表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/48

041_スキー合宿は強制な

前話を書き終えた後に、実質2日の休養を必要としました。

何というか・・・それだけ前話は書くのが疲れる話でした。

鈍色(にびいろ)の・・・寒々しい空を眺めながら五十嵐は思いに(ふけ)る。 何の為だったのか?

何の為に、ゲームの時間を一日2時間に抑えて迄、頑張って勉強したのだろうか?

何の為に、赤点無しの状態でスキー合宿を迎える様にと、努力をしたのだろうか?



・・・全ては、スキー三昧の三日間を過ごす為、だった筈なのに!



それなのに・・・低気圧って何なの? 爆弾低気圧って何なのよ!



今日一日は外出禁止って・・・ホテルから一歩も外に出るなって!



「 ( 一体、これは何なのよぉ!!! ) 」 ・・・魂の叫びだった。




   ◇ ◇ ◇




合宿初日は曇りであったが、リフトは稼働していたし支障なく滑ることが出来た。

2日目に天候が崩れた。 降雪量はそれ程では無かったが強風でリフトが止まった。

更には雪の量も増えると予想された為に、スキー場そのものが滑走禁止となった。

結局2日目は午前10時を以って、全員がスキー終了、ホテルに撤収となったのだ。


・・・俺には関係の無い事だが。


というか関係無い事だったが。 俺は去年同様にホテルで読書の予定だったのだ。

皆がスキーで遊んでいる時間帯は。 それが変わった。 予定変更になったのだ。


「やっぱり五十嵐は参加しないってさ」 「だろうな」 伊藤の言葉に応える。


元は夕食後に予定していた奨学金説明会を、時間が空いた昼食後に変更したのだ。

そして五十嵐の不参加は始めから予想していた。 五十嵐の成績が理由ではない。

また、実家が裕福であることも理由ではない。 母親から申し出があったからだ。


俺の財団設立とその目的を耳にした五十嵐の母親は、援助を申し出てくれたのだ。

大変な資金を必要とする事業に、少しでも協力したいと自ら申し出てくれたのだ。


だから協力者の娘である五十嵐が、奨学金を申請することは無いと予想していた。


・・・・・・・・・


五十嵐の母親は帝山OGだった。 やはり母校の低迷ぶりが気になっていたらしい。

そして何とかしたいと考えていた。 俺の事業計画は渡りに船だったという事だ。


・・・・・・・・・


・・・同様の申し出をしてくれる協力者が、現時点で既に十人を超えている。

・・・あまり期待してはいけないが、まだまだ協力者が増えるかもしれない。


ちなみに姉ちゃんと母ちゃんは俺が引き摺り込んだ。 OGだし俺に激甘だし。


話は逸れたが、俺はこれから2年生の希望者に来年から始める奨学金制度の説明会

をすることになった。 3年生は鹿原先輩たちに、1年生はにやこたにお願いした。




   ◇ ◇ ◇




奨学金説明会はホテルで最も大きな大広間が、ほぼ一杯になるという有様だった。

参加者は2年生の約9割、当初予定していた7割前後を大きく超えたのは、多分は

暇だからだ。 手持無沙汰だから、興味本位で参加する者も少なくないのだろう。


・・・・・・・・・


予定時間通りに説明会が始まったが、今回の内容は奨学金関係の話だけに留めた。

起業支援に関しては、まだ細部を煮詰めていないので財団設立後に発表の予定だ。


そして何より、奨学金の説明だけは急ぐ理由が有るからだ。


奨学金の説明を急ぐのは、これだけ来年度早々の制度開始を予定しているからだ。

そして3年生にとっては、志望校選択絡みでギリギリのタイミングになるからだ。


説明内容は生徒会集会時からの変更は無いが、在校生の場合は入試順位ではなく、

年度末考査での成績が上位50パーセントの場合に、支給対象者となる旨を伝えた。



その後でフリートーク・・・質疑応答だ。



「上位50パーセント丁度の順位で、複数が同点の場合はどうなりますか?」

「その場合は成績表の評価で、それも同じなら二学期末考査の成績で・と、

 過去に遡って比較したうえで、単純に成績上位の者を優先で考えている 」


「大学進学後の奨学金で、衣食住も必要経費扱いは有り難い話なんだけど、

 それぞれどの程度のレベルの生活で算出していますか? まさか現物?」

「各地域での一般家庭の平均的支出から割出した数字になるけれど、申請が

 有れば増額も検討するよ。 つまりはプレゼン能力を磨けという事だよね 」


「支給された奨学金を使い込んだ場合、例えば高価な専門書や資料を買ったり、

 処理能力の高いPCを購入してしまったりした場合ですが、追加支給の申請は

 可能ですか? 事前申請が必要になりますか? 指定品以外は無理ですか?」

「基本学校指定品以外は対象外で考えているが、それもやはりプレゼン次第、

 申請者の能力次第になるな。 財団としては高いプレゼン能力を期待する 」


「衣食住の必要経費には、スマホ代や交際費は含まれますか?」

「常識的な範囲でならOKだが、遊興費は基本的に対象外だな。

 まぁこれもプレゼン次第になるが、審査係は強者(つわもの)揃いだぞ 」


・・・内容の薄い質問が続く。 ホント、地盤沈下する訳だわ。

生徒会メンバーが、帝山のエリート軍団だという評判も頷ける。


「学費にはどこ迄含まれますか? 制服代は? 塾や予備校代も含まれますか?」

「制服は夏冬服を毎年一着ずつ支給で考えている。 塾や予備校費用は含まない」


この質疑で室内がざわついた。 制服か? 塾か? 予備校か?


「どうして塾や予備校が学費に含まれないのですか?

 ・・・両方とも、学業以外の何物でもないのでは?」


そっちか・・・やっぱり地盤沈下が酷いわ。

・・・気を取り直して、俺は質問に応える。


「俺が考えている奨学金制度は、全ての学生を対象としているのではない。

 優秀な学生を対象としているのだ。 そして優秀な学生というのは試験

 で満点が取れる者ではない。 満点なんかやるべきことをやっていれば、

 誰だって取れる。 では何を以って優秀か、そうでないかを判断するか?」


一旦呼吸を置いて、俺は断言する。


「物事を嚙み砕いて、わかり易く教えて貰わなくても、学ぶことが出来る者。

 いちいち指導されなくても、自分で計画を立て、準備をし、実行出来る者。 

 つまりは塾も予備校も必要としない者を、俺は優秀な学生と認識している。

 塾や予備校を必要とする者は、試験以前の段階で評価対象にすらならない 」


「・・・と、俺は考えている。 実際に塾や予備校に通うのは個人の勝手だし、

 そこまで細かくは言わない。 黙認する。 だが、その費用は対象外になる 」


・・・・・・・・・


・・・賑やかだった大広間から言葉が消えた。


・・・・・・・・・


俺の云いたいことが、少しは伝わったのかな?


・・・・・・・・・


俺が創る財団は、塾や予備校を必要としない俊英を日本中から集め、希望する機会

を与える為の組織なんだよ。 塾や予備校に頼るような凡才は、悪いがノー眼中な。


・・・・・・・・・


俺が求めるのは養殖物の秀才では無いんだよ。 天然物の秀才や天才なんだよ。

まぁ天才に関しちゃ周りに心当たりは無いが、天然物の秀才なら結構居るんだ。

姉ちゃんを始め、母ちゃんもだし、糞親父も、あとは昂輝に沢瀬に鹿原先輩に。


・・・・・・・・・


伊藤は・・・一応は塾に行ってるらしいんだけど、必要にはしてないっぽいし。

にやこたの二人も塾なんかに行かなくても、ぐんぐんと成績を上げて来てるし。

山田や斎藤も凄いし、田辺だって興味がある事だと独学でどんどん学習するし。



う~ん、考えてみたら、天然物の秀才って意外と多いのかな?



・・・卒業時の百人枠、将来的には見直しが必要になるかも?



まっ、いっか。 優秀な人間は多いに越したことは無いよな!



・・・とにかく、沈黙を以って今回の説明会は終了となった。




   ◇ ◇ ◇




長いのか短いのかがよく判らない1時間が終わった。 多分3年生以外は注目して

いないだろう内容だから、間延びという意味では長く、疲労という意味では短い。


そして鹿原先輩の事を考えた。


大学進学が絡む3年生への説明は、大変かも知れないな? なんてことを考えた。

そう、考えただけ。 鹿原先輩なら上手く処理してくれると、確信しているから。






「予想通りというか・・・やっぱり反応はイマイチ薄かったな」


俺の言葉に三人が頷く。 昂輝と沢瀬と伊藤、俺たち四人は喫茶コーナーで説明会

の感想を語り合っていた。 この場に五十嵐が居ないのは、ホールから姿を消して

いたからで、喫茶コーナーなのは、俺が昼食抜きだと沢瀬に見抜かれていたから。


・・・・・・・・・


だって昔からの名物で山賊焼きっていうのなら、山賊が好んで食べた料理だと思う

じゃないか? 山賊が居た時代の料理かと思ってしまうじゃないか? だから山椒

で味付けされた山鳥を期待していたら・・・まさかの大蒜(にんにく)たっぷり、鶏の丸揚げ。


・・・・・・・・・


山賊行為 → 丸ごと取り上げる → 鶏の丸揚げ、というダジャレな命名らしいのだ。

昔からの名物と言うが、昔と云っても昭和の話。 山賊が居た時代じゃ無かった。

だから大蒜味の唐揚げだ。 苦手なもののワンツーパンチ、俺が食べる訳が無い。


・・・・・・・・・


そしたら沢瀬に『何か食べなさい!』と強要されてしまった。

だから皆で、サンドイッチ片手の話し合いになっているのだ。


・・・・・・・・・


・・・そんで肝心の話し合いだが。


「帝山は奨学金を必要としない家庭の子が多いからね」 伊藤の言葉が全てだな。


帝山学園に子供を通わせるには、最低でも手取り年収で一千万は必要と推定される

が、実際の平均年収はその倍を大きく超えている。 経営難時代の半強制的な巨額

寄付金の影響で、お金持ちしか通えない、お金持ちの子弟だけが楽しい学生生活を

過ごす学校という、あまり好ましくないイメージが半ば定着してしまったからだ。


・・・そのおかげで、楽しい学生生活を過ごす為に、お金持ちの子弟が集まるだけ

の学校に成りつつあるのが現状だ。 そしてそれこそが低迷の最たる原因なのだ。


最高の教育環境が整っているから、という理由で選んだ生徒が少ないのが実情だ。


・・・俺と同じ様に、駅から近いという理由で選んだ者も少なくは無いだろうが。


・・・・・・・・・


「あれ、もう終わったんだ?」 五十嵐が大量のぬいぐるみを抱えた姿で現れた。


「何だ、それ?」 「ゲームコーナーで荒稼ぎして来たのよ。 欲しい?」


要らないと応える前に、緑色のワニだかカバだか判らない謎生物のぬいぐるみと、

ピンク色の潰れたたこ焼きのぬいぐるみを押付けられた。 各員2個がノルマか?



・・・・・・・・・



「やっぱり、そんなには盛り上がらなかったんだ?」 「お察しの通りだよ」


五十嵐にもお見通しだったようだ。 帝山に通っている時点で、帝山の学費なんか

は負担という程では無いのが実情なのだ。 もし負担になるとしたら大学の方だ。


・・・・・・・・・


帝山の学費なんか、実家通いだとせいぜい年に三百万程度。 これが私大の医学部

だと千万程度になり、独り暮らしになれば更に二百万は増える。 海外の有名大学

だと生活費が増えるから千五百万以上。 三百万と千五百万とでは大違いだからな。



でもまぁ、その話は多分来年になってから考える事だろうな?



・・・違うかな? どうだろ? 既に進路決定済み?



・・・・・・・・・



「・・・皆は在学中の奨学金申請はしないみたいだけど、大学の方はどうするの?

 進路とかはもう決めてたりするの? 具体的にどの大学のどの学部にするとか?」


唐突にそんなことを聞いてみた。 何だろう? 何故か急に聞きたくなったかも?


「僕は・・・正直言って自分が何をしたいのかも、まだ何も判っていないんだ。

 だからそれが見つかるまでは、その時その時で最善と思える道を進む・かな?」


伊藤の返答は、ある意味極めて帝山の優等生らしい、無欲で大人しい内容だった。


「俺はやりたいことはあるが、何をしたら最善なのかがまだ判っていない。

 今のままなら、取り敢えずは医師資格を取って、その後はその時に考える」


昂輝はどうやら親の後を継ぐ気は無い様だ。 やはり姉ちゃんのサポート優先か?


「私も藤堂と一緒かな。 目標は有れど方策は見えず、取り敢えずは進学の為に、

 勉強に力を入れるしかないかな? せめて1.5流、可能なら一流大学を目指して」


五十嵐はよくやく勉強する気になった様だ。 何かは判らないが目標は有るんだ?


「私は財団職員の他にも、やろうと思っていることが有りますよ。 でも秘密です」


何で教えてくれないのかは判んないけど、沢瀬にもやりたいことが有るみたいだ。


「でっ、人には聞いといて、あんた自身はどうなのよ? 財団設立後の予定は?」


五十嵐からの、予想していなかった質問。 でも考えてみれば当然の質問だった。


「えっ⁉ ・・・俺か? 俺は・・・取り敢えず・ニートかな?」


自然に口から出た。 まぁ、何もしないだろうから、ニートでも間違いでは無い。

俺の答えを聞いて四人が口を閉ざした。 何とも言えないといった表情のままで。


・・・・・・・・・


・・・俺、ひょっとしたら、答えを間違えたのか?




   ◇ ◇ ◇




合宿3日目、昨日の吹雪の様な雪も風も収まった。 絶好のスキー日和になった。

しかも大雪の影響で道路が通行止めになり、やむを得ず合宿が一日延長になった。

『荒天転じて好転といった処か?』眠そうな表情でそんなことを言っていた美倉。


・・・・・・・・・


本当なら今年のスキー合宿は休む気だったと言っていた。 去年の段階で決めたと。


・・・・・・・・・


去年もホテルから出ることが無かった。『寒くてかまくら処じゃ無い』と言って。

だから今年は休むつもりだったのだと。 でも生徒会長だから強制参加なのだと。


・・・・・・・・・


スキーが出来ないスキー合宿なんか、全然楽しくないことくらい去年に経験した。

だから美倉は休むつもりだったのだ。 寒くてかまくらも作れないスキー合宿を。


・・・・・・・・・



『 俺は・・・取り敢えず・ニートかな?』


美倉の答えを聞いた時、どうしてあんな不用意な質問をしたのかと自分を責めた。

途惑い乍らの答えから、あいつはもう学校なんかに耐えられない事を知らされた。

途惑い乍らの答えから、あいつはその事実を皆に隠したかったのだと知らされた。


それでも答えたのだ。 あいつはそういう奴だから。 我儘なくせに誠実だから。



・・・・・・・・・



『進路とかはもう決めてたりするの? 具体的にどの大学のどの学部にするとか?』


よく考えてみたら、美倉に将来の話なんか聞かれたのは初めての事だった。 美倉

が将来の、未来の話をすることなんか初めての事だった。 これは驚くべき事だ。


若者だったら当たり前に語る将来の夢を、あいつが語る処なんか見たことが無い。

・・・これは本当に、驚くべき事なのに、昨日の、あの時まで気が付かなかった。


・・・・・・・・・


ひょっとしたら美倉は、私たちが選んだ大学を、学部を知ることが出来なくなる?


・・・・・・・・・


・・・結果を知ることが出来ないと、あいつはそんな事を考えていたのだろうか?



・・・・・・・・・



合宿3日目、昨日の吹雪の様な雪も風も収まった。 絶好のスキー日和になった。

しかも大雪の影響で道路が通行止めになり、幸運な事に合宿が一日延長になった。

『俺は読書か昼寝でもしてるよ』そう言っていた美倉が窓辺から外を眺めている。


此処からは表情迄は見えないけれど、寂しそうに佇んでいるとしか思えない姿で。


・・・・・・・・・


スマホを取り出し電話を掛ける『 直ぐにホテルから出て来て!』返事は待たない。


美倉は絶対に降りて来る。 そしてホテルを出る。 私はソレを待ち構えるのだ。


・・・たっぷりと雪玉を用意して。


後で沢瀬に怒られるかも知れない。 藤堂に睨まれるかも知れない。



それでも私は決めたのだ。 美倉に雪合戦の楽しさを、教えてやると決めたのだ!



美倉に伝えていない私の将来の夢。 そして目標。


人生とは楽しいもの、楽しむべきものだと、苦しんでいる誰か、悲しんでいる誰か

に教えてあげること。 そんなことが出来る人間になることこそが、私の夢なのだ。



だから私は決めたのだ。 美倉に雪合戦の楽しさを、絶対に教えると決めたのだ!

7割前後を :奨学金支給対象者を、成績上位50パーセント以内に絞っていると

       前以て公示している為。 最初から諦める者を想定した数字です。


山賊焼き  :作者も蒼と同じ誤解をして、流石に山鳥は無理だろうから、鶏を

       山椒で味付けした焼き物料理だと考えて注文した結果、出て来た

       大蒜の香りたっぶりの大きな揚げ物に・・・無条件降伏しました。

       ご飯と味噌汁と漬物だけを頂いたという過去が有ります IN 岡谷。


ピンク色の :多分スライムだと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ