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037_慣例らしい

本話から新章開始となります。 前章同様に主人公が好き勝手をするだけですが。

柔道部を辞めた後に蒼は何をするのか? まぁ大体予想は出来ていたでしょうが。


それと、今回は蒼が大人しいです。 苦手さんを相手に緊張したのだと思います。


1/31:おかしな改行になっていたので、(いきどお)りのルビを外しました。

   この現象って、プレビューでは判らないのですよ。 検証して吃驚。

アレから三日経った・・・たったの三日、色々あって無茶苦茶忙しかった三日間。


・・・・・・・・・


・・・何であれ程迄大事(おおごと)になったんだか? たかが高校柔道、しかも地方大会で。


TV局やら新聞社やら雑誌社やら、何故かファッション誌なんかも取材に来る始末。

あまりに鬱陶(うっとう)しいから、母ちゃんや姉ちゃんに強権を発動して貰うことになった。


『 勿体ない~ 』とか言ってごねられたけど、俺は広告塔なんかに成る気はない!


・・・・・・・・・


そんな感じでようやく平穏が訪れた木曜日。 と、目覚めた時はそう考えていた。


「さあ、蒼先輩も一緒にTVを観るのです!」 「・・・何で?」


今朝のメニューは珍しくサンドイッチ、つまりリビング仕様の朝食になっていた。

サンドイッチは嫌いじゃないけど、朝からTVなんかを観る気はしないんだよなぁ。

そう思い乍らもサンドイッチと珈琲を持って、リビングのTV視聴エリアに向かう。

TVの前には姉ちゃんが陣取っていた。 姉ちゃんが朝からTVなんて本当に珍しい。


「・・・そろそろ始まるわね」 「はい、そろそろです!」 「 ? 」


既に朝のワイドショーは始まっている・・・これから何が始まるというのだろう?

特別なゲストが登場するとでもいうのだろうか? まさか・・・母ちゃんなのか⁉


・・・・・・・・・


・・・違った、ただのCMだった。 俺が出たやつな。 45秒のフルバージョン?


・・・・・・・・・


「こんなもん観てどうすんの?」 思わず声が出た。 態々(わざわざ)構えて観る程なのか?


「蒼がこんなにも演技が上手だったなんて、お姉ちゃんは全然知らなかったわぁ」

「アンニュイな表情から、女神の微笑に至る変化が堪らなく素晴らしいのです!」


・・・・・・・・・


・・・別に俺は演技なんかはしていない。 全ては編集の為せる業だったりする。


科白は全く無いし、ため息一つ()いてない。 メイちゃんに合わせて動いただけ。

アンニュイな表情は、朝が早かったから眠かったことに加え、馬鹿絡みでうんざり

していた気分がそのまま顔に出ただけ、女神の微笑はCM撮影後に待つ皆での映画

撮影にワクワクしていただけだ。 CMの出来は全部監督さんとスタッフの力量。


「あら? 萩原監督は蒼をもの凄く褒めていたわよぉ~。 状況判断は適格だし、

 何より指示通りに表情を変えてくれるって。 後、勘がいいとも言っていたわ」


「それは指示が上手いだけなの! 誰だって右を向いてって云われたら素直に

 右を向くし、嬉しそうに笑ってって云われたら、当然嬉しそうに笑うでしょ?」


「右を向く場合は全身の動きが、笑顔の場合は表情の動かし方が重要なのです!

 蒼先輩はそういった細やかな所作が美しいのです! 俯瞰出来ているのです!」



・・・結局はプロの世界は結果が全て、美しい映像は美しい動きが有ったから。

俺が美しく動いたからだという事になった。 というか、結論と押付けられた。



・・・まぁ、別にどうでもいいけどさ。




   ◇ ◇ ◇




・・・どうでもいいなんて言えなくなった。


無茶苦茶忙しかった三日間リジェネレーション・IN・帝山学園

何で(みんな)揃って、朝からTVCMなんか観ているのだろうか? な件。


・・・とにかく、時間当たりの大変成分密度は悪夢の三日間以上だ。

皆、もっとエコに騒げよな! 俺が疲れない程度に静かに騒いでよ!!



・・・無理か? そうか? 無理なのか?・・・だったら騒ぐなあ!!!



『 『 『 『 『 美倉がキレたあ!!!!! 』 』 』 』 』




   ◇ ◇ ◇




「・・・なんて感じの一日だった。 無茶苦茶疲れた。 何で柔道日本王者に

 勝った時よりも大騒ぎするかな? 何で男子迄化粧品のCMなんか観るかな?」


放課後の映研部(きゅうけい)室、俺が零す愚痴に耳を傾けるのは沢瀬と仁宮さんと酒辺の三人。

小田部さんと江澄さんの二人はゲーム研コーナーで絶賛対戦中。 いないも同然だ。


・・・・・・・・・


何で酒辺が此処に居るのだろう? 聞いてみたいが聞き辛い。 何か苦手だから。

いっつも俺を無言で睨むんよ。 俺がお前に何かした? て、聞きたくなる程に。


・・・・・・・・・


俺は真面目な委員長タイプが苦手だ。 昔のトラウマ? だって直ぐに怒るもん。


沢瀬はそれを知ってて酒辺の来訪を歓迎した。 俺の反応を面白がっているのだ。


・・・・・・・・・


同じ真面目な委員長タイプでも鹿原先輩や仁宮さんは大丈夫。 適度に黒いから。

適度な黒さに親しみを感じるのだけど、酒辺の様な真っ白人間は陰キャの天敵だ!


・・・だから声を掛け辛いんよ。 何てことを考えていたら、救いの女神が降臨。


「・・・酒辺先輩でしたね? 今日はどういったご用件がお有りで?」


ナイスだ仁宮さん! でもよく酒辺を知ってたな? 女子部の試合も観てたのかな?

あっ! 沢瀬が少しがっかりしてる。 ホント、何でこいつはこんな性格なんだ?


「ふふ、美倉君の第一声を期待していたのですが・・・貴女に先を越されちゃい

 ましたね。 今日は美倉君と話がしたくて此処に来たのですよ。 女子柔道部

 新部長としてではなく、鹿原生徒会長にお世話になっている後輩の一人として」


あっ! これは生徒会長の件だ。 成程・・・伊藤が頼りにならないから、新たな

刺客を送り込んで来たということか? 流石は鹿原先輩(はらぐろ)、俺の苦手を知っている。


「・・・やっぱり美倉君は直ぐに判っちゃうんですね。 でも会長には頼まれて

 ませんよ。 私の独断です。 個人的な話も、美倉君に謝罪もしたかったので」


ふむ? 独断とな? そんでもって、俺への謝罪? 俺、酒辺に何かされたっけ?


「どちらの話を先にしましょうか? 会長就任依頼の件? それとも謝罪を優先?

 ・・・どちらでも構わないという顔ですね。 それでは謝罪から始めましょう」


・・・何で真面目な委員長タイプって、皆が皆、こんな風に話を急ぐのだろうか?

率先して動くことでイニシアチブを握る習性でもあるのかな? タイパ重視なの?


・・・まぁ、そんなことはどうでもいいけどさ。


「私は勝手な誤解で美倉君を酷く嫌っていた時期が有ります。 美倉君に対して、

 かなり失礼な態度を繰り返していた自覚が有ります。 そのことをお詫びしたい」


「えっ? そうだったの?」

「・・・気付きませんでしたか? 無視したり、キツく当たったりしたのですが?」

「 あー、いや、うん・・・全く 」 「えっ⁉ えーと・・・本当に? ですか?」

「・・・ごめんなさい、全然気付いてませんでした」 「・・・ホントなんだ?」


「 「 ( ・・・・・・・・・ ) 」 」


・・・二人の間を、微妙に気まずい空気が流れた。


実際に酒辺は蒼を意図的に無視したり、言葉がキツかったりしたのだが、蒼は基本

的に他人に関心が無い。 関心が無い相手からは、どの様な扱いを受けようが特に

気にはならないのだ。 直接暴力を振るわれたりしない限りは、先ず気付かない。


特に1年生の頃はそれが顕著だった。 中学生の頃迄女子から嫌われていた蒼は、

無意識のうちに女子を避ける、知らない女子に意識を向けない傾向があったのだ。


同じ柔道部だから知らないという関係では無いのだが、部内では常に鹿原が前に

立っていたので、二人だけで話を・・・なんて状況になることは無かったのだ。


つまり今の状況は、引け目を持った真面目っ娘と、苦手意識を持った陰キャに

よる事実上の初顔合わせ・・・どう考えても沈黙必至といえる事態にあるのだ。


「酒辺さん、蒼君はこういう子なんですよ。 人からの()()にも悪意にも鈍感な、

 ちょっと困った子なんです。 だから、そんなに気にする必要はありませんよ」


蒼の天然が原因である食い違いだから、沢瀬も仕方ないと考えて助け舟を出した。

勿論この気まずさの原因となった、蒼の無関心に対する皮肉をしっかりと交えて。


「・・・それで、酒辺さんが蒼君を酷く嫌った理由と言うのは何なのでしょう?

 差し支えなければ聞かせて頂けませんか? 蒼君自身の自覚を促す為にも?」


そして、蒼への敵愾心に対する警戒も忘れない。 寧ろこちらの方が重要なのだ。


対する酒辺は沢瀬の言葉の本意を読み取っては、噂通りの保護者ぶりに感心した。

隙が多い藤堂よりも、ずっと頼りになる保護者だと感じた。 蒼は殆ど子供扱い。



「別に隠すようなことではありませんよ。 単純な嫉妬です。 私は中学時代は

 ずっと首席だったので、高校も首席入学を目指していたのですが、三席でした。

 実力不足が生んだ結果に過ぎないと判っていても、悔しくて堪りませんでした」


( へぇ~、てことは酒辺ってC組なんだ ) 2年生にもなっての蒼の感想が酷い。


「でもそれで美倉君を嫌ったのではありません。 嫌いになったのは三席なのに、

 新入生代表の挨拶をすることになったからです。 本来なら首席入学の美倉君が

 務めるべき新入生代表を、C組の私が務めることになったからです。 次席の子

 は『首席がやるべき面倒事を何で私が?』と言って断ったそうです。 それで

 三席の私に新入生代表役が回って来たのです。 帝山高の歴史でも唯一のC組の

 新入生代表という称号は、入学前に憧れていた名誉とは真逆の不名誉。 辞退

 も考えましたが、それは次の方に不名誉を押付けることだと考えたので・・・」




   ◇ ◇ ◇




結局のところ、酒辺は三席入学なのに代表挨拶を務めさせられたことに、強い屈辱

と憤りを覚えたのだそうだ。 そしてそれは俺の我儘が原因だと。 俺が首席の任

(まっと)うしようとせずに、面倒事から逃げたことが全ての元凶だと考えたのだとか。


その上で、俺への意趣返しにと最高の挨拶を用意して入学式に臨んだら、俺が登校

しておきながらも、入学式をサボタージュしたことで、その憤りが頂点に達した。


・・・らしい。 特に首席の任を放棄した、無責任な行動が許せなかったらしい。


・・・・・・・・・


・・・これだから、真面目な委員長タイプは苦手なのだ。


入学式とか、代表生徒の挨拶なんかどうでもいいじゃん!

入学式なんか参加したい者だけが参加すりゃいいじゃん!

新入生代表の挨拶なんか、したい者がすればいいじゃん!


責任とか、無責任とか、そんなことを言い出すから委員長タイプって苦手なんだ。


・・・なんてことは、云わなかったが。 だって謝られたから。


・・・・・・


後から知ったそうだ。 俺が代表挨拶を辞退した理由と入学式をサボった理由を。


代表挨拶の辞退理由は、俺がいつ寝込むか、休むことになるか全く判らないから。

入学式をサボった理由は、登校はしたが気分が悪くなって教室で休んでいたから。


教室で休んでいた時に『ホント、辞退してて良かった~』と安堵した記憶がある。

辞退していなければ、最悪代表挨拶の最中にぶっ倒れていた可能性もあったのだ。



・・・・・・いやホント、朝礼なんかでどんだけぶっ倒れて来たか。



・・・そして出会いもあった。 教室に残る俺たち三人に興味を覚えた五十嵐たち

が声を掛けて来たのだ。 『入学式をスルーなんて面白いじゃない!』とか言って。


・・・・・・・・・


でも・・・酒辺の謝罪なんだけど、素直には受け入れられないんだよなぁ・・・

だって、代表辞退の理由の7割は面倒だったから。 病弱は殆ど建前だったから。

殆ど脅しだった。『当日に体調が悪くなったら、遠慮なく休みますよぉ』て感じ。


・・・・・・・・・


病弱が原因であることは間違いないんだけど・・・心情的にはただの我儘なのよ。

それを深刻に捉えられたら、こっちが恐縮しちゃうのよ。 ユーアンダースタン?


・・・・・・・・・


なんて云える状況じゃないし・・・云わない方がいいことくらいは俺にも解かる。


「うん、謝罪を受け入れるよ。 てか、俺が迷惑を掛けたんだから謝るのは寧ろ

 俺の方だと思う。 ごめんね、仕方ないとはいえ、色々と巻き込んだみたいで」


ということで流されてみた。 真っ白真面目っ娘に嘘を吐くのは、気分が悪いな。



・・・酒辺の曇りなき笑顔が、眩し過ぎてちょっと辛い。



・・・何というか、汚れ無き魂を毒色に染める気がして。



・・・・・・・・・



「じゃあ、次は生徒会長就任依頼の件ですね。 これは会長も伊藤君も美倉君に

 伝えていないことを、きちんと伝えておきたいと思って、此処に伺ったのです。

 伝えるべきことを、全て伝えてから、美倉君に判断を委ねようと思ったのです」


「伝えていない伝えるべきこと? それは一体どんな?」 伊藤が俺に隠し事?


「美倉君が嫌がっている《 女王の称号 》絡みの話になるので、会長も言い出せ

 なかったのだと思います。 美倉君を怒らせるからという事ではなく、美倉君

 が嫌がる話は極力聞かせたくない。 そういう配慮だったと私は考えています」


確かに女王呼びは嫌いだ。 それが冗談ならともかく、マジ呼びで女王なんて、

おちょくられている様にしか思えない。 だって俺、一応とはいえ男なんだぜ。


・・・・・・・・・


・・・自分で言ってて、ちょっと虚しいけど。 結構デリケートな問題なんよ。


「でもその《 女王の称号 》に絡む要素こそが、会長にとって、そして私にとって

 《 女王の称号 》に憧れた全ての女子にとって、最も重要な問題だったのです 」


ホント、帝山では《 女王の称号 》って重いもんね。 修学旅行で思い知ったわ。


「過去の女王は全員が生徒会長を兼任されていました。 帝山学園の伝統とも

 謂える全女子生徒の最高峰としての女王像を、今代で途絶えさせたくは無い!

 ・・・その強い想いこそが、美倉君への会長就任依頼に繋がっているのです」


・・・全女子生徒の最高峰?


・・・ひょっとして、俺に喧嘩を売りに来たの?


・・・・・・・・・


沢瀬なんか、すっごく楽しそうな笑顔を浮かべながら、俺を見てくるし。

しかもいつの間にか、例の大型カメラを構えて撮影状態に入っていたし。

仁宮さんも激しく首肯を繰り返しているし。 同意なの? 同意なのね。


・・・・・・・・・


・・・これはもう、仕方ないという事なのかなぁ。 姉ちゃん、俺、女だってさ。


「女王が生徒会を直接指揮する。 絶対女王制こそが、帝山学園の伝統なのです。

 私たちはその伝統を、慣例である女王と生徒会長の兼任を継承すべきなのです」


・・・すべき? 結論なの?


「・・・これが会長と伊藤君が伝えていなかった、そして一番大切なことです」


・・・伝統に・・・慣例か。


「美倉君にはそれらを踏まえた上で、会長職をどうするか検討して欲しいのです」


「・・・いいよ、生徒会長になっても」


「体力の問題で御飾り的な扱いになることなんて、誰よりも努力家である美倉君に

 とっては不本意極まりない事だと、理解はしているのですが・・・えっ? 今?」


「生徒会長になってもいいよって言った。 丁度やりたいこともあるし、

 ・・・何よりも伝統で、慣例だそうだからね。 成るよ、生徒会長に」



「 ( ・・・・・・・・・ ) 」



『 『 『 『 ええええぇぇっ!!!! 』 』 』 』




   ◇ ◇ ◇




その日、週末でもないのに沢瀬が泊まることになった。 色々と聞く為だろう。




「良かったのですか? 生徒会長なんかになっても?」


「・・・伝統で、慣例らしいからね。 それに、ただの名誉職だから」


「・・・ただの・名誉職ですか? 蒼君が?」 「・・・会長職はね」


「・・・そうですか。 何をするか、それを決めたのですね?」


「うん、決めた。 というか、決めるしかなかった。 かな?」



・・・そう、俺は覚悟を決めた。



「そこで沢瀬に頼みが有る。 俺は・・・・・・」



・・・終活を、開始する覚悟を決めた。




・・・・・・・・・




その夜は、沢瀬の胸に頭を押付けて眠った。




・・・ノーブラだった。



・・・着け忘れか?


・・・すぅ

作者も蒼と同じ理由と状況で、新入生代表の挨拶と入学式をスルーしました。

それだけ自由気儘に振舞いながらも、卒業まで優等生扱いが続いたのだから、

半分以上クイズ感覚で臨んでいた試験にも、それなりの意味があったのかも?

それとも病弱で得をした数少ない事例か? どちらもどうでもいい事ですが。

でもいつ休むか判らないというのは全くの事実でしたから、仕方ないのです。


無言で睨む:蒼と話すタイミングを見計らっていただけ。 でも蒼が直ぐに逃げた。


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