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006_どんな映画に?(前編)

今回は内容的に5000文字を大きく超えそうなので、前後編に別けてみました。

作者的には一番きりのいい処で別けたつもりですが、実際どうなんでしょう?

「学園祭迄半年もありません。 どんな映画を撮るかをそろそろ決めておく必要

 があります。 ここに居る全員には、来週火曜日に脚本の提出をお願いします」


沢瀬がそう宣言したのが先週の木曜日。 当日の参加者は沢瀬と半幽霊の三人組。

帝山学園高校映画研究部、事実上のフルメンバーが勢揃いした日のことであった。


ちなみに何で火曜日かというと、月曜日は生徒会の定例集会で伊藤が抜けるから。

それに俺も田辺も、月曜日は出来るだけ本命の部活に参加するようにしているし。

余談だが金曜日も基本的に本命日だったりする。 田辺はそれに土曜日も加わる。



そして今日はその火曜日、4人ともしっかり用意していたのではあるが書式を統一

し忘れていたせいか、提出されたものは揃ってマチマチということになった。


原稿用紙手書きの沢瀬、手書きレポートの伊藤、ワード紙出力の俺に、ノートPC

持参の田辺。 組織力が問われる結果となったが気にしても仕方ない。


ざっと見た処、俺と沢瀬が小説に注記を書き込んだ文字と引出指示だけの構成。

伊藤のものはそれに簡単なイラストが追加されていて、絵コンテに近い仕上がり。

そして田辺のものは、背景こそ寂しいが完全な漫画。 凄いな、こいつの行動力。


とにかく全員欠けることなく、課題を(こな)してきたわけだから優秀といえるだろう。

後はこの中から一つを選び、必要に応じてシナリオを修正、映画撮影開始となる。


多分。 ・・・多分というのにはわけがある。 判らないのだ。 映画作りなんか。

ここに居る全員映画好きだが、あくまでも観るだけ。 作る方には殆ど興味なし。

ただ映研部というサロンを維持する為に、義務的に映画を作ろうとしているだけ。


だから、体裁さえ(つくろ)えればいい、そんな程度の映画を撮ればいいだけなのだ。



・・・だが、そんな程度といっても限度はある。

そして昨年度の映画は、その限度を超えてしまっていた。


適当にも程がある。 手抜きにも程がある。 映画とはとても呼べない代物。

そんな代物を作った反省から、今年は少しマシな映画を作ろうと相成ったのだ。


それ故のシナリオコンペ。 その為の5月(末)スタート。 そして共同作業。


「先ずは一番読み易そうな、田辺の漫画から確認しようか?」


一番読み易そうだが、一番問題がありそうな、一番面倒くさそうなモノから

片付けようか? という俺の考えに、沢瀬も伊藤も異論はなさそうだ。


「それでは発表します。タイトルは【俺はあいつの所有物(もの)になる】です」


タイトルだけで、もうアカン。 完全にBLじゃん。 まぁ予想はしてたけど。

しかも沢瀬も伊藤も何も言わない。 解かってる・・・田辺係は俺ってことね。


「あー、タイトルはともかく・・・俺を襲っているこの大男は誰が演じるんだ?」


冒頭からいきなり俺だとはっきり判る男(?)を世紀末救世主伝説の悪党みたいな

大男が襲い掛かるシーンから始まってやがる! しかも大男なんか下半身丸出し。


「あぁ、そいつは私が「絶対無理だから! ミスキャストにも程があるから!!」

「それじゃ誰か適当に・・・そうだ!柔道部の凶悪ヤクザ先輩を誘って下さい!」

「凶悪ヤクザって、中根か? あいつ怖いのは顔だけだぞ。ヤクザとは無縁だし」


まぁ、あいつなら頼めば出演してくれるだろうけど。


「中根よりも昂輝に頼むべきだな。 昂輝だって映研部員なんだから」

「いや、やっぱり悪党面の方が」 「仔猫で猛獣役やろうって奴が何を言うか!」


大男は昂輝が演じるとして・・・何だこれ、ずーっと俺と昂輝の濡れ場が延々と。


「少し興が乗り過ぎちゃいました。 多少のカットは仕方ないですね」


「田辺・・・生徒会が許容するのはキスまでだ。 それ以上のエロは全カットな」

「じゃあ生徒会の意向は無視で!」「お前、何の為の映画作りか忘れてるだろ?」


生徒会に活動実績を認めさせて、部を存続させる為だぞ。

それを喧嘩売ってどうするんだよ? もう、こいつの説明無しで読み進めてやる。



・・・・・・・・・



「・・・最初から・・・最後までずーっと・・・殆ど・エロばかり・・・」

「ちんKOにモザイクを掛ければ?」 「モザイクが入る時点で駄目だから!」


予想通りというべきか、少し超えたというべきか、ともかく撮れる作品じゃない。


「田辺作品は没決定!」 「ええええっ⁉」 「ええええっ⁉ じゃねーわ!」


お前、これが採用される可能性が万に一つでもあると思っていたのか?



「ふーん、最後は僕が美倉を監禁して調教・・・メス堕ちさせるのか」



伊藤も律儀に最後まで読むなよ。 だから田辺も増長するんだぞ。

まぁ・・・漫画が上手いのは、俺だって認めるけどさ。


沢瀬は沢瀬で、あんまり後輩を睨みつけない! 田辺はこういう奴なんだから。




さて、いきなり凄く疲れたけど、残り三人の分は大丈夫な筈だから・・・。


・・・・・・・・・


大丈夫だよな? 部長(さわせ)生徒会(いとう)? 特に初心者(いとう)!




「じゃあ、次は僕でいいかな」


俺と沢瀬の顔を見てから、最後に田辺の顔を見て、伊藤が発表を開始する。

何故俺を一番に見たかというと、多分単純に俺が伊藤の正面に座っているからだ。

伊藤の左斜め前に、部長席認定されているひとり用ソファに座る沢瀬が居て、沢瀬

の左斜め前に俺が居て、俺の隣に田辺が座るというのが普段からの定位置だ。


ちなみに俺と伊藤が座っているのが4人掛けのソファベッドで、間に長い木製の

ローテーブルが置かれている。 沢瀬が対面する側にはソファは無く、少し離れた

位置にTVが置かれ、TVの向こう側、壁沿いにホワイトボードが放置されている。

そしてそのホワイトボードには、俺が描いたF-86Hホッグセイバーの雄姿がある。


ホワイトボードが白いままだと、すぐに田辺が俺を昂輝や伊藤と絡ませたエロ画

を描くから白いまま放置出来ないし、田辺は俺が描いた画だけは勝手に消さない。

自分より上手いからだ。 自慢じゃないが俺は姉ちゃんに鍛えられて画が上手い。

特にメカや建造物,建築物なら、姉ちゃん含む腐女子軍団の誰よりも上手い。


おかげで、しょっちゅう漫画の背景を描かされているが。


と・・・話が逸れ過ぎた。 伊藤の話を聞いてやらねば。


「タイトルは仮だけど【1000日分の夢】ヒロインは美倉で、田辺はヒロインの妹、

 一応僕を主人公役で進めるけど、主人公は他のメンバーにしても問題無い。沢瀬

 か五十嵐が主人公をやってくれるなら、主人公は女子でもOK」


「BLじゃないんですか?」 「当り前だ!」 「田辺ちゃん、少し黙っててね」


流石に沢瀬もキレたようだ。 でも田辺に気にする風は無い。 本当に困った奴だ。


「ヒロインの名前は仮だけどルナ。 妹役の田辺が瑠香だから。 でもヒロインは

 田辺との関係性を主人公に隠す為、ナルと名乗る。 台詞があるのはこの3人

 だけなんだけど、舞台が学校内だからクラスの連中にも出演して貰うつもりだ」


エキストラか・・・50人や100人、それ以上でも問題無く集められるだろう。

それにしてもこいつ、ナチュラルに俺をヒロインにしやがってくれているな。

もう、伊藤の中では俺って完全に女なんだろうか? それとも本生(ほんなま)のBLか?


・・・いや、五十嵐の思い違いという可能性もあるな?


何といっても、鹿煎餅事件以来の伊藤の態度に変化は無いし、当然に告白も無い。

少しボディタッチが増えた気もするが・・・多分気のせい、意識過剰なのだろう。


・・・・・・・・・


まぁ、伊藤から何も言ってこない限り、俺は今まで通りで問題無いな。


告白されても・・・多分、今まで通りで問題無いだろうし。


問題が有るなら有るで、その時に考えれば済む事だ。


色恋沙汰なんか・・・そんな程度の扱いで十分だろう。

田辺が一年生の癖に馴染み過ぎだと思われるでしょうが、田辺は中等部の時から、

蒼が高校入学前から茜絡みで蒼に纏わりついているからです。映研部室にも中等

部の頃から出入りしており、アイアイコンビよりも蒼との関係が長いです。


昨年度に作った映画

1作目:めん太のお仕事 (部内試写会で没)

沢瀬がひとりだけで作った映画(ただの犬動画)

沢瀬家のペットであるチワワのめん太の散歩を撮影しただけのもの。

犬好き以外には面白いと思えず、社会に訴えるものも無い。(五十嵐)

可愛いからいいと思うし、人を選ぶことは悪い事じゃない。(蒼)

可愛い事は可愛いが・・・これ、映画か?(昂輝)

これはちょっと、生徒会役員として実績とは認められないなぁ。(伊藤)

ノーコメント(田辺)


2作目:羽化

1作目没を受け、バタバタとたった1日で作った映画。

学ランを着て駅の大鏡の前に佇む性同一性障害の少年(蒼)が女装する自己を

空想するというだけの内容の映画。 実質、蒼の単独ファッションショー。

すれ違う美女が着ている衣装を自分が着る。すれ違う度に衣装が変わり、遂には

通行人関係無しに、お姫様風のドレスを着たり巫女服を着たり、合計12種類の

装いを楽しむシーンが続いた後に学ラン姿に戻る。 最後に大鏡の前から少年が

笑顔で立ち去ってエンディング。 作中の科白はたった一言 「 いいかも? 」

それだけなのにDVD化を希望され、累計販売実績は2万枚、売り上げ2千万円。

これって、ただの俺PVじゃん。(蒼)

何コレだけど犬動画よりはマシでしょ。(五十嵐)

めん太より可愛いです。 眼福です。(沢瀬)

ノーコメント(昂輝)

社会性も物語性もあるから問題無いと思う。(伊藤)

絡みなしですが・・・これはこれでアリかも。(田辺)

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