039_いきなり鳥取
前回健康自慢(?)をしたかと思えば、投稿した翌日から頭痛が・・・。
やっぱり、調子に乗ってはいけませんね。 常に最大限の警戒と配慮を。
・・・てっ、無茶苦茶難しい。 ちょっと映画円盤を2枚視聴したらコレ。
まだ未視聴の円盤がどれだけあると? (軽く500は超えるかも?)
心地良いくらいの、ほんの僅かばかりの振動を感じながら目覚めた。 筈なのに?
・・・暗いままだ。 薄暗いのではなく、本当に真っ暗なのだ。 目隠しだった。
俺が目隠しに気付いたのは、身体が拘束されていることに気付いた直ぐ後だった。
・・・全く身動きが出来ない。 加えて猿轡を噛まされているから声も出せない。
状況的には誘拐が想定されるのだが、俺たちのマンションは特殊部隊による襲撃
さえ想定しているという鬼セキュリティなのだ。 簡単に誘拐されることはない。
しかもこの匂いは姉ちゃんの四人乗りミニバン。 乗員は姉ちゃんと田辺に沢瀬、
そして俺の四人だけで他の匂いは無い。 つまりは誘拐犯等居ないということだ。
・・・・・・・・・
・・・何でこんな状況になっているのかは解からないが、多分危険は無いだろう。
・・・・・・・・・
車内は誰もが無言だし、音楽も掛かっていないからロードノイズがよく聞こえる。
GO・STOPが無いから高速道路で、頻繁な継ぎ目が無い事から阪神高速ではないと
考えられる。 んっ⁉ ノイズがいきなり大きくなったぞ。 路面状態の変化か?
・・・また静かになった? と、思えばまた煩くなったか。 路面が一定じゃない
・・・阪神高速以外で考えられるのは、近畿道から阪和道への南向き。 中国道と
山陽道の西向き。 そして名神高速の東向きだが、この路面状態なら中国道だな。
・・・・・・・・・
・・・おかしい? 西に向かって何が有る? 姉ちゃんの仕事関係・趣味関係共に
東にしか拠点が無い。 沢瀬や田辺の用事かな? ・・・幾ら考えても判らんな。
・・・・・・・・・
・・・寝よう。 目的地に着いたら起こしてくれるだろう。 ・・・すぅ。
◇ ◇ ◇
「ぐへへへぇ、ふるいつきたくなるような上玉だぜぇ、はあ、はあ 」
そんな言葉と共に、乱暴に胸を揉まれる俺・・・猿轡を噛まされていなかったら、
噴き出していたかもしんない。 ソプラノボイスでこの科白はギャグでしかない。
・・・・・・本当に、こいつら一体何をしたいんだ? 誘拐ごっこか?
「手下A、早く女をクルマから出しなさい!」 何故か姉ちゃんがノリノリだ。
「はいっです! 師匠!!」 田辺よ・・・手下が師匠呼びは駄目なんじゃね?
俺をシートに固定するベルトが外され、下半身を縛っていたロープが解かれた。
そして上半身だけが縛られた状態で歩くように指示される。 匂いが変わった。
この匂いは、よくマンションに派遣されているMSSの人だ。 何かすみません。
姉ちゃんたちが、アホなことに巻き込んだみたいで。 特別手当を請求してね。
それと、もうひとつ大切な事。 トイレ・プリーズ! 正直結構ヤバいんよ!!
・・・直ぐに判って貰えた。 腰を引いてのモジモジアクションは万国共通だな。
上半身のロープが解かれ、目隠しを外されたら暗幕に囲まれていた。 扉以外は。
扉に描かれたピクトグラムはどう見ても女子だが、今は気にする余裕なんか無い!
・・・・・・・・・何とかセーフ!
スッキリしたらまた拘束。 縛り方が少し違うと指摘が有り三度目でOKになった。
縛り方の変化に拘るという事は・・・映画撮影か? 全然聞いてなかったのだが?
・・・そういや姉ちゃんが『 私も出たかったわぁ~ 』とか何とか言ってたかも?
来年上映予定の映画に、姉ちゃんが出演するシーンを追加するという事なのかな?
・・・・・・・・・
あの映画、確か中盤以降は全て長崎が舞台だし、序盤だけに捻じ込むには姉ちゃん
だとキャラが立ち過ぎている気がする。 もう一回長崎に行って撮り直すのかな?
・・・・・・・・・
多分映画の追加シーン撮影だろうと推測出来たが、今度は映画自体の仕上がりが
見えなくなってきた。 俺と姉ちゃんのキャッキャウフフでも追加するのかな?
完全に百合百合映画になってしまった【幼馴染】の、相手女優変更版だろうか?
・・・本格サスペンスドラマから、百合百合恋愛ドラマへの方向転換だろうか?
・・・・・・・・・
何と言っても【幼馴染】の完全版2枚組ブルーレイが、12000円という強気な価格
設定にも係わらず、既に5万セットもの予約が入っているというのだ。 マジか?
あんなストーリー性の無い、眠いだけの映画を喜んで観るアホがそんなに居るの?
・・・・・・・・・
何でも《リズ》の女神が主演というだけで、そんなことになってしまったらしい。
というわけで、円盤の売り上げと沢瀬の趣味を優先して路線変更を図ったのかな?
・・・・・・・・・勿体なくね?
伊藤の脚本もかなり良かったし、柔道部の連中だってかなり熱演してくれてたよ。
中根の悪役ぶりは迫力があったし、山田のアクションも見応えがあったし、斎藤の
お人好しそうなパワーモンスターぶりも考えれば、映研部メンバーだけじゃあ絶対
に撮れない、迫力ある作品に仕上がってくれると思うのだ。 素人映画としては。
・・・・・・・・・
・・・円盤の売り上げは、期待出来ないかも知んないけど。
なんてことを考えていたら気が付いた。 足元が砂地に変わっていると。 砂浜か?
潮の香には始めから気付いていたから、海が近いと思っていた。 そして砂浜だ。
・・・・・・・・・
俺はてっきり、崖から突き落とされるようなシーンになるかと思っていたのだが?
砂浜だったら、このまま埋められるといった処か? どちらにしてもハードだが?
・・・・・・・・・
・・・俺、主人公の少女役だったよな? ひょっとしたら主人公が死ぬ展開なの?
俺を殺してから弄ぶ? マニアック過ぎる設定じゃね? 円盤的に大丈夫なのか?
・・・・・・・・・
いや、流石にそれはないだろう。 主人公が絶体絶命のピンチを奇跡的に逃れる。
・・・多分、そんな展開になる筈だ。 映画的には。 でも・・・どんな方法で?
俺は何も聞かされていないから、自主的には逃げ出さない。 誰かが助けに来る。
・・・そのタイミングは、何時になる? 合図はあるのか?
「 あおいー! 」 ・・・あった! この声は沢瀬だ! でもあおいって誰なの?
あっ! 俺の劇中名だった。 蒼華あおい18歳の女子高生。 そんな設定だった。
取り敢えず、声が聞こえて来た方向を向いてじっと待つ。 強く抱き抱えられた!
強く!・・・というよりは速く⁉ そんな勢いで抱き抱えられたが上下に揺れる!
・・・これは動物に乗っている? 馬か? いや、違うな。
以前馬に乗せられた時とは、乗り心地が全く違う。 でも動物なのは確かだろう。
そして臭い。 動物は押並べて獣臭がするものだが、馬なんかよりもずっと臭い。
それでも我慢出来ないという程では無い。 後の展開を沢瀬に任せることにした。
暫くそのまま走ってから、俺たちを乗せた動物はゆっくりと脚を止めた。
俺は沢瀬の膝に座らされ、目隠しと猿轡を外され、そのまま力強いキス。
何か沢瀬とのキスはいつもこうだな。 なんて考えてしまう強引なキス。
「はい、カーット!!」 沢瀬が演じるシーンの監督は姉ちゃんだった。
◇ ◇ ◇
「これは、鳥取砂丘か・・・」 そして俺たちが乗っていた動物はラクダだった。
沢瀬はラクダを見事に乗りこなし、且つ従えていた。 沢瀬オーラの恐ろしさよ。
「フフ、驚きましたか?」 「・・・色々と。 驚いたというよりは気疲れした」
身体的な負担は少なかったが、色々と思考を巡らせてたから疲れた。
多分は沢瀬の悪戯だろうけど。 ホント、何でこいつはこんなかな?
「映画撮影だといつ気付きました?」 「トイレの後、ロープで縛った時」
「誘拐だとは思いませんでしたか?」 「誘拐だと思える要素が無かった」
「今の感想は? ひょっとしたら怒ってますか?」 「怒る気にもならん」
「私としてはもっと怯えるとか、暴れるとかを期待していたのですけど?」
「そういう結果が欲しかったら、もう少し工夫を凝らす必要があると思う」
「 「 ( ・・・・・・・・・ ) 」 」
「本当にもう、蒼君なんだから」 「それはこっちの科白だと思うけど?」
「 「 ( ・・・これだから、沢瀬(蒼君)ときたら・・・ ) 」 」
二人して小さなため息を吐いた後、気になっていたことを聞いてみる。
「これって【家族を想った二人】の追加シーンだよね? 何で砂丘なの?
そんで沢瀬や姉ちゃんの衣装。 絶対に普段着には見えないんだけど?」
そう、あの映画に砂丘なんか出番はなく、沢瀬や田辺のタキシード姿とか、
姉ちゃんの緋色の軍礼服(?)姿なんか、あの映画には全くそぐわないのだ。
あの映画のイメージに合っているのは、俺の白いワンピース姿だけだった。
・・・また沢瀬がカッコいい黒で、俺が白かよ! 愚痴を零したくなった。
・・・・・・・・・
俺の質問に対する答えは、車内で説明すると言うので先ずは姉ちゃんと合流する。
そこで姉ちゃんたちと一緒に並ぶ、大勢のギャラリーの存在は忘れることにした。
そうしないと・・・この大勢が見守る中を、目隠し・猿轡・拘束姿で歩かされた
という、俺史上最大級の黒歴史がしっかと大脳皮質に刻み込まれてしまうからだ。
・・・そういうことだから、きちんと仕事をするんだぞ! 俺の海馬たちよ。
◇ ◇ ◇
伊藤が書き上げた【家族を想った二人】は本格サスペンスだ。 タイトルは仮だが。
主人公は事故により両親と記憶を失った女子高生、蒼華あおい。 演じるのは俺だ。
そして事故が起きる様に、父親のクルマに細工をした犯人役を演じるのが伊藤だ。
主人公の父親と伊藤の関係は、大学教授と研究生。 この師弟が開発したAI学習
プログラムの特許料を伊藤が独占したいが為に、師である教授を殺害したのだ。
事件の舞台は伊藤の実家が経営するホテル。 コロナ不況で膨らんだ借金の返済に
困った末での犯行だった。 先ず伊藤がプログラム完成のお祝いをしようと実家に
教授一家を招待した。 ロングドライブが趣味の教授だから、マイカーで来ること
を予想しての招待だ。 そして一定以上の速度を出せば、高速道路で走り出したら
ブレーキが利かなくなり、加えてエアバッグが働かなくなるように細工を施した。
・・・細工は完全に機能して、長崎からの帰り道で事故は起こった。
想定通り教授夫妻は亡くなり、娘だけは生き残ったが目を覚まさない植物状態だ。
・・・・・・・・・
・・・情報流出を防ぐ為、プログラムの件は家族にも秘密になっていた。
つまり教授さえ亡くなれば、例え娘が元気になった処で問題は無い筈だ。
・・・だから完成した。
伊藤の計画は完成した。 そのまま伊藤はプログラムを自分の物として富を得た。
その富で実家を救い、優秀な成績で大学を卒業した後に実家に戻ることになった。
その半年後、俺は意識を取り戻したが、事故のせいで殆どの記憶が失われていた。
最後の楽しかった思い出の地である、長崎を観光した際の断片的な記憶を除いて。
身体が動くようになった俺は、失われた記憶を求めて長崎の地に赴くことになる。
・・・ただ家族のことを思い出す為に。 自分の過去を思い出す為に。
・・・・・・・・・
・・・それを伊藤が誤解した。
俺の長崎来訪を知った伊藤は、俺が事故に不審なものを感じており、調査の為に
長崎に来たのだと誤解したのだ。 罪の意識が生み出す幻覚ともいえる誤解だ。
そして知人のヤクザ(中根:元昂輝)に俺の殺害を依頼した。
俺はあっさりと中根の手に落ちるのだが、ここで中根が俺を惜しいと思った。
このまま殺すのは勿体ない上玉だと思い、外国に売り飛ばすことを計画する。
・・・そしてとうとう出荷されようという夜に、俺は出会うことになるのだ。
港々を渡り歩く自由人(山田:元五十嵐)と釣り好きの警察官(斎藤:元田辺)
の二人に。 二人は中根と子分二人(高梁と八鹿)と格闘の末俺を救出する。
そして逮捕された中根の証言から、事件の真相が徐々に明らかになっていく。
・・・大体そんな感じのストーリーだった。 上映時間30分の超大作を予定。
・・・・・・・・・
柔道部員の友情出演により、作品に厚みが増したのは誰もが認める処だった。
とにかく昂輝は酷い棒読みだし、田辺の格闘シーンなんかは見た目お遊戯だ。
それが全く別物に生まれ変わった。 その結果を、俺は惜しいと思ったのだ。
でも案ずる必要は無かった。 迫力ある格闘シーンはそのままで残ったのだ。
◇ ◇ ◇
「ふ~ん、姉ちゃんと沢瀬が出演するのはセル専用の別バージョンで、
帝山祭で上映するのは、従来通りの柔道部バージョンにするんだ?」
「セル専用のブルーレイセットには、蒼君が売り飛ばされずに済む文化祭
上映バージョンも収録する予定で考えていますよ。 つまり完全収録版 」
成程ねぇ、実際に30分だと、とてもじゃないけど俺が外国に売り飛ばされたり、
救出されたりなんかするような、時間的な余裕は無いもんな。 うん、道理だわ。
ちなみに俺が売り飛ばされるバージョンで、姉ちゃんは俺を買う中東の権力者。
沢瀬は俺を救い出す為に、姉ちゃんの使用人となって宮殿に潜入する俺の恋人。
そう、恋人。 伊藤の脚本には無かった新設定。 つまり変更部分は百合百合。
さっき撮影したのは、俺が姉ちゃんの所有する砂の宮殿に送られる前、街中用の
ミニバンから、砂漠用の4駆に乗り換える僅かな瞬間を狙っての救出シーンだ。
でもそれでハッピーエンドではなく、出国しようとした空港で買収された職員の
手に俺が落ちるんよ。 典型的なやられ放題で学習能力の無いヒロインが俺だ。
・・・なんだかなぁ、俺の扱いが酷い様な気もするが・・・仕方ないのか?
・・・まぁ、俺が気にしなければそれで済む話だな・・・そんでもってだ。
結局俺は砂の宮殿に送られ、そこから沢瀬による本格的な救出劇が開始となる。
・・・そんな話になるらしい。
そして今は空港のシーンを撮影する為に、鳥取砂丘コナン空港に向かっている。
砂の宮殿だが実際に別荘にもなる巨大セットを、現在和歌山県に建設中らしい。
・・・・・・・・・
宮殿セットの建設費だけで8億だと。 追加シーンの撮影費用は合計したら10億。
それが全部姉ちゃんのポケットマネー・・・完全に学生映画のレベルでは無いな。
・・・・・・・・・
・・・気合入ってるな。 姉ちゃんも。
・・・そこ迄、俺と共演したいのかな?
・・・家族の、ホームビデオに10億か?
・・・・・・・・・
・・・鳥取砂丘か。
・・・かなり昔、実際に行ってみたいな。 と、言ったことを思い出した。
ニュースで鳥取砂丘の映像が映っていた時だ。 緑化問題だったと思うが。
軽い気持ちだった。 忘れていた。 ひょっとしたら姉ちゃんもそうかも?
・・・・・・・・・
結局、空港での撮影の後は羽合温泉で一泊。 翌朝一番の帰宅となった。
・・・途中で食べた出石の皿そばが、予想以上に美味かった。
既に・・・予約 :知名度の高い茜の同人サイトによる販売結果です。
帝山学園映研部として販売するには、少しアレな
内容だったので、個人名義での販売になった模様。
大脳皮質と海馬 :大脳皮質は記憶の長期保存を、海馬は短期保存とその
記憶を忘れていいかどうかの判断を行う部位らしい。
中東の権力者 :中東にフタコブラクダはいないよ。 なんてツッコミは勘弁!




