045_熊騒動
どういう訳か、たまにアクセス数が跳ね上がったりします。
そんなことがあると、テンションも跳ね上がったりします。
という訳で、これからも宜しくお付き合いお願い致します。
そして046は本話の後編的な内容なので明日投稿とします。
早速やらかしてしまった。 新学期早々に寝込んでしまったのだ。 充実した休み
を過ごせたと思ったらコレだ。 我ながら進歩が無い。 というか学習能力が無い。
・・・まぁ、俺らしいといえば俺らしい会長スタートだがな。
スタートダッシュならぬスタートストップ。 いきなりのエンストだが落ち込む
時間が勿体ない。 まとめておきたい事案が有るのでPC作業でも・・・と思った
けれども書斎の鍵が開かなくて入室出来ない。 暗証番号が変えられているのか?
・・・・・・・・・
スマホに着信、姉ちゃんからだ。 『 何やってんの? 大人しく寝てなさい!』
・・・怒られた。 暗証番号も姉ちゃんの仕業だろう。 仕方ないので姉ちゃんの
部屋に行く。 姉ちゃんの書斎は・・・やはり鍵が掛かっていたか。 そうなると
母ちゃんの部屋だが・・・書斎はセキュリティレベルが高くて無理。 当然だな。
・・・・・・・・・
・・・お手上げだ。 重要なデータにアクセス出来ないからお仕事は完全に無理。
・・・・・・・・・
中途半端に体調がおかしい時が一番厄介だ。 身体は休むことを求めているのに、
頭が活動を求める。 つまりは焦りだ。 横になっても色々な事を考えてしまう。
こんな時はベッドではなくリビングだ。 BGM代わりに映画を流してぼんやりと
時を過ごすのが一番疲れない、神経を疲弊させない過ごし方になる。 円盤棚に
手を伸ばし・・・そうだな、派手な戦争映画がいいかな? 実際の戦争は悲劇だ
けれど、映画の戦争は怪獣映画同様に完全な絵空事、エンターテイメントだから。
・・・・・・・・・
結構リアルな映画だった。 リアルな戦争だった。 メキシコから独立したかと
思えば、傷を癒す間もなくアメリカに併呑された独立心旺盛な保守王国テキサス
と、既に半独立国といってもいい全くアメリカ的でない革新王国カリフォルニア。
そんな犬猿の仲の二州が手を結ぶような状況とは? 推察される末期的な状況で
合衆国を構成する諸州が、強権的な中央政府に素直に従うのか? そんなリアル
なIFが詰め込まれた。 合衆国内に潜む時限爆弾ともいえる閉鎖性と先進性との
根深い対立、人間が持つ暴力性と弱さの狂気、そんなものが描かれた映画だった。
・・・これは人間という怪しげな獣を描いた怪獣映画だな。
最近の映画だから、最近の映画らしい中身スッカスカな、純粋な娯楽作品だと予想
していたのだが違った。 困ったことに思わず見入ってしまった。 結果疲れた。
・・・・・・・・・
うん、失敗した。 面白かったが、それが失敗だ。 視聴済みの円盤から選ぶべき
だったが・・・観たものは仕方ない。 でもいい具合に疲労したので眠くなった。
・・・これはこれで、結果オーライかも知んない。
リビングのぬいぐるみゾーンに移動して眠ることにする。 去年の夏から少しずつ
増えて来たプレゼントが殆ど。 残念だが冬イチでお気にだったわんこは居ない。
彼、藍丸君は有明書店の店長に昇格したらしい。 抱き枕からまさかの大出世だ。
おめでとう・・・藍丸、お前の抱き心地の素晴らしさを、俺は絶対に忘れないよ。
そんなことを考え乍ら・・・俺は毛布片手にぬいぐるみの山に潜り込んでいった。
◇ ◇ ◇
沢瀬は本当に大丈夫なのだろうか? 蒼をベッドに運び乍らトイレに駆け込んだ
友人の事を考えてみる。 茜さんが夜まで帰れないというので見舞いに来たら、
リビングの隅でぬいぐるみと一緒に眠る蒼が居た。 確かにとんでもなく可愛い
寝姿だったが・・・まさか鼻血を垂らすとは。 沢瀬の奴、相当に欲求不満を溜め
込んでいるのだろう。 蒼なんかに惚れてしまったのが運の尽きかもしれないが。
・・・それにしてもだ。
明日からの3連休・・・ひょっとしたら3連泊を決め込むだろう沢瀬に、幾許かの
不安を感じないでもない。 茜さんや五十嵐がストッパーになってくれるだろうが。
・・・多分。
蒼をベッドに寝かせた後、少し扉を開けたままリビングに戻る。 声を伝える為だ。
リビングでは仁宮と小田部の二人が、蒼と並んでいたぬいぐるみに顔を埋めている
・・・まさか、蒼の匂いを吸い込んでいるのか? 少し引く思いで五十嵐を見る。
・・・・・・・・・あぁ、やはりそうだったか。
疲れた表情で首を振る五十嵐を見て、自分の推測が外れてはいないことを知った。
沢瀬に田辺、加えて仁宮に小田部までも・・・確かに美少女揃いではあるのだが。
・・・上辺はいいが中身は、揃いも揃って変た・・・いや、変わり者ばかりとは。
・・・・・・・・・
蒼はこういった連中を引き寄せる、特別なフェロモンでも発しているのだろうか?
・・・・・・・・・
それとも類友だろうか? 蒼も極上の上辺にアレな中身・じゃなくて性格だから?
・・・しかし蒼は性格こそアレだが、本性は学者の頭脳を持った小学生的高校生!
・・・・・・・・・
いや、それはそれで十分に問題有りか? しかも美少女にしか見えない男子だし。
・・・・・・・・・
止めよう。 考えるだけ無駄な気がする。 蒼は蒼という生き物だから、一般常識
は通じないと考えた方がいい。 いや、そう考えないと堂々巡りに陥る気がする。
・・・ん⁉ 一人足りないぞ? さっきまで居た田辺が消えている。 トイレか?
蒼の家にはトイレと風呂が三ヶ所ずつある。 だから複数人が同時に消えることも
当たり前にあるが、消えた人物が沢瀬や田辺だと正直安心出来ない。 今後は仁宮
や小田部も要注意人物リストに追加しておく必要がありそうだが。 取り敢えずは
蒼の部屋に戻ることにする・・・案の定、田辺が居た。 ベッドで何かをしている。
「そこで何をしているんだ?」 警戒心が漏れ出たのか尋問調になってしまった。
「汗をかいているので、下着とパジャマを交換します!」 田辺には応えないが。
「それは確認済みだ。 汗なんかはかいてなかったぞ」 本当の尋問になったか?
「可愛くないパジャマを可愛いパジャマに交換します!」 本当に応えない奴だ。
「それと下着を剥いで、おっぱいをぺろぺろします!」 田辺をリビングに連行。
・・・・・・・・・
こいつも蒼以上に意味不明な生き物だな・・・山田が常識人に思えてしまう程に。
・・・・・・・・・
・・・おまけに沢瀬に仁宮に小田部だ。
五十嵐ひとりには手に負えないだろうから、茜さんが戻るまでは俺も帰らないこと
にする。『いっそ藤堂も泊っていけば?』というSOSには気付かないふりをして。
すまん、五十嵐! 流石にこれだけ女性密度の高い空間に、男一人はキツ過ぎる。
◇ ◇ ◇
女子全員が私服に着替えて、夕食をどうするか相談している。 華やかな女子陣に
比べて伊藤と二人、制服姿は少し浮いている。 加えて居心地も微妙に宜しくない。
明らかに仁宮と小田部の二人が、俺たちを敵視・・・害虫扱いしてくれてやがる。
伊藤は判るが俺は完全に冤罪なんだが? という道理が通じる様な相手ではない。
・・・この二人には早いとこ、蒼の・・・陰キャの習性を学んで貰いたいものだ。
蒼という陰キャは押せば押す程に、寄れば寄る程に、反対側に逃げていくからだ。
逆にじっくり構えていれば、半ば好奇心で寄って来るのが蒼という生き物なのだ。
・・・なんというか・・・蒼って、猫みたいな奴だな?
まぁいい。 ともかく仁宮と小田部には、早く蒼との付き合い方を覚えて欲しい。
そうすれば俺たちが蒼と親しくしていても、嫉妬で睨まれることが無くなるのだ。
・・・・・・・・・
「 おあよー・・・なぁー、跋扈わどしたんのー?」 蒼が寝ぼけ眼でやって来た。
普段から少し微妙な日本語が、更に微妙になっているのは寝起きによくある事だ。
『 おはよう、皆、学校はどうしたの?』と自動翻訳されるには、多分二年は必要
だろう。 仁宮と小田部の視線と関心が、蒼に集中したおかげで少し楽になった。
◇ ◇ ◇
目が覚めたら夕方だった。 5時間以上眠っていたようだが空腹感なんか全く無い。
てか、空腹感って何? と思う程に空腹を感じなくなっている。 多分小学生の頃
は感じていたと思うのだが。 今では数日絶食したとしても腹が鳴るだけで終わり。
・・・・・・・・・
・・・やはり色んなところで俺の身体はおかしい。 気にしても仕方ないけど。
それに幾ら食べても、腹が減って減って仕方ないという状態よりはマシだろう?
粗食と少食が最も健康的な食事法だから、空腹を感じないのは寧ろ幸運なのだ。
◇ ◇ ◇
「 ・・・くまって、動物の熊? 」 「 はい、最近、巷で話題の熊です 」
食事中に仁宮さんからとんでもない噂話を聞いた。 一年生の男子が学校裏の森で
熊を見掛けたという噂だ。 能勢や高槻の山中ならともかく、大阪市内の帝山で。
「 ・・・見間違いでは? 」 「 だと思いますが、何かがいることは確かかと 」
仁宮さんも熊の可能性は低いと考えているようだ。 当然だな。 大阪府でも熊が
確認されることはあるが、出没地域から帝山学園までは30kmから40kmもの都市
の壁を超える必要がある。 これはどう考えてもあり得ない。 動物園や個人の
ペットが脱走というのも考えられない。 動物園から脱走した場合は直ぐ大騒ぎ
になるだろうから、校内の噂話で留まる筈がないし、大阪市の様な人口密集地帯
で、熊の個人飼育を認める程に浅慮な自治体の長なんかは考えられないからだ。
・・・だが、熊と見間違えるとなると・・・どんな動物が考えられるか?
大阪市内でたまに見られる野生(?)動物はハクビシンやイタチ、後は鼠に狸程度。
淀川沿いではヌートリアやアライグマも確認されているが、どれも熊に間違える
ことは無いと思う。 そうなると、逃げたか捨てられた大型犬辺りが考えられる。
・・・・・・・・・
・・・しかし犬を熊と間違えるか? いや、動物に無知だったら可能性は有るか?
でもなぁ、その線を疑い出したらキリが無い。 猫でも熊だとか言い出しそうだ。
「 ・・・その一年生だけど、どうして熊だと思ったのかな? 」
「 四つ足で歩いていたらしいのですが、体がその生徒よりも大きかったとか 」
「 その生徒って小柄なの? 」 「 いえ、平均よりも少し大きいくらいですね 」
流石は仁宮さん、既に発見者と接触済みか。 そうなるとデマの可能性も低いな。
彼女の事だから、聞き出せる範囲の情報は全て聞き出している筈だし、その上で
俺の耳に入れているのだから。 更に言うなら、大型犬という可能性も低そうだ。
仁宮さんは、出来ることは全て先に済ませてから、次のプロセスに移る子だから。
・・・こうなるとアレだ。 森に詳しい奴を頼るしかない。
「 俺よ、森に熊っぽい動物とか居る? 」 『 森って、学校裏の森か? 居ないぞ 』
山田に確認したが居なかった。 ・・・参ったな。 早々に迷宮入りな雰囲気だ。
・・・気落ちしそうになったのだが、続く山田の言葉に目が覚める思いになった。
『 ただ・・・熊っぽい人間なら心当たりがあるが? 』 「 えっ⁉ 人間!! 」
そうか、熊にサイズ的に一番近いのは人間だ! 何故そこに気が付かなかった⁉
これがもし『イケメンゴリラを見た!』なら、直ぐに昂輝を連想しただろうに!
・・・・・・・・・
だが、これで大きな手掛かりを得た・・・山田は存外便利な奴だった!
◇ ◇ ◇
病み上がりなので折角の三連休も自宅でのんびりになった。 沢瀬やにやこたは
何か予定を考えていたみたいだけれど、何故だか俺と一緒に過ごすことを選んだ。
一日の大半を、だらだら過ごすだけなのに・・・本当は退屈なのではなかろうか?
・・・・・・・・・
まぁ本人たちがそれでいいと言うのだから、俺が気にすることも無いのだろうが。
それと五十嵐と小田部さんに関しては、ゲーム三昧で充実していたかも知れない。
あと、昂輝と伊藤はアレだ。 朝に来ては夜には帰る。 泊っていけばいいのに。
・・・・・・・・・
そして休み明けの放課後、俺たち生徒会は山田の案内で裏の森に入ったのだった。
「 この辺りはコンパス無しでは迷い易い 」 学校内にとんでもない処があるな。
そんな処をコンパス無しでずんずん進んでいく山田、慣れているのだろうが凄い。
・・・・・・・・・
そして改めて思うのだが、この学校裏の森は本当に広く、且つ変化に富んでいる。
まるで手入れがされていない、山中の原生林を進んでいるような錯覚すら覚える。
そんな場所を俺たちは軽装で進めているのだから、山田の協力は本当に有り難い。
・・・・・・・・・
・・・森に入って20分は経っただろうか? 先頭の山田が足を止めて振り返った。
「 ・・・着いたぞ 」 「 「 「 「 「 ここはっ⁉ 」 」 」 」 」
「 お姉様・・・これは? 」 「 あぁ、恐らくはアレだ 」
深い茂みを抜けた先は小高い丘になっており、丘の一部が崩れてちょっとした崖
になっていた。 そしてその光景に見覚えがあるのだ。 多分はこの場の全員が。
・・・そう、この崖や、崖の上に生えている樹の形に見覚えがあるのだ。
帝山学園には有名大学にも負けない、蔵書数が500万冊を超える大図書館がある。
そこには本だけではなく、数多くの絵画も飾られているのだが中でも人気の一枚
が《 本を読む少女 》だ。 サインが無い為作者不明となっているが、他と同様に
帝山の生徒が描いたものだと云われている。 その少女が座っている場所こそが
目の前に拡がる・・・木々と茂みに隠される様に存在したこの空間だったのだ。
「 ・・・こっちだ 」 山田に付いていくと、崖の一部に大きな裂け目があった。
そして裂け目の奥には背の高い草に隠された大きな穴、洞穴があり人が立ったまま
入ることが出来た。 「 「 「 「 「 えっ⁉ 」 」 」 」 」 そこには扉があった。
迷彩塗装を施された、頑丈な鉄の扉だった。 違った、アルミか? ジュラルミン?
・・・ともかく見た目のゴツさに反して、軽い手応えで動く扉だった。 何だコレ?
「 学校の敷地内にこんなものがあったなんて! 」 「 戦争中の防空壕かな? 」
仁宮さんと伊藤、二人の疑問と推測は尤もなものだが、多分防空壕ではない。
当時の状況では、防空壕にあれ程立派な扉を用意する等考えられないからだ。
そしてそれ以上に、俺は《 本を読む少女 》の作者の性格を知っているからだ。
◇ ◇ ◇
扉の先、10m程の狭い通路を抜けた処に部屋があった。 全面がコンクリートで
覆われた窓の無い部屋だ。 そこに目的の人物が居た。 他に知らない人も居た。
「 「 「 「 「 成程・・・これは確かに熊だ(熊ですね)⁉ 」 」 」 」 」
生徒会役員全員の声が揃った。
暗証番号が :暗証番号の変更ではなく、MSSによる遠隔ロックです。
結構リアルな :蒼が視聴したのは《 シビル・ウォー 》アマ〇ンでは低評価
ですが、低評価の理由が解からない程よく出来た作品です。
粗食と少食 :美食が生活習慣病に繋がりがちなことは、既に広く周知されて
いますが、大食が老化を促進することは意外と知られてません。
ホント、大食は内臓の負担になる為、極力避けるべきなのです。
学校裏の森か :柔道部同期は皆、蒼の言葉足らずに慣れているので察しがいい。




