでいた。
そして誰も彼女を気にしない。 初日からの変貌の中、ある違和感を覚えた。
「転校生? そういや渡辺って転校生だったな。なんか地味過ぎて忘れてた」
違和感の正体はこれ。 あれだけの美貌を地味だと認識されている異常。
そしてそれが僕を除くクラス全員に共通する認識であったこと。有り得ないだろ。
そんなことを彼女に話したら、『省エネですよ』と謎の言葉を囁かれた。
「いろいろと、お願いしちゃってごめんなさいね」
その言葉通り、彼女は僕に多くの質問やお願いをしてきた。
それは校内の案内に始まり、学園七不思議の様な噂話を求めてきたり、学園近辺
のお店情報を聞かれたり、そうかと思うと何故か彼女が知っていたスイーツ店で
一緒にパフェを食べたり。ガイドというよりエスコート、もしくはアシスタント?
それ自体は別に不快というわけではない。 寧ろ彼女との付き合いが深まること
には喜びすら感じているのだが、何故僕だけなのか? という疑問が省エネという
言葉の意味と共に、僕の心の奥底に、まるで澱の様に溜まり続けていった。
そしてついに、もやもやに堪えかねて問い質すことになったのが金曜日の放課後。
『一緒に屋上で夕焼けを眺めて貰えませんか?』というお願いを聞かされた時。
鍵が掛かっていて開かない筈の扉が『大丈夫ですよ』の一言で簡単に開かれた時。
「やはりご迷惑でしたでしょうか?」
「いや、迷惑とかの話じゃなくて、何で僕だけを誘うのかなと?」
「それは・・・お友達を一人に絞る必要があったから・・・です」
「・・・そこが一番解からないんだけど? ひょっとしてそれも省エネなの?」
「・・・はい、その通りです。 ですから伊藤さんだけをお誘いしました」
「う~ん・・・よくは解からないけど、それが必要なんだよね?
それじゃあ、鍵は? どうやって扉の鍵を開けたの?」
省エネ=人見知りだとしても、鍵の件だけは納得出来ない。
誰も扉に触れていないのに、ガチャガチャという音がして勝手に鍵が開いたのだ。
「えと、あれです。 スキル! そう、スキルです。
私は盗賊スキルを持っているから、鍵開けが得意なんです」
いきなりファンタジーがきた。 しかしあれは・・・
「鍵開けというよりは、鍵が勝手に開いたように見えたんだけど?」
「それもスキルです! そういったスキルなんです」
全く誤魔化せていないし、彼女自身その自覚があるようで目が泳いでいる。
僕が無言だと、彼女はあわあわと挙動不審になり、遂には涙目で上目遣い。
彼女に自覚があるのか無いのか、この上目遣いの破壊力には僕は抗えない。
「・・・いつか聞かせてね?」 「はい、話せる時が来ましたら・・・」
彼女が安堵の表情を見せることはなく、そう言っては俯いてしまった。
「・・・無理なら、話さなくてもいいけど」 「・・・ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
まだ外は明るかった。 当然だ。 日没まで2時間以上ある。
「校舎の屋上から夕焼けを見ることが夢だったんです」
「それはまたお手軽な・・・じゃないか、校舎の屋上って基本立ち入り禁止だし」
「そうなんですね・・・知りませんでした」
「まぁ、漫画やアニメなんかだと弁当食べたり昼寝したりとしたい放題だからね」
「でも、これが現実なんですね」 「うん、基本立ち入り禁止になる筈だ」
目の前の現実、校舎の屋上には太陽光発電パネルが所狭しと並べられていた。
「夢もロマンも遊び心もありませんね」
不満げに呟く渡辺さんの言葉には同意しかなかった。
人生にはきっと、実用性以外の何かも必要だろうに。
・・・・・・・・・
所狭しと並べられた太陽光発電パネルとはいえ、足の踏み場もないわけではない。
定期的なメンテナンスを必要とするから、その為のスペースや通路ならある。
特にフェンス沿いの外枠部の通路は十分な巾があり、そこで夕焼けを待った。
正直言って暑いと思ったが、それが彼女の希望だったから。
「私の夢には続きがあるの」
綺麗な夕焼けを眺めながら、彼女はそう切りだした。
「このまま夜の空を、一面に広がる星々を見てみたい。
そして朝を待って、日の出を見るのが夢なんです」
とんでもないことを言いだした。・・・いや、わりとこんな娘だったな。
彼女は大和撫子然とした容貌とはうらはらに、かなりアクティブなのだ。
「徹夜するの?」 「したいです・・・それが可能なら」 「そうか」
局所天気予報を確認するが問題は無さそうだ。
問題が有るとしたら・・・飲食物の補給。
「購買は閉まっているから、近くのコンビニに行こうか?」 「はい!」
誰にも見つからない様に注意して買い出しを行い、人目を避けて戻って来る。
『ちょっとドキドキしますね』 そんなちょっとした冒険行を二人で楽しんだ。
◇ ◇ ◇
「あまり星は見えないのですね」 「仕方ないよ、街中だからね」
街中では光害により暗い星が見えなくなる。 街が明る過ぎるのだ。
見えるのは月と一等星くらい、肉眼で見える星が約8600個もある中でたった
21個しかない一等星・・・こんな夜空からは星座なんて生まれなかっただろう。
「天の川が観たかったのですが・・・」
等と無茶なことを呟いている。
天の川を観たければ山に登るか、かなりの田舎か、少なくとも市内じゃ無理だ。
そう伝えることが、何故か残酷なことのように思えて
「でも月は綺麗だよ」 と誤魔化した。
「そうですね」 と応える彼女と目が合ったのだが、その目があまりに澄んでいて
思わず目を逸らしそうになった。 照れと、僅かばかりの怖さを感じたから。
そう、怖さ・・・このとき既に僕は、彼女との別れを予感していたのだろう。
暑くも無く寒くも無く、夜の屋上は思っていた以上に快適だった。
「宇宙人って信じますか?」 という彼女の言葉から始まった他愛もない会話。
時間潰しを目的とした雑談だったが、終には魔法なんて言葉が飛び出してきた。
「私、魔法が使えるんですよ・・・どんな魔法だと思いますか?」
魔法が使えるという言葉には流石に驚いた。
「魔法って・・・ひょっとして、屋上の鍵を開けたのが魔法なの?」
「いえ、それはスキルです。 魔法はもっと別な・・・夢を凝縮する魔法です」
「夢を凝縮? 夢って寝ている時にみる夢のこと?」
「そうです。 1000日分の夢をぎゅうっと凝縮して、5日分に纏める魔法です」
「夢を凝縮するとどうなるの?」
「出来ないことが、出来なかったことが出来るようになります。
200倍に凝縮した分、200倍楽しくて幸せな夢になります」
「それは・・・素晴らしい事なのかな?」 「はい、素晴らしい事です!」
確かに、出来なかったことが出来るということは素晴らしいと思う。
でも残された995日は夢のない・・・少し味気ない夜になるのではないか?
僕はそんな風に考えたが、彼女はそうではないようだ。
「だって、今私が観ているのは本物の月なんですよ」
「本物の月?」 「そうです。本物のお月さまです」
そうして二人で月を見上げ
「お団子買ってきたらよかったですね」「ちょっと待ってて、今から買って来る」
コンビニに急行した。
◇ ◇ ◇
団子を食べながら月を愛で、とりとめのない雑談を重ね、少しばかり欠伸をして、
・・・そんなことを繰り返しているうちに夜も明け、空が白み始めた。
「明るくなって来ましたね」 「そうだね、東側に行こうか?」
東の方角、山の稜線から太陽が昇って来るから・・・そう言おうとしたけれど、
言えなかった。 さっきまで隣に座っていた筈の彼女が居なくなっていたから。
さっき迄言葉を交わしていた彼女が、屋上から完全に消えてしまっていたから。
◇ ◇ ◇
月曜日、彼女は学校に来なかった。
それどころか、クラスの誰もが彼女のことを忘れてしまっていた。
クラス名簿にも彼女の名前が無かった。
まるで渡辺ナルという少女等、最初から存在していなかったかのように。
翌火曜日、昨日学校を休んだ後輩の田辺が部室に顔を出してきた。
先週の土曜日にお姉さんが亡くなったのだという。
「そうか、それは残念だったな。 でもお前、お姉さんが居たんだな?」
初耳だったが、あまり家族のことを話さない奴だったから知らなくても
不思議では無かった。 でも何故かそのお姉さんのことが気になった。
・・・彼女が、田辺のことを何故か気にしていたように。
渡辺ナルは僕の部活の後輩でしかない田辺のことを、やけに気にしていた。
田辺が虐められていないか? とか、授業を真面目に受けているか? とか。
僕の知り様の無いこと迄、田辺に関する様々なことを僕に聞いてきた。
渡辺ナルと田辺瑠香は、何らかの繋がりがあると僕は考えていた。
それを渡辺から聞けなくなった今、田辺に聞いてみようと考えた。
「田辺のお姉さんってどんな人だったの? 写真とかってある?」
「えっ⁉ どうして?」 「出来れば・・・見せて欲しいんだ」
田辺が躊躇いながら見せてくれたスマホ・・・そこに写っていたのは
予想通りの人物・・・中学卒業時の渡辺ナルだった。
「ルナ姉は3年前の春に事故に遭って、その時からずっと眠っていたんです」
「何をやっても目覚める気配がなくて・・・どうしようもなくなっていて、
お父さんもそろそろ覚悟すべき時だと言っては、お母さんと喧嘩して・・・」
「どんどん家の中の雰囲気が悪くなっていって・・・そんな時、先週の日曜日、
ルナ姉の夢を見たんです。『もう大丈夫だよ』って言ってくれるルナ姉の夢を」
「月曜日に見舞いに行ったら・・・ルナ姉は笑っていたんです。
眠ったままでしたが、少しだけ、優しい顔になっていたんです」
「火曜日は月曜日よりもはっきりと解かる程、看護師さんでも変化に気付くほど
はっきりと笑顔になって眠っていたんです」
「水曜日、木曜日と日を重ねる度に明るく表情を変えていって、そのうちに目を
覚ますんじゃないかと・・・本気でそう思えるようになって来てたんです」
「でも土曜日の明け方に、病院から連絡があって・・・」
「・・・そうか、ごめん、辛い話をさせてしまったね。
最後に一つだけ聞かせて貰っていいかな? お姉さんは最後も笑っていた?」
「 ・・・はい。 本当に安らかな、幸せそうな笑顔でした 」
渡辺ナル、いや田辺ルナは笑顔で最後を迎えた・・・そして、その笑顔の意味。
自分を原因とする家族崩壊の発生を、寸前に食い止めることが出来た為なのか?
それとも、たったの一週間だけとはいえ、通えなかった高校に通えた為なのか?
或いは、その両方を叶えることが出来たが為なのか?
1000日分の夢をぎゅうっと凝縮した5日分の夢。
残り1000日分の命と引き換えに得た一週間の学生生活。
誰もが幸せになれるよう、考えた結果が自殺にも似た魔法の行使。
『 ・・・はい。 本当に安らかな、幸せそうな笑顔でした 』
僕はその笑顔の理由を想い、涙が止まらなくなった。
「これが僕の脚本、屋上のシーンがメインで上映時間20分の内12~13分を
二人だけの会話にして、田辺との部室での会話は2~3分程度で考えている」
・・・成程、よく考えているな。 科白があり、演技力を必要とするシーンは
全部夏休み中に撮影可能なものばかりだし、お話そのものも20分という制限の
なかで良く仕上がっていると思う。 が、最大の難点は・・・
「クスン・・・蒼君・じゃなくて、ナルさんは死んじゃうんですね」
沢瀬がこういった話・・・主人公死んじゃう系には滅法弱いということだ。
・・・多分、撮影にならないのではなかろうか?
「ええっ⁉ 沢瀬、あれっ⁉ こんな話は駄目だった?」
あぁ、うん、伊藤、お前のせいじゃないから。 気にするな。
でも残念。 お前の脚本もおそらくは、没・確定だ。
一旦水入り・・・ならぬお茶休憩となった後は俺の作品を・・・
と思っていたが、何故か俺は後回しとなった。
「蒼君の作品は最後にしましょう」 「それが賢明ですね」 「?」
俺も伊藤同様に、沢瀬と田辺が何を言っているのか解からない。
ともあれ俺は最後、その前に沢瀬作品の発表となった。
「タイトルは【幼馴染】物心が付いた頃からの友達である少女二人と、小学校から
一緒になった少年の三人が織りなす青春模様、具体的には三角関係が主題です」
沢瀬の作品が具体的過ぎる件・・・まんま俺と沢瀬と昂輝じゃん。
・・・俺を女と仮定すれば。 そして沢瀬は俺を完全に女扱いしている。
俺の前でも平気で服を脱ぐし、『一緒にお風呂入りませんか?』とか言ってくる。
・・・ちな、これ、去年の話な。
そん時は昂輝も居て、昂輝に「一緒に入るか?」って聞いたら全力で拒否られた。
男同士なのに。 ちなみに姉ちゃんにも沢瀬にも怒られたぞ。 男同士なのに。
・・・田辺も伊藤も、現実との類似性には気付いていないようだけど。
多分二人は、俺と沢瀬と昂輝の三人が小学校からの付き合いだと思っている。
俺も沢瀬も、昂輝ひとりを別枠扱いにしたことなんか無い筈だから。
そんな私情は置いといて、脚本の話だ。
演者は俺と伊藤と田辺の三人。 三人しかいないから他の選択肢がない。
昂輝の五十嵐もワンポイントリリーフが限界で、沢瀬はカメラマン兼監督。
カメラマンも監督も俺だって出来るのだが、沢瀬は出演を嫌がるから。
とにかく目立つことや、人前に出ることを嫌がる陰キャ気質な女王様。
それが沢瀬。 陽キャな風来坊五十嵐とは合わなそうだが不思議と仲良し。
人見知りするのに、姉ちゃんとは平気で喧嘩する沢瀬。
人見知りしないのに、姉ちゃんが苦手で怖がる五十嵐。
・・・女ってホント、よく解からんわ。
話を戻すが沢瀬を演じるのが俺で、俺を演じるのは田辺。 何でかな?
俺って沢瀬に、田辺みたいな自由気儘を極めたお子様と思われているのか?
とか考えたりもしたが・・・違った。 田辺に沢瀬役は無理過ぎるだけだ。
「高校に入って初めの半年くらいは三人仲良しの状態が続いていたのだけど、
そのうちに外の声に影響され始める田辺ちゃんと伊藤君、田辺ちゃんは周り
からカップル扱いをされて伊藤君を意識し始める。 伊藤君は他の人からの
告白が煩わしくなって、同じ付き合うなら田辺ちゃんの方がいいと考える」
いや、違うぞ、沢瀬、俺も昂輝もそういった意識なんかはお互い持ってない。
単に趣味が合う友達だ。 それに俺も昂輝も周囲の声なんか気にもしないし。
「そうして田辺ちゃんと伊藤君は、正式に付き合い始めるのだけれど・・・
お互いの感情が熟成されるのを待たなかった、即席のカップルだから形ばかり
を追いかけることになり、付き合う程に二人共疲れを覚えていくことになるの」
・・・俺と昂輝が正式に付き合うことになったら、即席だからお互いに疲れる?
そういった忠告? なわけないよな? 沢瀬の言いたいことがさっぱり解からん。
( クス・・・美倉の恋愛音痴ぶりは相変わらずだねぇ )
( はあぁ・・・ぽかーんとしている蒼君可愛い♡ )
[ 田辺は蒼が女性役という時点で興味を失っている ]
「田辺ちゃんも伊藤君も、二人共頑張っているのだけれど、空回り気味のデート。
お互いに好きな相手同士の筈なのに、全然楽しいと思えないデートの帰り道。
伊藤君と別れた後に、ほっとしている自分に驚く田辺ちゃん。
『 私、何で一人になって安堵しているの? 伊藤君と一緒が嫌なの? 』
そんなことを考えたら止まらなくなった田辺ちゃんが、頼ったのはもう一人の
幼馴染である蒼ちゃん。 でも蒼ちゃんでも話を聞くだけでは解からないものが
あるの。 それで悩んだ結果『じゃあ、今度は私たちでデートしましょう』と」
えっ⁉ 何その怒涛の展開は? デートってそんなものなの? 総当たり戦?
あー、いや、詰まらないと感じているデートを繰り返すのも無意味だろうけど?
・・・違う! そもそもが詰まらないデートを企画している時点で間違っている。
先ずお互いの希望を述べあい、しっかりと打ち合わせを行って双方が納得出来る
妥協点を導き出す! それが在るべきデートのプランニングだな!
「 蒼君・・・ 」 「 美倉・・・ 」 「 蒼先輩・・・ 」
「 「 「 それはもう、デートとはいわないから!!! 」 」 」
・・・そうか? でも、そうした方が良くね?
「蒼君の蒼君ぶりで、少し話が逸れちゃいましたね。
それで話は、蒼ちゃんと田辺ちゃんのデートの話になるのだけれど・・・
これがもう、二人共にとても楽しめたの」
「俺の俺ぶりって何よ? そんで楽しめたデートって何をやったの?」
「美倉・・・その質問はおかしいと理解した方がいい」
「そうですよ。 先輩は解からないのですか? 本当に好きな者同士なら・・・
何をやっても楽しめる。 一緒に居るだけで幸せな気分になれるものなのです」
何で俺が全方位から砲撃を受けなきゃならんのだ?
しかも男同士のエロ行為にしか関心がない田辺に迄、えらい謂われようだし。
沢瀬は沢瀬で俺の頭を撫でるのを止めなさい。 早よ話の続きを。
「続きといっても、後は何度もデートして、それがいつも楽しくて、そのうちに
お互いの気持ちに気付いて、ハッピーエンドを迎えて終わりになります」
「伊藤は何処に行ったの?」 「デートを楽しめなかった時点で蚊帳の外です」
伊藤も田辺も首肯している。 何か俺だけ蚊帳の外。
結局あれか? 男女の恋愛は微妙で百合最高ってこと?
方向違いの田辺砲炸裂ってわけ? もうこうなったら俺の作品を推すしか・・・
「 「 「 何か怖い (です)!!! 」 」 」
ということで駄目でした。 結局作るのは【幼馴染】に決定。
内容的に尺に不安が残るが、20分くらいならなんとでも伸ばせるだろ。
・・・しかし、ゾンビが主人公というだけでホラー扱いされるとは・・・
基本日常系のほんわかストーリーなのに。 ゾンビというだけで怖いって。
・・・何か納得いかない。
もっと納得いかないNG理由は俺が出演しないから・・・って何よ、それ⁉
何なの⁉ また、形を変えた俺PVを作ろうっての⁉ そんなの需要有るの?
「美倉・・・ちょっとこれ見て、昨年度のアンケート結果」
「・・・・・・需要・・・むっちゃ有るんだ?」
前話での田辺の脚本に加え、伊藤と沢瀬も脚本も無駄に文字数を消費するだけ
かと考えましたが、三人の思考傾向や性格といったものを表わす為と、沢瀬が
抱える蒼に対する想いと不安を記す意味もあって、だらだらと書き連ねました。
そうでなければ、コンペの結果沢瀬案が採用となった。だけで済むお話でした。
ちなみに沢瀬が主人公を蒼でなく田辺にしたのは、蒼と伊藤が付き合うシーンを
撮りたくなかったから。 ただそれだけの理由です。
茜と沢瀬と田辺は蒼のことが大好きで、五十嵐も蒼のことが結構好き。
美女、美少女に囲まれて、蒼ってもしかして正統派ハーレム主人公か?
いや、伊藤も昂輝も居るから両刀派ハーレム主人公というべきなのか?
そして、完全に蛇足になると判断して省いた蒼の脚本。
タイトルは【元気が一番】、主役の田辺は元気で明るいJKゾンビ。
今朝もトースト咥えて元気に登校中、しかし目の前の信号が青の点滅状態に。
急いで駆け渡ろうとするが、急ぐあまり脚が外れてこけてしまう。 流石ゾンビ。
なんとか両腕と片足を使った匍匐前進で、横断歩道を渡り切ろうとする田辺だが、
信号機とスマホしか見ていないドライバーが、低い姿勢で横断歩道を渡る田辺に
気付かずに車を発進させてしまい、哀れ田辺は頭と胴体泣き別れの状態となる。
それでも『頭が轢かれずに済んでラッキー!』と元気発言な田辺。 通りがかりの
クラスメイトに頭部だけを拾われて無事登校するも、机に置かれた頭だけの状態
では教科書を開くこともノートを取ることも、何も出来ない。 体育の授業は独り
教室に残され、小テストは当然に白紙提出。それでも田辺は挫けない。
『だって、学校は好きだし、クラスのみんなはもっと好きだから!』
・・・でも独り取り残される放課後は寂しい。独りきりの教室で過す夜は寂しい。
『ひとりは寂しいよう・・・早く朝が来ないかな。 みんな登校して来ないかな』
祈る様な呟きと共に、僅かに涙が零れ落ちる。 そんな夜が更け・・・朝が来る。
朝になり、すっかり教室内も明るくなり、外から少しずつざわめきが聞こえ始め、
ようやくに待ちに待った時が来る。クラスメイト、最初の一人が教室内に入る。
『トモちゃん、おっはよぉ! 今日は私が一番だよ!
今日からはずっと、ずうぅぅっと、私が一番だよ!』
その時を待ち侘びていた田辺は、嬉しそうに、元気いっぱいに朝の挨拶を告げる。
そして今日も、田辺の元気いっぱいな一日が始まる。
まぁ、ある意味蒼の思考や性格を表わしているのですが、それは本作を読み進めて
いけば自然に解って頂けるものと思っていますので、今回はばっさり省きました。
・・・本編からは。 でも蒼はどんな脚本を書いたんだ? と気になる方も居るか
と思い、後書き欄に大雑把な粗筋を書き記すことにしました。
ちなみに、青の点滅状態で横断歩道を渡り始めるのは道交法違反なのでご注意を。
【幼馴染】の尺問題は蒼と田辺のイチャイチャシーンの連続で何とかなりました。
というか、超絶美少女二人によるイチャラブ動画でしかないという映画になった
つまりは、沢瀬による沢瀬の為の蒼の映画を撮っただけです。
が、可愛いは正義なので学園祭でも大絶賛されることになる。