044_沢瀬ん家 ( さわせんち )
これが蛮族の女王、女戦士沢瀬由佳理を育てた環境です。
沢瀬が敬語女子なのは、蛮族ぶりを隠す為かも知んない。
一週間も待たせる内容でないので、今回は連続投稿です。
次回からはまた土曜日に更新&たまに気紛れもあるかも?
3/15:おかしな改行になっていたので獣のルビを外しました。
今日は二人共不在の筈だった。 父は仕事で兄はデート。 それぞれの帰宅予想は
父が夕方で兄は深夜か翌朝・・・の筈だった。 なのに何故二人共家に居るのか⁉
「 「 そりゃあ、蒼ちゃんが家に来るって母さんから聞いたからだよ。
蒼ちゃんに会えるなら仕事( デート )なんかは二の次に決まってるだろ 」 」
『 裏切ったな! 』 という思いを込めて母さんを睨んだが、笑顔で流された!
裏切ったのではない・・・謀られたのだと悟った。 母さんは最初からその気で
兄のデート予定日を漏らしたのだ! そしてゴールデンの仔犬を迎え入れたのだ!
全ては可愛くて可愛くて堪らない蒼君を、飢えた二匹の野獣の前に呼び込む為に!
飢えた獣に挟まれながらも、獣欲に気付かない穢れ無き天使の図を堪能する為に!
・・・この腐れ中年マダムは、そんな下らないことを謀りやがってくれたのだ!!
・・・ ( くっ! ) ・・・
・・・・・・ほんの一瞬の間だけれど、ガチの殺意を抱いてしまった!
◇ ◇ ◇
蒼君と初日の出を眺めた元日は、昼過ぎに大阪着。 翌二日は蒼君の休養日で三日
は一緒に五十嵐さんのお宅を訪ねた。 寄付のお礼と賛同者方との懇親を兼ねて。
その日に罠が仕掛けられた。 母さんが可愛いゴールデンの仔犬を迎え入れたのだ。
一応はめん太のお友達ということだけど、実際にめん太もとても喜んでいるけど。
・・・・・・・・・
・・・本当に、とても可愛くて可愛くて、私だってメロメロになっているけれど。
・・・・・・・・・
私以上にメロメロになるだろう蒼君には、回避不可能な卑劣極まる罠だったのだ。
◇ ◇ ◇
昼過ぎにハイヤーで蒼君ひとりがやって来た。 茜さんが美人には全く見境が無い
兄を嫌っているからだろう。 田辺さんを同行させなかったのも、うちの母を知る
茜さんなら当然のことだと思う。 あの子と母は、絶対に混ぜてはいけないから。
「 あけましておめでとう! めん太ぁ! ・・・と?」 「 きなこ丸ですよ 」
「 きなこ丸・・・きな丸か、可愛い奴め、俺は蒼だぞ! 始めましてだな! 」
「 「 キャン、キャン、キャン、キャンンン・・・! ハッ、ハッ!・・・ 」 」
真っ先にわんこに挨拶をする処が蒼君らしい。 めん太も久しぶりの大好きな蒼君
に興奮を隠せない様子だ。 弟分のきなこ丸だってめん太に倣って興奮している。
今日の蒼君は、動き易さを重視した少しボーイッシュなファッションだ。 多分は
茜さんのチョイスだろう。 我が家に来るのに、スカートとかワンピースなんかは
危険だと判断したのだと思う。 そしてそれは間違いない。 我が家には蒼君相手
だと、如何なる手段を以てしてもセクハラを強行する社会人と大学生が居るのだ。
「いやぁ、久しぶりだね蒼ちゃん・・・とっ、先ずはあけましておめでとう。
でもこの寒い中、今日は本当によく来てくれたね。 私も妻も大歓迎だよ!」
「おめでとうございます! 有希おじさん・・・ところで、今日はお仕事じゃあ?」
「いや、うちは7日が仕事始め、今日まではお休みなんだよ」 「・・・はぁ?」
父が直ぐにバレる嘘を吐いている。 蒼君が有力上場企業のカレンダーを知らない
と思っているのだろうか? 休日どころか財務状況すら把握しているというのに。
・・・でも、そんな嘘だけだったら別に構わない。
問題は親しさを装って蒼君を抱き締め、お尻を撫でている処だ。 甲を抓ってやる。
ふんっ、手をお尻から離したか。 もし離さないなら小指を圧し折ってやったが。
・・・父と目が合った。 直ぐに逸らされたが。 次やったら病院送りだと思え!
「あらあら、由佳理ちゃんたら、お父さんに焼き餅なんか焼いちゃって・・・
蒼ちゃん、あけましておめでとう。 寒いでしょ、さあさあ上がって頂戴ね」
「おめでとうございます夏織おばさん。 それじゃあ、御言葉に甘えて・・・」
ガチャ! 「ただいま、あれっ! 蒼ちゃんじゃないか!!」 ・・・えっ⁉
「えっ⁉ と、あっ?」 「あけましておめでとう、蒼ちゃん、久しぶりだね!」
油断した! いつの間にか姿を消していた馬鹿兄だったが、まさか帰宅時の偶然を
装って後ろから蒼君に抱き着くとは!! しかも躓いたふりをして、蒼君を抱いた
状態のまま倒れ込もうとしているではないか! どさくさに紛れて唇を奪う気か⁉
・・・ 《 ドガッ!!》 ・・・ 《 ふわっ 》 ・・・ 《 バタッ!》 ・・・
「 大丈夫ですか? 蒼君 」 「 えっ、あっ、うん、俺は大丈夫だけど・・・」
「 蒼君が大丈夫ならいいのですよ。 めん太達と一緒にリビングに 行きましょう」
ぎりぎり蒼君を受け止めることが出来た・・・馬鹿兄の顎に肘鉄を喰らわせ乍ら。
ただ顎が砕けた感触は無かった。 クソッ、馬鹿だけに身体だけは頑丈な奴だ!!
◇ ◇ ◇
リビングでは完全に予想した通りの、めん太ときなこ丸に夢中な蒼君の姿が有る。
こうなることは予想していた。 予想していた。 予想していたけれども・・・。
少しくらい私にも目を向けて欲しいものだ。 朝早くから気合を入れたのだから。
( こっちを向け・・・こっちを向け・・・・こっちを向いて私を見ろ!!! )
・・・・・・・・・
・・・解かってた。 念じても無駄なことくらいは。 蒼君は自分の装いに興味が
無いのと同じくらいに、他人の装いにも興味が無いのだ。 多分は容姿にだって。
・・・・・・・・・
ジャージ最高! なんて、本気で言ってるし。 スキンケアさえ自分ではしない。
化粧を施したら単純に変化を面白がるだけで、化粧崩れさえも面白がって大笑い。
・・・・・・・・・
『 ホント、美貌の無駄遣いもいいとこよね 』 完全に五十嵐さんの言葉通りだ。
・・・・・・・・・
見た目を気にするどころではないことくらいは・・・私だって判っているけれど。
蒼君にそんな余裕なんか無いことくらいは、十分に理解しているつもりだけれど。
・・・・・・・・・
等と、乙女チックな感傷に浸る時間なんかは無い。 隙を見せたら獣が蠢くのだ。
既に父も兄も次の行動に出てしまっている。 二匹とじゃれる蒼君の隣に座って、
一緒に二匹を撫でるふりをして、蒼君の身体を撫でまわし始めているではないか!
・・・・・・懲りるということを知らない奴らだ。
この腐れ外道共め! 貴様らにはブランド品に尻尾を振る雌犬こそがお似合いだ!
・・・・・・・・・
静かに立ち上がり、獣たちの背後に忍び寄る。 彼らは蒼君に夢中で気付かない。
《 ドドンッ!! 》 「 「 グェッ! 」 」 「 うん⁉ 」 「 あらあら ♡ 」
蒼君に気付かれない様、慎重にそして静かに二頭の獣に手刀を入れて沈黙させる。
・・・この為の空手なのだ。
・・・本当に恥ずかしくて、蒼君に言えるわけが無い。
◇ ◇ ◇
その後も父と兄の蒼君へのセクハラは続いた。 潰しても潰しても復活してくる
G以上の再生力を発揮して。 蒼君がわんこに夢中で隙だらけな事に付け込んで。
・・・本当にこの発情親子のバイタリティたるや、完全に人間離れしてやがる。
( やはり後遺症なんかを気にせずに、確実に壊すという気構えで打つべきか?)
( 我が娘( 妹 )乍ら少し独占欲が強過ぎないか! 仲良く共有が出来んのか!)
( なんか沢瀬っていつ来ても、親父さんや兄貴とバチバチやり合ってんな?
やっぱ女子って、女性にだらしない肉親を嫌うんだなぁ、姉ちゃんみたく )
( はわぁ、やっぱり蒼ちゃんは最高に萌えるわぁ ♡ 由佳理ちゃんも二対一だと
流石に疲れてきているし・・・ふふ、今日こそ蒼ちゃんが凌辱されるかも ♡ )
思いを言葉にすれば地獄絵図に変わりかねない、そんなリビングの団欒風景を一変
させたのは、入って来た家政婦さんの一言だった。 「 あの、旦那様、古橋様が 」
「あぁ、古橋君から電話か。後でかけ直すと伝えといて「いえ、来られています」
人の良さそうな家政婦さんの後ろから、般若の笑顔を湛えた社長秘書古橋徹(42)の
姿が現れた。 身長188cm、116kgの巨体に凍てつく様な雰囲気を漂わせている。
そして圧倒的な威圧感を放ちながら、のそりのそりと有希の許に歩み寄っていく。
「 しゃぁちょぉう・・・おはようございます・という時間でもありませんなぁ 」
それは部下が上司に掛けるというより、執行人が死刑囚に掛ける言葉の様だった。
「 ふ・古橋君! 今日は、私、40度の発熱で「 お嬢様に、確認致しましたよぉ 」
「・・・熱は熱でも、元気溢れるお熱のようですなぁ・・・いやぁ、結構、結構」
「・・・」 「 以前お伝えしましたな! サボってもいい日と悪い日があると⁉」
「 そして、今日がサボってはいけない日であることも!!!」 「・はひぃっ!」
有希は獣である。 貪欲な狼である。 しかし所詮は狼、獅子には抗えないのだ。
獅子に襟首を掴まれ、引き摺られるように退出していく狼に皆の視線が集中する。
その一瞬の隙を狙って、沢瀬渾身の低空回し蹴りが馬鹿兄・翔真の喉元を捉えた。
◇ ◇ ◇
沢瀬の母、夏織の野望は潰えた。 蒼はめん太ときなこ丸との逢瀬を堪能した後、
迎えのハイヤーで帰って行った。 由佳理もそれなりに充実した時間を過ごせた。
獅子に連れ去られた狼の運命には興味無い。 このまま消え去ろうとも構わない。
常人なら命を落とす打撃を喰らった馬鹿兄だが、頸部脱臼で全治2週間とのこと。
・・・あの馬鹿兄の事だ。 多分は3日で完治するだろう。
だが3日は入院だ。 デートの予定がひとつやふたつはキャンセルになるだろう。
そして今日キャンセルした相手の分も含め、当然全員に謝罪が必要になるだろう。
・・・でも具体的に相手が誰かは判らない。 判らないから全員だ。 馬鹿兄の
スマホに登録されている女性全員に、謝罪の品を贈ることにしよう。 一応は、
馬鹿兄が入院する原因を作った者としての誠意。 勿論手数料は頂きますけど。
そして最優先すべきは蒼君への賠償。 最上級のドレスと、アクセのセットを。
・・・・・・・・・
ふむ・・・馬鹿兄の口座がゼロになったか。
・・・・・・・・・
・・・しかしまぁ何だ。
口座をゼロにする程の誠意を見せたとなったら、馬鹿兄も評価を上げる事だろう。
・・・間違い無いな。
馬鹿兄よ・・・感謝するが良い。 気が利いて出来もいい妹に恵まれたものだと。
・・・沢瀬の母親が、そして家族が、思っていた以上に酷かった。
ついでに言えば、027で田辺と意気投合したのが夏織さんでした。
◇ ◇ ◇
「 母さん、由佳理の奴に全財産を使い込まれた!」
「 それだけで済んで良かったと承服なさい。
・・・あれ程無様にKOされたのですからね 」
「 そうだぞ翔真、『 力こそが全て 』が沢瀬の家訓であり、
『 勝者の総取り 』が万国共通のルールなのだからな!」




