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040_真なる女王

頭がぼーっとして、少し目がしょぼしょぼする感じです。

そんでもって(うるさ)い程の耳鳴りがして、立てばふらつきが。

食欲は無いし、入れた以上に出てないか?といった具合。

以前はこの程度の状態なら、普通に出勤して仕事でした。

そりゃあ、身体も壊れるでしょう。 自業自得なのかな?

でもこんな程度で休んだら、有給が百日は必要でしたね。


それにしても、今回の話は堅苦し過ぎて酷い難産でした。

12月の学校行事は三つ。 初旬の生徒会長並びに役員選挙。 中旬の学期末考査。

そして下旬のスキー合宿だ。 それらを以って多忙を極めた二学期の終了となる。


この三つの中で一般生徒に関係の薄い、そして関心も薄いのが生徒会選挙なのだが

その理由は単純にして明白。 基本的に、誰も雑用係なんかには興味が無いからだ。

選挙という名の押し付け合い。 いつからそうなのかは定かでないが、それが現実。


前任者の推薦を教職員会が承認、そして公示された候補者を一般生徒が追認する。

それが通例となってしまっている。 つまり選挙ではなく実質的には信任投票だ。

昭和の時代はまだ選挙の体を成していたようだが、平成以降はずっとそんな感じ。


・・・それなのに。



「 お前らぁぁ! 何でそんなに盛り上がっているんだよぉぉ!!!」


《《《《 ウワアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ 》》》》



生徒会長候補者投票前演説の一幕。 この歓声の大きさこそが女王である蒼の

生徒会長就任を、多くの生徒(特に女生徒)が切望していたという証拠である。

そして無言で見守っていた教職員の多くも、生徒以上に蒼の会長就任を喜んだ。


これが名門校の伝統というものなのだ。




   ◇ ◇ ◇




投票結果だが、蒼は当然であるかの如く信任された。 満票という驚きの結果で。

もうひとつの選挙の方も、役員候補全員が無事信任されるという結果に終わった。

これで38年連続の無風選挙、『選挙の意味ある?』という蒼の言葉に同意は多い。




そして週末である金曜日。 期末考査前最後の生徒会集会は、新旧全役員による

業務引継ぎという名の懇親会であり、当然に蒼も主役として参加することになる。

そしてこの場で新会長としての抱負を述べたり、役員人事を発表したりするのだ。



蒼が考えた新生徒会組織はこうだ。 《 注.( )内はプリントに記載無しです 》


生徒会長   : 美倉 蒼   (2年・男子?)

生徒会長秘書 : 沢瀬 由佳理 (2年・女子) ※外部役員

生徒会副会長

兼任会長代理 : 伊藤 敦司(あつし)  (2年・男子)

生徒会副会長

兼任風紀委員長: 佐藤 和己(かずおみ)  (2年・男子)

生徒会副会長

 兼任副書記 : 仁宮 愛和(あいか)  (1年・女子)

生徒会正書記 : 友利(ともり) 春姫(はるひ)  (2年・女子)

生徒会正会計 : 田中 一哉(かずや)  (2年・男子)

生徒会副会計 : 小田部 陽葵(ひなた) (1年・女子)

風紀副委員長 : 山口 仁志(ひとし)  (2年・男子)

  風紀委員 : 片桐 哲人(てつと)  (1年・男子)

  風紀委員 : 葛城(かつらぎ) 真理音(まりん) (1年・女子)


この中で、蒼と沢瀬を除く2年生5人が継続役員で、葛城以外の1年生は立候補だ。

沢瀬以外の10人は、一応選挙を当選しての会長&役員就任という形になっている。



配布されたプリントを見て、真っ先に前風紀委員長の坂口(筋肉)が口を開いた。


「外部役員の会長秘書という役職なんだが、これは一体どういうことなんだ?

 教職員の承認も選挙も無しで、勝手に規約に無い役職を作るのは問題だろ?」


「生徒会規約は生徒会活動に対する規定を定めているのであって、生徒会活動

 には基本的に関与しない個人秘書を、勝手に作ったところで問題は無いだろ?」


蒼は坂口の質問を、全く気にも留めない。 根本的な処に食い違いがあるからだ。

坂口は蒼を生徒会内で働くものと考えているが、蒼は生徒会活動等、自分の仕事の

一部に過ぎないと考えているからだ。 つまりは肝心の主目的が異なっているのだ。


「それは詭弁だ!」 「詭弁も何も、規定がない範囲なら何したって勝手だろ?」


そんな二人の、仲がいいのか悪いのか判らないやり取りを、微笑ましそうに眺めて

いるのが前会長の鹿原だ。 彼女は、蒼が大人しくお飾りの会長職なんかに収まる

筈等は無いと考えているので、早速のイレギュラーに対する期待感しかないのだ。


( このまま、二人の掛け合いを眺めるというのも、面白そうだけれども・・・ )


「・・・私は秘書の沢瀬さんより、副会長のトロイカ体制の方が気になるわね?

 美倉君が何を考えているのか? 新会長就任の抱負を聞かせて貰えるかしら?」


暫くは蒼の思考を読もうとしたが、解からないので素直に聞いてみることにした。


そしてその質問に蒼は『流石は鹿原先輩だ』と思った。 小さなことに拘る融通の

利かない、不器用で無神経な筋肉類猿人とは、思考方法が違う賢人だと評価した。


筋肉は目の前の事象を、自分の手法に沿わせる形に変化させようと考えるが、鹿原

先輩は目の前の事象を、どうすれば自分の目的に適う様に利用出来るかを考える。


目的に拘るか手法に拘るか、二人の差は近い将来には絶対的なものになるだろう。

最も有益なタイプとそのサポート役という形で。 蒼は二人をその様に見ている。


つまり鹿原先輩は、目的に拘るリーダータイプの人物なのだと蒼は見極めている。


その鹿原先輩がトロイカ体制に興味を示すという事は、俺が生徒会業務を伊藤たち

に丸投げすることを見抜いた上で、代わりに何をする気なのかと問うているのだ。


だから回答はひとつ、回りくどい説明抜きで、先ずは目標そのものを伝えてみる。


「 学生支援の為の財団を設立します 」 細かな処は質問に応える形にすればいい。




   ◇ ◇ ◇




『 学生支援の為の財団を設立します 』


力みのない、普段通りののんびりとした口調で語られたひと言に全員が沈黙した。

そして耳を疑った。 学生支援の為の財団? 先ず財団の設立を考える時点で普通

ではない。 更には学生支援の為の財団というのだ。 学生の考える事ではない。


・・・蒼の回答は、鹿原の想像する範囲を遥かに超えていた。 まさか学園という

枠すらも飛び超えての行動を考えていたとは、想像することも出来なかったのだ。


・・・・・・・・・


蒼は更に続ける。


「財団設立となると、結構大変な作業の山積(さんせき)が予想されるので、身近に専属秘書

 を置いた上で、一般的な生徒会業務は伊藤会長代理と、二人の副会長への委託

 で考えています。 尚沢瀬秘書には、将来的に財団役員になって貰う予定です。

 その二点以外は歴代の生徒会と同様の組織、そして運営になると考えています 」


「・・・何か質問はありますか?」 ・・・蒼の口調はどこまでも平坦だった。


聞きたいことはあるが、聞きたいことだらけで整理がつかないというのが、この場

の、蒼と沢瀬を除く全員の感想だった。 それだけ蒼の発言が衝撃的だったのだ。




しばらく沈黙が続いたが、その沈黙を破ったのは、やはり考える前に動く坂口だ。


「・・・そんなことが、本当に出来るのか?」 「既に設立に向け動いてますよ」

「学生支援と言うが、その内容は?」 「主としては完全給付型の奨学金ですね」

「・・・主として?」 「奨学金の他にも、起業支援や法律相談等も検討中です」


坂口と蒼の応答を聞き乍ら鹿原は考えた。 蒼がどの様な財団を考えているかを?

そして漠然と想い描いた組織を、何故今立ち上げ様というのか? ということを。


「今だって色んな学生支援団体が有るだろ? 新たに設立する必要等有るのか?」

「新財団と既存の支援団体との決定的な違いは、支援対象を極端に限定する事。

 具体的には帝山学園高校の生徒に限定して、充実した支援を行うという事です」


この言葉を聞いたことで、鹿原は蒼の考える支援と、その目的とに思いが至った。




   ◇ ◇ ◇




筋肉(坂口)の問いに応え乍らも、蒼は鹿原や他の3年生の様子を窺っている。

そしてこの場に於ける筋肉の役割を理解した。 《 当て馬 》だと。 それが

判っていないのは多分筋肉一人だけだろうと。 蒼は少しだけ筋肉に同情した。


( 鹿原先輩が黒いのは判っていたけど・・・他の3年生も皆揃って黒いとは⁉ )


( ・・・・・・・・・ )


( まぁ、鹿原先輩と付き合っていたら、黒くもなるわな ) 蒼の鹿原評が酷い。



そんな蒼の想いをよそに筋肉の質問は続く。


「帝山学園高校の生徒に限定した支援って・・・何でそんな制限を設けるんだ⁉」


・・・・・・蒼は、一瞬だが呆れた。


この期に及んでこの質問が出るか? 少し鈍過ぎないか? それとも確認の為か?

帝山学園高校の生徒に支援を限定することにこそ、財団の意味があるというのに?


蒼がちらりと鹿原に視線を遣れば、鹿原も了解したと謂わんばかりに口を開いた。


「帝山学園高校の生徒に限定することに意味があるのよね? 聞かせて貰えない?」




   ◇ ◇ ◇




筋肉よ! 当て馬君の仕事はもう終わりだ! 後は大人しく飼葉(おやつ)でも喰ってろ!


・・・・・・・・・


いや、悪い奴じゃあないんだけどな? こいつもアレか⁉ 真っ白ちゃんなのか?


・・・・・・・・・


どうでもいいか。 それより鹿原先輩への返答だな。 判り切ってるだろうけど?



「帝山学園高校が名門と名乗っていられるのは、後10年から長くても20年程度。

 その予想が確実だと思われる程に、徐々に帝山学園の地盤沈下は進行している。

 原因は色々考えられるけど、やはり質よりも量優先、単純に学生からの人気に

 特化した経営方針と、高校では最高水準の学費の高さがネックだと推量した 」


・・・特に反論は無しか? 既に認識していたのか、関心が無いのかは判らんが? 


・・・・・・・・・


そんじゃ、続けるとしますか。


「俺は生徒会長として、そして女王として何をすべきか考えたが、結局は地盤沈下

 を食い止める事が最優先であり最重要、他は二の次でいいという結論に至った 」


「それで、学費の高さを補う為に、帝山生徒に限定した給付型奨学金ですか?」

「いや、そこは補填なんかよりも、学費の高さそのものを是正するべきだろ?」


鹿原先輩と筋肉からの同時質問。 筋肉よ、間抜けな質問をするくらいなら黙れ!


「えっと、先に筋・・・坂口?先輩の質問への回答を優先するけど、学費の抑制は

 絶対にあり得ない。 帝山の学費は不当に高いのではなくて、日本で最高水準の

 設備に見合った、教育環境への投資に見合った金額だから抑制なんかはしない。

 というか、してはいけない。 それは自ら名門の地盤を捨て去る、帝山学園最大

 の強みを捨て去ることだから。 高い学費こそが帝山学園の存在意義を生み出す

 基だからな! それにそもそもが、学費の設定なんかは俺たちの領分じゃ無い 」


判ったか! という思いを込めて筋肉を睨みつけてやる! もっと考えて発言しろ!


「次に鹿原先輩の質問への回答はYES。 但し目的達成の為の手段の一つですが。

 財団設立の目的は、10年以内に帝山学園を日本一の名門校に育て上げることと、

 一人でも多くの有用な人材を社会に送り出すこと。 財団もその為の手段だ 」


俺の発言を受けて、この場の全員が一瞬間沈黙したが、直ぐに騒然となった。

やはり10年以内に日本一の名門校、という処のインパクトが大きいのだろう?


「無理だ!・」 続きを発言しようとした筋肉を、沢瀬が睨みつけて黙らせる。

ホント、脊髄反射で発言するんじゃねーよ! 俺の話をちゃんと聞いてたのか?


「学費の補填を手段の一つと言いましたね? 他にはどんな手段を用意するの?

 学費負担がゼロになった程度じゃあ、日本一なんて難しいと思うのだけれど?」


「鹿原先輩の言う通りですよ。 帝山の学費がゼロになった、門戸を拡げた程度

 じゃあ、日本一なんかは到底無理だね。 だから出口側も充実させるのですよ 」


「出口側?」 「そう、出口側、つまりは大学。 俺はそこ迄面倒を看るつもり 」


「 「 「 「 「 大学迄 !!!!! 」 」 」 」 」


「具体的に今考えているのは、入学時には上位50パーセントに入れば奨学金対象。

 卒業時には上位100位以内に入れば奨学金対象にと考えている。 入学時が少し

 甘いのは、中学生だとやはり目的意識も低くなりがちだろうと考えたからだね 」


「 「 「 「 「 ・・・・・・・・・ 」 」 」 」 」


「ちなみに奨学金として支給を考えている範囲は、学生生活に必要な費用の全て。

 衣食住の費用も必要経費と見做すから、バイトや実家からの仕送りは一切不要。

 帝山を100位以内で卒業する方には、好きな大学への進学を支援する予定です。

 私学の医学部とか、海外への留学なんかも、自由に選択して貰うつもりですよ 」


「そこ迄支給するの? 返済不要の奨学金として?」 「そうですよ。 勿論紐無し」


「ひょっとして、美倉君の考えている財団って、完全なボランティア団体なの?」


「・・・多分違う。 帝山学園を日本一にして、有用な人材を資金不足で潰さない。

 それは誰の為でも無く、俺の個人的な希望を叶えて、望む社会を造る為だから 」


「俺は日本で一番教育環境に予算を掛けている帝山が、日本一の名門校になるべき

 だと考えているし、学費が無いというだけで、有能な人材が育つ機会を奪われる

 のは酷い社会的な損失だと考えている。 共に個人的に看過出来ないだけだよ 」


「その両方を一挙に解決する手段が、帝山学園生徒に限定した最高水準の奨学金

 支給であり、起業希望者が居れば起業支援を行う。 その為の財団を設立する。

 これだけ優遇したら、日本中から優秀な学生が帝山学園に殺到するだろうと 」


「・・・つまり俺は、自分の考えを押し通す為に財団を創ろうとしてるんですよ」



「 「 「 「 「 ・・・・・・・・・ 」 」 」 」 」



俺の言葉に、場の全員が考え込み始めた。 構想の実現性を思案しているのかな?


・・・暫くの沈黙の後、鹿原先輩が神妙な面持ちを浮かべて質問を再開して来た。


「・・・確かに、それ程手厚い制度があると判れば、間違いなく多くの学生が殺到

 することになるでしょうね? でも実現性はどうなの? とんでもない額の資金

 が必要になると思うけど? いくら美倉君がもの凄い資産家でも、こんな事業を

 行えば直ぐに資金が枯渇すると思うのだけれど? 美倉君はそれでもいいの? 」


「その辺りは試算済みです。 取り敢えずは財団設立と5年間の運営資金は準備済

 ですし、更に5年分の運営費を(まかな)う目途も立っています。 俺が今から為すべき

 は、11年目以降の運営費調達方法の模索と、そのシステムの完成になりますね」


俺の懐事情を心配してくれる鹿原先輩に、事業の現状を伝えて安心(?)して貰う。

俺だって考え無しに動く様な無謀なことはしないって! 全ては計算済みなのよ。


・・・俺の個人資産はすっからかんになっちゃうけどな。

田辺グループ買収案件での、俺に入る配当分も含めてな。


・・・・・・・・・でもまぁ。


金なんかあの世に繰り越し出来るもんじゃないから、きれいさっぱり使い切りよ。




   ◇ ◇ ◇




蒼と沢瀬を除くこの場の全員が圧倒された。



軽い口調の蒼の言葉に。壮大な発想力に。そして果断な決断力と大胆な行動力に。



そして思い知ったのだ。 目の前に座る佳人大きさを。 意志の強さと気高さを。



そして思い至ったのだ。 目の前に座る佳人は本物だと。 この気高さは本物だと。



・・・過去の女王は全て、学生達が生み出した、擁立されたお遊びの女王だった。



だが今代はお遊びではない、女王たるに相応しい思考と行動力の持ち主なのだと。



7代目にして初めて、帝山学園は本物の、真なる女王を頂くことになったのだと。



蒼が聞いたら『ふざけんな! お前らそこに正座しろ!』と喚き出しそうな結論に。



・・・皆が思い至ったのだった。

風紀委員 :生徒会長直属の、生徒会とは別の組織です。 普段は風紀委員室

      で活動し、生徒会定例集会には代表者一人だけの参加でOKです。


佳人   :本来は女性に使う言葉ですが・・・悩んだ末に採用しました。

      蒼が周りからそのように認識されているという意味を込めて。

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